74.カスヴァル共和国主催『闇オークション』④
『さっきからあの108番…馬鹿みたいな金額で落札しやがって…!』
黒服の護衛を連れた男…メキシコカルテル「黒い家族」の首領・アレハンドロ・バルデスは、すぐ近くのテーブルに座る有人を苦々しげに睨みつけて唸った。
『相場ってもんが分かってない!これだから若造は…!』
奴隷商圏の支配者、ドミトリ・ゾロトフは、怒りで口にくわえていた葉巻の端を嚙み砕いた。
『待て、聞こえた……アリババ?…あいつの名はアリババって言うらしいぞ。』
神権国家の国王兼教祖、ディーター・ヴァイスマンが聞き耳を立てて言う。
『アリババ?…アラビアンナイトでも気取ってるつもりか?』
『『アリババ…!?』』
『『『アリババ…!!』』』
『『『『…奴は一体、何者なんだ…!?』』』』
『…なんかさっきから威勢のいい奴がいるなぁ。…アイツ、アリババに似てるな?』
『…母さん、アレ十中八九アリババだよ…。』
~ ~ ~ ~
いやぁ~、やったったわ。
別に要らないアノマリーに600億カダール突っ込んだった。
…何やってんだ、俺?
「おい兄ちゃん!お前、中々アホやなぁ…!」
舞台上からニッコニコ顔のMr.ペンタゴンが話しかけてきた。
「はぁ~…ええわぁ。俺な、アホ大好きやねん。…兄ちゃんタレントやる気あらへんか?俺がプロデュースしたるで?」
「…恐縮ですが遠慮しときます。」
俺は肩を竦めて話を受け流した。
このオッサンがプロデュースするタレントって…アレだろ?おバカキャラ売りで歌とか歌わされて…。
…うっわ、想像しただけで鳥肌立っちゃったよ。
オッサンには気に入られないようにしなければ…。
「…何してるのよ、もう…。」
「いや、正直すまんかった。だが反省はしてない!」
呆れたままのbeeに、俺は堂々とサムズアップで応える。
「…あ、アリババ先輩のことだからアレでしょ?『このアノマリーが悪人の手に渡ったら、何人もの罪も無い人々が生贄になるかもしれない!』…とか考えたんじゃないっスか?」
「…何お前、読心術スキルでも生えたの?」
「やっぱり!」
何だよ、当てずっぽうかよ!
…俺、そんな事やりそうか?
…ま、まぁ湯取はなまじ付き合いが長いからなぁ…。
「…ハァ、いくら資金に余裕があるからって、あまり無茶はしないでよ?ここで下手に目立つ事の意味が分からないわけじゃないでしょう?」
「お、おう…分かってる。…ここからは自重するよ。」
…とは言ったが、どうしても欲しい物が出品されたらその限りではないがな!
『さあさあ皆さん、ここまで二連続で108番様が落札されております!このまま108番様の快進撃は続くのでしょうか!?…続いての商品です!』
銅鑼の音と共にバニーガールが運んできたのは…なんだ、随分と小さいな。
片手で納まってしまいそうなサイズの何かが、目隠しの布に覆われている。
『こちらの商品は…まずはその目で見て頂きましょう。それではオープン・ザ・アノマリー!!』
目隠し布の下から現れたのは…小瓶?
何か色のついた砂状の物が入った小瓶だ。
…まずは【鑑定】だな。
【ナーサリー・ライムの香辛料】ランク:C
イギリスの田舎町にある雑貨屋で発見された、小瓶に入ったブレンドスパイス。
一つまみ取り出し、同量の砂糖と「素敵な何か」を混ぜて放置すると「女の子」が生まれる。
「素敵な何か」が不足している場合、魂が宿らない。
『こちらの小瓶…ロットナンバー003番、【ナーサリー・ライムの香辛料】でございます。ナーサリー・ライム…「マザーグース」の詩に登場する「スパイス」の現物がこちらとなります。』
うわぁ…こりゃまた色々大問題なモンが出て来たぞ…?
流石は闇オークション…分かっちゃいたが、倫理観なんて無いに等しいな。
『こちらのスパイス少量に、同じ分量の砂糖を混ぜて一昼夜寝かせることで「少女」が作成出来ます。…尤も、出来上がるのは「形だけの少女」…言葉は発せず、簡単な命令程度しか理解出来ません。会場にお集まりの方々には、そちらの方がなにかと好都合でしょう?』
Mr.ペンタゴンの言葉に、会場内のそこかしこでクスクスと笑い声がする。
…趣味の悪いブラックジョークだ。
…いや、何人かの参加者は…本気で落札を検討してる目だな。
つーか、だ。
…さっきの商品説明で理解したが、どうもオークション主催者側の「鑑定士」…能力が低いな。
俺の【鑑定】の結果と商品説明に齟齬がある。
…俺の【鑑定】だと、材料が足りていれば、魂は宿る。
向こうの【鑑定】スキルのレベルが低いのか?…いや、『スキルを持ってない』まで有り得る。
…ま、どっちにしろ今回はスルーだな。
「女の子」なんて別に要らん――
…何より、“作る”ってのがなんか気持ち悪ぃしな。
「…アリババ、分ってると思うけど――」
「いや落とさねぇって!分かってるから!」
「…本当、頼むわよ…?」
『さぁこちらのアノマリー、最低落札価格は120億カダールとなっております。それでは…入札スタートです!!』
『……。』
…ん、何だ?
誰も入札しない…?
…ってか、なんか皆オレの事チラチラ見てる…?
『…121億。』
『……。』
…いやだから、なんで俺を見るっ!?
『…122億!』
『123億!』『125億!』『127億だ!』『130億っ!』
唐突に入札競争が始まったぞ…。
ったく、なんなんだよ全く…。
「…完全に警戒されてるわね、アリババ…。」
「そりゃあそうっスよね…アリババ先輩が入札したら掻っ攫われるか、万が一落札出来ても価格爆上がりっスから。」
…マジ?
俺ってば、完璧に「厄介な奴」って思われてんのか。
『ふむ…150億だ。』
…ん?
今の特徴のあるバリトンボイス…なんか聞き覚えがあるな。
『155億!』
『絶対競り落とせ、アステリオス!』
『ふむ…では157億だ。』
声の方向に目をやれば…お揃いの黒いヴェネツィアンマスクを着けた、プラチナブロンドの少女と青年…。
【鑑定】を使うまでも無い。
ヘクセンとアステリオス…ノクス・ミラビリスのヴァルトハイム親子だ。
あいつら…このアノマリー狙ってるのか?
…なんか意外だな。
【ナーサリー・ライムの香辛料】は…ちょっとヘクセンの趣味からは外れている気がする。
アイツは確か、魔法とかのファンタジー系のアノマリーが好みだったハズだ。
【ナーサリー・ライムの香辛料】で出来るのは「少女を作る」事…アイツの趣味とはちょっとズレてる気がする…うーん。
「どうしたの?」
「…いや、バルコニー席にヴァルトハイム親子が居るみたいなんだけど…。」
「ヴァルトハイム親子って…ノクス・ミラビリスの?」
「あのアノマリーに随分とご執心みたいなんだけど、なんか違和感がさ。」
俺の疑心に、腕を組んで考え込む仕草をするbee。
「ノクス・ミラビリス…魔術師…女の子…。」
「まぁ、俺が気にしすぎなだけだとは思うけど…bee?」
「…魔法…少女…。」
…?
「「「…魔法少女?」」」
俺とbee、そして黙って話を聞いていた湯取の声が重なる。
…こっちを見ているアグニの表情が歪む。
…いやいやいや、そんな…短絡的すぎるだろ。
いくらヘクセンでもそんな…
『…有人、確かあの魔女、魔術師を作り出せるアノマリーを持ってると言っていたな?』
アグニに言われて思い出す。
う…確かに、言ってたな。
『…「私の親衛隊として、少女だけの魔術師部隊を作るぞ!魔法少女隊だ!」…あの魔女が考えそうな事だ、くだらん。』
……うわぁ……考えそう…。
…ってかアグニ、ヘクセンの物真似上手ぇな。
『くっ……210億っ!』
『アステリオス!』
ヘクセンは、まるで玩具をせびる子供のような顔でアステリオスに声をかける。
『ふむ…211億。』
…白熱した競り合いが続いたが、結局最後はアステリオスが260億カダールで落札した。
…え、マジで出来ちゃうのか?
魔法少女部隊…。




