72.カスヴァル共和国主催『闇オークション』②
カスヴァル共和国の絶対的支配者、ハリード・アル=カスヴァリの言葉で闇オークションの幕が開いた。
文字通り、目の前にあった舞台の緞帳がゆっくりと上がっていく。
…するとそこには、珍妙としか言いようの無い男が立っていた。
金色の燕尾服に、金色のシルクハット。
右手には大きな宝石の付いたステッキ…もちろん本体は金色だ。
そして顔には、上半分を覆う金の仮面…そして黒髪のオールバック。
…ん、黒髪?…もしかしてコイツ、日本人?
いや、見覚えがある。確か――
「…あれっ?あのオッサン、昔テレビでよく見たっスよね?トーク番組の司会とかで…。」
湯取も気が付いたみたいだ。
俺達の疑問にbeeが応える。
「反社組織との黒い噂が取りざたされて芸能界を引退…その後は、もっぱらコッチが本業よ?」
「…はぁ~。あのオッサン、テレビで見なくなったと思ったら、まさかカスヴァルに居たとはな。」
そんな会話をしていて…気が付いた。
…あれ?湯取があのオッサンの正体に気付いた…だと?
…【秘匿のマスク】の効果が発揮していないのか?
オッサンの仮面を【鑑定】してみるか。
【道化師の仮面】ランク:C
金箔で装飾された派手な仮面。
装着した者の存在感を増し、注目を集める効果がある。
この効果は任意でON/OFFが可能。
…あ、そうかアレ、俺達のとは別のマスクなのか。
【秘匿のマスク】とは真逆の効果…正に司会者向けだな。
そうこうしている間に緞帳が上がりきり、男が両腕を挙げて会場の注目を集めた。
『…お集まりの紳士淑女の皆々様!!今日はようこそおいで下さいました!!』
声デカッ!…え、マイク通してなくてこの声量かよ!?
…流石、腐っても元大物司会者…いや、むしろ以前より生き生きしてるな。
『ハリード様より今宵の司会進行役を仰せつかりました、私…Mr.ペンタゴンとお呼び下さい!』
ペンタゴン、ペンタゴン………ヘキサ…うっ頭がっ!!
…危ない、何が危ないか危なくて言えないが…色々危ないっ!!
『ちなみに私の声はオルテックス・インダストリー様提供の最新通訳AIにより、各言語に同時通訳されております!…もちろんこのAI、機密保持も完璧!今日この会場で何が起きても――この場限りの秘密でございます。』
薄暗い会場のあちこちから「フッ」と笑う声が上がる。
『流石は信頼と実績のオルテックス・インダストリー!ご用命の際は是非…と、スポンサー様の宣伝はこれ位でよろしいでしょうか?フフフ…それでは皆様お待ちかね、本日最初の「商品」の登場です!!』
しん…Mr.ペンタゴンがそう宣言すると、銅鑼の音と共に舞台袖からバニーガールが台車を押してくる。
舞台中央に到着すると、Mr.ペンタゴンは台車の上にかけられた布に手をかけた。
『それでは…オープン・ザ・アノマリー!!』
大げさな仕草で、バサッ!っと布が捲られる。
オオオオオオオッ…!!
会場がざわつく。
舞台上に現れたのは――
『ロットナンバー001番…【魚石】でございます。』
…綺麗な石だ。
…え、石?
大きさは両手で掴める程。
薄い青色のその石は時折、水面の様にキラキラと光を反射している。
…確かにキレイだけど…しょっぱなが石か。
ちょっと拍子抜けかも――
「…先輩、アリババ先輩!アレ何なんスか?なんかスゲー魔力を感じるんスけど…!」
湯取が耳元で囁くようにそう言う。
…魔力?
「…最初から珍品が飛び出してきたわね。アタシも実物は始めて見たわ。」
『…なんだか知らんが、えらく不快な感じがするぞ。我はアレが嫌いだ。』
beeは興奮気味に、アグニは心底不快そうに言う。
ほうほう、皆でそんなに印象が違うのも面白いな。
どれ、【鑑定】っと。
【魚石】ランク:B
幾多の伝承に語られる不思議な石。
「内部に水が入っており、不死の魚が泳いでいる。」とされるが、実際入っているのは高濃度の第五エーテルと水精霊である。
石部分は既に極限まで薄く研磨されており、観賞用には最高の品。
毎日眺めると【長命】の加護がある。
水精霊…言われてみれば、石の中で何かが泳いでいるような…アレが水精霊なのか。
第五エーテルってのが何なのかは分からんけど、湯取が感知してるのはコッチかな?
『古くは日本、長崎の唐人屋敷でも発見された記録があります。吉兆の宝とされ、中の魚が泳ぐ姿を朝晩見続けると心が晴れ、長寿をもたらすと伝えられています。余命宣告を受けた病人で検証した結果、被験者は宣告された余命の10倍延命する結果となりました。…無論、カスヴァル共和国お抱えのアノマリー鑑定師による真贋鑑定済みです。』
【長命】の加護…か。
加護…スキルとは別枠なのか?
実際に検証結果も出てるみたいだしな。
会場内のざわめきがある程度納まってきた頃、Mr.ペンタゴンは煌めくステッキを天に掲げた。
は
『それでは皆様…これより、入札を始めます!こちらのアノマリー、最低落札価格は50億カダールからとなっております。…入札スタート!!』
50億カダール…!!
カスヴァルの通貨、カダールのレートは日本円の約十分の一だから…
5億円スタートかよ…流石は闇オークション、強気の設定だな。
『…51億』『53億』『55億!』『58億だ!』
おおスゲェ…!見る見るうちに値段が上がっていくぜ…!!
「ちょ…アリババ先輩、なんかすごい勢いで金額が上がってますよ!良いんスか!?」
「え…ま、まぁまずは様子見で…」
「あら、様子見なんてしてるとあっという間に落札終了しちゃうわよ?」
「え」
『なんだ…貴様は混ざらんのか?まったく、つまらん男だ…。』
いやいやちょっと!…酷い言われようなんだけど。
俺は確かにアノマリーマニアだけど、別に【長寿】にはそんなに興味無いんだが…。
…なんつーの?今を全力で生きてるって言うか…太く短く生きたいみたいな?
…まぁ、前世では無駄に長くて、うっすい人生送っちまったからなぁ…。
ま、皆がそこまで言うなら、俺も参加してみるか?
『102億!』『103!!』『…105億!!』『…ええぃ!110億だ!』
……お、なんか静かになった?
これ、もう決まりかけてるのか?
…ええと、このテーブルの上にある番号札を上げて、金額を言えば良いんだよな?
『…他にございませんか!?…それでは110億カダールで――』
『ほい、300億!』
『『『『……!?』』』』
…ん?何だこの空気…?
…もしかして俺、何かやっちゃいましたかね?




