表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界盗賊は現代最強のトレジャーハンターになれますか?  作者: 須藤 蓮司


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

70/89

70.盗賊、伏魔殿へ

 ――夕刻。


 空が紫紺へと沈みゆく頃、闇オークションの会場となる建物は夜の帳に浮かび上がっていた。


 海から水路を引き込み作られた人口湾。

 そこに、シドニーのオペラハウスを思わせるような異形の建造物。

 …それは、海原に浮かぶ巨大空母のようであり、はたまた水面に突如として現れた地獄の入口のようにも見える。


 近くで見ると、より建物の異常性が際立って見えた。

 壁面から柱の一本にいたるまで、H・R・ギーガーがデザインしたかのような奇怪な彫刻が施されている。

 …こう言ってしまっては何だが、掃除とか大変そうである。


 そんな荘厳さに比例するかのように、周囲を取り囲む警備体制は厳重だった。


 正面ゲートには金属探知機と顔認証装置。

 ボディアーマーに身を包んだ警備員達は、常に連携して警戒の目を光らせている。

 屋上には赤外線センサーが巡らされ、遠目には目立たぬ位置に狙撃対策と思しき配置も見える。


 辺りは不自然な程に静かだった。

 時折聞こえるのは、水路を辿って屯すようになった海鳥の声くらいだ。


 …そんな静寂を破ったのは、車の排気音だった。


 会場へ次々と到着する高級車。

 艶やかな黒塗りのセダン、欧州製のスーパーカー、重厚なリムジン…。


 車両のドアが開くたびに現れるのは、その名を出せば世界が揺らぐような大物達。

 政治家、軍需企業の重役、石油王、そして裏社会の大物。


 「招待状」を持つ彼等は悠々と受付へと進み、簡単なボディチェックのみで会場へと案内されていく。


 彼らは金で世界を動かす人種だ。

 そして今夜は、その金で「理の外」に触れようとしている。




 幾人かのVIPが入場し、到着したリムジンから降り立った新たなVIPが、飾り立てた女性と共に入場しようとしていたタイミングで、警備員達から僅かな喧騒の声が上がった。

 それに気づいたVIPの男が振り返ると、会場前に異様な雰囲気の車両が到着した所だった。


 黒の日本製ワンボックスカー…先程までの高級車達に比べると見劣りするのだが、その外見が奇抜だった。

 ピカピカのアルミホイールが怪しく反射し、黒のスモークフィルムが貼られた窓からは青白いLEDの光が漏れる。


 …日本人が見たなら10人中10人が「ヤン車かな?」と思っただろう。


 助手席のドアが開くと、そこから現れたのは燕尾服姿の美女であった。

 …何故燕尾服?と皆が思ったが、金持ち連中の中には特殊な趣向を持つ者も多い。

 道化師を従える王の様に、自らの従者にコスプレ紛いの恰好をさせる者もいるだろう。


 その女性が車体横に付くと、スライドドアが開く。

 そこからチラリと見えた車内は…元々あったシートは取り外され、新たに二列のレザー張りソファーシートを配置。

 奥には巨大な液晶画面と、冷蔵庫と思われる扉。

 中央に据えられたガラステーブルには、今しがたまで飲んでいたと思われる高級シャンパンとグラス。


 …日本人が見たなら10人中10人が「キャバクラかな?」と思っただろう。


 警備員達が見守る中、スライドドアの奥…闇を裂くように現れたのは、真紅を纏った美の女神だった。


 深い赤のドレスは、光を吸い込む様に妖しく艶めく。

 肩から背にかけて大胆に開いたラインから覗く白い肌との対比が、異様なほど鮮烈だ。


 長い赤髪が夜風に揺れ、鋭い瞳が光の軌跡を残す。

 人間離れした美貌…まるで作り物の様な、そんな完璧な美しさ。


 エスコートするように差し出された燕尾服の女性の手を鬱陶しげに払うと、太々しくも思える態度で辺りを睨むように一瞥した。


 それは…値踏みの視線。


 威圧的。

 …だが、その態度まで魅力的に感じてしまう。


 睨まれた男は、無意識に喉を鳴らしていた。

 隣の同伴女性に平手打ちを食らうまで、その視線は外れることはなかった。


 彼女はそれを一瞥し、興味を失ったように視線を逸らす。




 続いて現れたのは、白。


 純白のドレスは、夜の闇の中で淡く光を纏うように見える。

 先程の赤とは対照的に露出は控えめだが、その仕立ての良さは一目で分かる。


 繊細な刺繍がネオンの光を受けて淡く輝き、長い裾が静かに地面を撫でた。


 燕尾服の女性が差し出した手を、彼女は柔らかく取る。


 その仕草は優雅そのもの。

 歩みは静かで、音すら立てない。


 静かに微笑んでいる。

 …だが、ふと横目に流した視線は、冷静に周囲を観察している。



 並び立った赤と白の美女。

 そうすることで、二人の異様さが一段と際立つ。


 会場前にいた誰もが直感していた。


 ――この一団は、先程までのただの金持ち連中ではない、と。




 三人目は…サングラスをかけた男。


 深紅のジャケットと純白のボトムスに身を包んだ、堅気には見えない若者だ。

 まずはその奇抜なファッションに目が行ってしまうが、すぐに男の両手に釘付けになる。


 それは一目で特注品と分かる、巨大なアタッシュケース…一つのサイズが、棺桶程もある。


 それが、両手に合計四個。


 明らかに異常な光景だった。

 大型の車両とはいえ、あんな物が四つも乗るスペースがあるのか?

 …あるいは、今夜ここで取引される多くの「超常」…その一片を、目の当たりにしているのだろうか?


 そして、そんなものをコストコにでも行った帰りかのように持ち運ぶ男に、警備員達は一瞬唖然とし、我に返るとすぐに警戒を強める。


 この男が今、暴れ出したら…。

 …果たして、この場の戦力で無力化できるだろうか?

 



 そして…四人目。


 最後に車から降りて来たのは…髪をオールバックに固め、黒いダブルのスーツ。

 ハーフリムの白フレーム眼鏡をかけた男。


 …ジャパニーズ、インテリヤクザかな?


 オイオイ、勘弁してくれ。

 そんな見くびったような雰囲気が一瞬流れる。


 


 ――ビシッ――




 その場の空気が。

 …いや、空間が。


 不穏な音をたてて「死んだ」のを、そこに居た全ての人間が感じた。


 怒気の伴う熱が…絶対零度の殺意が…得体の知れぬ「未知の何か」が…。

 先に下りた三人から吹き荒れる致死量の覇気に、選りすぐりの精鋭警備達が「死」を覚悟した。


 そんな鈍重な空気の中、当の本人は飄々とした足取りで歩みを進める。

 …様子を伺うに、この男は間違い無くこの一団の中心人物なのであろう。


 彼が合流すると、一団はゆっくりと歩き始めた。

 


~ ~ ~ ~



 ここが闇オークション会場か。

 流石に警備が厳重だな…なんか俺達を見る視線に怯えを感じるんだが、なんだ?


 …あ、もしかして俺のこの恰好のせいか?

 プシュパカが「マスターが舐められてはいけません」なんて言うから、おまかせで服やら髪型やらセットしてもらったんだけど…怯えさせちゃったか?見た目、ヤクザそのものだもんなぁ…。


 多数の警備員が固める会場入口に到着すると、受付の男が緊張した表情で話しかけてきた。


『…こちらで「招待状」をお預かり致します。』


『ああ、受け取ってくれ。』


 俺がそう言うと、湯取が前へと進み出る。

 警戒する警備員達の眼前で巨大なアタッシュケースが開かれると――


 そこにはビッシリとカスヴァル紙幣が敷き詰められていた。


『なぁっ!?』


『一人100億カダール(10億円)。それが四ケースで、四人分・400億カダールある。…問題無いかな?』


 笑顔でそう言う俺に、受付の男は一瞬固まっていた。

 …が、すぐに正気を取り戻すと『確認させて頂きます。』と言って通信機で何処かへ指示を出した。

 一分もしない内に数人の応援が集まり、アタッシュケースの紙幣を数え始める。


 

 …たっぷり二十分は時間を使い紙幣の確認を終えると、改めて受付の男が頭を下げる。


『確認が終わりました。…間違いなく、カスヴァル紙幣で四十億お預かりいたしました。ご案内いたします。』


 良かった、ちゃんと入れるみたいだ。

 やっぱり招待状が無いと駄目、なんて言われたらどうしようかと思ったわ。


 プシュパカに作ってもらった特注アタッシュケース…アレだけは後で返してもらわんとな。

 …一応、アノマリー判定の代物だし。


 いやぁ、というのも俺、【錬金術師(アルケミスト)驚異の部屋(ブンダーカンマー)】の裏ワザを発見しちゃったんだわ。

 【錬金術師(アルケミスト)驚異の部屋(ブンダーカンマー)】は、アノマリー限定で収納できる…そんでもって、プシュパカが作成する物は異星の技術が使用されていると、【鑑定】で「アノマリー」と判定される。


 …そう、プシュパカが作った物は【錬金術師(アルケミスト)驚異の部屋(ブンダーカンマー)】に収納可能なのだ。


 なので今回、プシュパカにはカスヴァル紙幣を運搬する為のアタッシュケースを制作してもらった。

 【鑑定】を使うと――


【特注アタッシュケース】ランク:D

 異星の技術が使われたアタッシュケース。

 やたらと丈夫で軽いが、それ以外に特別な機能は特に無い。


 …と、特殊能力は無いがランクDアノマリー判定なので、問題無く【錬金術師(アルケミスト)驚異の部屋(ブンダーカンマー)】に収納できた。

 おかげで車での移動時も邪魔にならず、湯取の降車時に出して渡すだけでOKだった。


『それでは、私共は会場外の駐車場で待機しております。…くれぐれも、お気をつけて。』


 プシュパカはそう言って頭を下げると車へと戻り、そのまま会場を後にする。


 残された俺達四人は、案内係の男に連れられて重厚な大扉の前と進み出た。

 金属で作られた大扉は、よく見れば表面に無数の人の顔のような物が蠢いて見える…何だこりゃあ?


 案内の男が懐から怪しい宝玉を取り出す。


 ――いや、よく見ればソレは「水晶の髑髏」…即座に【鑑定】すると、大扉と連動した開閉用のアノマリーのようだった。

 男が右手に持って一息に呪文を唱えると…断末魔の悲鳴のような音を上げて、ゆっくりと大扉が開いていく。

 これは…魔術と呪術の二重のロックがかかってるのか…流石に厳重だな。


 …いいね、一層楽しみになってきたぜ。


 俺達は遂に…陰謀や欲望の渦巻く「伏魔殿」へと、足を踏み入れた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ