69、王国の未来
遅くなってすみません、その上長いです
次話から王都での話になります
マリーは侯爵が意識を失う前に、無理矢理回復薬を飲ませる事は出来たが、肩の傷を除き再生されることは無く、満身創痍の父を見つめていると
マリーの心をどす黒い何かが塗り潰していく
何故父がこんな目に合わなくてならないのか?
敵本陣より放たれた黒槍、マリーには見覚えがある、ソフィアの魔法と酷似しており、訓練の合間に注意するように言われていた、あれが神に仇なす者が使用する魔法であると
つまり、敵本陣には神の敵がいる、更にその敵は父を瀕死に追い込んだ、絶対悪がそこにいる
今、敵本陣にいる悪を討つ為に突っ切れば、多数の民、騎士の犠牲がでるだろう、しかし其が何だというのか?
今こそ自分の信仰の深さを見せる時ではないのか?
何も無かった自分に、神より賜ったこの力を振るうには今ではないのか?
例え数千の民や騎士が立ち塞がろうとも、その全てを潰し、神の敵を討つべき時
マリーは抱き抱える侯爵をそっと地面に寝かし、側に転がる斧を握り、立ち上がる
「マリー、無事か? 遅れてすまない、この好機にジギール殿も前線に出ると聞かなくてな」
伝達を終えて戻ったギーから声がかかる
「はい無事です、私はこれから敵本陣を叩きに行きます」
「何を言っている? 民に混ざった魔戦兵をどうするつもりだ?」
「今の私ならば、自爆など無意味です」
「其では凄まじい被害がでるぞ、何を熱くなっている?」
「敵本陣から私と父を狙い撃ちした者がいます」
「気持ちは分かるが、冷静に」
ギーの言葉に被せてマリーは続ける
「神の敵が本陣にいます」
「間違いないのか?」
「ソフィア様の魔法に酷似していました、その光は黒く禍々しい物でしたが」
少し考え込むギーだが
「それでもだ、当初の予定通りで行く、私はレオン様に被害を抑えた上で、勝利する為に尽力するよう命を受けている」
「貴方こそ何を言っているですか?! 明確な神の敵があそこにいるんです! 今こそ信仰の深さを示す時です! その為に多少の被害等些細な事ではないですか!」
マリーは斧を握り締め、敵本陣に向けて飛び出そうとするが、その行く手をギーが阻む
「どいて下さい、ギーさん、邪魔をするなら貴方と言えど、、」
「その濁った目で信仰とは笑わせる、目を覚まさせてやる」
両者、一触即発の状況で
「何をしておる! 止めんか!!」
遅れて到着したジギールが割って入ったその時
敵本陣より火の手が上がる、最前線の民は大混乱であったが、その直後から隊列を正し、突撃が始まった、後方の騎士達が逃げる民を殺し、無理矢理に突撃を開始させたのである
ジギールは地に横たわる侯爵に目をやると、控える騎士へ
「ブリュッセル侯爵を後方へ連れ、治療をしろ、決して死なすな」
直ぐに数名の騎士によって後方へと連れられて行く侯爵を確認し、ジギールは話を続ける
「直ぐに敵が押し寄せてくる、両者頭を冷やせ、何を揉めておるのだ?」
「神の敵が、本陣にいるのです! その敵が父を!! 父は私を庇ってあの様に!」
「馬鹿者がぁ!! マキシムの奴が何故庇えた? マリー殿でも対応が遅れたのであろう? つまり奴は気付いていたのだ、冷静になれ! 奴の行動を無駄にするでないわ!」
そう言われ、マリーは我に帰る
確かにそうだ、父の対応は早すぎた、それに黒槍が来る直前の狼煙、父は気付いていたのだと
マリーは冷静に、父の言葉を思い返すと、不自然な点に気付く
父は私に英雄の影となり、支え、時に正せと言った
しかし父が最後に言った言葉、満身創痍ながら、それでも自分に伝えた言葉は「民を照らす光となれ」だった
真逆の事を言っている、錯乱して? いやそれは父に限って有り得ない事だと確信がある
「光、民を照らす光となれ、、」
「ん? マキシムの言葉か?」
「ジギール様! 迫る民へ向けて、ライトの魔法を!」
「何の話だ? 目潰しか?」
困惑するジギール侯爵を尻目に、ギーが即座に光球を5つ発現させる
「これを撃ち込めばいいのだな?」
「はい!御願いします!」
迫る最前線の民へ向けて、光球が放たれ、民の手前で弾け光が広がる
このライトとは文字通り、只照らすだけ、目眩ましにも使えなくもないが、通常は洞窟など照らす目的で使用する物で、初歩的な魔法である
直ぐに光が消え、ほんの一瞬の足止めにしかならなかったが、民に変化があった
正確には、迫る民の中の数人に変化が起きた、民兵達は、粗末ながら革の装備で統一されており、戦争に際し、支給された装備の様であるが、光を浴びた数名の装備が黒く変色していたのだった
「ギーさん!」
「確か、魔力が篭った光を当てると、変色する植物があったが、、成る程、確かめて来よう」
ギーの身体を電撃が覆い、迫る民へと高速で飛びしていくと、再びライトを民へ放ち、足を止めた所へ素早く突入し、黒く変色した鎧をつけた民を、一瞬で切り裂いていく、確認できる民のみを全て仕留めると、その速さに対応出来る筈も無い民をかわし、マリー達の元へと帰還する
「間違いない、黒く変色した鎧を装備する者が魔戦兵だ、こんな仕込みをしていたとはな」
ブリュッセル侯爵は王国の異常に逸早く気付き、入り込んだ得体の知れぬ者達への対処を思案していた
王の異変、ドラギールの暴走、このグランギールは最早手遅れであると判断し、ランギールならばと、この国に住まう民の未来を託す事に決める
そこで可能な限り、出陣を引き延ばし、その内に潜む病巣の判別を、ランギールにさせる為に、支給する鎧に細工を施した、徴収した民の全ての身元を確認させ、該当外の者に細工を施した装備を支給したのである
更に、自分への監視なのか、ドルフ伯爵を隠れ蓑として、入り込んだ者達の中でも上位の者がいると判断し、自分を囮として最前線に行けば、ランギール共々、狙い撃ちするであろうと、動いた所で残したラッセルに合図を送る様に指示をしていたのである
幾つか予測した事態の中で、予想外にマリーが最前線に出る事態となったが、それはランギールがこの場には居らず、ランギールは王都への強襲で、この場は足止めと言うことも予測の範疇だった
連合軍の代表者との一騎討ちをし、入り込んだ者の策を挫き、細工を伝え、その上で自分の首を取らせ、王国軍の士気を落とす、王都にも幾つか保険を掛けているが、これがブリュッセル侯爵の立てた策である
「ラッセルの奴め、粋な真似をしよる、ならば前進させた魔法士達にはライトを撃たせつつ牽制させよう」
「御願いします、私達は判別出来た魔戦兵を潰して行きます」
「ならば、レオン様より賜った魔石を使用するならば今だな」
「はい、神具ガチャノハズレですね、各自魔戦兵に対し、使用させましょう」
レオンはこの場にいるパワーレベリングを受けた兵士達全員に、生か死かを3個づつ渡してある、判別は難しいだろうが、自爆前に使用出来れば、他者も対象とする自爆は無効化出来るとの判断からだった
押し寄せる王国軍に対し、前線に上げたジギール軍の魔法士から、次々とライトが撃ち込まれ、判別出来きた魔戦兵を超人的に強化された、騎士と傭兵が討ち取っていく
残った民にも被害は出るが、魔戦兵をかたした地点で、投降を促して行く
当然民兵では連合軍の相手にならず、次々とうち伏せられ、投降に応じる者が波のように民へと広がっていった
民兵に潜む魔戦兵は、自爆を使用する事無く討ち取られ、僅かな死者は出したが、残ったほぼ全ての民兵達は投降に応じ、戦局は結したかに思われたが、民の後ろ、正規の王国軍は投降には応じず、両軍の激突が始まり、双方に被害が広がって行く
マリー達は極力、殺さずに投降を促してはいるが、戦場は地獄とかそうてしていたその時である
両軍入り乱れての最前線に、良く通る男の声が響き渡る
「双方、剣を納めよ!! この場に敵は居らず!!」
ジギール侯爵に肩を貸された、ブリュッセル侯爵の言葉である
王国軍の騎士達も、昨今の王や王国としての民の扱いに、不満を持つ者が大多数である
この度の進軍に対しても納得する者は少ないが、ブリュッセル侯爵が指揮するならば、自身を鼓舞している者がほとんどだった
この突撃もブリュッセル侯爵の弔い、もしくは救出を思っての所が大きかった、そのブリュッセル侯爵の言葉に、次々と王国軍は、武器を下ろしていき、戦場に静けさが産まれた所で、ブリュッセル侯爵は続ける
「この場に敵は居らず! 双方護るべきは、この国に住まう民である!! 」
ブリュッセル侯爵は、王国軍本陣を指し示すと
「真の敵は、王国に巣くう病巣! 敵は王都にあり! 王国に入り込んだ虫、その先のドラギール、そして御せなかった王自身である!国の為、民の為、今こそ敵を討つべき時! 全ての王国軍は連合軍に合流せよ! 英雄ランギールの旗の元に全ての騎士よ、今集え!!この王国の守護者、マキシム=ブリュッセルは英雄ランギールこそ真の王であると認める!! 新しき王国の船出を英雄と共に進もうぞ!!」
静まりかえる戦場に、少しずつ歓声が広がり、大歓声に変わる頃、沸き上がる両軍の中を、駆け抜ける人影が二人、マリーとギーである
二人が歓声を上げる王国軍を抜けて、王国軍本陣へとたどり着くと、本陣ではドルフ伯爵の手勢と、ラッセル率いるブリュッセル侯爵の手勢とで戦闘が繰り広げられていた
戦況は、ドルフ有利、ドルフの手勢の多くが、異形の化物となっており、ラッセルの率いる騎士達の多くは討ち取られ、ラッセル自身も手傷を負い、風前の灯だった
マリーは金色の光を纏い、ギーは電撃を纏うと、即座に割って入り、次々に化物、魔戦兵を討ち取っていく
そして最後に残ったのは、ドルフ伯爵に、黒ローブの男の二名だけとなる
「くそっ!! 何て様だ! 何がお任せ下さいだ!? 全て失敗ではないか! 私は撤退する! お前が時間稼ぎをしろ! このやくたた」
ここまでしゃべった地点で、ドルフ伯爵の頭が地面に転がる
黒ローブの男はフンッと一つ鼻で笑うと
「お見事です、魔戦兵は全て討たれてしまった様ですね、まぁ良いでしょう、所詮捨て駒です、それにしても我等の神の御技を防ぐとは、、、このまま帰る訳には流石にいきませんので、貴方御二人には此処で死んで頂きます」
男がフードを下ろすと、整った顔立ち、緑の髪に白い肌が露になる
「エルフが、二人でやるぞマリー」
「すみません、私一人でやらせて下さい」
「おい! また熱くなって」
咎めるギーに、マリーをその左手に持った金色の盾を見せる、本陣突入前にマキシムからマリーへ手渡された物だった
「私がこれより先、父の様に護り支えて行けるのか、この盾を扱うに相応しいか確かめたいんです」
ギーはマリーの目をじっと見つめると
「目に濁りは無い様だな、任せた、と言いたい所だが、危険と判断したら手を出させてもらう」
「十分です、有り難う、ギーさん」
ギーは少し恥ずかしそうに、シッシと手を振り、早く行けと合図を送る
エルフの男は黒い羽を取り出し、空に掲げると、羽は黒い光りとなって男に降り注ぐ
男の肌は黒く変色し、その肌には青い血管が無数に浮き出て、緑の髪は全て抜け落ちていく
「私に扱いきる事は出来ませんが、貴方を始末する事くらいは容易いでしょう、先程放った神の御技、この距離で防げますか?」
男が両手を突き出すと、マリーへと黒槍が放たれる
マリーは盾を構え、黒槍を迎え撃つ
黒槍の光に呑み込まれるマリーを見て男は
「盾などで神の力が防げる筈がないでしょう! 我等の神に仇なす愚か者よ! あの世で後悔す、、」
黒槍に呑まれた筈の方向から、黄金の光が放たれ、逆に黒槍はかき消されて行くと、その先には金色の盾を構えるマリー、その盾の前方には、盾に印されている紋章が光りとなって浮き出ており、それが防壁となってマリーを護っていた
「バカな!? 何だその盾は!?」
マリーは困惑する男へ、一息に踏み込むと、その右手に持つ斧を、持てる全ての力を込めて振り抜いた
男は一瞬で消滅し、全力で振るった一撃の衝撃で、マリーの未熟な強化魔法が体から剥がれ飛び散り、本陣には金色の雨が降り注ぐ
これより訪れる王国の未来が、光輝く金色であると示しているかの様だった




