65、師と弟子
中央広場
街の各所から狼煙が上がり、籠に入った魔戦兵との戦闘が開始したことを意味している
「始まったようね、リーリエ様はどうしますか?」
ライラは、魔戦兵の侵入を逸早く探知したリーリエに声を掛けるが、リーリエは現在に至るまで、怠そうにベンチに寝そべったままである
「我は、当然ここにいる、これ以上働く気は微塵も無い」
まるでやる気の無いリーリエに対して、ライラは苦笑いを浮かべ
「分かりました、私は援護に向かうので失礼します」
「ちょっと待て、行くなら南東方向にするのじゃ、そこが交戦していない残りの4人が散っておる」
「分かりました、では」
ライラは、その探知能力に畏怖を覚えるも、それなら手を貸してくれれば、直ぐに標的をかたす事が出来るのにと思いつつ、南東に向けて走り出した
ライラが中央広場から去り、少しの時間が経過した頃、広場にローブを着込み、フードを深くかぶった3人組が現れる
先頭の者が、後ろに付く二人を制止させる
「出迎えの様だ、、各所の様子から見ても対応が早すぎる、罠か」
ベンチに横たわるリーリエは、怠そうに起き上がると
「知恵は回る様じゃな、魔力も中々のようじゃ、人払いもしてある、存分に魔法を使うが良い、その前に一様使用しておくかの」
リーリエはそう言うと、小さな魔石を三人へ向けて放り投げる
先頭のローブの者がそれを見て、即座に魔法による障壁を出現させるが、魔石は障壁をすり抜けると三人の足元に落ち、光を放つが直ぐに光は消えていく
「何をした?」
「障壁を展開する速度も申し分ない、良き魔法士のようじゃな、使用した魔石は、名称はガチャノハズレ、効果は使用者と指定者とのデスマッチの強制、つまり、お主達は我を殺すまで、他者を攻撃する事も逃げる事も出来ん、我も同様じゃ、それと安心するがいい、対象以外の攻撃は一切受け付けないとのことじゃ」
「チッ、神々の秘宝か、、」
「ほぅ、色々と詳しい様じゃが、今回は時間が無いのでな」
そう言うと、リーリエは手を空に掲げる、警戒する三人組だが、魔法が発動する様子は無い
何かに気付いたのか、先頭の一人が上を見上げると、そこには直径2メートル程の巨大な火球が有り、そこから無数の火球が三人へと降り注ぐ寸前であった
「上だ! 防壁で防げ!」
先頭の者は即座に、上部に防壁を展開し、ギリギリで凌ぐが、他の二名は防壁が間に合わず、炎に襲われる
三人に向けて、無数の火球が襲う中、リーリエが地面に手を付くと、三人の足元から、無数の石の槍が突き出していき、炎への対処に追われる三人に向けて、無情にも襲い掛かっていった
天からは無数の炎が、地からは無数の槍が襲い、三人は炎と槍に包まれる、そして魔法の効果が終わり、炎と槍が消えていくと、そこには一人だけが立っている
「ほう、あれを受けて生きておるとは、、、お主、同族じゃったか、、」
そこに立っているのは、ローブは所々破損し、フードは捲れ、その素顔が晒されている
髪は緑、肌は透き通る程に白い、エルフの女だった
「同族だと? 裏切り者がよくもそんな事を、しかし裏切り者とは言え、偉大なる盟主様に師事していただけの事はあるか、新魔法とは」
「成る程のぅ、ずっと気になっておったのじゃ、魔戦兵などと言う、おぞましい者達、正気の沙汰では無いが、魔力と魔物の知識、尚且つ、定着させる為に亜種族を利用する知識、これだけの知識を保有しておる者、我が師、クーシスを措いて居まいと思っていたが、魔法については、新魔法ではあるが、只の模倣、神の真似事じゃ」
「貴様ごとき裏切り者が、大賢者クーシス様の御名前を口にするな!!」
「裏切り者とは心外じゃな、彼女とは互いに納得の上で、袂を分かった筈だがのぅ、我が師は保守的過ぎた、大樹を崇拝し、護る事だけに囚われておった、しかしこの様な狂気とは無縁の穏やかな方だった筈だが、如何にして変わったのか、、まぁ良いわ、同族をいたぶる真似はしとうない、せめて苦しまぬよう命を摘みとろう」
「馬鹿が、既に勝ったつもりか? 見せてやろう、盟主様が神より賜った力の片鱗を!!」
エルフはそう言うと、懐から何かの生物から抜け落ちた羽を一枚取り出すと、天に掲げる
その一枚の黒い羽は黒い光の粒子となって、エルフに降り注ぐと
透き通る様な白い肌は、みるみる黒く変わり、その肌には茨の様な赤い刺青が覆っていった
「ほぅ、見たことのない現象じゃな、それに魔力が跳ね上がっておる」
「その余裕を消してやろう」
変貌を遂げたエルフが手を振るうと、リーリエに向けて、黒い火球が放たれる
対するリーリエも、火球を発現させ迎撃するが、リーリエの放った火球は呑み込まれる
それを受けてリーリエは、迫る黒炎にもう一度火球をぶつけ、更に石の壁を地から発現させる事で、漸く黒炎を打ち消した
「よく凌げたな? では遊びは終わりだ、盟主様を裏切りった事を、後悔しながら死ぬがいい!!」
エルフがリーリエに向けて、手を突き出すと、次の瞬間
「ドンッ、メキメキ、ボコッ!」
とリーリエの周囲が、大きく沈み、リーリエはその場に、手と膝を付き、土下座をしているかの様に平伏している
「な、成る程のぅ、原理は分からぬが、標的の周囲ごと圧力を与える魔法か、、」
「重力を操る魔法、神の御技だ、しかしまだ潰れぬ処か、口まで開けるとはな、エルフとは膨大な魔力を保有する代わりに、身体能力が低い事が弱点だが、流石と言っておこう、その首を落とし盟主様への手土産とするか」
エルフは腰の小剣を抜き放つと、ゆっくりとリーリエの元へ行き、その剣を首に向けて降り下ろす
剣が首に到達する瞬間、リーリエは素早くかわすと、エルフの鳩尾へ拳を叩き込む
「メキメキ、うげぇ!」くの字になるエルフの顔を跳ね上げる様に、追撃のアッパーを放つ
「ゴッ! グワェ!」とエルフの体は宙に浮き上がり、仰向けの状態で後方へと吹き飛んだ
直ぐに起き上がろうとするエルフだが、アッパーによる脳震盪の為、膝は生まれたての小鹿の様に震え、立ち上がれずに、先程のリーリエと同様に土下座の形になっている
「ふむ、重力魔法とやらの効果は切れたか、貴重な魔法を見れたのぅ、感謝しよう」
土下座の状態のエルフは、顔を上げ、苦悶の表情でリーリエを睨み付けると
「な、なぜ、ありえない、、神の御技が効かないなどと、、何をした?」
リーリエは首を少し傾げると
「何もしておらんわ、あの程度の圧力など意味をなさん、以前の我ならば、身動き一つ出来ぬであろうが、我も成長しているという事じゃ、、、強制的にじゃがな、、」
「くっそ、まだだ! 魔力はこちらの方が遥かに勝っている!!」
膝が笑いながらも、何とか立ち上がるエルフに
「未熟者め、何故我が最初に放った魔法の探知が遅れた? あの魔法の肝は、本来探知など出来ぬ魔法を模倣する為に、探知阻害の魔法を併用する事で、劣化とは言え模倣と言えるレベルにはなっている所じゃ、そしてそれは我自身にも常に掛けてある」
「な、何だ!その魔力の量は!? 嘘だ! 盟主様を大きく越えて、、、まやかしだ!!」
膨れ上がったリーリエの魔力を感じ、絶望と現実を受け止められないエルフに、リーリエは別れの言葉と魔法を放つ
「さらばじゃ、せめて最後は、我が師クーシスの最大の魔法を手向けとしよう、我が不肖の師はあの世で詫びにいかせる、案ずるな」
パンッ、とリーリエはその胸の前で手を打つと、エルフの四方に水柱が出現し、リーリエがもう一度、手を打つと、その水柱はエルフの周囲を回転しながら、エルフへと集まって行く
「何だ? この魔法は!? これがクーシス様の魔法だと!! 出鱈目を言うなぁぁ!!」
水柱はエルフを呑み込み、その身を閉じ込める水の牢獄になる
リーリエが三回目の手を打つと、エルフを覆う水柱は一瞬にして氷付き、水柱は氷柱へと変わる
「さらばじゃ、名も知らぬ同胞よ」
リーリエは、片手を氷柱へと向けて、「パチンッ」と一つ指を鳴らすと、氷柱は粉々に砕け、辺りには氷の破片が舞い、キラキラと光を反射して輝き、そして消えていった
リーリエはトボトボとベンチに行くと、ゴロンと寝そべり、目を閉じ、師との記憶を思い返していると
「リーリエ様、街に侵入した敵は、全て始末出来ました、、ん? 広場で何か有りましたか?」
ライラは広場に残る戦闘の後を見つめ、リーリエに問う
「何もない、暇じゃったから魔法の試し打ちをしただけじゃ、そのせいで余計に疲れた、終わったのなら、我は寝る」
ベンチに横たわり、目を閉じたまま、シッシと手を振るリーリエに、ライラは溜め息を一つ吐いて、空を見上げると、襲撃などなかったかの様な、穏やかな青空が広がっていた
こうして襲撃は失敗に終わり、その後避難した住民を街へと帰還させ、何時もの平和な都市ランギールへと戻ったのだった




