56、水龍
今回は少し長いです、すみません
まるで眠りから覚めた様な神殿内、シアの後に続き神台へと通路を進む
『レオン様、この神殿の変化は、、』
ソフィアも気付いている様だが、当然か、ソフィアは何度も見ているはずだ
俺は一度しか見た事がない、正確には何度も見ているが、一度しか感じた事がない
つまり、ゲーム時の神殿内は通常この状態だ、スマホで何度も見た光景、気にも止めなかった当然の光景
俺がこうして体感するのは、覚醒転生の為に使用したVRで経験した一度だけだが
神台に到着し、シアが神台に触れると巨大なコンソールが浮かび上がった
そこには何の言語なのか、俺にはまるで理解出来ないが、何が書いてあるかはおおよそ分かる
巨大なコンソールのUIは、ゲーム時の拠点操作のUIと酷似しているからだ
成る程、つまりこの神殿はシアの拠点、ゲームで言うならプレイヤーはシアで、攻略に詰まりガチャを引いてクリーチャーを召喚した、召喚されたクリーチャーは俺とソフィアと言ったところか
「幾つか聞きたい事がある」
「はいなの!」
「シアは此処で戦神、敵に殺られたのか?」
「たぶんちがうの、もっとひろいとこだったの、みどりいっぱいなの」
「緑いっぱいと言うと、俺が拠点とした神木の森か?」
「ちがうの」
「その場所が何処か分かるか?」
「わからないの、シーちゃんがよんで、こたえてくれたのはここだけだったの」
神木から力を還元され、記憶も多少戻っているのかとも思ったが、力が戻っても奪われた記憶は戻らんのか
シアの力を奪った戦神、もしくはその力を与えた眷属を倒すしかないのか
「その言い方だと、本来は多数の神木、神殿があるのか?」
「いっぱいあったのに、なくなってるの」
ショボーンとしているシアの頭を撫でつつ思案する
シアはゲームで言うところの拠点を複数持っていて、ここはその拠点の一つなのは間違いない、神木と拠点はセットなのだろう、拠点の心臓部が神木で、神木を潰せば拠点の機能は失われると言ったところか
今生きている拠点はこことリーシアの森、リーシアの森は俺が拠点化した事を考えると、拠点はここだけか
俺とソフィアが此処に転移させられた事から、生きている拠点に召喚されたと考えるのが自然か
つまり戦神はこの世界に来てシアの拠点、神木の力を奪い潰し、シアにたどり着いた時に生きていた拠点が此処だけだったのか、何故此処だけ生きていたのか疑問が残るが
「シアが拠点の機能を使用するのは分かったが、その知識も神木からか?」
「そうなの! シーちゃんはものしりなの、いろいろおしえてくれるの!」
神木=拠点だとして、神木とはデータの保管や閲覧、ナビ的な役割もあるのかも知れんな
「最後に、此処で召喚を行う事は可能か?」
「むりなの」
シアが戦神に殺られた拠点でしか召喚は行えないと言うことか、そこが本拠地で他は利便性を高める為の物だろう
戦神がいるのも、その本拠地の可能性は高そうだな、もしシアが本拠地の機能を取り戻せば、戦神にとって驚異になるだろうしな
「すまなかったなシア、続けてくれ」
シアは手に持つ杖で、器用に神台のコンソールを操作をしていく、途中届かない為、ソフィアに抱き抱えられ作業を続けると、突然地面が揺れだし、外からゴゴゴ、メキメキと轟音が聞こえ、暫くすると揺れと音が止まった
シアはソフィアから降ろされ俺に振り向くと「おっけーなの!」とてくてくと神殿の外へ歩き出す
俺とソフィアも直ぐに後を追い外に出ると、広場の中央に高さ30メートル程の木がそびえ立っていた
兵士達は疲労困憊のところに巨木が突然現れたせいか、腰を抜かす者や、頭を抱え震える者などが多数だ
ランギール等、腕に覚えのある者は巨木と周囲の警戒をしている様だが、ギーだけは巨木の前で祈りを捧げている
リーシアの森にある神木の外壁ともいえる巨木と比べると遥かに小さいが、その外見は酷似している
「あの巨木を産み出す為に操作したのか?」
「そうなの! あのこのまわりはちょっとげんきになるの、シアがちからをあげて、おねがいしておくとかってにわるいこくるくるなの!」
俺はコンソールを出し確認すると、確かにバブのアイコンが点灯しており、タップすると全ステータス微上昇、自然治癒微上昇と出る、範囲バブと事前に大木にMPを込めておけば、自動で拘束魔法を使用すると言うことか
「パパとママは、いっぱいほめてくれていいの!」
今にも鼻が伸びそうな程、得意満面なシアだが、素直に素晴らしい機能だな
「よくやったな、偉いぞシア」
『流石シアです、これだと休憩は必要ないですね』
「そうなのママ! このこがいればやすまなくても、しなないの!」
と二人の話が物騒な方向に行き出したが、もう好きにさせるか、兵士諸君、健闘を祈る
結局その後13日間で与えられた睡眠は僅か数時間の1日のみであった
昼夜問わず、永遠に魔物寄せの札によって押し寄せる魔物の群れを、ひたすらに狩り続けさせた
久しぶりの死の森の討伐のせいか、魔物は途切れる事は無かった
二週間のパワーレベリングを終えると、気のせいではないだろう、皆顔付きは引き締まり、眼光も鋭く見える
悪く言うと、目が座っていてヤベー奴の集団とも言えなくもないが
殺伐とした空気の中、鍛練の終わりを告げると、ランギールはリーリエと、ライラとダン達、騎士達は各々、涙を流し抱き合い、「生きてる、私達は生きてるぞ、生きて帰れる」と謎の感動シーンが展開された
その後ランギール達を森の入り口付近まで連れて行き、俺とソフィアとシアはリターンで神殿まで戻った
その日は広場の大木の下で休憩を取ることにした
葉もまばらだった大木には、花が咲き乱れている、聞けば大量に魔物を討伐した事で、その力を吸収したそうだ
花はサクラに似ていた、その満開の大木の下で休憩を取り、明日に備える、異世界で花見も悪くない
翌朝、神台に行き、シアがコンソールを操作すると、足元に魔方陣が浮かび上がった
「ここから転移出来るのか?」
「そうなの!」
ゲーム時の各地にある祠で登録し、狩り場付近まで転移していたのと似たような物か
視界が歪み、元に戻ると、そこは巨大な鍾乳洞の様な場所だった
転移した場所には祠が有り、鍾乳洞は奥へと続いている
「敵の気配は有るか?」
『いいえ、感じ取れる範囲にはいません』
警戒しながら鍾乳洞を進む、入り組んでいるのかと思ったが、一本道が続くだけだった
数時間進んだ所でソフィアから奥に敵の反応が一つだけあると告げられる
其処から更に進むと、大きな空間に出る、そこには大きな湖があり、どこか厳かな空気を感じさせる空間なのだが、湖の水はどす黒く異臭を放っており、それが台無しにしていた
『レオン様、来ます』
「シア、下がっていろ、行くぞソフィア、アブソルトウイナー」
シアを後方に下がらせ、ソフィアにアブソルトウイナーを掛けると、ヘドロの様な湖から巨大な龍が姿を現した
その龍は西洋風では無く、東洋風の龍で背には翼は無く、鱗は青黒く、その顔は醜く爛れていた
以前討伐したヴリトラの倍はありそうだ
「ソフィア、いけるか?」
『大した力は感じません、直ぐに終わらせます、神槍グングニル』
ソフィアの突き出した片手から、3本の光の槍が水龍へと放たれる
水龍の頭部、胴体に直撃する寸前、湖から黒いヘドロが吹き上がると神槍はヘドロに呑み込まれ消える
初めて防がれたな
「ソフィア! 警戒しろ!」
『問題有りません、ああして防ぐのであれば、防げぬ数を撃ち込みます』
ソフィアは片手を地に付けると、無数の光の槍が地から突き出し、その突き出し続ける槍は大波の様にうねりながら、水龍へと襲い掛かる
無数の槍で出来た大波に水龍が呑まれる直前
「グウオオオガァーーーー!!」
と水龍が咆哮を上げると、水龍をすっぽり覆う様にヘドロが吹き上がり、そのドーム状の黒いヘドロに神槍は次々呑み込まれ消えていった
魔法を無効にするタイプか? それとも神聖は無効なだけか、神炎を試させるか
「ソフィア、神槍ではなく神え、、、」
水龍を覆うヘドロが湖へと戻り、水龍が姿を現すが、先程までに無かった物があった
巨大な水龍の背に巨大な黒い翼が発現している、呆気に取られていると、ヘドロが水龍の腹部まで壁の様に持ち上がる
「グルウグガオオオオーーーー!!」
と目を赤く光らせ水龍は咆哮を上げる、するとヘドロの壁からソフィアに向けて、光の槍、黒く濁った槍が3本放たれる
凄まじい早さで放たれた槍がソフィアに到達する
「ギャリギャリギギーーー!! ギーーーーーン!!」
とソフィアは素早く抜き放った剣で黒槍を2本弾くが、残りの一本の対応は間に合わず、ソフィアの背の翼に激突する
「パリーーーーン!」
と音を立て、黒槍はソフィアの翼を貫き、勢い其のままに後方へと貫通する、貫通するが、、
「くそったれが!! 間に合え!!」
俺は貫通した黒槍が向かう先に飛び出す、そう黒槍が向かう先にはシアがいる
瞬時に動いたが無理だ、シアまで半分の位置で黒槍はシアに直撃するだろう
「重課金者を舐めんじゃねぇーーーー!!」
ストレージから即座に神の涙を使用する、急激に力がみなぎり、黒槍の動きも緩やかに見える、行ける!
横っ飛びに懸命に両手を伸ばし、シアを掴み黒槍の軌道から退かす、よし間に合った!
次の瞬間、俺の胸部から腹部にかけて激痛が襲う、今まで体験したことの無い痛み、体の内部から刃物で突き破られる様な、直後強烈な吐き気が襲い
「ゲエェェウエェェ」と吐き出すと、真っ赤な血を大量に嘔吐する
「パ、パパ」
と涙を浮かべ、俺を見つめるシアの頭を震える手で軽く撫で、シアの目線を追うと、成る程
俺の胸部から腹部に掛けて、ポッカリと大穴が開いていた
混濁してきた意識の中、水龍を見ると、更に翼を大きく広げ、まるで何かの予備動作の様に見える
今の黒槍は3本、最初にソフィアの放っていた神槍と同数、つまりその後放っていた無数の、、
「そぶぃあ!! つぎがぐるぞ!!!」
何とか声を絞り出し、ソフィアを見ると、こちらを向き呆然としたまま棒立ちしている
『わ、私のせいで、レ、レオン様が、シ、シアも、、私は何てことを、、』
放心状態のソフィアの後方から、黒い波、無数の黒槍で出来た大波が、無防備なソフィアの背中に迫っている
ストレージから札を2枚取り出し、シアに札を一枚渡す、もう喋る事も辛い、シア分かるな?
大粒の涙を浮かべ、頷くシアを霞む目で確認し、札を握り締めて最後の言葉を振り絞る
「シフト」
俺がそう唱えると、俺の目の前には夥しい数の黒槍が押し寄せる
最後に後方に目をやり、シアとソフィアがリターンで転移し始めたのを確認し、離脱は間に合う事に安堵する、直後俺は黒槍に呑み込まれた
視界は黒く覆われ、幾度も襲う激痛の中、俺の意識は途絶えた




