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刑徒の恩送り  作者: 鯖欄
第一章

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6話 あきらめない奴

登場人物

元囚人女性、洗脳の使い手 主人公 セーレ

無職の青年 マーク

セーレの仲間、大総統 クライ他

見えざる手 サーメス

「見てくれ、セーレ。走ったぞ」

「そうね、良かったわね」

 マークは、おじさんのレクチャーを受けて、五十分ほどでバイクを乗りこなせるようになった。最後に講習許可証を受け取った後、二人は固い握手を交わした。

「そのバイクは、今日からお前のものだ」

「ありがとう、コーンさん。大切に使わせてもらうよ」

「ねぇ、もう終わったの?」じっと、セーレが呆れ顔をした。

 会話が終わると、セーレはサイドカーに乗り込んだ。

 マークがバイクに近寄る。二人は、サイドカーに積まれていたバイザー付きヘルメットを被った。

「よし、準備できたぞ」と言い、マークはスロットルを回した。

「砂クジラに向けて出発しましょう」

 正面入り口が開き、勢いよく一台のバイクが疾走した。

 地面を走るバイクに、マークの気分は高揚した。バイク乗りが受ける風を全身に浴び、子供のように大はしゃぎしていた。

「最高だな」

 しばらく走ると、セーレから停止指示を受けた。その場所はサボテン地帯だった。

「ん……何だ地震か……」

「くる」

 岩礁を泳ぐ、砂クジラが顔を覗かせた。体長は三十メートルほどで『つぶらな瞳』で愛らしい顔をしていた。

「これが砂クジラ。とっても大きいのね」

「すごいな。砂の上を泳いでいる」

 クジラはサボテンまで泳ぎ、むしゃむしゃとサボテンを食べ始めた。棘があるが、舌はそれをものともせず、完食していく。

 セーレはサイドカーに入っていた双眼鏡で、クジラの頭頂部を確認した。緑色の鋏(はさみ)が刺さっているようだ。

「あれね」

「どうするんだ。あれ、何をして」

「あなたはそこで待機!」

 マークに指示を出し、セーレは急にクジラに向かって、走り出した。

 途中の岩に身を隠しながら、徐々に距離を詰めていく。尾びれあたりに着くと、そろりと音を消し、忍び寄った。

 手に持っていた爆竹とマッチ棒を用意し、セーレは導火線に火をつけて、ぱちぱちと音が鳴る。

 クジラはその音に混乱し、セーレへ突進してきた。同時に、彼女の髪が白髪から銀髪に変わる。

「さぁ、クジラさん。すぐに終わるから、私の言うことを聞きなさい。今こそ自由を。Follow me, pig!」

 クジラの動きが急に止まったが、踠(もが)こうと「ジタバタ」しようとしている。セーレは力を強め、懸命にクジラを縛る力を強めた。暖かな日差し、汗ばむ天気でも挫けない。

「ぐおおおーん」

「大丈夫、すぐ終わるから。あなたに危害を加える気はないの。だからお願い、大人しく私の言うことを聞いて!!!」


 三分後、砂クジラの動きが穏やかになった。

 すっかりセーレの指示を聞くようになり、まるで飼育員のようだ。

「よし、地面に少し潜って。頭の先端だけ出しなさい」

「ぐおーん」

 言葉に従って、クジラはゆっくりと沈んでいく。

「良い子ね。すぐ終わるから」

 クジラに刺さっていた鋏をセーレが引き抜き、クライからもらった傷薬を頭の傷に塗ってあげた。

 傷の治療を終えると、拘束を解いた。

 クジラは砂に再び潜り、見送るように、その場を離れていった。

「おーい」

 声が聞こえる。

 遠くにいるマークへ手で、完(・)了(・)の(・)合(・)図(・)を送った。

「クライの神器回収依頼はこれで完了ね。後は、バイクに乗って、帰るだけね」

 セーレの背後から拍手が聞こえた。

「はい、我らと共に帰りましょう。洗脳の女王セーレ様」

 その声に驚き、振り返る。

 優勢思考の七三男が、フルートのような楽器をセーレに向けて吹いた。その振動は、衝撃波と似た音波攻撃であった。頭がくらくらとし、脳震盪に近い症状が出始めた。

「さぁ、参りましょう。セーレ様。我らと共に祈りを捧げに」

「だから……そんなの……望んでないって」

 ふらふらになりながらも、セーレは気力でなんとか体勢を立て直そうとした。しかし、再度、音波攻撃を受ける。彼女にさらなる負荷を与えた。立っていることができず、気絶。倒れ込んでしまった。

「ふふふ、セーレ様。やっと、ご理解いただけたようですね。それでは、その不自由な体を捨て、我等と共に」

 その時、エンジン音が近づいてきた。

 七三男は危険を察知し、振り返った。目の前には既にバイクに乗ったマークが迫る。当然、避けられる筈もなく。砂埃を立てながら、衝突した。

「セーレに触るな、ストーカー野郎が!」

 マークは違和感を覚えた。

 アクセルを全開にしても、それ以上先に進めない。

 砂埃が晴れると、岩のような皮膚の赤ローブの男が姿を見せた。

「ふふふ、残念。我が力は、身体を石と変える力。邪魔をしないでいただきたい」

 バイクを手で掴み、そのままマークは投げ飛ばされた。

 横に倒れ走行不能に陥る。投げ出されたがむくりとマークは起き上がり、相手の懐(ふところ)に飛びかかった。

「セーレから離れろ!」

「しつこいですね。やっと掴んだ神からの啓示。対面を許された我等が神セーレ様。その対面を邪魔するのは、万死に値する罪です」

 掴んだ手を引き離され、七三男から殴る蹴るの暴行を受けた。それでも諦めずに、マークは足にしがみついた。

「……セーレに、近づくな……」

「まだ抗いますか」

 さらに激しい暴行は続き、マークは動かなくなった。

「どうやら、終わりのようですね。さぁ、長らくお待たせしました。洗脳の女王セーレ様。やっと御身を、我が見(・)え(・)ざ(・)る(・)優(・)勢(・)思(・)考(・)の下へ奉(たてまつ)れることができ、誠に感謝申し上げます」

 七三男のサーメスは歓喜の顔で、銀髪の女性の下へ。

「洗脳の女王セーレ様。私こと、サーメスが貴方様を運ぶ命を賜った者です」

 言葉を紡ぐように、歓喜に満ちていた。

「今、この刃で貴方様の願いを叶えて進ぜます。安心してください。首と体が二つに別れても不要な身体は、私が頂戴いたします」

 長剣を横にし、サーメスは右手で先端を掴み、そのまま勢いをつけ、セーレの首を目がけて、斬りつけようとした。

「だから……や……めろよ」

 サーメスの腕を背中から、がっちりとマークはホールドした。

「貴様……一度や二度、三度と飽き足らず、四度まで邪魔するとは……」

「悪いな……俺……諦め、わりぃ奴だから」

「この手を離せ」

 剣の柄を使って、マークを何度も殴打した。

 殴打を受け、手を離し倒れ込んだ。しかし、足元の衣服の裾を掴み、サーメスを行かせないように抵抗する。

「ここまで、苛つかせるとは宜しい。貴方から先に、天へ送って差し上げましょう。きっと、セーレ様もお喜びになるはず……」

 マークの背中に刃を突き刺そうとした。

 そのとき、高速で移動する物体にぶつかり、剣が弾き飛ばされた。

「誰ですか! 邪魔をするのは?」

 飛来した鋏だった。そこに小さな狂人が忍び寄る。

 取っ手にあたる部分を両手で掴んだ。その人物――クライだった。

「久しぶりに出てきてみりゃ、目の前には、うざったい優勢思考の連中がいやがる。お前らみたいな奴は、俺が成敗してやるぜ」

 不思議そうな顔でサーメスも観察した。

「貴方様の顔、どこかで」

「はぁ……俺はな、フライだよ!」

 記憶を辿り、恐ろしい過去が蘇った。

「フライ!? 開発者のクライ様と思ったが、別人……いや、まさか。二重人格の狂乱者フライの方か!」

「カカカ、狂乱者か。懐かしいな。神器の鋏も戻ったし。久々にアレやるかな」

 サーメスの前髪が汗で濡れた。

「お待ちください。我は洗脳の……」

「ごちゃごちゃ、うるせんだよ、覇道滅破(はどうめつは)!!!」

 鋏からレーザーの光が放たれ、サーメスの上半身は光と共に掻き消えた。

「ちっ……逃げられたか」

 土人形は、ぼろぼろと崩れ落ちた。

(後は頼んだぜ、クライ。俺はもう引っ込むぜ)

「フライ! まぁ敵もいないし良いか」

 後方から飛行機のエンジン音と集団の足音が近づいてきた。

「大総統様、困ります。急に飛行機の上から飛び降りるなんて、無茶し過ぎです」

「先ほどは……えっと……すまん。この者達は怪我人だ。収容してくれ」

「はい、承知しました」

 クライの親衛隊が、重傷の二人を担架に乗せ、搬送作業を開始した。クライは、セーレの近くにある、神器発信機を回収した。装置を裏返しカバーを外す。発信機付きの盗聴器がチカチカと点滅していた。

「まさか、これが役に立つとはな」

 クライと親衛隊は飛行機に乗り込み、その場を後にした。マークとセーレは最牡(さいおす)の病院へ搬送された。

 

 二時間後、セーレは病室のベッドにいた。

「ここは、どこ?」

「セーレ、大丈夫かい? ここは病室だ。神器回収、ご苦労さん」

 クライの顔が近い。セーレは離れろ、と告げる。

「あなたが助けてくれたの?」

「間違ってはいないが、お前を守ろうとしたのはマークだよ。彼は、今集中治療室の中だ」

「あいつの容体は?」

「大丈夫。医療チームからは、傷を処置し二、三日経過観察すれば問題ないとのことだ」

 クライは鋏を手に取り、林檎を皮付きのまま四等分に切り分けた。その内の一個をセーレへ手渡した。

 しゃりしゃりと甘酸っぱい林檎を口にし、仄かに甘みを感じた。

「優勢思考。彼等はどうして、私達に付き纏ってくるのかしら?」

 クライは真剣な表情で答えた。

「僕達は三年前。言論の自由を勝ち取るため、不自由を強いる者達へ戦いを挑んだ。その結果は、どうであれ、起こした行動を見て、その者を神格化したり、崇拝するのは自由だ。但し、間違った行いや過剰行動を正しく導くことも、僕達の責任だと思う」

「あなた大総統だったのね……」

「そうかい、認めてくれるのかい。じゃあ今すぐにでも解剖……」

 クライに反応しても調子に乗るから、もう無視。

「私達には、あの戦争を引き起こした責任がある。それでも、戦争の影響を受けた人が、無関係な人に怪我や暴力的な行動をするのは、やっぱり許せない」

 何かを決意した顔で、クライを見つめた。

「頼みがあるの」

「何だい?」

 セーレの紅の瞳が、クライの瞳の奥を真っすぐに見つめた。

「今回の事の発端は、全て私に責任がある。これ以上、無関係な人を巻き込みたくない——だから、あの男をこの街へ置いてやってくれないかしら」

 静かに俯き、少し悲しそうな顔になった。

「いいのかい? 彼の意見を聞かなくても」

「今回の出来事で、わかったでしょう。私といると、不幸になることが、身に染みてわかったと思う」

「――ねぇよ!」

「!?」


 セーレが目覚める十五分前。

 マークは集中治療室の治療カプセルで、回復促進の治療を受けていた。その横で医療チームの説明をクライが聞いていた。すると、治療カプセルの扉が開き、中から青年が飛び出した。

「セーレ、無事か。あのストーカー野郎はどこだ!」

 看護師たちは顔をしかめ、明らかに怒っていた。

「まだ治療中です。すぐ、治療ポットへ戻りなさい」

「ハハハ、もう体の調子は良いみたいだね。医院長の話では、二〜三日経過観察が必要とのことだ」

 そこに現れたクライは、マークを車椅子へ乗せるように、院長と看護師へ指示を出した。そして、セーレの病室隣にある別室で待機していた。何でも、本来は捕(・)虜(・)の(・)観(・)察(・)を目的にした病室らしく、隣の声は丸聞こえだった。

 そして、現在に至る。

「いいのかい? 彼の意見を聞かなくても」

「今回の出来事で、わかったでしょう。私といると……」

「俺がいないところで、勝手に決めてんじゃねぇよ!」

 マークは病室の扉を開け、看護師に車椅子を押してもらいながら中へ入った。

「!?」

「セーレが自由のために戦ったんだ。それなら、俺の人生だって、自由に選ぶ権利がある。君が何と言おうと、絶対に着いていくと決めたんだ」

 力強いマークの意思表示が病室内に響き渡った。

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