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刑徒の恩送り  作者: 鯖欄
第一章

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5話 変わり者

登場人物

元囚人女性、洗脳の使い手 主人公 セーレ

無職の青年 マーク

セーレの仲間、癒しの使い手、老婆 ヘーゼル

セーレの仲間、統率者 アーネス

セーレの仲間、変人開発者 クライ

その他取り巻き

 謎めいた笹人(ささびと)たち。

 マークの質問を無視し、汚いゴザの上で毛布を頭から被り、セーレは就寝。数分後、戦時下の悪夢へと引きずり込まれた。

 えっぐ、えっぐ――白髪少女の泣き声が暗い部屋の中に響く。

「うるさい、セーレ! 寝られないだろうが、私たちは明日も早いんだよ、早く寝ろ」

 怒った筋肉隆々なお婆さん、ヘーゼルが苦言を呈した。

「あなたには人の心はないの? 今日、倒した敵の顔が浮かび上がってくるのよ。寝られるわけないじゃない。頭まで筋肉に侵されてしまったのね」

 戦争の惨(むご)さを知ってしまった。セーレも困り、不満を漏らしていた。

「アーネスの奴、新しい仲間だって連れて来て、年長者って理由だけで、私に面倒ごとを押し付けやがって」

「ちょっと、話聞いてるの!!」

 激しくヘーゼルに詰め寄り抗議した。

「うるさいわ、小娘! あんたも同意してアーネスについて来たんだろう? なら覚悟も決まっているんだろう? 覚悟ができていないなら、今すぐ帰んな! それとあんまり、ピーピー鳴いていると『泣き虫』セーレって呼ぶぞ」

 言い返すため、強い目つきでヘーゼルを見つめた。

「覚悟ならできているわ!」

「なら早く寝な!」

 夜の騒ぎが続いたが、数時間後には皆が寝静まった。そうして朝を迎えた。


 いよいよ、歩兵団体との戦闘が始まった。

「昨日も見たが恐ろしい力だね」

「素晴らしいよ、セーレ。まるで神の裁きだ。名付けるなら、『見えざる断罪者』だ! 良い響きだ。君と巡り会えて良かった。さぁ、言論の自由のため、我等と共に進軍しよう」

 ヘーゼルとアーネスが見つめる先には、敵の返り血を全身に浴びた狂気の少女。血塗れのセーレが一人立ち、涙を流していた。

「はぁ、戦時下の夢か。嫌なこと思い出しちゃった」

 セーレはむくりと起き上がった。

 下に敷いていたゴザと枕代わりのものを掴んだ。とぼとぼ歩き、マークの鞄の中へ押し込んだ。代わりに、タオルと歯ブラシを取り出した。

 歯を磨き、川の水でうがいをした。歯ブラシを石の上に置き、やや雑に衣服を脱ぎ捨てた。全裸となったセーレは、自身の体を清めた。

(うん、やっぱり良い体してんだよな)

 マークは茂みの影に隠れ、覗き見していた。

 囚人だった頃の痩せた姿が嘘のように、健康的な体つきになっていた。

 五分後、水から出て、セーレはタオルで頭と全身を軽く拭いていた。再び、脱ぎ捨てた衣服に着替え終わる。左手の蛇の刺青に触れ、本を召喚。

(祈りの時間か)

 ゆっくりとバレないように、マークは踵を返した。

 十分後、祈りの時間を終えたセーレが戻ってきた。バレないように、マークは寝たふりをしていた。

「あんた、覗きの趣味もあったのね」

 見下す視線を感じる。

「それは、男だからな。つい出来心で……」

「ふふふ、私の裸綺麗だったでしょう?」

 ウブな心で、つい、マークは口走ってしまった。

「素晴らしかったです! もう感謝しかありません!」

「もー、この覗き魔が!」

 セーレは、マークを叩く。その表情はどこか寂しそうに見えた。

 

 やっと、元通り平穏となり二人は再び旅立った。

「さて、横槍は受けたけど、気を取り直して、クライの研究所へ向かうよ。ほら、覗き魔! 先導しなさいよ」

「本当に申し訳御座いませんでした。許してください。セーレさん!」

 セーレは少し口が緩む。罰ゲームを悩みながら、妥協をマークへ提示した。

「どうしようかな、あそこの売店から、アイス買って来てくれるなら、許してあげるかもよ」

「アイスですね、すぐに買ってきます」

 街道沿いの茶屋まで、マークは走り出した。ミルク味のアイスキャンディーを購入した。戻ってくるなり、セーレに献上。アイスの棒を掴み、セーレはムシャムシャと勢いよく、完食した。

「あぁ、もっと味わって食べないのかよ」

「食べ方は、私の勝手でしょう。それに、早く食べなきゃ、溶けちゃうじゃない。ほら、食べ終わったから、さっさと先導!」

 マークを前に押しやり、歩き出した。道案内役は迷いなく、的確に指示をする。道へのセーレのクレームを無視し、喧嘩になる。反論し文句を言い合った。

 そうして、半日経つと大きな構造物が見えて来た。

 

「随分大きな街ね」

「おぉ、こんな街、初めて見た」

 セーレとマークが崖の上から見た景色は、機械と重機が動く要塞都市だった。その都市は、大きな壁がドーム状の形で守りを固めていた。

「この街のどこかに、変人クライがいるのね。はぁー、もう帰りたいわ」

「ここまで来て、何言ってんだよ。早く、行こう」

 嫌がるセーレの背中を押しながら、ドーム状の入口まで到着した。あまりの迫力にマークは圧倒させられた。

「何これ、デカ過ぎるんだけど。はぁー、帰りましょう」セーレは不満を漏らした。

「もう諦めろよ」観念しろ、とマークは念押しした。

 パタパタ何か動物らしきものが、セーレとマークに近づく。観察すると、動物ではない。コウモリ型の機械だった。先端にはカメラがあり、内蔵されたスピーカーから声が流れた。

「ザー、ザー、聞こえるかね?」

「はい、聞こえています」マークが返事した。

「あなた方が何者か調べる。その場で待機してくれ」

 機械の目から黄色い光が、セーレとマークの全身をスキャンした。

 機械の監視モニター担当二人が、訪問者の分析を進めていた。奥には、退屈そうにモニターを見て、一人椅子に座る女性。

「何者でしょうか?」モニター監視の若い男性が指令の見解を聞いた。

「男の方は無害そうだが、女の方は……何だこのオーラ力は!? とても人間とは思えん」

「セーレ? ふふふ、いいよ。彼等を通してあげてよ。僕が許可する」彼らの問いを無視、奥の女性が即決した。

「大総統様。本気なのですか? こんな得体の知れない連中を中に入れるなんて」

「あぁ、それと彼女達を僕の研究室へ案内して。以上。忙しくなるぞ」

 大総統と呼ばれた女性は鼻歌交じりに部屋を出て行った。

「どうしましょうか?」

「大総統様のことだ、何か考えがあるのだろう。よし、通行を許可しよう」

 モニター担当の若い男性が解錠ボタンを押した。

 閉ざされた門は、ゆっくりと開き始めた。その光景に、二人は驚きの表情を浮かべた。またコウモリ型のスピーカーから声が流れる。

「ザー、ザー、通行は許可された。旅人よ、このままコウモリナビの後に続いてください」

 二人は共に新たな街へ踏み出した。


 門の中へ通された。ゴミ一つ落ちていない、砂漠に築かれた美しい都市だった。市民の顔もイキイキしている。

「驚いたな。さすが、巨大な要塞都市だ」物珍しそうなマークの興味は尽きなかった。

「ザー、ザー、ようこそ最牡(さいおす)へ」

「へぇ、凄いじゃない。この街のどこかに、クライがいるのね。帰りましょう」

 セーレは帰ろうとするが、マークが睨む。

「ザー、ザー、それでは、このコウモリへ付いてきてください。以上で通信を終わります」

 羽を使い飛ぶアルミの塊は、二人を先導した。一定間隔の距離を保ちながら、道案内を進めていく。工場、住居、展望台、商業施設。一つの自治区として完成した街だった。

「すごいわね」どこか、冷めた目のセーレは欠伸を噛み殺した。

 二人はコウモリ型機械の後を追っていく。

 終着点は、白い施設のようだ。コウモリ型の機械は木に止まり、じっと動かなくなった。どうやらここが案内したい場所らしい。

「それにしても、この施設、白いわね」と無関心なセーレ。

「目が痛い」とマークは手で顔を少し覆った。

 すると、施設の扉が開いた。

「ようこそ」

 開けた先で出迎えたのは、ロビーにいた受付の女性であった。彼女は、椅子に座って待つように伝える。二人は椅子に座り呼ばれるまで待機していた。ふかふかの椅子で、座り心地も快適だ。

 三分後、女性から呼び出しを受けて、エレベーターに通された。ボタンを押し、受付女性とマークは軽く談笑していた。

 四階に着くと、八メートルほど続く通路に扉が、一つしかなかった。

「そちらの扉に入ってください」と言われ、セーレとマークだけエレベーターを降りた。

(この先に、変人がいる)今にも帰りたい気持ちを抑えたセーレは、眠い目を擦った。

 エレベーターが閉まるまで、受付の女性は深々とお辞儀をしていた。

(開けるしかないわね)

 セーレは通路奥の扉を開けると、子供のような容姿の女性が椅子に腰掛けていた。

「やぁ、セーレ。久しぶりだね。僕だよクライだ」

「久しぶりね、クライ」

「うん、その男は何だい? セーレの性奴隷かい?」

「違うわよ」

 青年が挨拶のため、前に出た。

「初めまして、クライさん。私はマークと言います」

「マーク、矢印か? 何か君とは運命的な出会いを感じるね」

「運命ですか?」

「うん、ぜひ今すぐ君を解剖させてほしいな」

 驚きすぎて、マークはその場に凍りついてしまった。固まった男を無視し、二人は話を続けた。

「さぁ、解剖話は置いておいてくれるかしら」

「――ということは、やっと解剖される気になったんだね?」

「違うわよ。今の流れで、どうしたら、そんな話になるのよ!」

 会話が噛み合わず、セーレは苛立った様子で頭を掻いた。

「クライ、お願いがあるの」

「お願いとは、何だい?」

 セーレは髪を軽く触り、切り出した。

「私の神器を探したいの。何か探し出せる探査機みたいなの、作ってほしいの」

「そんなのは一日もあれば、簡単だ」

「そう、それなら……」

「但し、僕のお願いも聞いてくれるかい?」

 クライは椅子から立ち上がり、モニターとキーボードのある部屋へ移動した。我に返ったマークもその後に続いた。

「お願いって、何よ」

「まずは、これを見てほしい」

 モニターに映し出されたのは、巨大な砂クジラだった。

「これ、砂クジラかしら? このクジラをどうするの?」

 セーレからの質問にクライはキーボードを叩きながら、クジラの頭部付近を拡大していく。画面をよく見ると、頭部に鋏(はさみ)が突き刺さっていた。

「これって、あなたの神器じゃない?」

「そうだよ、僕の神器だ」

「どうしてクジラの頭に刺さっているの?」

「それはね、一ヶ月前。休暇時に崖の上で、日光浴を楽しんでいたんだ。カゴに入った果物を食べたくなり、切ろうとしたんだが、近くにナイフがなくてね。そしたら、目の前に神器の鋏があったから、それを使ったら、崖の下へ落としてしまってね。奇跡的な偶然で、砂クジラに突き刺さってしまったということだよ」

 セーレは状況が飲み込めなかった。

「そんなくだらない理由で神器を落としたの?」

「くだらないとは何だ。神器であろうと鋏の形をしているんだ。本来の使い方をした結果、落としてしまったのだよ」

 セーレは、クライのお(・)粗(・)末(・)な(・)行(・)動(・)に頭を抱えたが、「これも私の神器のため」と話を聞いた。

「つまり、これを回収してほしいんだ。見ての通り、僕は大総統になってしまい、多忙でね」

「わかったわ。その代わり約束は、きっちり守ってもらうからね」

「僕の腕を疑うのかい? 開発に関してはいまだ僕の右に出る者はいないんだよ」

 疑う余地はないが、セーレはどこか信用しきれない表情を浮かべた。

「そうね、宜しく頼むわ。変人開発者クライ」

「よろしくね、セーレ」

 帰り際、自動扉の上に「セーレ解剖したい」と垂れ幕があったが、セーレは反応するのも面倒で無視した。

 セーレとマークは、またエレベーターに乗り込み、一階を目指した。エレベーターの中で会話をする。

「さぁ、砂クジラを止めるわよ」

「止めるって、砂クジラのいる場所はわかるのか?」

「これよ」

 彼女が持っていたのは、小型の画面が付いた装置。液晶に映し出される方位が表示されていた。

「これは?」マークがいった。

「クライから渡された追跡装置よ」

「そんなのいつの間に……」

「あんたが凍っている間によ」

「あ、そうか」


 二人は、正面入り口まで着くと、作業服を着たおじさんに呼び止められた。

「あんさんが、セーレさん?」

「はい、私がセーレよ」

「そうか。大総統に頼まれた品だ。使ってくれ」

 持って来たのは、サイドカー付きバイクだった。

「すげぇ」マークの子供心に火がついたのか、ベタベタ触った。

「こいつは太陽光で走る代物だ。集光機構と走行原理は大総統が作ったが、外観はワシが作った。砂クジラ探しにぜひ使ってみてくれ」

 マークが夢中になっているので、セーレとおじさんで話を進める。

「ありがとう」

「おぅよ」

「あれ、運転、どうするの?」

「ワシがレクチャーしてやる」おじさんはマークの腕を掴んだ。

 レクチャーを受ける姿を見て、セーレはぼんやりとバイクを眺めていた。

あなたの評価を星で欲しいけれども、それは読者が決めること。支えてくださり、応援よろしくお願いします。

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