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刑徒の恩送り  作者: 鯖欄
第一章

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4話 祈りを送る

登場人物

元囚人女性、洗脳の使い手 主人公 セーレ

無職の青年 マーク

セーレの仲間、癒しの使い手、老婆 ヘーゼル

ヘーゼルの孫 ミーア

謎の暗殺者 七三おじさん、その手下たち

「忘れ物もなし」とセーレは手を上に伸びした。

「アンタの顔はもう二度と見たくないね。さっさと出て行ってくれ」

 ヘーゼルは手をぷらぷらとさせる。セーレの顔を見ずに、横目で視認する。

「何とかこっちを向けさせてやる」とセーレは優しく諭した。

「一緒に戦えないのは残念だけど、それがあなたの選択なら私は、その意見を尊重します」

「何だい、柄にもない言葉なんて使ってよ」

「うふふ、どう? 知的に見えた。じゃあね、ヘーゼル。体には気をつけてね」

「お前も気をつけることだね」

 ヘーゼルの右足にしがみついた可愛らしい少女が手を振った。

「じゃあね、黒髪の綺麗なお姉ちゃん」

「ありがとう、ミーアちゃん。さようなら」

 二人とお別れしトコトコ歩き、セーレはさらなる決意を固めた。

 私(・)の(・)旅(・)が始まる。ここが最初の一歩。まだ見ぬ戦いと出会いが私を待っている――「って言わせねぇよ」とマークが口を挟んだ。

「ちょっと待った。歩くの早いよ。待ってよ、セーレ。やっと、ヘーゼルさんからの治療終わったのに、何で、先に行っちゃうんだ」

「どちら様?」

「名前覚えてよ、マークだよ」

「もー、しつこいわよ! いつまで着いてくるつもりなの?」

「それは、しばらく君と旅を共にしたいんだって……あれ、いない。追い返されても、俺はついていくからな」

 マークは、セーレの後に続くように、追走する。


「ふぅ、しつこいわね。もー、いいわ。勝手にしなさい」

「そうか。宜しくな、セーレ」

 ふいに、マークは右手を前に出す。

「その手は何?」

「何って、握手だけど」

「ヘーゼルの家まで、連れて行って、もらったことは感謝するわ。けど、そこまで、あなたと馴れ合うつもりはないのだけど」

 マークは、納得した様子でポケットから地図を出し広げた。

「次の目的地は、ここの赤印」

「そうね……ちょっと待って。まだいたのね。そこの草むらで様子を見ている一人、出てきなさい」

 観念したのか、黒衣の男が現れた。

「あなた、暑そうな格好ね。その服、暑くないの?」

「お前が見えざる断罪者セーレだな?」

 セーレは知らん顔をして返事をしなかった。

「おい、何とか言ったらどうなんだ?」

「人違いじゃないかしら、私は黒髪で黒目です。何かの間違いではありませんか」

「嘘をつくな、私は見たんだ。あの筋肉婆さんとお前が一緒にいて、その時は銀髪と赤い瞳だった」

「何だよ、バレてたのか」とセーレは目を閉じる。

「見られていたか…なら手加減なしね。もう怪我も治ったし私の力も全開よ」

 セーレはマフラーを取り、白髪から銀髪へと変わる。それと同時に、黒い瞳が深紅へ染まった。

「残念だけど、あなたの記憶は消させてもらうわ。まずは動きを止めよ。Freeze!」

「ぐっ……何だ、この力は。まったく動けない。先輩方はあんなに動けていたのに」

 拘束完了。セーレの能力も回復してバッチリだ。

「さぁ、終わりよ。あなたの記憶を消させてもらうわ。邪念を払え。Memory erasure!」

「ぐっ……そんな……」

「そう、昨日死んだのは、イールとエイトっていう名前なの。名前がわかって良かったわ。ありがとう」

 黒衣装の男は、その場に倒れ込んだ。セーレは、銀髪から白髪に戻った。

 セーレは男の衣装を脱がして、「木の影まで運べ!」とマークへ指示を出した。それに従って、指定の場所まで運ぶ。男の顔を見ると、まだ若く、マークと同年代に見えた。

「コイツも今日から無職か、俺と一緒だな」

「ちょっと、ふざけてないで、木の影に置いたら、さっさと、この場所から移動するわよ」

 元いた場所から五百メートルくらい離れた場所で、二人は立ち止まった。

「ちょっと作業するから、周囲を見張ってて」

「わかったよ」

 セーレは、左手の蛇の刺青に触れる。一冊の本が現れた。それを開き、備え付けの"インクペン"で名前を書いた。

「イール、エイト。あなた達の死は、無駄ではありません。私も祈ります。どうか安らかなるときをお過ごしください」

 本を地面に置き、セーレは目を閉じて合掌した。五分ほど同じ姿勢を保ち、祈りが終わると開いていた本を閉じ、再び左手を押し当てた。瞬く間に、本はその場から消失した。

「セーレはいつも祈っているのか?」

「見ていたのね」

「あぁ、ちょっと気になってな」

 祈りが様になっている。その姿が気になり、マークは質問したようだ。

「いつもではないわ。名前がわかったときだけ、祈るように決めているの」

「なぜ、祈るんだ? 君は言論の自由を勝ち取るため、多くの死と向き合ってきたはずだ。悪人に狙われるのは慣れていると思うし、はっきり言って全部祈っていたら疲れないか」

 可愛らしい微笑みで、セーレは返答した。

「ふふふ」

「え……可笑しなことを言ったか……」

「いえ、あなたの言っていることは正論よ。でもね。私はあなたが思っている程、強い人間じゃないってこと」

 マークには理解できなかった。三年間も牢にいたセーレのどこが弱いというのか。

「それって……つまり……」

「えぇ、話は終わりってこと。さぁ、次の目的であるクライの研究所まで向かいましょう」

 セーレは立ち上がる。吹っ切れた顔で、迷いなく、真っ直ぐ歩き出した。

「道、間違えてるよ」

「もん、たまたまよ。指摘するなら、あなたが先導しなさいよ」

「はいよ、先導しますよ」

 マークは、彼女の前に立ち、地図を広げて歩き出した。

「そういえば、ヘーゼルさんの家は、どうして迷いなく行けたんだ?」

「それは、彼女特有のオーラを追っただけ」

「オーラ?」

「そう。あの家、霧を生成していたわよね。あれが、私達だけが見ることができるオーラなの」

「ヘーゼルさんは最初から仲間を治療するつもりで……」

「そうよ、聞かん坊なのよ。あの魔女は……さて、話は終わり。無駄話してる時間はないわ。先を急ぎましょう」

 見通しの良い草原を二人は歩き出し、目的地を目指した。

 

 セーレと旅をして、一週間。

 彼女のことが少しだけわかってきました。このマーク日記は、バレると燃やされそうなので、こっそり書いています。ここでは、彼女の『特徴』を紹介します。

 その一、道に迷うことが多い。

 方向音痴の度合いがヤバい。昨日なんて、「あっちよ」って、指差した先が崖だった、なんて普通にある――「俺がいなかったら、どうしていたんだか」

 その二、名前を覚えてくれない。

 出会って、一週間と少し。未だ名前でなく「こいつとかあんた」と呼ばれる。これも呪いの制約なのか――「怪しい。もしや、おバカさんかも」

 その三、食べ物や着る服に無頓着。

 女性らしい振る舞いや所作が皆無。当人も「気にするそぶり」を見せない。美人でも許されないこともある――「髪の色が変わると、性格も変わってよ」

 その四、彼女の能力は、精神に干渉を及ぼすもの。

 これは推測だが洗脳の類かもしれない。相手を意のままに操る、みたいだ――「ちなみに、手を前に出すあれ、英語の言葉は、ただのフリらしい」

 その五、彼女の力の源流は、月と大きな関係がある。

 月の光を受けて力を蓄積しているようだ。溜め込んだものを小出しで使い、ストレスも解消――「充電器を備えた狼女かよ」

 その六、彼女は何か優しい感じがする。

 よくわからないんだ。死者を蔑(ないがし)ろにしない。恐らく"根は素直"で、祈る姿や操った者への敬意を感じる――「そんなに強い女性ではないんだと思う」

 独り言のマークに対し、セーレが不機嫌そうな顔で現れた。

「ちょっと、あんた。いつまで起きてんの」

「何だ起きてたのか」

「ん……何それ……」

 セーレは薄暗い中、文章を読もうと目を凝らした

「あ、これ……えっと……そう献立表を書いていたんだよ。料理もバリエーションが多い方がいいと思って」

 マークの左手は日記を包み隠した。

「そう、明日も早いんだから、早く寝るのよ」

 マークは日記を鞄の中に入れた。この鞄は、旅の途中で皿洗いや宅配の日雇いをして購入したものだ。

(何やってんだろう……)

 後先考えず、セーレの旅に同行してしまった。彼女は元囚人。金銭的余裕もあるはずもない。街に着けば日雇いをし、野宿が当たり前だ。

(広い部屋や、虫が少ない場所で寝泊まりしたい。今戻れば、いや、あの町はもう捨てた町だ)

 マークは自身に言い聞かせるように眠りについた。


「ハハハ……」

「こんな、満月の日に来るなんて、ずいぶん運の悪い人達ね」

 笑い声が聞こえる。

 何やら訪問者と歪(いが)み合う綺麗な女性がいた。夢と現実の区別もつかないまま、マークは体を起こした。

「何だ、もう朝か? こいつ等、何なんだよ!」

 マークは飛び起きた。黒衣の集団が、二人を取り囲んでいた。

「さぁ、お迎いに上がりましたよ。我が洗脳の女王セーレ様」

 白髪頭の七三が目立つおじさんが、セーレに喋りかけていた。蛇みたいな目付きで、細い眼光が獲物を見定めた。

「誰なのよ? 私は、あなた達のことなんか、知らないのだけど」

「そうですね。偉大なる力を持つ貴方様が、下々の信者を知るはずも御座いませんでした。我らは、セーレ様を崇拝する見(・)え(・)ざ(・)る(・)優(・)勢(・)思(・)考(・)の者です」

 考え込んで、セーレは思い出した。

「優勢思考? まさか……あなた達は笹人(ささびと)か。なら手加減は一切できないわね」

 セーレは白髪から銀髪になり、臨戦体制を取った。

「冷静になって下さい。我等の四人の使徒がお気に召さなかったのですか? 全く、苦しまずに首だけ拝受しろ、と伝えたのに。信仰を理解していなかったのですね」

「そう。彼等はあなたの差金だったのね。戦時中にも、私達をつけ回していたけど、狂った殺人集団になっていたとはね」

 紅い瞳に軽蔑の色で、セーレの顔も険しくなった。命を軽視する発言に我慢ならなかった。

「これも我が洗脳の女王セーレ様の導きなのです。私達には、いつも貴方様の願いが、聞こえているのです」

「何だ、こいつ? 私の声って、意味わかんない」

 セーレは、気味が悪い気持ちになった。

「貴方様の願いは、首だけになって、我らと共に祈り続けること」

「そんなこと望んでないわ」

「さぁ、その体を捨て、我らと共に参りましょう。貴方様の願いを成就するために」

 セーレは手を前に翳(かざ)した。

「だから、そんなこと望んだこともないわ! 動きを止めよ。Freeze!」

 七三おじさんの髪が揺らめき、体の自由が奪われた。

「おぉ、素晴らしい拘束力。口以外、全く動かせないとは、さすがは、我が洗脳の女王セーレ様――しかし、なぜ、貴方様は口と呼吸を拘束しないのですか? この技は本来、呼吸も止めて窒息させた方が良いと進言いたします」

 不愉快な指摘だ、とセーレは口を閉ざす洗脳を試みた。

「ペラペラとよく喋る口ね。あなたの記憶を読んであげるから、覚悟しなさい! えっ、記憶が読めない?」

「記憶、読めませんねぇ。我等には加護があります。さぁ我等と共に参りましょう」

 七三おじさんは、謎めいた力でセーレの拘束を解いた。

「そんな。月が出てる時のセーレの力を解くなんて」

 マークが心配そうな顔をするも、七三おじさんは狂気な歓迎で迎えた。

「さぁ、偉大なる洗脳の女王セーレ様よ。我が信者達に導きの力をお与えください」

「与えてあげるわ」

 セーレは天に向かい、拳を突き立てた。

「今何と仰いましたか」

「だから、あなた達に神罰を与えてあげる! 弾け飛べ! Punishment of sin」

 信者の体が膨れ上がる。全身が風船のように破裂。また一人、続くように爆散していく。

「終わりよ」セーレが七三おじさんを睨みら残った笹人は五人になっていた。

「言ったでしょう? 一切手加減しないって。どうするの? まだやるの?」

「素晴らしいです。この力こそ、我等を導く希望の力。逝った彼等の魂も貴方様の心に残り、大変満足しているでしょう」

 七三男は気味が悪い笑みで、喜びを伝えた。

 セーレの銀髪の毛先が震え上がった。

「まだやるって、言うなら……」

「いえ、今宵は貴方様をお迎えするには、我等も力不足と知りました。ここは、一旦引かせていただきます」

 信者たちは足早に、背中を向けた。そして、七三男は捨て台詞を吐いた。

「あぁ、我等一同、また貴方様の顔が見られて、幸せで御座います」

 その言葉を最後に、笹人達は夜の闇へ消えていった。

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