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刑徒の恩送り  作者: 鯖欄
第二章

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十三話 旅路

登場人物

元囚人女性、洗脳の使い手 主人公 セーレ

セーレの仲間 マーク、ビィシャア

他

 ビィシャアは出発前に母親と抱き合い、別れの挨拶を交わした。母親の「頑張ってね」という言葉を胸に刻み、彼女の気持ちは、いっそう強くなった。

 いよいよ、王城へ向かう。マークは地図を広げ、道筋を示してバイクに跨った。セーレはサイドカーに乗り込み、ビィシャアは鉱石で精製した馬に乗り、王城を目指す。

「さぁ、行きましょう」

 セーレの号令で、譚蔴(たんま)を出発。

 一行は砂漠の道を進み始めた。

 道路には砂が堆積し、舗装も見えないほどだった。マークはバイクの転倒に気をつけながら、慎重にバイクを走らせる一方で、ビィシャアは馬で先導した。

「ここから王城まで、三日くらいかかるな」

「へぇ……」

 マークはバイクを止め、サイドカーに乗るセーレに話しかけた。彼女は何やら難しそうな顔をして、膝の上に広げた地図とにらめっこしている。

「地図、読めないのかよ」

「うるさいわね。こんなもの読めなくたって、誰かが先導してくれたら問題ないわよ」

「それじゃ、地図を持っている意味がないだろ」

「持っているだけで安心するものなのよ」

 セーレは何食わぬ顔で地図を畳んだ。

 マークは、ふと疑問がよぎった。

「セーレは、よく道を間違えるが、戦時下はどうしていたんだ?」

「それはヘーゼルについて行くか、アーネスに指示された場所へ突撃するか、たまにある奇跡の三択ね」

「三択の最後が奇跡って、どういうことだよ……」

「目的地に偶然たどり着いたことが何度かあったのよ」

「それは奇跡じゃなくて、運任せだろ」

 マークは呆れたように笑った。

 すると、隣で話を聞いていたビィシャアが興味深そうに口を挟んだ。

「そんなに方向音痴なの?」

「失礼ね。目的地くらい覚えているわよ」

「じゃあ、さっきの分かれ道はどっちに進めばよかったの?」

「……右よ」

「左だったけど?」

「そ、それは道の形が紛らわしかったからよ」

 セーレは少しだけ視線を逸らした。

 マークは思い出したように笑い声を漏らす。

「そういえば、以前も似たようなことがあったな。森の中で目的地とは反対方向に進んで、三時間も歩き回ったことがあっただろ」

「あれは森の木々が似たような形をしていたからよ」

「いや、途中で同じ岩を三回も見つけたぞ」

「……岩が移動した可能性もあるわ」

「あるわけないだろ!」

 ビィシャアはとうとう吹き出した。

「ふふっ、洗脳の女王って呼ばれている人とは思えないわね」

「方向感覚と洗脳能力は関係ないでしょう!」

 セーレは頬を膨らませ、二人を睨んだ。

 しかし、マークは笑いを堪えきれない様子だった。

「まあ、戦争中は道を間違えても、誰かが迎えに来てくれたんだろうな」

「……そうね」

 セーレの表情が、ほんの一瞬だけ柔らかくなった。

 かつては、ヘーゼルやアーネスが先を歩き、セーレはその背中を追いかけていた。迷子になれば探しに来てくれる人がいて、帰る場所もあった。

 今となっては、それも遠い記憶の一つだった。

「それにしても暑いわね」

「あぁ、暑いな。喉がカラカラだよ」

「はい、これ」

 セーレがマークに手渡したのは、ペットボトルだった。中身は水である。

 マークは意外そうに受け取ると、キャップを開けて喉を潤した。

「ありがとな」

「どういたしまして」

「私にもありますか?」

 ビィシャアが尋ねると、セーレはもう一本のペットボトルを取り出して差し出した。

「もちろんよ。あなたの分もあるわ」

「ありがとう!」

 どうやら、方向音痴でも気配りは忘れないらしい。

 マークは水を飲み終えると、地図をタンクバッグにしまい込んだ。

「よし、日が暮れる前にもう少し進むぞ。今度は俺についてこいよ」

「はい、はい。そうね」

「本当に頼むよ。途中で勝手に別の道へ指示するなよ」

「子供じゃないんだから!」

 そんなやり取りを交わしながら、三人は再び旅路についた。

 セーレたち一行は、朝から夕方まで移動し、夜は野宿を繰り返した。

 もっとも、道案内をマークに任せたからといって、旅が順調に進むとは限らなかった。

 翌日、休憩のために立ち寄った村で、セーレが一人で水を買いに出かけたところ、戻ってきたのは一時間後だった。

「遅かったな。どこまで買いに行っていたんだ?」

「それが、店を出たら道がわからなくなってしまって……」

「ここ、一本道だぞ?」

「……そういう日もあるのよ」

 マークは頭を抱え、ビィシャアは腹を抱えて笑った。

 洗脳の女王と恐れられた女性の旅は、どうやら前途多難のようだった。

 

 そうして、三日目の朝を迎えた頃。

 砂漠地帯を抜け、緑の草花が生い茂る道を走行していた。何やら前方に人の集団を発見した。

「そこのもの、止まれ!」

 全身鎧に身を固めた騎士が、セーレたち一行に停止を促した。マークはバイクを止め、ビィシャアも馬を止めた。セーレが口火を切った。

「誰よ、あんたたちは?」

「我らは、王城よりこの場所の警護を任せられた、王(・)の(・)盾(・)である」

 彼等の話を要約する。

 王城では罪人の処刑に伴い、残党が暴れている。残党の侵入を防ぐため、入り口の桟橋前で検問を敷き、疑わしい者を捕縛しているとのこと。

「疑わしい人たちへの検問なのね」

 まさに今、侵入者として「疑惑の目を向けられている」訳だ。

(あれ、もしかして……私たちって疑われてる?)

 検問を守る騎士団の人数は二十名。

 彼らは、ぐるりと囲み、怪しい点がないか観察した。

 セーレの髪は、クライのペンダントの効果で銀髪から黒髪、瞳の色も赤から黒と迷彩処理は完璧だ。

「隊長。怪しいものは、出てきませんでした」

 騎士団の下っ端らしき人物が上官へ報告する。

「うむ。そうか、怪しいものは、なしか……」

 騎士団の上官は、セーレたちへ近づく。

 三人を順番に見回した。

 マークには「そのトンファーは何に使うのか」とかビィシャアのウエストポーチに入った「大量の石は何だ」と問い詰めて回った。しかし、マークとビィシャアは旅には「危険は付きものだと、防衛策である」と弁解した。

 騎士団の上官も面白くない顔をして、二人のチェックを終えて、セーレの所で足が止まった。

「おぉ――素晴らしい。お嬢さん、美人だね」

「あら、ありがとう」

 騎士団長は気分を良くしたのか、気分も上々。下卑た顔で体付きにも視線を送る。

「君みたいな美人を見ると、私も優しくなっちゃうんだよ。それに私は騎士団長を任せられた男だ」

「そうなの。騎士団長ってことは、よっぽど戦果をあげたのね」

「そのとおりだよ。よくぞ聞いてくれた」

 待ってましたと語り出した。

(しまった。長くなるやつだ、これ……)

「私は、あの言論の大戦の参加者でね……」

 セーレに対し、武勇伝語りが始まった。四十代と思われる騎士団長の男は、自慢や賛美を受けた経歴など自身の話を語ってみせた。当然、彼女もそんな話には興味もなく(早く終わらないかしら……)と聞いたフリをしていた。

「――であってね……。最後に見えざる断罪者、セーレについてだ」

 自身の話になり、少し緊張した面持ちになった。

「私はセーレには会ったことはないが、ある知り合いの戦闘員の話だと、美しい女性でありながら戦闘狂だったらしい。そのため、王城の一部の者が彼女を神格化したり、奇跡の子だのよく騒ぎを起こす輩もいた。おまけに裁判所連中は、セーレを様付けに呼び、それで罪状をつける程だ……おっと喋り過ぎたな……」

 話が終わったと思った矢先、騎士団長に左腕を掴まれた。

「お前さん、もう少し私の話を聞いてくれよ。そうだ、そこのテントで詳しく話をするから、一緒に来てもらおう」

「おい、おっさん!」

 マークは騎士団長の手を払おうと前に乗り出したが、セーレはその手を制止した。

「大丈夫よ。ちょっと話を聞くだけだから」

 妙に笑顔なのが気になるが、マークとビィシャアが見守る中、セーレは騎士団長に連れられて、白いテントの中へ入っていた。

 テントの中は思ったより広く、休憩スペース、作戦指揮を取る椅子や机が並べられていた。

「いやいや、今日の私はついているな」

「どうしたの、話は?」

「そんなこと、どうでもよいではないか」

 騎士団長は、セーレを休憩室のベッドへ押し倒し、いやらしい目つきで全身を隈なく観察した。

「たまらんな。今から私の特権で、お前のボディチェックを開始する」

「えっ、そんなこと……」

「いいのか、お前が従わなければ、あの者たちの安全は保証できないぞ」

 セーレは怯えたふりをした。

「本当に?」

「あぁ、約束する」

 騎士団長の右手がセーレの右胸に近づく。

 ぷるぷると手を震わせていた。

 セーレの吐息が耳元で聞こえ、相手を誘っているかのような振舞いで、騎士団長は喉を鳴らした――急に騎士団長の手が止まる。

 セーレの顔を見ると、髪は黒から銀、瞳は黒から赤へ変化していた。

「何だこいつは、どうなっている?」

 特権で従わせようとする者には、相応の報いが待っている。

「さぁ、あなたも今こそ自由を。Follow me, pig!」

「この力は何だ。いやそれよりも銀髪、赤い瞳!? まさかお前は、見えざる断罪者セーレだったのか。うっ……」

 五分後、騎士団長だけがテントから姿を現した。

 騎士団員へ対応指示を伝えた。

「この者たちを通せ、唯の旅人だった」

 騎士団員たちは、隊長の突然の態度の変化に戸惑っていた。先ほどまで通行を拒んでいたはずなのに、まるで何事もなかったかのように許可を出したからだ。

「よろしいのですか、隊長?」

「あぁ、許可する。彼らはただの旅人だ。これ以上、詮索する必要はない」

 騎士団長は感情のこもらない声で答えた。先ほどまでの威圧的な態度は消え、まるで命令を待つ人形のようだった。

 騎士団員は納得できない様子だったが、隊長の判断に逆らうわけにもいかず、渋々道を開けた。

 その様子をテントの陰から覗いていたセーレは、騎士団長の姿を確認すると、小さく舌を出した。

 どうやら、今回も特権を振りかざした相手に相応の報いを与えたらしい。

「ふふっ、これで通れるわね」

 セーレは何事もなかったように二人のもとへ戻ると、満足げに微笑んだ。

 マークは呆れたように肩をすくめ、ビィシャアは苦笑いを浮かべる。

 こうして一行は、騎士団の検問を無事に通過した。

あなたの評価を星で欲しいけれども、それは読者が決めること。支えてくださり、応援よろしくお願いします。

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