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パンツ一丁で異世界移転から始まる帝国戦記  作者: しろぐ
マインブルク駐屯地編
12/16

第11話 僕はどうすれば……

ギューテが指を指した場所はとある中庭の真ん中に大きな木が一本生えており、その根本にベンチが置いてあった。


そして俺とギューテは少し距離を空けて座った。

「綺麗だな、風も気持ちいい」

そう言うとギューテは嬉しそうにしていた。

「ここは僕のお気に入りの場所なんだ」

「ここの駐屯地は広いから他にも同じ場所はあるけど、でも何故かここが一番のお気に入りなんだ」


ニコニコと笑うギューテの笑顔に俺は咄嗟(とっさ)に可愛いという言葉が出てしまった。

「えっ?いま可愛いって……?」

「そ、そういえばなんでここに呼んだんだ?話って何だ?」

俺はバレないように咄嗟に話題を変えた。

ギューテは少し俺を見つめていたが、少し間を開けた後に話を始めた。


「僕がエルフな事はもう知ってるよね……」

ギューテは少し俯いていた。


「ああ……エトムントから聞いたさ、昔の事も」

「やっぱり聞いてたんだ……」

ギューテは深呼吸し、何か決心したかのように訴えかけるかのように話し始めた。


「実はお父さんにも教えてない過去があってね」

俺は固唾を飲み込んだ。


「……保護される間では色々な人に暴力を振るわれてたんだ」

その言葉に偽善なのか、良心でなのか、わからなかったがどうにか声を出そうとしたが何も出なかった。


「ふふっ……分かるよ。いきなり暗い話を始めちゃったんだ」

「でもね、僕がなんで君と距離を置いてるのか、しっかりと教えないと行けないと思って」

ギューテは俺に気遣って明るく話そうとしているのが分かっているが、貧乏揺すりをするぐらい緊張していた。


「あのね、この国は昔人間以外の種族は全員差別されてたの」

「……もちろんエルフ族の僕も」


「いまのお父さんと会う前は何とか明日を生きるために精一杯頑張った」

「盗みもしたし、自分の身体を売るような……想像に任せるけどね」

ギューテは自分の身体を抱きしめ、小刻みに震えだした。


「いまでも思い出すんだ、なんで僕たちはこんな思いをしなければならないんだって」

「共に生きるために戦ってきた友達も、お兄ちゃんも……」

「何もかも全員が……全員が……私の眼の前から消えていったんだ」

風が不気味に吹く。

普段なら気にしない風でも何処かギューテを苦しませるような、棘を運びギューテを刺しているかのような、そんな風だった。


「皆僕の体が弱いからってゴミを漁って作った家で待ってろって」

「いまでも思う、ゴミの家……いや家じゃなくて雨宿りができる場所かな?」

ギューテは少し鼻で笑った。

「でも幸せな空間だった」

「そして夜になる前にご飯やぬいぐるみを取ってきてくれた」


「幸せだった、これ以上に無い幸せ」

「神様、どうかこの幸せがずっと続きますようにって祈ったの」

「……でもその幸せは何処かへ消えてしまった」

ギューテの頬からきらめく一つの雫がおちた。


「ある日お兄ちゃんが友達の話で大量の破棄されたパンがあることを聞いて取りに行ったんだ」

「僕も一緒に行きたいって言ったけどその時僕は風邪で動けなかった」


「そして僕はずっと待った。来る日も来る日も、ずーっとずーっと待った」

「……でも結局3日以上経っても帰ってこなかった」


俺はここで初めてギューテに質問した。

「お兄さん達はどうしたんだ……?」


するとギューテはこちらを向いて目が真っ赤になりながら答えた。

「全員死んだ!ぜーんいん!何もかも死んだ!」

ギューテは息を荒げた。

震える指が俺の軍服を掴む。

俺に何かを訴えかけるように話した。


「僕は探したんだ!色んなところに!」

「時には蹴られ、時には追い出され」


「そしてたどり着いたのは一つの大きな木だった」

「ここの木と同じぐらいの大きさだった」

ギューテは深く息を吸った。

涙を流しながら、嗚咽と息が混ざり、それでも俺に伝えようと。



「……そこで首にロープを括られて首吊りしてたんだ」

「それにゴミクズって書かれてたよ!」

「それはそれはバカでも読めるぐらいの大きな文字でね!」

そしてギューテの全身の力がみるみると無くなっていった。


「……木の根に一つのパンが落ちてたんだ」

「それはお兄ちゃんが消える前に言っていた廃棄されるパン」


「最後まで僕の為を思って……」

「僕はそのパンを食べたさ……おかしいよね、目の前で大切な家族が死んでるのに」


「でもなぜかそのパンを無言で、夢中で食べ続けた」

「そして僕はふらふらと街へ帰っていって道に倒れた」


「大切な家族が消えて僕に残されたのはこの体」

「僕は絶望してずーっと、ずーっと!死にたいと思ってた」

「あれ以来何も口にしなかった。つばを吐きかけられても何も感じなかった」


「そんなある日お父さんに出会った」

ギューテの声が少しやさしくなった。


「何人かの部下とお父さんが僕を心配してくれた」

「この優しさは何なんだろうって」

「でももう優しさに触れたくない、幸せを祈りたくないって思った」


「……でも現実は残酷だった」

「お父さんは僕を引き取って沢山の愛情を注いで、ここまで育ててくれた」

「だから恩返しをしたくて軍人になった」


ギューテはこちらを見つめた。

頬から大量の涙、そして充血した目。


「君は優しそうで、またお父さんと同じ雰囲気がしたんだ」

「幸せを運んでくれる、そんな雰囲気がした」


「だから避けてたんだ……でも何処か避けきれなかった」

ギューテはこちらに近づいた。



「ねえ、僕は幸せになって良いのかな」


「ねえ、僕は笑顔になって良いのかな」


「ねえ、教えてよ、ねえ教えてよって……移転者様なんだろ!」

ギューテは俺の肩を掴み、揺する。

それも強い力で、しかし何処か優しく柔らかく、そんな感じだった。


そして俺はそれに答えるようにギューテを抱きしめた。

それはもう強く、我が子を抱きしめるかのように。


「もう何も考えるな、笑顔になりたいんだろう、ならば生きることを考えるんだ」

「そうすれば笑顔になれる日も来る、幸せになれる日も来る」

「だから……いまは沢山泣け、俺はここにずっといる」


その言葉を発した瞬間ギューテは俺の胸の中で泣き叫んだ。

そしてこの世界は俺達しか居ないかのような、そんな錯覚をしてしまった。

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