28話
朝。
訓練場の空気は、いつもと違っていた。
静かだ。
だが。
張り詰めている。
カイルは一人、立っていた。
目を閉じる。
(……半年)
短くはない。
だが。
長くもない。
やれることは、やった。
積み上げてきたもの。
すべて。
(……形にはなった)
完璧じゃない。
だが。
戦える。
それだけの確信がある。
「カイル様」
声。
振り向く。
集まった者たち。
自然と隊列が整っている。
前衛。
中衛。
後衛。
誰がどこに立つか。
もう迷いはない。
「準備は」
カイルが聞く。
「問題ありません」
前衛が答える。
「いつでもいけます」
中衛。
「……大丈夫」
後衛。
短い。
だが十分。
(……いい)
カイルは小さく息を吐く。
全員が同じ方向を見ている。
「確認する」
カイルが言う。
全員の意識が一点に集まる。
「前衛」
「はい」
「崩すな」
一拍。
「押し切れ」
「了解」
「中衛」
「はい」
「合わせろ」
「前の動きに遅れるな」
「了解」
「後衛」
「……うん」
「全体見ろ」
「ズラせるなら勝手にやれ」
「……任せて」
「俺が指示を出す」
静かに言う。
「それまでは動くな」
全員が頷く。
言葉はいらない。
理解している。
沈黙。
張り詰めた空気。
無駄がない。
一方。
別の場所。
リヒトが剣を振っている。
軽く。
何気なく。
それだけで空気が変わる。
フィアが隣で見ている。
「……変わらない」
小さく言う。
「うん」
リヒトが笑う。
「変える必要ないからね」
すでに完成している。
個で。
「……カイル」
フィアが呟く。
「……少し変わった」
リヒトは軽く頷く。
「そうだね」
だが。
「それでも、まだだよ」
余裕は変わらない。
訓練場。
カイルが空を見上げる。
(……やるだけだ)
積み上げたもの。
全部。
足音。
教師が入ってくる。
「集まれ」
短い指示。
全員が動く。
広いフィールド。
対抗戦の舞台。
整っている。
カイルは前に立つ。
その後ろに、整った隊列。
無駄のない配置。
リヒトも前に出る。
フィアが隣に立つ。
それだけで成立している。
距離。
ある。
だが。
視線が交わる。
(……ここだ)
カイルは拳を握る。
(……楽しみだね)
リヒトは静かに笑う。
この日。
“個”と“集団”。
二つの強さが。
正面からぶつかる。




