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2話


 乾いた音が、中庭に響く。


 カンッ、カンッ、と木剣がぶつかり合う。


「遅い」


 セイルの一言。


 弾かれる。


 体勢が崩れる。


 喉元に剣が突きつけられる。


「終わりだ」


 何度目か分からない敗北。


「……っ!」


 カイルは歯を食いしばる。


「また負けか」


「くそ……!」


 地面を蹴る。


 悔しい。


 だが。


(……見えてる)


 完全に分からないわけじゃない。


 動きは見えている。


 だが――


 届かない。


「どうした?」


 セイルが軽く言う。


「もう終わりか?」


「……まだだ」


 立ち上がる。


 剣を握る。


 呼吸を整える。


(見ろ)


 さっきまでの戦いを思い出す。


 踏み込み。


 振り。


 体重の移動。


(同じだ)


 毎回。


 ほんのわずかだが。


(右足に乗る)


 攻撃の前。


 必ず。


 そして。


(外した後は、左から来る)


 繋がる。


 すべてが。


「……なるほどな」


 小さく呟く。


「何か分かったか?」


「まあな」


 剣を構える。


 セイルは少しだけ目を細める。


「来い」


「言われなくても」


 踏み込む。


 だが、今までとは違う。


 焦らない。


 突っ込まない。


(来る)


 右足。


 体重が乗る。


(ここだ)


 振り下ろし。


 回避。


 紙一重。


「……っ」


 セイルの目がわずかに動く。


 続く。


(左)


 振り直し。


 予測通り。


 受け流す。


 完全に見えている。


(いける)


 踏み込む。


 迷いなく。


 剣を振る。


 当たる。


「……っ!」


 初めて、セイルの身体が揺れる。


 その一瞬。


 逃さない。


 さらに踏み込む。


 追撃。


 喉元へ。


「――そこまで!」


 止まる。


 静寂。


 風の音だけが通り抜ける。


 セイルの剣は止まっている。


 カイルの剣が、喉元にあった。


「……は?」


 自分でも、理解が遅れる。


 セイルがゆっくりと笑う。


「……やるじゃねぇか」


「……勝った?」


 ぽつりと漏れる。


 次の瞬間。


「よっしゃああああ!!」


 声が響いた。


 初めて。


 兄に勝った。


 それは、確かな事実だった。



 少し離れた場所で。


 ティアが腕を組んで見ていた。


「なるほど」


 小さく呟く。


「やっぱり気づきましたね」



 カイルは剣を握ったまま、息を整える。


 まだ震えている。


 だが。


(見えた)


 ただ振るだけじゃない。


 ただ速いだけじゃない。


(読める)


 相手の動き。


 癖。


 流れ。


 それを掴めば――


(勝てる)


 確信があった。


 その時点では。



 セイルは剣を肩に担ぐ。


「いいか」


 一歩近づく。


「今のは勝ちだ」


 カイルが顔を上げる。


「でもな」


 一拍。


「それ、全員に通じると思うなよ」


「……は?」


「癖がある相手には強い」


「でも、ない相手はどうする?」


 カイルは黙る。


 だが。


「……見る」


 即答する。


「あるかどうかも含めて、全部見る」


 セイルは少しだけ笑った。


「……本当に諦めが悪いな」



 カイルは剣を見る。


 強く握る。


(見て、読めば勝てる)


 そう信じていた。


 この時までは。


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