18話
訓練場。
乾いた空気が広がる。
生徒たちが周囲を囲む。
ざわめき。
期待。
緊張。
すべてが混ざる。
「ここで模擬戦を行う」
教師の声が響く。
「指名制だ。戦いたい相手を選べ」
その一言で空気が変わる。
カイルは一歩前に出る。
迷いはない。
視線は一人。
「……リヒト」
静かに名前を呼ぶ。
ざわめきが広がる。
「いきなり1位かよ……」
「3位が挑むのか……」
リヒトは少しだけ驚いた顔をする。
だが。
すぐに笑う。
「いいよ」
立ち上がる。
「僕も、君と戦いたいと思っていた」
自然な言葉。
だが。
余裕がある。
それが分かる。
二人が向かい合う。
距離を取る。
静寂。
周囲の音が消える。
「始め!」
声が響く。
同時に動く。
カイルが踏み込む。
速い。
身体強化。
迷いのない一撃。
振る。
カンッ!!
受けられる。
軽く。
まるで重さがないかのように。
(……軽い?)
違和感。
だが止まらない。
もう一度。
踏み込む。
斬る。
防がれる。
返される。
避ける。
打ち合う。
何度も。
何度も。
だが。
(……なんだ)
おかしい。
読めている。
見えている。
だが。
(当たらねぇ)
距離が、微妙にずれる。
タイミングが、噛み合わない。
リヒトが笑う。
「いいね」
楽しそうに。
「ちゃんと見えてる」
カイルは歯を食いしばる。
「……だったら」
一歩踏み込む。
「早く本気出せ」
睨みつける。
リヒトは少しだけ目を細める。
そして。
「うん」
小さく頷く。
「じゃあ――」
一拍。
「ここからが本気だ」
その瞬間。
空気が変わる。
「……っ!?」
カイルの目が見開かれる。
(……なんだ、これ)
さっきまでとは違う。
圧でもない。
威圧でもない。
それなのに。
(……見えない)
動き出す。
リヒトが。
次の瞬間。
「――っ!」
剣が迫る。
ギリギリで受ける。
重い。
さっきまでとは別物。
(速い……!)
踏み込む。
だが。
追いつけない。
リヒトの動きが、完全に上を行く。
(……違う)
理解する。
(これは……勝てない)
だが。
(それでも)
終われない。
カイルは地面に意識を向ける。
魔力を流す。
一瞬。
リヒトの足元に、小さな隆起。
「……っ」
体勢がわずかに崩れる。
(今だ!)
踏み込む。
全力。
身体強化。
すべてを乗せる。
振る。
当たる――
その瞬間。
リヒトが消える。
「……っ!?」
次の瞬間。
喉元に、木剣。
止まる。
動けない。
静寂。
「……そこまで」
教師の声。
カイルの呼吸が荒い。
目の前。
リヒトが立っている。
変わらない顔で。
穏やかに。
「……僕の勝ちだね」
軽く言う。
まるで当たり前のように。
カイルは動けない。
(……なんだよ、これ)
見えていた。
読めていた。
仕掛けも通した。
それなのに。
(……届かない)
完全に。
負けた。
剣が下ろされる。
カイルはその場に立ったまま。
動かない。
ただ。
理解する。
(……これが)
一位。
(……これが、“上”か)
この日。
カイルは初めて。
“絶対に届かない差”を知った。




