12話
中庭。
乾いた音が響く。
カンッ!!
木剣が弾かれる。
「……っ!」
カイルは後ろに下がる。
腕に痺れが残る。
目の前。
そこに立っているのは――
「……久しぶりだな」
セイルだった。
「帰ってたのか」
「ああ」
軽く肩をすくめる。
その立ち姿。
以前と違う。
(……圧が違う)
何もしていないのに分かる。
“強い”。
それだけで伝わる。
「やるか?」
セイルが軽く言う。
カイルは迷わない。
「当然だ」
剣を構える。
「来い」
⸻
踏み込む。
速い。
以前より明らかに速い。
だが。
(見える)
動きは読める。
癖も分かる。
だから――
「……っ!?」
届かない。
剣が当たる前に。
距離が変わる。
「遅い」
セイルの声。
次の瞬間。
視界が揺れる。
衝撃。
気づいた時には、地面に叩きつけられていた。
「……は?」
何が起きたか分からない。
「立て」
冷静な声。
カイルはすぐに立ち上がる。
構える。
(今のは……)
踏み込んだはずだった。
だが。
距離が変わった。
速さじゃない。
違う。
「来い」
もう一度。
踏み込む。
今度は慎重に。
見る。
読む。
完璧に合わせる。
(ここだ)
振る。
当たる――
その瞬間。
セイルの姿が“ブレた”。
「……っ!?」
また外れる。
同時に。
横から衝撃。
吹き飛ぶ。
「……くそ!」
地面に手をつく。
理解する。
(速さが違うんじゃない)
(身体そのものが違う)
セイルが言う。
「身体強化だ」
あっさりと。
「魔法だよ」
カイルは顔を上げる。
「……魔法?」
「ああ」
軽く手を握る。
「身体能力を底上げする」
「それだけでこれだ」
カイルは歯を食いしばる。
(……読めてるのに)
(届かない)
初めてだった。
“分かっているのに勝てない”。
その感覚。
「……もう一回だ」
カイルは立ち上がる。
だが。
結果は同じだった。
何度やっても。
届かない。
⸻
夕方。
カイルは一人、立っていた。
(……魔法か)
今まで考えていなかった。
必要なかった。
だが。
(これがあると、勝てない)
明確だった。
⸻
執務室。
コン、コン。
「……入れ」
「失礼いたします」
カイルは中に入る。
「どうした」
「父上にお願いがあります」
グラディウスが視線を向ける。
「何だ」
「魔法の指導を受けたいと考えています」
はっきりと言う。
グラディウスは少しだけ目を細める。
「理由は」
「兄上に勝つためです」
迷いなく答える。
一瞬の沈黙。
そして。
「……いいだろう」
短く言う。
「知り合いに頼む」
「ありがとうございます」
カイルは頭を下げる。
⸻
数日後。
訓練場。
魔法の指導が始まる。
「まずは基礎からだ」
指導者の声。
カイルは頷く。
「はい」
手をかざす。
魔力を流す。
意識する。
形を作る。
「……出ろ」
小さな火。
出ない。
「もう一度」
何度も繰り返す。
だが。
出ない。
⸻
「……次は土だ」
指導者が言う。
カイルは地面に手をかざす。
魔力を流す。
「……っ」
ゴッ、と音がする。
地面がわずかに盛り上がる。
「……ほう」
指導者が眉を上げる。
「土は使えるな」
カイルは息を吐く。
⸻
「身体強化はどうだ」
次の課題。
魔力を体に巡らせる。
集中する。
「……っ」
体が軽くなる。
視界が少し広がる。
「それもいけるな」
指導者が頷く。
⸻
だが。
それ以外は。
何度やっても。
できなかった。
火。
水。
風。
すべて。
反応がない。
⸻
夕方。
カイルは一人で立っていた。
「……偏ってるな」
小さく呟く。
理解する。
(全部は使えない)
才能があるのは。
土魔法。
そして。
身体強化。
それだけ。
(……十分か?)
一瞬、迷う。
だが。
すぐに首を振る。
「……やるしかねぇ」
できる範囲で。
最大まで。
それだけだ。
⸻
この日。
カイルは初めて。
“才能の限界”を知った。




