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しらないところで  作者: 南 紅夏
過去の追憶編

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加害者Cの懺悔 その1

多分全編通してMAXの胸糞鬱話です。

 ララカリブスは、はるか昔からレアメタルの産出地として重要視されていた星だった。

 しかし人が住むには空気が薄く、見える場所はほとんど凍土だったので、長く続く戦時下に開拓する者など当然おらず、忘れられ、放置されていた星だった。


 そこを人が住めるように開拓したのは、アステリアの大洪水からの避難民だ。

 各種ガスを利用し上空の層を強化、大気を調整し、なんとか人が住める状態にまで引き上げた。完全に大気が落ち着くまでに時間が足りなかったので地下の開発が進み、当初の主な生活拠点は地下だった。

 その後、星間戦争の際に戦災から逃げた人々がたどり着く終着地の一つにもなったが、決して豊かな地とは言い難い星だった。


 そしてそんな星の政治的な歴史は、本来なら見向きもされないはずの、初代アステリア・グラーティアの遠い外戚筋の男を王として祭り上げたところから始まる。

 ララカリブスの声がその男や家族に聞こえたわけでもなかったが、アステリアから逃げてきた人たちにとって巫女の血筋というモノには頼りたい、縋りたい魅力があった。


 そして、星間戦争が終わる。

 戦争終結後の惑星間連盟の条約として、全ての身分制度は廃止された。ララカリブス王朝も廃止され、政治的な決定権を持つ名家として残った。




 そこから約5千年が過ぎたある年に、ララカリブスは突如連盟からの離脱を発表した。


 ララカリブス独立軍は、元々は惑星間連盟の星団軍ララカリブス支部だったものを、連盟から抜けた際に再編成したものだ。しかし、元々の軍人だった者の方が少数だ。

 連盟を抜けるとなった際に、ララカリブス支部に赴任中の他の星出身の軍人は一旦中央星所属扱いになり、ほとんどが出て行った。逆にララカリブス出身で他星に赴任中の者は、戻ってきた者も僅かにいたが、そのまま籍を移して戻って来ない者も多かった。


 その時のサロメ…当時ゾーヤという名前だった女は、ララカリブス自警団という、警察に近い独自組織に所属していた。独自組織と言っても所属する団員数も多く、それなりの権力もあるかなり大きな組織だった。

 ララカリブス独立軍設立に伴い、ゾーヤなどの特殊な所属の者は自動的に独立軍の方へ移籍となった。実質、独立軍の大半はゾーヤたちのような元自警団の人々で、彼らが実権を握ったと言っても過言ではなかった。

 海のないララカリブスの軍は陸軍・空軍・特殊軍の3種で構成された。耳慣れない特殊軍とは、陸でも空でもない雑多な部門で構成されていて、宇宙軍もあり、事態に応じて陸にも空にも参加する特殊な人材がまとめられていた。





 その日、ゾーヤ・バザロヴァとツェーザル・プルークの2名は、ララカリブス独立軍の司令官室に呼び出されていた。

「二人には、地球に行って現地人を誘拐してきて欲しい。そうだな、なるべく年齢・人種、ばらばらがいい」

 特殊軍司令官のランベルト・エルミーニは、200歳過ぎたくらいの若い部類のエルフだ。エルフにしては若いのかもしれないが、他の種族に比べてしまうと年齢的にはベテラン中のベテランだ。戦闘員として腕が立つ方ではないが、知略で地位を気付いてきた曲者でもある。自警団からの移動の一人なので、ゾーヤとの付き合いも長かった。


「チキュウ…ですか?」

 ゾーヤと同じ諜報部出身のツェーザルが首を傾げた。彼は真面目な人間で、気の利かないところもあるがいいヤツだった。

「ああ、アステリアの上空のゲートから行ける、天の川銀河の辺境の星だ。昔アステリアやそのほかの星から逃げ込んだ人がいるという記述がある。間違いなく有人星のはずだ」

 司令官は穏やかに微笑みながら太陽系の星図を出した。

「ゲートがあるのはこの第5惑星。地球は第3惑星だ」


「この任務の目的をお伺いしてもよろしいでしょうか?」

 見知らぬ星の人間を攫う意味が分からない。ツェーザルが理由を聞きたがったのは尤もだと思ったが、司令官の指示に異議を唱えるつもりもないゾーヤは、心の中で「余計な事を」と思っていた。


「極秘任務だ、君たちが理由を知る必要はない」


 ―――ほらね。聞いても無駄なのに。


「極秘ゆえ、君たちが動くことも他の人間に知られてはならない。宇宙船の操縦は最低限の知識を入れておいてくれ。

 今回用意した宇宙船は、軍用ではない旧型の民間輸送船で、所属も消してある。火器は自衛用の最低限の物しか搭載していない。…データを送る。メンバーも軍の者ではなく、こちらで傭兵を用意する。くれぐれも秘密裏に動いてくれ。出発日時は追って知らせる」

「はっ!」

「下がっていい。早速準備に入ってくれ。…ああ、ゾーヤ、君は残れ」


 ツェーザルが部屋を出ると、司令官は部屋の鍵を掛けた。

「何年も人が飛んでいない、未知の空域だ。本当は君を行かせたくはないが…信用できる者にしか頼めない」

 そう言いながら、ランベルトはゾーヤの服を一枚ずつ脱がしていく。

 ああ、まただ。本当に変わらない、この人は。


 裸になったゾーヤを抱きかかえ、来客用のソファに運ぶと自らも服を脱ぐ。

「ああ、ゾーヤ、可愛いゾーヤ。僕の天使」

 もう何回同じことを言われただろう。そしてこの男は、自分だけ気持ちよくなって、することだけしたらさっさと服を着せて追い出すのだ。


 もう3年前になるだろうか、ランベルトとの子を堕胎(おろ)したのは。

「寿命が違い過ぎるんだよ。君の事は愛しているが、分かるだろ?その後長く続く一人の時間を考えると、一緒にはなれない」

 演技じみた悲しそうな顔でそう言われたが、ゾーヤは「ああ、そうだろうな」くらいにしか思わなかった。

 少し意地になって、堕胎すのが難しい時期になって言ったのに、ランベルトはゾーヤの体の心配はせずに堕胎せと言ったのだ。


「もう、子供は産めないって言われたよ…?」

 何度か言いかけては、やめた。所詮、誰にも言えない関係なのだ。




 出発の日、初めて会う傭兵3人と共に船に乗り込んだ。

 まだ日も昇らない夜明け前、ランベルト司令官と何名かの軍の重鎮、政治家も一人いただろうか。10人にも満たないごく僅かな見送りの中、ゾーヤたちは静かに出発した。

 ランベルトは完全に司令官の顔で、

「諸君らの健闘を祈る」

 とだけ言って、彼女たちを送り出した。


 同行の傭兵はゾーヤと同じ狼人の獣人と、エルフ、人間という種族がまるで違う3人だった。

 ツェーザルの船に乗った傭兵も同じ組合わせだった。それぞれの違う特性をうまく生かせ、という事なのだろうと解釈した。




 出発後、すぐにエルフが

「可愛い雌犬だなぁ」

 としつこくゾーヤに絡んできた。

「おい、その女、司令官の女らしいぞ。手ぇ出すと厄介だ」

 獣人がエルフを抑えた。

「…まじかよ。獣人の愛人がいるって噂はあったけど、お前かよ」


 ―――ああ、誰にも言ってないのに。あれだけ私を部屋に呼びだしては閉じ込めてたら、バレるよね。


 軍の外の傭兵にまで知られているなんて、よっぽど広がっているのだろう。

「出る直前にもヤることヤったんじゃねーの?その女からあの司令官の臭いがぷんぷんするぜ」

 獣人が、鼻をこすった。




 アステリアのゲートまで2日、ゲートから地球まで3日の行程をなんとか問題なくこなし、地球についた。

 何も考えずに夜の暗闇のエリアに降りたが、ゾーヤともう一人の狼人が体温調節に失敗して、体調に異変をきたした。

「えー、あったかい!いいじゃんココ!」

 エルフと人間は喜んでいたが、年中冬毛状態だった狼人は一気に熱が上がり、熱中症に近い状態になってしまった。

「ここが暑いということは、中心から反対側は寒いはずだ。体勢を立て直す!」

 そこから慌てて北半球に移動した。


 そして、程よく人が動いていて既に暗い時間帯の地域を探して船を止めた。

「情報収集を急げ!言語情報と人種の情報を」

 間もなくゾーヤは橋の上から赤ん坊を落とそうとしていた母親を見つけ、飛び出していく。

 母親に後の生活が支障なくなるよう、「子供を殺そうとした」という後ろめたさも利用して、子供を受け取る交渉を終えて戻ってきた。その時ゾーヤの手には、母親から渡された新品のおむつが一袋あった。


 その後4人は情報収集で手いっぱいだ。傭兵どもも色々と情報を解析していく。

「人種って言っても…人間しかいねーな、ここ」

「情報も漁ったが、間違いなく人間しかいない」

 出揃ったデータで、この星には人間しかいないと全員の意見が一致した。


「今日は情報収集に宛て、明日は約束の乳幼児を昼間に回収、夜に残り3人を拉致する」

 ゾーヤが宣言し、その日の夜はドローンに全ての情報収集を任せて休んだ。

 エルフが隙あらばゾーヤを襲おうとしていたが、

「その女はやばいって、やめとけって」

 獣人が何度も止めていた。遠くにいてもランベルトが守ってくれているような錯覚に陥り、勝手に嬉しくなる自分がイヤだった。


 翌昼に予定通り『ハルカ』を回収した。

 その夜、完全に日が落ちたタイミングで

「好みのカワイイ子見つけたぜ、俺も狩りに行ってくる」

 と人間が言い、

「お、地上に降りたい!俺も行く」

 とエルフが便乗した。

「じゃあ、俺は繁華街の路地裏にでも潜んでみるわ」

 獣人は単独行動を決めた。

 次々に傭兵たちが船を降りて行った。




 独りになった船の中、ゾーヤは拉致した地球人を入れるためのカプセルの部屋へ移動した。

 一度起動させたものの、赤子にコールドスリープを施すのは危険な気がしてすぐスイッチを切り、今はただ寝かせているだけだ。カプセルのハッチを開けると、ゾーヤはハルカを抱き上げた。

「あたたかい…」

 ベビーカーから攫った時よりはるかに軽い赤子を抱きしめた。

 攫った時、あの母親がおくるみの中に色々な物を仕込んでいたせいで異常に重かったのだ。離乳食やミルクなど当面必要なものがいくつも詰まった袋が入っていた。


「赤ん坊用のレーションはありがたい」

 説明の文字は読めないが、外箱の絵で離乳食だということは分かった。

「これは…湯で溶かすのかな?文字が読めないのは辛いな。せめて温度のデータが欲しい…。数字の文字データ…ああ、これは英語と一緒なのか」

 元々アステリア経由で持っていた英語データで、数字だけは理解できた。


 ハルカはその間、ゾーヤのひげを楽しそうに引っ張って遊んでいた。

「すまないね、覚えかけていたところだろうけど、私達の言語で覚え直してもらうことになるよ…」




「任務完了だ、3人連れて来た。早く地球を離れてくれ」

 人間とエルフが嬉しそうにカプセルの部屋に飛び込んできた。

「ならば、コールドスリープの処置を」

「あーはいはい。めんどくせーな」

 連れてきた男性2名をカプセルに放り込むと、エルフの男が手足を緩く固定していく。

「簡易モードでコールドスリープ開始。船長、ゆっくり帰っていいでしょう?ゲートまでの移動、少し行きより伸ばしてくださいよー」

「食料も問題ないし、別に構わないが…ゲートまでを5日、それが限界だ」

「やったね。…じゃあトータル7日間の睡眠設定で」


 一つ埋まらないカプセルに不安を感じ、ゾーヤはハルカをカプセルに戻して操縦室へ戻った。

 見ると部屋の壁際の台の上で、服を脱がされた女性が鉄輪に繋がれているところだった。

「お前たち、何を…!」

「船長が俺たち相手してくれないんでしょうがないじゃないですか。それとも今からでも俺たちの相手してくれるんですか?」

 人間の男が笑った。

「ああ…産ませてぇ。この薬打って良いか?」

 獣人の男が注射器を出した。

「あーもう何でもやっちゃえ。好きにしていいって言われてんだ」


 カプセルの部屋からエルフの男が飛び出してきた。

「っと待て待て、何先に始めてんだよ」


 こいつらを、私では止められない。

「睡眠薬は投与したのか?」

 せめて本人が覚えていない状態で、心の傷だけでも負わないようにとゾーヤは叫んだ。


「打ったけど…寝てる女ってつまんねえよな、声聞きたくね?」

 獣人が不満そうに呟いた。

「あ、じゃあこれ使おうぜ。出発前に司令官殿がくれたナイショのおクスリ」

 エルフが服の内側から袋を取り出した。

「10年前に禁止された、伝説の薬物ちゃんでーす!」

「まじかー!」


 異常な盛り上がりを見せる男たちから、ゾーヤは目を反らした。

「睡眠薬減らして、代わりにコレ少し多めに飲ませようぜ」

「多めって?死ぬだろそれ。適正量どんくらいだよ…いや、寝てんのにどうやって飲ませんのこれ」

「え、しらねぇ…あれ、何種類か入ってんじゃん。刺すのも吸わせんのもあるじゃん?各種ある、すげー」

「1日2回、5日間の服用で性奴隷完成フゥー!」


 聞いていられなくなり、ゾーヤはカプセルの部屋へ逃げ出した。


 ―――ランベルトが、あいつらにあの薬を渡した…?


 意味が分からなくて、頭が混乱した。

 何のため?

 攫って来た人間にそんな事をする意味は。


 とりあえず、私へ矛先が向くことがなくなった、助かったと安心した。

 それと同時に得も言われぬ罪悪感が湧く。

「人を攫って置いて今更何なんだ、私は!」


 ハルカは、ゾーヤにとっての救いだった。攫った事により、救うことが出来た命だと自分を慰められる。

 ここで寝ている男性二人も、この先どういう目に遭うのか知らない。

 カプセルの隙間で、ゾーヤは膝を抱えて隠れるように座り込んだ。


 ドローンが全て戻って来たらしく、船が動き出して、すぐに重力圏外に飛び出した。座り込んだままのゾーヤの体が、ふわりと浮いた。

 もうすぐ地球から離れ、疑似重力が発生する。そうなったらあの人間の娘は、奴らの慰み者になってしまうのだろう。

 この筆舌に尽くしがたい気持ちの悪い罪悪感に、どうしたらいいのか分からない。どうすればいいのか分からない。


 少しして、重力がじわりと発生し始めた。

 ああ、奴らの笑い声が聞こえる。

 カプセルの中でハルカが泣いているのが見えた。

「ごめんね…」

 カプセルから出して抱き上げた。

「おむつだ!」

 荷物に入っていた、便利な不織布のおむつは何とか使い方を理解したところだ。しかしトータル7日間、これで足りるのかもゾーヤには分からない。

「…眠らせちゃう…?」

 ゲートまでの行程を5日間に伸ばしてしまった事を後悔した。ハルカに関する物資が足りると思えず、ゾーヤは途方に暮れた。




 何時間経っただろうか、隣の部屋が静かになった。

 ゾーヤは恐る恐る扉を開けて、操縦室の様子を伺った。奴らは既におらず、カプセルで眠った後のようだった。

 そして裸のまま放置された人間の娘の、あまりの惨状に吐き気がした。

「クリーナー、台の上を拭いて」

 娘を抱き起こし、全身を拭きながら掃除機に周りを掃除させた。

「…傷だらけだ…」

 スプレーの傷薬を何か所かに吹き付けた。

 簡単に収納棚を確認したが、掛ける布団も見当たらない。仕方なく鉄輪を外し、自分より大きな女性を抱き上げてカプセルに運んだ。重力が緩めなので、ゾーヤでも運ぶことが出来た。

「体温維持を」

 カプセルに横たえ、せめて風邪をひかないように指示を出した。


「これで、罪滅ぼしのつもりかっ」

 人間の娘のカプセルに縋るように座り込み、ゾーヤは自分に向かって吐き捨てた。


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