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しらないところで  作者: 南 紅夏
過去の追憶編

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被害者Aの回顧録 その10 邂逅

「ゲート使ってこっちに定期検診に来いって?なんじゃそりゃ!?そんな贅沢な…我儘な使い方あるかぁ!!」


 イギリス紳士のはずのロバート翁は、こっちが心配になるほど怒り狂っている。

「落ち着いてくれ。巫女の指示があったのだ」

 レビが怒りに気圧される訳でもなく、淡々と返した。


「巫女の指示…」

 そう呟くと、しゅんと老人は大人しくなった。

「巫女が…その、指示を出した理由は聞いたのか?ただの気まぐれならばもう仕方ないが…」


「巫女が言うには、ミーコから僅かだが、気配を感じる、というのだ」

「…日本人だぞ?」

「…その理屈が私には分かりかねる。日本人だと何か変なのか?」

「いや…このご時世なら、ありえなくはないのか。…分かった。こちらでもルーツを辿るとしよう。うまく辿りつければ…本命に出会えるかも知れんな」


 レビと老人の会話が全く意味不明で、拉致被害者3人は置いてきぼりだ。

「本当はミーコを返したくないとアステリア様は言っている。ゲートは折衷案だ」

「何やて!?」

 理由その他意味不明な会話が続いていたが、みーこを返したくないと言われると、さすがに博昭も声が出てしまった。

 その時、博昭の耳元で

「あとで説明します」

 とジョルジュの小さな声がラムダを通して伝えられ、とりあえずそれ以上の追及を諦めた。


「…それとラルフ、シルビアの件だが。半年後に遅れて地球に帰るとなると、手続き上問題はないか?その間家族の見舞い用として、君にもゲートを一つ持たせようと思うのだが」

 レビはラルフに話しかけたはずだが、ロバート翁が割り込んで答えた。

「同時に攫われた証拠画像が残っているのに、別々に帰ってくるのはおかしいだろう。状況をすべて詳らかにできるというならば可能だろうが、それはあのアホの案が成功したときだけだ」

 老人の指摘で、レビは口元に手をやって考え込んだ。

「シルビアが治療を終えたのち一人遅れて堂々と地球に帰れるのは、惑星間連盟に地球が加盟したときのみ、という事か」

「そうでなければシルビアとやらが戻ってくるまで、この青年は謂れなき中傷を受ける事になるぞ。ゲートの存在が地球で表に出せない以上、半年後にひょっこり戻って来られるとこちらのシナリオも破綻しかねん」


 ラルフが何か言いかけたが、小さなため息をついただけで黙り込んだ。


「うん…よしよし、分かった。複数ゲートを持ちこむという前提で作戦を組み立て直す。

 あり得んと思うが馬鹿の作成が成功した場合は…もう特に考える事はないな、事実をそのまま公表すればいいだけだ。失敗する前提で表に出すシナリオと、裏で君たちがやるべき内容をまとめる。

 …明日またここに来る。その時は茶でも出して欲しいものだ」


 ロバートは席を立ち、眼下の木の根元に向かって歩き始めた。黄色いツナギも慌てて後を追い、ジョルジュも

「レビ、彼らに説明を頼む」

 と言い残してゲートに向かって去って行った。


 3人がゲートを通って消えると、すぐに先程の円盤に乗ってきた職員がゲートから現れた。

 てきぱきとゲートを分解して袋に入れ、背中に斜め掛けにして背負うと、置きっぱなしにしていた円盤に乗って世界樹の方へ飛び去った。




 訪問者たちが帰った後、残されたメンバーの視線は一斉にレビに注がれた。


「…めんどい…」

 そう言って、いきなりレビは肩を落とした。


「レビ―!めんどいな、分かるよ。でもお仕事ね?当主様のお仕事ね!」

 耕作が何とかおだてる。

「僕は巫女姫の歴史読んでるし、ヒロさんにも共有してるし少しは分かってるつもりだけど、ラルフは昨日来たばっかで…分かるよ、全部説明はめんどいよな」


「えっ、えっ?なんでボク読んでない設定なんですか?昨日の夜コーサクさんに勧められたから、夜のうちに読んじゃいましたよ。グノメに読んでもらったってのが正しいですけど!言われた通り書き取りもしながらね?その上関連書籍も何点か併せてね!?」

「…そっかゴメン、何となく言っても読まない子かと思って」

 博昭がてへっと照れながらラルフに謝った。

「普段なら読みませんけどね?あんまりヒマで読みましたよ!テレビっ子なのにテレビないの暇すぎですよー!」

「動画ならグノメに出してもらえばいいのに」

 レビが呆れ顔でツッコんだ。

「え、何?そう言うのもあるの?なんだよー、早く教えてよー」


「ともかく!レビが面倒だって言うなら、僕の推理聞いてくれる?違ってたら修正して。それなら全部話すよりラクでしょ?」

「…聞こう」

 耕作の提案にレビが乗った。


「さっきのロバート氏との話。みーこちゃんは、星の探し人の血筋の可能性があっるて事で合ってる?」

「そうだ…良く分かったな」

 レビが目を見開いて耕作のカンの良さを褒めた。

「星の探し人って…あの、洪水の時に地球に移住した『星の娘』ってヤツ?さっきの、そういう話だったの?」

「ラルフ…ホンマに読んどるんやな…いやいや、問題はそこちゃう。みーこさんがここのエルフの子孫言うんか?」


「しかし、ミーコの中には欠片のような残滓があるだけだと星は言っている。つまり本筋じゃない。彼女のルーツを辿って行けば、本命に出会えるかも知れない、という話だ。何にしても今の彼女の状態だと、本人に聞いても無駄な気もするから…」

「そら…そうやなぁ…」

「実際、脳に障害が残るかもしれないと、そちらの方を医師団は心配している。その場合この星に残ってもらう事も考えている」

「そんな!」

「でも、何にしても地球には1度戻す。それだけは計画的に変更はない」

 椅子に深く腰掛け、レビは腕を組んだ。



「そして問題のゲートの話だ。原材料を渡す。地球に隠して持ち込んで、そちらで加工をして欲しい」

「ふっふっふー、僕の出番だね!何でも作るよー!」

 耕作が嬉しそうにレビを見る。

「明日、原材料を取りに行く。ゲートが使えないので、直接行くしかない。申し訳ないが鳥に乗って行く…まあ、大勢で行く話でもないのだが」


「鳥!」


 3人が一斉にレビが乗ってきた鳥の方を見た。

「行きたい者は、今から乗る練習をしてもらう」

「うわー、まじですかぁー」

 ラルフが心底嫌そうな顔をした。




 厩舎の近くでおっさん3人が鳥に乗る練習を始めると、賑やかな声を聞きつけてパトリック二人も廊下に出て、窓からこちらを眺めていた。

「表から回って出ておいでよ」

 ラルフが声をかけると、二人もばたばたと走ってやってきた。

「でかぁ!乗れるの?この鳥!」

「乗れる。乗れた人だけ、明日ピクニックだー!」

 早々に乗れるようになった耕作が全員を煽った。


 小一時間もすると全員が乗れるようになっていたが、

「酔う…」

 と言ってラルフがリタイヤした。

「じゃあ、明日はラルフはお留守番―!」

「ひどい!」

 子供たちにからかわれ、ラルフはそれでも楽しそうに笑っていた。




 夕方、部屋に戻ってすぐにジゼルとクレアがお茶と焼き菓子を運んできた。その時ジゼルから、みーこがカプセルから出たとの情報が二人に伝えられた。

「今日はリハビリになります。電気刺激を与えていたので筋肉が衰えているという事はないのですが、今日一晩様子を見て、明日からなら散歩や、一緒に食事も可能になると思いますよ」

 お茶を二人の前の並べながら、ジゼルがそう教えてくれた。博昭は今日の夕食から一緒に食事ができるかも、と勝手に期待していたのでそれは少し残念だったが、勝手に心がそわそわしていた。早く食事を終えて、会いに行きたかった。


「そういや、ラルフやパトリックたちはこっちに移らないの?」

 耕作の質問にも、ジゼルが素早く答えた。

「ラルフ様は医療棟の病室の上、2階に家族部屋があるのでそちらに移っていただく予定です。少年二人は、明日にはこちらへ移動ですね」


「…お二人にも、ゲートが渡されると聞きました」

 焼き菓子のトレイを卓上に置くと、今日はメイド姿のクレアが耕作たちを見た。

「地球の、日本のお菓子を時々持って来ていただけると嬉しいです。色々研究して、再現したいのです」

「任せとけー!そっか、クレアさんパティシエって言ってたね。ヒロさんは京都行って和菓子持ってきてあげて!抹茶のとかいいんじゃない?」

 耕作が笑った。




 夕食後、ジゼルと一緒にみーこの部屋へ向かった。

 ノックをして入室すると、入り口そばのテーブル席にみーこは座っていた。同じテーブルにジークとクレア夫妻がいた。

 みーこはゆるりとしたチュニックに、裾の絞られたパンツ姿だ。


 ああ、可愛いな。そう思ったところで

「はじめまして」

 そう言われる事も覚悟していたはずだったが、実際に笑顔でそう言われると、くるものがある。博昭は一瞬心が折れそうになったが、何とか気持ちを落ち着かせた。


「ミーコ、ヒロさんだ。昨日も会っている」

 面会履歴でも残っているのか、ジークがみーこに素早く告げると、みーこはハッとした顔をして

「ご、ごめんなさい、私ったら…」

 と申し訳なさそうな顔をして謝った。


「だから、これを活用するんだ」

 クレアがテーブルの上に手をのせた。そこにはA4より少し小さいくらいのノートが置かれている。

「あ、そっか!」

 そう言うとみーこはノートを開いた。

「じゃあ、最初の1ページはヒロさんにします」

「そうだな、それがいい」

 クレアがふわりと笑った。


「覚書、ですか」

 博昭はジークに勧められて空き席に座った。

「ええ、ヒロも協力して下さいね」

 ジークは博昭に向かって笑顔を見せると、みーこの広げたノートの角に指で四角を描いた。

「…写真も貼り付けられると良いけど、みーこさんが似顔絵を描いてもいい」


「私、風景画は得意なんです!でも、人物画が苦手って言うか…下手くそだったんです…」

「いいですね、そういう過去の話も思い出しながら、結び付けながらノートを活用してください。ペンの他に必要なものがあったら言ってください」

「じゃあ、ものさしが欲しいです!」

「ものさし…処置室にあったかな」

 ジークが呟くと、素早くジゼルが動いた。

「わたくしが取ってまいります」


 ものさしを受け取ると、みーこはノートに線を引き、独自フォーマットを作っていった。

「じゃあヒロさん、ここに名前書いて下さい」

 みーこに笑顔でノートを手渡され、博昭は指定された場所にフルネームで自分の名前を書いた。

「ありがとうございます!ここからは私が忘れないように、思い出せるように、思った事を書いていきます…あ!」

 早速みーこは博昭の名前の下に

『喋り方が関西人っぽい』

 と書き込んだ。

「思い出しました、昨日、世界樹見に行こうって言ってくださったの、ヒロさんですね?」

「…!そ、そう!そうです!」

 みーこの嬉しそうな顔に、博昭もつられて笑顔になる。


「同じゼミに、『京都の子』と、『京都府の子』がいるんです…ちょっと今名前思い出せないんですけどね!?」

「…はははっ」

 急にきりっと真面目な顔になったみーこの予想外の発言で、思わず博昭は腹を抱えて笑ってしまった。

「ヒロさん、その子たちとイントネーションが似てるんです。京都じゃないですか?」

「ふふふっ、正解です。生まれは京都府の人間です。でも、京都の子ではないんです。…その子たち、アホな事で喧嘩してませんでしたか?」

「してました、いっつも!もうバカバカしくって」


「??」

 不思議そうな顔をするジークとクレアに

「くだらん話ですわ。ワタシの生まれた京都府っちゅーところは、京都の…せやなあ、昔々に都があったトコと、そうでない周りとでおかしな格差があるんですわ」


「身分制度があるんですか!?」

 ジークに、ものすごく深刻に受け取られてしまった。

「ああ、ちゃいますちゃいます。ほんま、ただのプライドの残りかすイジってるだけですわ。自分でゆーてるだけの…今となっては、ほんまギャグですわ…ですよね?みーこさん」

 横で、みーこは爆笑していた。

「なんで?なんで私には標準語で話すんですかぁ?」


 カプセルから出て座っているみーこは普通のお嬢さんで、よく笑う可愛らしい人だった。

 その時の博昭は、隣で楽しそうに笑っているみーこを見ているだけで幸せだった。




 面会時間が終わり、みーこの病室を出て部屋に帰るろうとしたところで、

「ヒロ、話があります」

 とジークに呼び止められた。


 クレアを先に帰し、ジークと共に回廊の2階に上がって角の応接セットに腰掛けた。

「ジゼル、話が聞こえる範囲に誰も近付けるな」

「はいっ」

 ラルフの指示で、素早くジゼルが走り去った。


「今ミーコの体に起こっている事と、今後起こりうる問題…あくまで可能性にすぎませんが、そのいくつかについてお話ししておきます」

「…ワタシだけに、ですか?」

「この件に関わった医師は全員知っています。それと…ラルフにも共有済みです。コーサクには、あなたが必要だと判断したら話してください。この件にはあなたの助けが必要です」


 そこでジークから知らされた事態は、博昭から冷静な判断力を奪うのに充分な破壊力があった。


「…あなたに濡れ衣が掛からないためにも、一度ミーコを地球に戻すことは決定しています。ですがその後、手に負えないと判断したら、すぐにゲートを使って彼女をこちらへ連れてきてください。可能な限り彼女の近くにいて監視して欲しいのですが…補佐が必要でしたら『デルージュの遺児』から人を出します」


「なんで…ワタシなん…?」

「すみません、私達がヒロの気持ちを利用しようとしているのは確かです。しかし、あなたが一番の適任だ…ジゼル、もういい。話は終わった」

 そう言うとジークは静かに席を立った。


「申し訳ないです」

 そう言って目を伏せると、ジークは階段を下りて行った。




「なんで…そないな事になってんのよ…」

 誰もいなくなった夜の回廊で、博昭は絶望的な気持ちで、独りがっくりと頭を垂れた。


次は農園にレッツゴー

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