道具屋通り その2
動物型ガジェット屋の店員に教えて貰った通り、10件ほど先の店を目指して5人で歩く。
「…これ、いくらくらいだったんだろ。申し訳ないことしちゃったかな」
肩のドラゴンにグノメを同期させながら、ユリカが今更心配そうに言った。
「1800ルルダって書いてあったな、日本円で900円くらい?」
湊太がワゴンの上の看板を思い出しつつ説明する。
「…え?思ったより安い…」
「動く鳥は、5000円から1万くらいの間で値段ついてたな。店員さんが肩に乗っけてた溶け猫は、1500ルルダ、750円で一番安かった」
「まあ、あれはでろんと乗っかってるだけだったもんな」
秀人も思い返しながら笑いつつ、嬉しそうにドラゴンを眺めているマサムネとクレアを見ていた。
正確には12軒先だったが、目的の『木こりの森』という店があった。店構えはなかなか大きく、店頭では小型の掃除機のようなものがデモを行っていた。
「芝生も牧草も、綺麗簡単に刈り取るよ~!」
少しクセのある喋り方の店員が、店先で大声で叫んでいる。
「コンシェルジュAIのガジェット、目立たないヤツありますか?」
湊太が聞いてみると、店員はくいっと背中側の店舗を指して
「店内にあるよ~!」
と教えてくれた。
中に入ってみると、地球でも普通にみられる鎌や鉈などの鉄製の物、耕運機のようなタイヤ…と言うより、球体のキャスターのようなものが付いた物もあった。
「ホントに農機具だ…」
農機具専門店に農機具があって当たり前なのだが、秀人は見知った形状の物を見て、思わずそう口走ってしまった。
「元々農機具とか詳しくないけどさ、これは知らんなってのが結構あるな?」
湊太も、巨大な蜘蛛のような金属のものを覗き込む。蜘蛛というか、低めのタカアシガニとでも言えばいいのか、金属の細い足が8本くらいある、頭に刃の付いた器具など、何にどう使うのか分からない。変な形の、刃の付いた謎アイテムがかなり多い印象だ。
「装備品は2階だよ~!」
開けっ放しの入り口から、先ほどの店員が叫んで教えてくれた。
「クレアさん、ドラゴンの飼育に向かない人ってどんなタイプの人ですか?」
秀人が小声でクレアに聞いた。
「うーん…私には良く分からないな。私と…レビもだが、あの手の生き物が単純に苦手というか、怖いのだ。あまり観察したことも、学んだこともない」
クレアは爬虫類系が苦手のようだ。人間と一緒で、エルフにもその手が好きな人、嫌いな人が存在する事に考えが至っていなかった。
湊太が質問を変えてみる。
「えーとじゃあ、俺の母の…夕湖は何タイプですか?」
「ユーコは、ちょっと変わってるな。単独で水が圧倒的に強い」
「ありがとうございます、大体わかりました」
言われてみれば、夕湖が観葉植物を枯らすのは、全部根腐れだった。これが問題なのであれば、秀人は大丈夫ということになる。湊太が黙って秀人に向かってOKサインを左手で作って向けると、秀人は親指を立てて返した。
階段を上ろうとしたところで、マサムネがぐいぐいとクレアの腕を引っ張り始めた。クレアはマサムネの目線を追い、
「ああ、そうか」
と呟いた。
「ソータ、向かいにおもちゃのようなものを置いてる店があるので、マサムネをそっちに連れていく。終わったら来てくれ」
「分かりました。ごめんな、マサムネには退屈だったよな」
そのままマサムネに手を引っ張られ、クレアは二人で店の外に出て行った。
店の端にあったのはシンプルな木の階段だったが、近づくと動き始めた。
「やっぱ動くんだ」
由梨香がさほど驚きもせずに階段に乗った。
3人が並べるほどの幅はあったが、湊太と秀人も左端に一列に並んでしまった。
「クセって怖いな」
「それな」
秀人の呟きに、湊太は同意した。
到着した二階は、帽子やゴーグルや眼鏡、バングル、ブレスレットなどが並んでいて、一見するとアクセサリーショップかブティックの雑貨コーナーのような雰囲気だった。
「ラムダの代用品になるのって、どれだろ」
湊太がきょろきょろと周りを見回すと、一部商品の商品札が青く光り始めた。
「うお、何か光った」
『ソータがラムダの代用品、と言ったので、希望と一致するものが光ったのです』
湊太のグノメが教えてくれた。
「なるほど…じゃあ、ラムダに追加可能な、音声入出力用のデバイスは?」
今度は、別の商品札が黄色く光った。
「簡単に絞り込めちゃった…あ、これハルカさんのブレスレットに似てる」
光っているアイテムを順に眺めながら、由梨香が展示品の間をゆっくりと移動する。秀人も少しだけ商品を見比べた後
「動物に取られそうなものは除外して」
と条件を足してみると、いくつかの光が消えた。
「お、賢いな…じゃあ、顔周りに近いところに装着できるもの以外は除外で」
更に絞られ、またいくつかの光が消えた。湊太は感心しつつ、残ったガジェットを順に手に取ってみた。
「これ…この前借りたやつとほぼ一緒だ」
農園でハルカに借りて襟に挟んだ、白いクリップ状の物があった。デニムのオーバーオールにでも付けるのだろうか、同じ形でデニムブルーの色違いの物があった。
「服の下に丁度隠れる長さかな、ペンダントもあるよ?普通に可愛い」
金属製のチェーンの先に、様々な石…ガラスか樹脂なのかもしれないが、形の違う宝石のようなものが繋がっているネックレス状のものもあった。由梨香はそれらを手に取って、鏡の前で合わせている。
よく見ると、大牙が借りたイヤーカフのようなものもある。商品札を手に取ると、
『ハマー工房、2100ルルダ』
とグノメが読み上げてくれた。
「こっちのクリップは?」
借りたものと同じクリップも手に取ってみる。
『ハマー工房、1800ルルダ』
「どっちもハマー工房…」
もう確定だな、と思いつつ商品を睨んでいると
「どした?難しい顔して」
と由梨香が少し心配そうに声を掛けてきた。
「いや、実はさ…」
湊太は、ドラゴンの農園で借りた祖父の『試作品』の話をした。
「なーる、この2つがお祖父さんの試作品とそっくりなんだ。ハマー…ハンマー…金づちだね。確定じゃん?」
由梨香がにやりと湊太を見る。
「これはそろそろ『湊太のおじいちゃんを探せ』ミッションが発動か?」
秀人もちょっと楽しそうだ。
「今はとりあえず…このクリップだけ買う。グノメさん、買う時はどうすればいい?」
『1800ルルダ、決済します。そのまま持って帰って大丈夫です。通常の場合、持って店を出れば、その瞬間自動的に決済されます』
「…なるほど」
湊太の目の前に、決済終了と書かれた画面が現れた。画面の端に映った残高を見て、思ったより桁が多くて一瞬びくっとなったが、とりあえず今は深く考えないことにした。
「うー、ペンダント可愛いなあ。欲しいけど、暗黒龍いるしなあ…」
由梨香も悩み中だ。
「ラムダだと若干耳痛いから、俺もこのヘアピンでも買おうかな…」
秀人も悩んでいたが、結局二人共今回は何も買わずに帰ることにした。
「俺は一度農園行ってみて、ドラゴン怖くなかったら改めて買いに来る!」
秀人はぐっと拳を握りしめつつそう宣言した。
店を出ると、店頭販売の店員が
「まいどあり~!」
と見送ってくれた。どうやら無事に決済されているようだ。
そのまま3人は、クレアとマサムネがいると思われる向かいの店へ行ってみた。店頭におもちゃを置いているので、店の周辺は子供連れが他の店より段違いで多い。
「ん?」
店の外のベンチに座るクレアを見つけたが、マサムネの姿が見えない。
「クレアさん?マサムネは?」
慌てて由梨香が駆け寄る。
「…ちょっと…面倒なのに捕まってしまった…」
店の外のベンチに腰掛けたクレアが、しょんぼりと答えた。
店の中を覗き込むと、ひときわ目立つ美麗なエルフの男性と、マサムネが楽しそうに店内を見回っていた。
「クレアさん…あの人って…」
湊太には、そのエルフは明らかにレビの血族に見えた。クレアは少しすねたような顔をした後、立ち上がって湊太の耳元で
「前のアステリア様のひ孫だ。アランと言う」
と、とても小さな声でささやいた。
「え…じゃあ、どういう状況ですか?」
クレアはしょんぼりとベンチに座りなおすと、今度は普通の音量でしゃべり始めた。
「彼は…半年ほど前までは医療技師をやっていて、あの家に住んでいたのだが…今は出て行って、とある工房で謎の発明品を作って売っている。今はその製品の売れ行きを見に来ていたようだ…」
アランと言うエルフは、マサムネの手を引きながら店を出てきた。
湊太も由梨香と秀人に「前の巫女のひ孫」とこそっと耳打ちした。二人は驚いた顔をしつつ、こちらに近づいてくるその人をじっと見つめた。
「マサムネ、楽しかったか?」
クレアがいつもの顔に戻って幼い甥に声をかけると、
「うん!今度工房にも遊びに連れてってくれるって!」
と満面の笑顔でクレアの膝に抱き着いてきた。
「…ジークかと思った…じゃあ、この子がコーサクの孫か!」
アランは抱き着きこそしなかったが、湊太の肩を両腕でがしっと押さえて、まじまじと顔を見つめてきた。
「えーっと…はじめまして、湊太です」
あまりにもじろじろ見られて、湊太は目を逸らしつつ挨拶をした。
「はじめまして、湊太の友人のユリカとシュートです」
助け船のつもりだったのだろう、由梨香が横から挨拶をすると、今度は由梨香の肩ががしっと掴まれてしまった。
「いいねえ!君は風か。タイガよりも女の子のサンプルが欲しかった、今度君も工房に来てくれ」
「え?さ、サンプル!?」
「ひょっとして、ハマー工房の関係者ですか?」
秀人が更に助け舟なのか声をかける。
「おお!良く分かったね!クレアから聞いたと思うが、私はアランだ。…君は普通だな。だが道具とは、万人に使えてこそだ。まだうちは変わりダネ作製が楽しくてそれどころではないのだけどね!」
残念ながら当ては外れ、アランの手は由梨香の肩を掴んだままだった。
「祖父は…元気ですか?」
湊太は鎌をかけてみた。
「元気だよ。今また面白いものを作ってるから、そのうち遊びに来てくれ。多分君が人間の中では、一番あの試作品を使いこなせそうな気がするよ」
今の会話中に、湊太の両肩にアランの手が戻ってきた。
「いやあ、クレアと君が並んでいると、何かとても懐かしい気分になってしまうな。…ああクレアすまん、余計な事を言ったな。さて、私はそろそろ帰るとしよう」
謎の発明家は、色々と引っ掻き回すだけ引っ掻き回して帰ろうとしていた。
しかしすぐに立ち止まると、振り返り
「ああソータ、お買い上げありがとう。それとユリカ?音声用の追加デバイスだけだったら、工芸品通りの方がキレイなアクセサリー型が多いぞ?完全にラムダから乗り換えるなら、さっきの店の物をお勧めするがね。シュートもラムダで耳が痛いなら、相談に乗るよ」
と、勝手に盗聴した内容に回答して、去って行った。
―――ノブナガじゃなくても、やっぱりエルフってのは耳が良いんだな。
街中の会話は、周囲に人が居ない程度では安全じゃない。外では本気で気を付けなくてはまずい事を、3人は思い知った。
その後、屋敷の金づちのプレートの部屋にて。
「このドラゴン型のは、結局AI入ってるの?それとも音声だけ?」
『厳密に言うと、どちらにもAI自体は入ってないですけどね』
由梨香のグノメが素っ気なく答える。
『ラムダの代替品として使えるか、と言う意味でしたら、イエスです。同期も終わっていますので、ラムダを外せばそちらで私が機能します。ラムダがプライマリ、ドラゴン型がセカンダリの位置づけですので、二つ付けている場合はラムダが優先的に機能します』
「なるほど?」
そう言いながら、由梨香はポイっとラムダを外した。
「これで、ドラゴンが喋るのかな?おーい、グノメさーん?」
わくわく顔で由梨香が肩の黒い竜に声を掛ける。
『音声テストでもしますか?』
「うわ…ちょっと声合わないな。うーん…声替える事ってできる?」
『音声サンプルを頂ければ、カスタマイズ可能です』
「え?え??まじで?じゃあじゃあこの声で!!」
スマホで、由梨香が録画していたと思われるアニメの動画が流れる。
「推しの声だったら、こいつがなんか毒舌になって来てるの、許せる気がする…むしろ萌えますけど!?」
『…大体理解しましたが、ちょっと音声サンプルが足りませんね』
「うわーん、ここじゃWi-Fiもないしデータ取れないよ。ちょっと湊太の部屋借りるね」
由梨香は肩のドラゴンをむんずと掴むと、さっき放り投げたラムダと共に暖炉の上に置く。
「一旦戻ってくるね」
由梨香はトランポリンで軽くはねると、地球へ戻って行った。
「面白い事してんなあ」
本を読みながら、秀人がふふっと笑った。
「シュートもカスタマイズする?」
「いや、俺はこのままでいいや。湊太はどうなんだよ」
「…俺もこのままでいいな…それよりも、クリップ型のって、つけたまま地球に帰りそうで怖いな」
湊太は先程買ってきたクリップ型の物をポケットから出す。
『この部屋でラムダを外した段階でクリップが棚にない場合、警告するように設定しておきますか?』
普通に会話に参加してきたグノメに
「うん、そうしといて」
と湊太も当たり前のように返事をした。
『今のうちに一度襟元に装着してください。追加機器の設定をしておきましょう。前回のレンタル品の方は解除済みです』
「さすが仕事が早い」
湊太がクリップを襟元に挟むと、すぐに次の指示が来た。
『一度、ラムダを外して手に持つかポケットに入れてください。体からは離さないで下さい』
「これでいい?」
『問題なく稼働しています。初期不良もなさそうです。もう元に戻していただいて構いません』
クリップの設定が終わったころ、由梨香が戻ってきた。
「とりまファンサイトからまとめシーン落としてきた!とくと聞くがよい!」
肩に龍を載せつつスマホから推し声優の声を流す。たっぷり2分ほど流し終わった後
『…これで良いですか?』
「おー!」
完全に声優の声をコピーした暗黒龍に、3人同時に声をあげた。
「でも…いや!この声でしゃべるときはもうちょっと上から来て欲しい!こっちの時は敬語禁止で!口調もさっきの真似て~!」
由梨香とグノメの会話のせいで、秀人の本を読む手は完全に止まり、肩がプルプルと震えている。
『こうか?』
「それ!」
その後由梨香は目を閉じ、しばらく両手で口を押えていたが
「グノメの呼び方の変更は可能?」
と聞いた。
『可能だ。逆にこちらではグノメのまま使っているヤツの方が珍しい』
「はう~!じゃあ、こっちの時は暗黒龍って呼ぶ!」
『了解だ』
「ああ~!めっちゃ楽しい」
―――うん、ユリカが楽しそうで何より。
湊太は時計を確認した。そろそろ戻ってゲームの時間のはずだ。
秀人から送られてきていた「本の読む順番おすすめリスト」を眺めながら、次に読む本を山から探し出すと、
「夜にでもまた読みに来るか」
と独りごちた。
春休みが終わらない…




