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しらないところで  作者: 南 紅夏
春休み編

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「星の娘にまつわる伝承」 栞3・4

久々に湊太の読書タイム。3代目巫女周辺のお話です。

本 『星の娘にまつわる伝承』


3つ目の栞


第一部 


 3代目アステリアが就任して、間もない頃の話である。


 首都アリアの街中で、とあるエルフ夫妻、初代アステリアの親戚筋といわれている家に、とても美しい女の子が生まれた。

 オリビアと名付けられたその子は、両親がエルフだったにもかかわらず、生まれつき短耳だった。


 夫は妻の不貞を疑ったが、そもそもエルフの女性から人間の子が生まれる可能性は限りなく低い。結局、子供が短耳で生まれた原因は不明だった。


 その後検査の結果、オリビアは短耳でありながらエルフと言うことが分かった。

 実子と言うことが証明された後、オリビアの両親は戸惑いながらも娘を大事に育てた。


 だが、エルフとしては異形という扱いになってしまう。

 両親からは愛されたが、親族の子供同士が集まると、心無い言葉が浴びせられる事も多かった。

 しかしオリビアは周囲の声など気に留める様子もなく、悪意ある言葉を飄々と受け流していた。

 生来誰かと遊ぶよりも、一人で野山を駆けまわることを好む性分だった為、周囲がどう思おうとお構いなしで一人森に入っては遊んでいたのだった。


 その娘が特殊だったのは、『入ってはいけない場所』に入ってもドラゴンが見向きもしなかったことだ。噂に過ぎなかったが「アステリア様専用のスタードラゴンに乗っていたのを見た」と言う者も現れた。

 そんな折、彼女を追って森に入ってしまった子どもが、ドラゴンに消されるという事件が起きてしまった。それ以降「関わってはいけない子」、「悪魔の子」などと揶揄され、周囲からは距離を置かれるようになっていった。


 成人の扱いになる年頃になると、オリビアは一人でふらふらと遠くまで旅に出るようになっていた。

 大変美しく育ったため、両親は娘の一人旅を大変心配したが、『入ってはいけない森』に入り寝泊まりするので、当然暴漢に会う事はない。彼女は一人でも、誰よりも安全に旅をしていた。


 オリビアが一人ブリナの地に渡ったころ、星の異変が噂されるようになった。現在はこの星の誰もが知っている災害、ブリナ山脈の火山噴火による大洪水である。


 星アステリアから齎された不確かな火山の情報を精査するため、首都アリアではブリナ山脈への調査隊が組織された。自然を読むのに長けた、エルフがほとんどのチームである。

 出発の日、ブリナの地へ渡る調査隊へ、巫女アステリアから星の言葉が伝えられた。

「先にブリナの地に渡っている、オリビアと言う耳の短いエルフを探して、同行させてください。彼女と一緒であれば、『入ってはいけない森』に入ることが叶いましょう」


 調査隊がブリナの地に到着すると、ブリナ州都ブランカの地方政府の庁舎前に、明らかにそれとわかる美しい娘が立っていた。

「オリビアさんですか」

 調査隊の隊長が尋ねると、娘は黙って頷いた。


 オリビアが調査隊に加わってから、地震は頻発していたものの道中は動物に襲われることもなく、『入ってはいけない森』に入ることも可能となり、当初は実に順調に進むことが出来た。

 しかしオリビアは今まで人と関わらず生きて来たため、十人以上の見知らぬ他人との旅は精神的に大きな負担を強いられていた。その時、彼女自身無意識のうちに、調査団全員に精神的攻撃を仕掛けてしまっていたようである。


 彼女が仕掛けた精神攻撃とは、禁忌とされる「魅了(チャーム)」である、とされている。

 昔話には出てくるものの、実際に使えるエルフ自体が確認できていないため、存在すら疑わしい力である。「風」の力に類するものだが、彼女の力は非常に強く、洗脳に近かったとも言われている。


 目的の火山を発見する頃には、調査団全員が彼女に惚れ、または心酔していた。女性隊員でも惚れこんでしまっていた、と言う噂も残っており、それがこの話の信憑性を高めている、と考える研究者もいた。


 ある者は下僕のようになっていた。

 ある者は彼女の姿を見るたびに口説いた。

 ある者は常にナイトのように彼女を守った。

 ある者は物陰から、ずっと彼女の姿を追い続けた。

 そんな数多の噂だけが残っている。


 実際には調査隊は火山の位置をマッピングし、噴火が近い事も確認し、噴火の予想日まで算出して戻ってきているので、仕事はきちんと成し遂げているのだが。


 調査を終え州都ブランカに戻った調査隊は、その後アリアに戻って報告を終えたのちに、解散の予定だった。

 アリアに向かう船便に乗り込む際、一人でブリナの山に戻ろうとしているオリビアを引き留め、何人もが彼女と一緒にアリアへ戻ることを望み、説得した。

 最終的に、調査隊の隊長がオリビアにプロポーズし、彼女がなぜかそれを受け入れたため、全員で首都アリアに戻ることになった。


 アリアに戻った後のオリビアは、実家には一度も戻る事なく、元隊長の家に身を寄せた。

 だが、そこで彼女は更に酷い噂に晒されることになる。

「何人もの男を手玉に取り、弄んだ稀代の悪女」といった噂である。

 それでも元々他人の噂など気にしない性質だったので、どこ吹く風という顔でオリビアはまたふらふらと一人旅を繰り返していた。


 移住先の星を探す探査船が飛び回りはじめてしばらくたった頃、オリビアは妊娠していることに気付いた。

 その後は旅に出ることをやめ、夫となった調査隊の元隊長の家で大人しくしている日々が増えたのだが、その頃彼女の心理に大きな変化が起こる。


 今まで何ともなかった他人からの中傷や噂が、子供のころからのものも遡って彼女の心に突き刺さり始めたのだ。

 過去に浴びた心無い言葉に、今もその辺で噂されている悪女のレッテルに、涙が止まらない日々が続いた。


 やがて彼女によく似た娘が生まれた。やはり短耳で、そしてエルフの子だった。


 数週間後。

 噴火の危機が迫り、移民船の出発が迫ったころ、ようやくオリビアの両親は彼女と再会することが出来た。二人はずっと娘を探していたのだが、まったく連絡がなかったため、今まで会いたくても会えなかったのだ。

「あなたはここに残れるのよ、丘の上のお屋敷に一緒に行きましょう」

 オリビアは、彼女を迎えに来た両親の言葉に首を振り、

「ここにいたら、いずれまたこの子が、私のように心無い言葉を浴びせられてしまう」

 と言って涙を流すと、夫の手を取り、生まれたばかりの赤ん坊と共に移住船に乗り込んだのだった。


 その後の彼女の足取りは途絶え、不明なままである。






4つ目の栞


第二部


 ここからは、3代目巫女の告白である。


 取材時期:洪水が引き、人々がアステリアに戻り始めた頃

 インタビュアー:当時のグラーティア家当主




 ―――探しているという「娘」の事を教えてください。


 私が、その「娘」…オリビアの存在を知ったのは火山が活動に入る前、地震が頻発し始める直前です。

 火山の調査隊を向かわせようという話になった時、当然周囲は『入ってはいけない森』ですから、調査が難しい、と。

 すると星様が「私の娘を同行させれば大丈夫」と言い始めました。


 ―――星様の…娘、ですか?


 はい、だから私も意味が分からなくて。

 よくよく聞いたら、初代巫女の親戚筋の中で、一番見目麗しい娘の腹の子に、自分の一部を埋め込んだなどと言い始めまして。だから、私の子だと。

 なぜそんなことをしたのかと問い詰めましたら、周期的に火山が活動しそうだと感じたので、ちょっと自分の目で見て確認したくなったと。

 星様に当然目はありませんが、目の代わりになる動物や昆虫は沢山いるでしょう?でも、違う、自分の目で見たくなったと無茶な事を言い始めて。

 私が知った段階ではもうその娘、オリビアは成人していて、既にブリナの火山まで一人で行って見てきた後だったんです。働いていたわけでもなかったので、船便代などはどうしたのかと聞くと、巫女同様スタードラゴンに乗れるので問題ない、と。


 ―――それ以外にも宿泊や食糧の問題もあると思うのですが。


 そうなんです。それについては、「魅了」の力を付与しておいた、色目を使えば大体何とでもなる、と。そのために見目麗しいとされる夫婦を選んだのだと。

 思い返せば、就任直後に聞かれていたのです。初代の親戚筋で美男美女の新婚はいないか、と。こんなことになるとは思っていませんでしたから、巫女に就任する直前に直接私がお祝いに行った夫婦の話を星様にしたのです。初代アステリア様の妹の孫が、それはもう綺麗な奥様を迎えていたと。

 星様の性格を受け継いでいたなら、恐らくマイペースで周囲に迷惑を掛けたのではないかと思うのです。私の発言でそんなことになっていた事、それまで気付いていなかった事も、あのご夫婦に申し訳なくて。


 ―――星様の代わりを務めるのは、巫女様の役割では?


 はい、私もそう申し上げました。

 でも私がブリナまで行ってしまうと、星様の声は私には聞こえますが、私からの声が星様に全く届かなくなってしまうのです。

 就任直後に一度、「外で色々見てみたい」とおっしゃったので、実験的に私の体をお貸しして、憑依して外出してみた事があったのですが…『星の塔樹』が見えないところまで移動すると、完全に星様は私の体から抜けてしまったのです。だから、「巫女はこの『星の塔樹』から動かさず、この星中を好きなように動き回れる分身が欲しかった」とおっしゃって…。


 ―――でも、オリビアは移民船に乗ってしまった。そして、今でも戻ってきていないと。


 出立前のオリビアは出産直後で、身籠ったあたりから別人のようになっていたと聞きました。

 あくまで私の予想なのですが、エルフは特性上あまり多くの子を産まないようにするという暗黙のルールがありますでしょう?先の事を考えて、「分身」は、赤子の方に移ったのではないかと思うのです。「分身」が自由に動けるのであれば、何が何でもこの星に残る選択をしたはずなのです。彼女には「入ってはいけない場所」などないのですから。

 自由の利かない赤子だったから、移民船に乗せられてしまったのではないかと思うのです。


 ―――そして、星様は「分身をこの星へ戻してくれ」と言っているのですね。


 移民船の船長が残って探してくれていますが、そもそも地球行きの船に乗ったかどうかも分かりませんので…

 地球と言う星は、この星ほど主張をしない、大人しい星らしいです。対話が難しい、とも言っておりました。

 向こうの星の協力を得るのが難しいとなると、人海戦術しかございません。しかも、見た目が普通の人間と同じような短耳となると、かなり難航するのではないかと思われます。




 このインタビューの直後、長きに渡った星団戦争が終結を迎える。

 そこから5千年が経過した現在、「分身」の残滓を持った者が地球で2名見つかっただけである。

「分身」そのものの行方は、未だに分かっていない。




補足:秀人メモ 「リンク見て」↓


「エルフの暗黙のルール」について


 800年から1000年生きるとされるエルフは、個人差はあるものの10~15歳くらいで出産可能になる。この辺りは人間と大差ないのだが、可能な限り子供を産み続けるとして、1年に一人産んだ場合、エルフ女性は一生の間に、一人で最大500人近く産めるという試算がある。

 母体も家計も持たないので実際にはあり得ない話ではあるが、もし長命種がそのような無計画な出産を繰り返した場合、人口爆発と食糧難が訪れ、星一つをたやすく食い潰してしまうことは想像に難くない。

 よってエルフの女性たちは、一人の夫に対して二人の子供まで、という暗黙のルールを守っているのである。

栞4の「元ネタ(?)」を、Annexの方に掲載予定です。

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