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しらないところで  作者: 南 紅夏
春休み編

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「巫女姫の歴史」 栞1・2

湊太の読書タイムに、お付き合いください。

 本 『アステリア、巫女姫の歴史』


 1つ目の栞


 第一章 アステリアの成り立ち


 移住にまつわる伝承


 長きにわたる星間戦争で、戦火に巻き込まれて星から星へ移住するものが多かった時代。

 旧歴7700年代の後半、破壊予告を受けた星『フェイラント』の民がウーロ星系の居住可能星、『ドラゴンの支配する星』(現『アステリア』)に強制着陸を試みた。


 過去にも同様に上陸を試みた者はいたが、全て黒いドラゴンによって消滅させられていた。

 『フェイラント』でも星との会話が可能だった一部のエルフ族からの情報では、『ドラゴンの支配する星』の声は聞き取れるが、こちらからの声は届かないとの事だった。


 その船団に、ある母子がいた。

 母の名はアステリア。


 星の重力圏に入った段階から

「帰れ」

「出ていけ」

「お前たちの住む場所はない」

 と怒りに満ちた声が常に一部のエルフたちの頭に響いていた。


 黒いドラゴンが彼女たちの乗る船に迫った時、更に声は大きくなり

「出て行かぬなら消えろ」

 と脳も心臓も潰されるような圧が掛かった。


「何でもします!お願いします、この子たちを殺さないで!」


 3人の娘を抱きしめ、死を覚悟しながら叫んだアステリアの声は、なぜか星に届いた。


「なんでも、と言ったな」


 星の声なのか、黒いドラゴンの声なのか分からない。

 しかし、アステリアの叫びに返答があったのだ。

 彼女は、星に言質を取られたのだった。


 そのまま、星に指定された場所に降りた船は、攻撃を受けることなく着陸した。

 指定された場所以外に着陸しようとした船は、地上に着く前に消滅させられた。


 アステリアの乗る船が着陸すると、船のすぐそばに白いドラゴンが現れた。

 白いドラゴンは彼女を乗せると、『星の塔樹』と呼ばれる大樹へ飛び去った。

 その後、アステリアは『星の塔樹』に住み、星と人とをつなぐ『巫女』となった。



 編集者注:

 この『星の塔樹』周辺は、アステリア星の「耳」か「脳」にあたる部分と考えられている。

 実際は星に声を伝えることが可能な者は複数いたと考えられており、たまたま巫女アステリアの乗った船が『星の塔樹』近くにいたために声が届いただけだと唱える者もいる。

 その説で言うと、彼女が巫女に選ばれたのは偶然だという事である。




 2つ目の栞


 3代目アステリアの時代の事である。


 シエル、ルーナ、ブリナの3つの行政区のうち、北の大地にあるブリナは、雪や氷に閉ざされた、アステリアの中でも最も寒い地方である。

 しかし、比較的広大な「住むことが許された場所」が点在しているため、住民は首都アリアに次いで多いのが特徴だ。


 ある頃から突然、星が急に意味不明の言葉を巫女に伝えるようになっていた。内容としては

「体が悪い」

「そろそろまずい」

「逃げた方が良い」

 などと言った、断片的なものであった。


 何度も詳細を問う巫女に対し、星は上手く伝える言葉を持たない。

 何年かそんな問答を繰り返した後、星は、巫女に過去の記憶を見せた。

 それは、かつて星に住んでいた動物たちの見た、遥か過去の『星の記憶』だった。


 ブリナにある広大な面積を占める北ブリナ山脈の中にある、比較的小さな山。

 それがある日突然隆起し、崩れ、火を噴いた。

 遥か高くまで登る噴煙、飛び散る焼けた巨大な岩石。

 そして、それはブリナ地方のすべての氷山を溶かし、星の低地全体を呑み込む大洪水に発展していった。


 記憶を見た巫女は、自らの知識に当てはめ、それが火山だ理解した。念のため識者を呼んで『星の記憶』を映像として共有する。皆の見解は一致した。北ブリナ山脈の中心は、活動周期のとても長い活火山だと結論付けられた。

 念のため、山岳部へ派遣する調査隊も組織された。


 アステリア星自体は比較的高台の多い星である。

 それにより、『星の記憶』では実際には水没していない場所もかなり多かったが、そこは人類には『住むことが許されない』場所ばかりだった。

 巫女は洪水の間だけでも、と住民の高台への一時的な避難を願ったが、星が許す事はなかった。


 その頃からブリナの周辺では地震が頻発し始めていった。

 天変地異の訪れを予感し、恐れるものも日々増えていった。


 高台への移住が認められない以上、他の星に移住や避難を考えるべきだったが、星団全体は未だ戦火の中にあった。ドラゴンに守られ、比較的平和に過ごしていたこの星の住人には、星団内に頼れる場所などなかった。


 避難先候補として挙がったものの一つが、アステリアと同じウーロ星系、アステリアのすぐ外周に位置する『ララカリブス』と呼ばれる星である。

 探索船による調査で、微量だが酸素があることが判明しために、多少の調整が必要ではあったが移住可能な星として扱われた。

 ただ、ララカリブスは大変寒い星であり、小さいが超重力星であったため、全ての人種には向かず、移住できる者はごく一部に限られた。


 手の届く範囲では、移住できる場所は全く足りなかった。

 外宇宙に探索を開始し始めた時、星は巫女にドラゴンの持つ空間移動の技と、それを再現可能な石の話を巫女に伝えた。今でいう、アンバーゲートの原料である。


 急ピッチで移住者運搬用の船、星から教えられた材料を使った巨大ゲートが作られた。

 ゲートはすぐに完成して、探索船と共に宇宙へ飛び立った。船はゲートの片割れをアステリア軌道上に設置し、もう一方の片割れを積んで、遠く外宇宙へ探索を開始した。


 探索船はエネルギーや食糧切れ限界まで飛ぶと、そこでゲートを組み立て、そのゲートを使用して一度アステリアに戻る。物資を補充し要員を交代して再び飛び立ち、ゲートを回収しては距離を伸ばす、を繰り返し、数年かけてようやく水と空気のある星に辿り着いた。


 時を同じくして移住者運搬用の船が完成し、ようやく住民たちは旅立った。

 船に乗るサイズの動物たちも、なるべく多くの種類、雌雄を乗せて。

 星が警告を始めてから、既に10年以上が経っていた。


 出発の日。

 巫女は移民船の船長に、小さいゲートを1つ託し、彼らを見送った。


 アステリアに残ったのは、巫女アステリアと『星の塔樹』に住む巫女付きの者。丘の上の高台に住む、初代巫女に連なる一族とその関係者。それらの僅かな者たちだけだった。


 そしてほどなくして火山は噴火し、ゆるゆると海水面が上昇しはじめた。

 星の記憶と同じように、洪水は起こった。


 噴火はしばらく続き、静まってはまた噴火を繰り返した。

 ようやく噴火が収まるころには、山脈は元のものとは全く違う形になっていた。

 地熱が下がり、低地を覆いつくしていた水がすべてブリナの山に雪となって降り積もるまで、実に20年近い月日が掛かった。

 水が引いた後、『星の塔樹』の周りは更地になっていた。


 その後、船長の持っていたゲートを通り、何人もの住民が戻ってきた。移住先の星に散り散りになり、戻ってこなかった者も多かった。

 船長は、「帰りたい人が現われる限り、ここで待ち続けます」と言ってその星に残った。


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