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しらないところで  作者: 南 紅夏
春休み編

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21/143

街へ繰り出そう

 その日は、部屋登録をして帰ることにした。

 日本時間で17時半、戻るには丁度いい時間とも言えた。


「まあ、湊太と一緒にしか来ないと思うから、外の個室貰っても良いんだけどね。…うーん、逆に泊まるとかもないと思うから、やっぱこっちにしとくか」

 うんうんと唸りながら、由梨香が部屋を決めた。


「グノメさん、この部屋にする!部屋登録ってどうすればいいの?」

『今この場で、この部屋の権限を持つのが湊太様だけです。湊太様が了承すれば、登録完了です』

 由梨香のグノメがそう告げると、湊太の目の前に「シライシユリカの部屋登録:許可しますか?」と現れた。

「『様』やめてよ…え、口頭でいいの?イエスで」

 様呼びは、ぞわぞわするのでやめてもらいたい。

『ツチダの部屋にシライシユリカが登録されました』


 続いて、秀人のグノメがしゃべり始めた。

『秀人様の部屋登録が未完了です。この部屋への登録をお勧めします』

「じゃあ、俺もここで。それと、俺も『様』呼びやめて…」

 再び湊太の目の前に部屋登録のディスプレイが現れたので、

「イエス!」

 と元気に答えた。




 その後、ゲートを通って地球に戻った。

 湊太の助言を聞き、秀人は呪文のように

「前に飛ぶ、前に飛ぶ…」

 と言いながらトランポリンで跳ね、今回は無事に一人で戻れた。

 秀人の様子を見ていた由梨香は、

「ああ、そっか。角度が違うからか…」

 と言いながら人差し指をひらひら動かしていたが、難なく跳ねて戻ってきた。


 戻ってから、新しいPCで一試合でもしたい、と由梨香が言ったので、30分だけ戦った。

 高性能PCとつよつよ回線で無双する由梨香は、とりあえず「最強」だった。


 明日も二人が来ることになったが、目的はゲームなのか、アステリアなのだろうか。

 由梨香は

「どっちも!」

 と言い、秀人には

「どっちもだけど、俺的にはアステリア比重多めで」

 と言われてしまった。


「明日はアステリアで何するか、考えとこうぜ」

 などと話していると、由梨香の母がパート帰りのその足で迎えに来てくれた。


「…しばらく、ソフィアは来ないかもね…」

 帰り際に、静かに由梨香がつぶやいた。

 そうかもしれないな、と湊太も思った。




 翌日曜日。

 湊太達3人は、いつもより少し早くアステリアに降り立った。

 言われてみれば確かにそうだったのだが、秀人はトランポリン使用の入国は初めてで、いきなり着地に失敗していた。

 トランポリンのフレーム部分に落ちて来て、転んだのだ。

 先に飛び込んでいた由梨香があきれている。

「なんで転がった?」

「いや…またちょっと考えすぎた…」


 そして、今日は入るなり部屋の違和感が半端ない。

 部屋のゲートに近い方の円卓の上に、何故か大量の本が置いてあった。

「え、何この本?読んでもいいのかな。…うっは、やっぱ読めねー」

 秀人がすぐに手に取って開いてみたが、当然読める字ではない。


 それぞれがラムダを装着すると、それぞれの目の前に、勢いよくディスプレイがパパっと立ち上がった。

『湊太に、大牙からのメッセージをお預かりしています』

『秀人に、レビからのメッセージが届いています』

『由梨香に、ソフィアからのメッセージが届いています』


 どれもそれなりに気になる個別メッセージだったが、ソフィアの名前があったことに驚き、湊太も秀人もものすごい勢いで由梨香の方を振り返った。


「…来ない…と思ってたのに」

 由梨香もかなり怪訝な顔つきだ。二人の顔を交互に見ると、覚悟したように

「ソフィアからのメッセージ、開封して」

 と言った。


『ユリカ!約束だよ、街に行こう!回廊の奥のホールで待ってるよ。そっち行くからホールのドア開けて!』

「!?」

 3人が顔を見合わせた。


「回廊んとこの広間で、今現在待ってるって事?」

 秀人が目を見開いて、見えるはずもないがホールの方角を見る。


『要返信メッセージです。どうしますか?』

 と由梨香の目の前にディスプレイが現れる。

『無視・開封通知だけ送る・メッセージを送る・通信する、などの選択肢があります』

「うーわー、どうしようもないじゃん!そりゃ、街には行ってみたかったけど!」

 由梨香が頭を抱えて座り込んだ。えらく懐かれたものである。


「…今からドア開けに行くって伝えて」

 グノメに指示を出しながら、由梨香は部屋を飛び出していった。




「ん…と…。え?まあ、レビさんの開いてみるわ」

 気を取り直して、秀人がメッセージを開封する。


『趣味に付き合わせて申し訳ないが、こちらの伝承にまつわる本などを置いておく。読んでみて、地球に似た話がないか、似た話があったら教えて欲しい。

 趣旨としては、地球にこの星のエルフたちの末裔がいないか、足跡を辿り、可能であれば探したいのだ』


「…?」

 湊太は、ぽかんとした顔で秀人を見た。秀人は口に手を当てて、難しい顔をしている。

「グノメさん、今のもう一回聞かせて」

 難しい顔のまま、秀人がメッセージをもう1度聞く。


「…言いたいことと、やりたいことは大体わかった。でもなあ、俺めっちゃ偏ってるじゃん?世界の童話とか寓話とか、別に網羅してないし。なんか北欧とかヨーロッパの人、捕まえた方が早くない?」

「確かに」


 地球に、今もエルフの末裔がいるかもしれない。レビはそれを探したいという事なのだろうか。

 そして、地球とアステリアに似た昔話があったら、それが手掛かりになるのか。

 秀人は何かわかっているようだが、湊太には全く分からない。


「ふー。こりゃ、俺もこっちに住みたいなら、お勉強して役に立てって事なのかな。…グノメさん、レビさんに連絡を…。

 ああ、レビさん、メッセージ聞きました。これ、日本人の俺より、北欧の人とか適任者いるんじゃないかと思うんですけど。少なくともまだソフィアのが近い」

『だから、あえてヒデトなんだ。そちらの方はもう既に前任者が調査済みだ。思った結果が得られなかった、だから切り口を変えたいんだ』


 ―――前任者?家督と共に引き継いだ調査って事?じゃあ、それって趣味じゃなくて当主の仕事じゃないの?


 レビの言葉が引っかかったが、秀人とレビの会話だ。湊太はそのまま傍観者を決め込む事にした。


「じゃあ、俺の視点で、でいいって事なんですね?」

『そういう事だ。このために、地球でわざわざ文献を当たってもらう必要はない。興味が出て、調べたいなら全然やってもらって構わないがね。ああ、絶対読んで欲しいところは印をつけてる。あと、3人共。ソータやユリカにも読んで欲しいところもだ』


「えっ?俺も?」

 他人事と思って聞いていた湊太は、急に名前が出て慌てて本の山を見た。よく見ると、色の違う栞があちこちに挟まれている。


『本当は、一応ソフィアにも見て欲しかったのだが、当分来ないんじゃないかと皆が…』

「ただいまー!ソフィア連れてきた!」

『!??』

 由梨香の声が部屋に響くと、画面の向こうで、レビが今までに見たことにないような面白い表情をしていた。




「…今から、二人でお出かけすることになりました…」


 由梨香が、何とも言えない半笑いのような顔で言った。

 レビとの通信を終えて、秀人も女子二人を見ている。昨日の件のせいで、ソフィアにどう声をかければいいのか困っているように見えた。

 ソフィアの手にはコートが掛かっていて、かなり上機嫌でニコニコしている。本当に、昨日の今日とは思えない。


「それは、さっき聞いてた。どうやって行くの?下の町まで結構距離ありそうじゃん。この家のどこかにゲートあるんだよな?ハルカさんが言ってたやつ」


 どういう計画なのか分からず、湊太は由梨香の顔を見る。

 昨日のハルカ劇場で、この家と病院を結ぶ使用許可が必要なゲートがあると言っていた。

 小遣い云々はグノメに聞けばわかると思うが、見知らぬ街だ、案内人は絶対に確保したいところだ。


「違う。池袋行きたいって」

「…は?」

 秀人が目をぱちくりさせて、湊太の方を見た。

「え?日本?なんで池袋?」


 ―――今からゲート使って、俺の部屋経由池袋ですかー!???


「なんか、薄い本…買いたいんだって」

「まじですかー!!!」

 由梨香の疲れ切ったため息に、湊太は思わず叫んでしまった。


 ―――ソフィア、そっち系!?


 湊太に海外のオタク事情なんか分からない。少なくとも、学校などの身の回りにいる薄い本好き系で、こんなロックな雰囲気の子は知らない。

 しかし、格安航空券もびっくりの渡航方法だ。静電気お布施すれば海外旅行に秒で行ける、こういう使い方は想定してなかった。超絶お手軽な、バリバリの不法入国だ。


「え、あ、ちょっと…ちょっと待って?ちょっと話通してくる!」

 湊太はとりあえず下敷きで静電気を起こす。

「私も池袋なんて知らんわ。…まじかー!うあー…今から捕まるかな。助っ人用意してくる」


 湊太がゲートに飛び込んだが、あまりにも慌てていたのでラムダを外し忘れていた。

 深い青のラムダがぽたっと落ちて、由梨香の足元に転がってきた。

「もう湊太慌てすぎ!…まあ、しょうがないか」

 湊太のラムダを拾うと、自分のラムダと共に暖炉の上に戻し、由梨香もゲートに飛び込んだ。


「トランポリン、ちょっとやってみたかったんだ~!私のもここに置かせてもらうね。どうせ戻ってくるのココだし」

 そう言いながら、ソフィアは自分の白いラムダを外そうとしている。

「待てソフィア!…そのごっついブーツ、脱いでから行け」

 話が通じなくなる前に、秀人は辛うじて言いたいことを1つだけ言えた。




 地球に戻ると、取り急ぎ湊太は部屋から母に電話を掛けた。

 なぜか夕湖は慌てもせず、てきぱきと指示をしてきた。

『話は聞いてる。今、朝海いないから、ユリカちゃんとソフィア連れて降りて来て。駅まで送る』


 ―――どこから何を聞いた。


 会話途中で、由梨香が引き出しから飛び出してきた。

 そして戻ってくるなり、慌てて誰かに電話をかけている。

「…あ、『なのは』?今ヒマ?ちょっと急で悪いんだけど、池袋行きたいって子がいてさ。私全然案内できないから」


 由梨香に続いてソフィアも湊太の部屋に飛び込んできた。

 ソフィアは今日は靴を脱いで抱えている。秀人が止めてくれたことを察して、湊太は心の中で秀人に最大限の感謝を叫んだ。


「うん、ありがとう。じゃあ、駅で待ち合わせね。こっちも今から向かうから」

 由梨香が電話を切った。

「ナビゲット」

 ほっとした表情で、由梨香はとても大きなため息をついた。


 そのまま二人を連れて階段を降りると、玄関先で夕湖が靴を履いた状態で待っていた。

「じゃ、車で二人、駅まで送ってくるね。それと、ソフィアは初めましてだね。これ持ってって」

 夕湖がソフィアに交通系カードを手渡していた。

 そして、既に夕湖のスマホは翻訳アプリが起動中だ。

 画面にドイツ語と思しき文字が、つらつらと表示されて行き、それを覗き込んでソフィアが「ヤー」とか「オーケィ」と言いながら頷いていた。

「これで電車乗れるから。使い方は由梨香ちゃんに聞いて」

「…そっか、これから会話が翻訳アプリ頼みかー!」

 夕湖のスマホを見て、由梨香が絶望的に叫んだ。


「ここから片道1時間強かかるから、あんまり遊ぶ時間ないかもだけど。…戻り時間合わせるよ、湊太も6時には戻ってきて。だから部屋にはカギはちゃんとかけといて」

「わ、わかった」


 日々、人生何が起きるか分からない。

 今日も何だか由梨香に悪い事したな、と思いながら湊太は部屋に戻り、言われた通りに鍵を掛けると、下敷きを手にゲートを起動した。

湊太達の住んでる場所は、神奈川。うっすら鎌倉から藤沢あたりを想定してます。

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