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しらないところで  作者: 南 紅夏
春休み編

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20/163

第六天魔王

 湊太達と大牙の四人は、思わず拍手をしていた。

 ハルカが残していた実際の映像や記録もあり、それをところどころ差し込みながらの昔話は、臨場感たっぷりで一本の壮大なスペクタクル映画か何かを見た気分だった。


「ちょっと…ハルカさん、人生がスタートから波乱万丈すぎて…いや…レビが面白すぎる」

 現実に戻って、大牙の第一声はそれだった。

「違うでしょ、レビのダメっぷりは面白くないのよ」

 ハルカはぷんすこ怒っている。

「それよりも、ちょっとサロメさんの衝撃でかすぎる…まさかの正体」

 秀人も、みんなの顔を見回しながら、まるで映画の感想でも語り合うような雰囲気だ。

 由梨香は頬に両手を当て、目を見開いていた。

「生みの母、ちょっと…人の親に対してあんまり失礼な事…色々言いにくいけど、うわあ…なんだかなあ」


 みんなが内容に色々意見を言っている時だったが、湊太はハルカのブレスレットの方がずっと気になっていた。

「今の映像とか、全部そのブレスレットですよね?」


「ああ、これ?そう、ラムダと同じコンシェルジュアイテムだけど」

 ハルカが、セミロングの黒髪を耳にかける。彼女は髪の毛とほぼ同色の、目立たないラムダをつけていた。

「私は普段はラムダ使わないの。地球の人とか、他の星の人と会話するときだけだね。仕事的に、顔周りにガジェット着けられないのよ。一発でドラゴンに取られてウェーイされちゃうからねー。例のいたずらっ子、シルワヌスなんか絶対にウェーイするわ。だから、ドラゴンに取られにくいヤツ。こっちが常用」

 そう言って、銀色のブレスレットを見せてくれた。


 ―――ドラゴンがウェーイ?ガジェット奪われて、ドラゴンがアイテムパスで投げ合うとか、そんな感じ?


 ドラゴンにヤカラれるとか、絶対に取り返せる気がしない。もしくは即破壊されそうだ。

「うーわー、アンカードラゴンって会いに行ってみたかったけど、ラムダじゃダメかー!」

 がっくりと湊太が肩を落とすと、ハルカがうーん、と考え込んだ。

「むー、そうだねー…言語翻訳が常に必要な人の場合は、顔付近に着けれるガジェットじゃないと、会話の時に使いにくいからなあ…」


「他にもガジェットの種類、色々あるんですか?」

 自分たち以外で、ラムダをしている人を見たことがない。まあ、会ったことのある人間は圧倒的にまだ地球人の方が多いのだが。

「レビはピアスにしてるね、ピアスの人多いよ?後メガネの人多いなあ。入国管理官とかは、仕事中は制服とセットのゴーグルにして、プライベートとは使い分けてる。複数持ちで使い分けてる人も多いね」


 あともう一つ、湊太が聞きたかったことがある。昨日のドラゴンの話だ。

「ちなみに…ちなみになんですけど、昨日アステリア様が乗ってたドラゴンはなんて種類なんです?」

「白い子だった?白い子なら、『スタードラゴン・ホワイトパールマイカ』。通常の移動は大体その子なの。基本アステリア様専属の、飛ぶ子は全部スタードラゴンって呼ばれてる。後ろに色がつくの」

 ハルカが左手を広げると、白いドラゴンのホログラムが現れた。間違いなく昨日見た種類だ。


「なんとかマイカとか言われると、なんか車の色みたいだな」

 大牙が何とも微妙な顔をした。


「『スタードラゴン・ホワイトパールマイカ』、略して真珠雲母(キラパール)ちゃん!真珠雲母ちゃんは大人しい子だよ。人語が分かってるとも言われてて、とっても賢いの。

 あと、緑のグリーンマイカちゃん。この子はかなりおっとりね。体力自慢で長距離移動に向いてるの」


 ハルカが左腕を動かすたびに、ホログラムのドラゴンが変わっていく。


「それとめったに見られない朱赤のバーミリオンマイカちゃん!これが見れたら超ラッキーだよー!!でも、この子が登場するときってのは緊急事態、人死にが出るレベルの何かが危険な状態。とにかくスピードが速い子なの。

 …ああ、ダメ!ドラゴンの話になると私どんどん早口になって止まんなくなるの。

 でも最後に言わせて、あと黒のナイトブラックメタリックちゃん!この子は死の裁定者って呼ばれてる。例えばごみの不法投棄とか、とにかくアステリア様が気付いてイラっとする前に飛んでって、放棄した人ごと素粒子レベルに分解しちゃう。塵も残らないってやつだよ、気を付けて!不法投棄ダメ、絶対!

 ごめんなさい、昔ユーコにオタ喋りっぽいキモイやめろって言われたけど、止まんないのよー!でも、私ドラゴンオタクって言われたら否定できない。間違いないもん」


「……………うん」

 全員ハルカのしゃべりに圧倒されて固まってしまっていたが、何とか大牙が一言だけそう言った。

「なんか…元を知らないから何とも言えないけど、翻訳に悪意がある気がするなあ。何その名前。何か車のカラーラインナップ聞いてるような気になって、途中から全然頭に入ってこなかった。特に最後の何?ナイトブラックメタリックって」

 膝に肘をつきながら、大牙がため息交じりに言うと、ハルカが嬉しそうに大牙の方へ顔を向けた。

「え。もう一回言おうか?」

「結構です!」

 食い気味に大牙が止めた。




 部屋のドアがノックされた。

 今度はさっと由梨香が席を立って、扉を開けに行った。

「…あら!?」

「母は、こちらにきていますか?」

 エルフの少女と、人間の少年がそこに立っていた。


「ふわあああ!かわいい~!」

 由梨香が珍しい声色で叫んだので、湊太と秀人も振り返って小さな訪問者を見た。

「うわ、これは…天使か!?」

 秀人がソファの背もたれに向かって、思わず正座していた。


「あれ?ノブナガとマサムネじゃない。よくここにいるって分かったね」

 ハルカが立ち上がると、とことこと少年が入ってきて、ハルカの足にぎゅっと抱き着いた。

「ママの声は、どこにいても私には分かるもん」

 少女の方が、耳をぴこぴこ動かしながら、ドヤ顔で入ってきた。秀人の言う通り、確かに天使かと思うくらいに可愛い幼女だった。小さなクレア、という感じだ。しかし、湊太にはハルカの呼んだ名前の方が引っかかっていた。

 え、さっきなんて呼んだ?そこで情報処理が止まってしまい、状況が整理できない。


「えーっと、ハルカさんのお子さんですか?」

「うん、そうだよー」

 湊太の問いに、にこにことハルカが答えた。

「えーっと…ノブナガって」

「お姉ちゃんがノブナガ、10歳だよ。弟がマサムネ、5歳」


 秀人が額に手をやりつつ、

「おぅ…なんというセンス…」

 と言ってのけぞった。


 ―――誰だよ!こんな可愛らしいエルフに、第六天魔王・尾張のうつけ者の名を与えたのは。


 心の中で湊太は叫んだが、その瞬間ふと脳裏に祖父・耕作の顔が浮かんだ。…いや、考えないことにしよう。湊太は顔の前でぱたぱたと手を振り、浮かんだ顔をかき消した。


「マサムネがお昼寝から起きて、ママは~?って泣き出しちゃって。パパが抱っこしようとしたら、パパ違う、ママが良いって言うから」


 大牙がさっと斜め下を向いて顔を隠した。由梨香も秀人もくるっと顔を背けた。間違いなく全員笑っている。


「ごめんごめん、じゃあお部屋に帰ろっか。じゃあ、お兄ちゃんお姉ちゃん達に挨拶して?」

 ハルカが頭をなでながら弟の肩をそっと叩くと、マサムネと呼ばれた少年は一歩前に出て、ゆるく握った手の平を胸に当て、軽く目を閉じた。

「おじゃましました」

「はい、よくできました」

 ハルカがマサムネを褒めると、今度は姉が一歩前に出て、同じポーズで

「おじゃましました」

 と言った。


「また質問があったら呼んでね。んー…今日はもうちょっと無理かもだけど」

 ハルカが二人を連れて、申し訳なさそうに部屋を出て行った。

 ドアが閉まる直前、ノブナガが

「ばいばい、風のお姉ちゃん」

 と言った。

 由梨香は不思議そうな顔で母子の去ったドアを見つめていた。




 ハルカ達親子が出て行くと、部屋は何だか嵐が去った後のような静けさだった。

「…んー?…あー…今日のそもそものミッションって何だったっけ…?」

 疲れ果てたように湊太が呟く。

「ユリカ連れてくる。とりあえずメインはそれ。それと、昨日まで見聞きしたこと、ユリカに完全に伝えて共有する…ってとこかな」

 秀人はソファの背もたれに頭を乗せて、ほぼ真上を見ている。


「じゃあ、もう今日はコンプリートだ。お疲れっしたー!」

 湊太も秀人同様、ソファの背もたれに頭を預けて、真上を見た。もう、何だか今日はソフィアの件とハルカ劇場とでおなかいっぱいだ。


 由梨香は、ひじ掛け部分にうつ伏せになっていたが、ゆっくりと顔を上げながら

「私としては、白いドラゴンリアルで見たかった。昨日来てなかったの、今更ながらめっちゃ悔やんでる。巫女姫様ってのも見てないし。…あー、あと部屋!」


「じゃあ、もう今日は俺は帰ってもいいかな。…なんかもう、めちゃくちゃ疲れたわ…」

 大牙がふらりと立ち上がると、思い出したようにがばっと秀人が体を起こした。

「あー!大牙さん!エルフの特殊能力の話!」

「あー、そういやそうだったね…昨夜一通り話したから、湊太に聞いて…他はない?」

 大牙は疲れきっていて、とても早く帰りたそうだ。

 湊太は慌てて挙手した。


「はーい!俺、今度でいいんで、大牙さんに進路相談お願いしたいです!」

「え、進路相談?俺に?」

 大牙がちょっと驚いた顔をしている。湊太の目をじっと見返すと、ふっと少し目を伏せた。

「…分かった、またそれは日を改めて、ちゃんと聞くよ」


「あ、いいな!私も進路の話したい!色々聞きたい!」

 ばっと由梨香が両手を上げた。今の大牙に、由梨香からのお願いを断れる訳がない。

「うん、じゃあまたユリカも別の日に…でも、俺で二人の役に立てんのか?」

「立ちます!」

「もちろん!」

 湊太と由梨香が同時に叫んだ。残念ながらハモりはしなかったが。




 大牙が部屋を出ていくと、由梨香ががばっと湊太達の方に顔を向けた。

「エルフの特殊能力って何よ!!!あと、さっきノブナガちゃんが言ってた、風のお姉ちゃんってどういう事!?湊太で分かる話!?」

「…俺が聞いたところでは、ちゃちゃっと電気を起こせるって事だけ。さて、湊太クン?詳しく聞かせて貰おうじゃないか」

 秀人はものすごく冷静っぽく聞いてきたが、膝に肘をつきながら両手で隠した口元が、嬉しそうに緩み切っている。聞きたくてうずうずしているのが、真横に座る湊太には丸見えだ。


「あー…そうか。特殊能力ね…」

 昨夜のクレアの事が頭をよぎる。

 レビには負けるが、湊太も隠し事が上手い方ではない。

 とりあえず由梨香に突っ込まれたらダメだ。なるべく破綻しないように説明する必要がある。


「うーんと、エルフはこの星の力を借りて、電気…というか、ナノとか小さいものが自由に操作できるらしい。例えば俺たちが下敷きこすって静電気起こすって感じの事が、自然に出来る…らしい」

「…そこは、昨日大牙さんから聞いた。もっと、何かあったんだろ?」

「電気が起こせるって事は、水があれば電気分解とかも自然に出来て、可燃性ガスを取り出すことが出来る。ここに電気の合わせ技で、炎も起こせる。その他菌とか、ナノの世界が『見える』、自然に『操れる』らしい…」


 大牙みたいにうまく説明できない。随分下手くそに端折ってしまった気がする。

「面白っ!」

 由梨香が目を輝かせた。

「ごめん、もっと違った気がするけど…大牙さんみたいに上手く説明できん」

 なんだか湊太の説明だと、内容が物凄く薄っぺらくなってしまった気がする。


「魔法じゃないかって言ったら、人間に出来なくて、他の動物に出来ることはごまんとあるって。エルフに出来る事ってのは、生き物の個性って感じに言われたよ」


 由梨香が腕組みをして、うーんと何もない斜め上を見上げた。

「あー、コウモリが超音波出して暗闇で物避けれるみたいな話か。チョウチンアンコウみたいに頭の突起が光るとか。

 言われてみれば、地球上の生き物だって謎だらけだわ。私にはサメの歯の生え変わり、あの永久機関も意味不明だし」


「…すいすい出てくるな。大牙さんは電気ウナギとか光るキノコとか例に出してたけど。知らなきゃ魔法、分かれば化学だって」

 秀人も由梨香を真似たのか、腕組みしつつ湊太を見た。

「はー、なるほどねー。化学で、生物だ。…でも、生物的個性だったら、星の力借りるってのは?宇宙空間じゃ出来ないって事?」

「宇宙は知らん。でも、地球にエルフ連れてってみたけど、上手く操作できなかったって言ってた」

「うわまじか、地球で実験済みか!」

 殊の外、秀人が嬉しそうだ。


「星の力借りてるって事は、この星のがマナとかが強いって事だよな?龍脈とか、ああいう類のモンかなぁ」

「なんか良く分かんないけど、エルフたち曰く『地球は声が小さい』んだとさ」

「声…かあ。確かにこの星の代弁者は元気良くしゃべってたわ」

 昨日のアステリアを思い出したのか、秀人が楽しそうに笑っている。


「じゃあ、『風のお姉さん』の意味を教えてくださいな」

 由梨香が、わくわくと湊太の目を見る。


 ―――う…覚えてたか。


「…なんか、そのナノの世界見れる関係で、人間についてる常在菌とか、化学物質とか、そういうのが見えるらしい。風だと、大牙さんと同じだ。でも…そういや、風が何だか分からん」

「うわ、俺はなんだろ?湊太は何て言われた?」

 秀人がわくわくそわそわと聞いてきた。


 ―――そりゃ、聞くよね。聞いてくるよね…。


「俺は、火と、水と、木って言われた」

 嘘は身を滅ぼす。ここは正直に行くのが正解…のはずだ。

「3タイプ?盛りすぎじゃん。火と水ってなんか矛盾してるね。ある意味最強?」

 由梨香の目が本気だ。何に使えるのか必死で考えているのが分かる。


「最強って思いたいけど…人間にどうこうできるもんじゃなくて、体臭くらいにしか影響出ない話らしいよ」

「ええー…なんだよそれー…」

 あからさまに二人ともがっかり顔だった。


 とりあえずそこでこの話題は終わった。

 面倒なツッコミがなかったことに、湊太はほっとしていた。


 その後、我慢できなかった秀人はハルカに連絡し、「レビか娘に自分のタイプを聞いてくれ」とお願いしていた。

 ノブナガ嬢の答えは

「ふつう」

 だった。

かくとうに弱い。

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