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しらないところで  作者: 南 紅夏
嵐のゴールデンウィーク編

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情報開示は都合のいいところだけ

「美雨、さっきの話の、あんたにケガさせた少年…ディエゴだっけ?」

 羽織ったジャケットの襟を整えながら、五月が顔を上げた。

「マラドーナかよ。五月もテキトーだなぁ、サントスだよ」

「ごめん。…でも美雨にそれ言われるとか、微妙」

 昔の、人の名前も顔も覚えなかった美雨を思い出して五月が笑いだした。

「それもそうやね」

 美雨もつられて笑いだした。


「聞いた限り、その打ち身ってその少年絡みでしょ。知り合いの子供にやられたって言って、話しちゃった方が楽じゃない?」

 カバンを肩にかけ、カフェの出口に向かって歩きながら、五月が情報開示することを提案してきた。

「…確かに!…あ、膝だけ違うけど、そうだね、名前も全然ご近所にいるような名前だし」

「ディエゴの写真は?持ってる?」

「だからディエゴ誰やねん!?サントスだって!ある…けど、多分ママが一緒に写ってる奴多いな」


 店の外で、出入り口から少し離れた場所に立ち、美雨が写真アプリを開いた。

「え?見せて!わあー!タマラ本物っ!え、すっぴんか?こっちのが美人じゃん!…じゃなくて、今すぐフォルダ作って。あ、氷河兄。なんかセレブぶってて腹立つなー。これはもう論外、捨てたくないならすぐ見られないように分けてフォルダに放り込め。え、あ、これが娘?やべー、ママによく似てんな。これも隠して。写真は念のためだよ、言われるまでわざわざ見せる必要はない。…で、嘘はつかなくていいから、今ある痣の事実だけを言う。言いたくないところは全部言わなくていいの。…それなら出来るんじゃない?」

「…出来る!それなら出来る!」

 美雨はパッと笑顔になると、五月に指示されるがままにフォルダを作り、そこに次々と氷牙絡みの写真を放り込んでいった。


「嘘も隠しごとも下手なんだから。…美雨が隠し事すると、アホみたいに暗ぁい重ぉい顔になるから。大牙たぶんかなり焦ってると思うんだけどね」

「そ…うかも…そうだったら申し訳ない」

「振り回してやりゃいいんだよ。いい女は追っかけられてナンボでしょ。…じゃなくて、疑心暗鬼ズンドコに陥って自滅しろあいつ」

 今まで黙って二人のやり取りを聞いていた里菜子が、苦々しい顔でそう吐き捨てた。

「里菜子ヒドイ。大牙くんなんも悪くなくない?」

「悪いだろ、子供の頃からの兄弟喧嘩に他人巻き込んで迷惑かけてんだから」

「…他人の兄弟の問題に、私が勝手に顔突っ込んでる状態だと思うんだけど…」


 写真を移し終わった後、大牙に見せる写真に余計な映り込みがないか五月と里菜子で軽くチェックした。

「よし、これで大丈夫。…仕事辞めたい件も、出来るだけ早めに話せ」

「うん、わかった。ありがとね、五月」

 美雨にスマホを返そうとした時、五月が写真リスト内のリオのカーニバル写真に気付いた。

「え?あ!…これかあ!みんなナイスバディじゃん。すげーな美雨、こんなのに囲まれても違和感ないって」

 再び美雨のスマホを引き戻し、五月が写真を開いて次々にスクロールする。

「ぎゃー!!見んなー!!」

「さっすが私の美雨でしょ!」

 何故かその隣で、里菜子が鼻高々だった。


 写真を見て騒いでいると、こちらに向かって歩いてくる大牙たちの姿が目に入った。しかし、どう見ても足が一人分足りない。

「…これは…どんな惨状よ」

 大牙の背中でぐったりと眠る酔っぱらいを見て、五月は少し寂しげに笑った。


「うん?まあ、見ての通り」

 大牙は困ったように笑い返した。

「重くないの?」

「成人男性って考えるとめちゃくちゃ軽いよ。こいつ前、50キロ台前半って言ってたな。たぶん五月でも余裕で投げれると思う」

「うっわ、下手したら階級同じか下じゃん。腹立つわー」


 大牙の隣を五月に譲り、美雨は少し離れて後ろを歩いた。その腕には里菜子がぴったりとくっついている。

 行きに明々と電気のついていた竜馬の母が経営する美容院は、もう営業時間が終わって真っ暗だった。

「心置きなく喋れた?」

 昔よりはるかに口数の多くなった航が、二人を守るように下がってきた。

「んー、今しゃべりすぎると、同じ話カナにするのも面倒だからほどほどだよ」

 そう言って美雨は笑った。

「そっか」

「うん。…航くん、本当におめでと。幸せにね」

「ありがと。…でも、なんでそんな元気ない感じ?」

 美雨の声に寂しさを感じ取り、航が困ったように美雨の顔を見た。


「えっ?元気…元気だよ?」

 美雨は右腕をぶんぶん振り回して元気アピールをしてみたが、ブラウスの袖が下がった腕を見て、航の顔が一瞬曇った。

「あっ」

 その視線に気付いた美雨は、慌てて腕を下ろして目を逸らす。

 二人のその様子を視界の端で目敏く捉えた里菜子が

「他言無用でお願いしまぁす」

 と美雨の腕をつかんだまま身を乗り出し、悪魔のような表情と低い声で航を脅しつけた。


 里菜子のその表情を見た航はなぜか安心したような笑顔になり

「わかった」

 と小さい声で頷いた。




 マンションの前に辿り着くと、大牙は竜馬を背負ったままポケットから鍵を取り出し、美雨に手渡した。

「美雨ちゃん、先帰ってて。俺、こいつ送り届けてくるから」

「え、一緒に行くよ。帰り大牙くん一人になっちゃうでしょ?」

「こいつが一人になったところで、何も心配ないだろ」

 美雨がついて行こうとすると、それを里菜子が横やりを入れて止めた。


「いや、ここからは俺が運ぶ。二人は帰っていいよ」

 航が、竜馬を受け取ろうと背中を差し出した。

「夜道で男が男背負って二人きり歩いてるって、ちょっと怖いぞ」

 航の申し出を、大牙がやんわりと拒絶した。

「…それは…うん、そうか…」

 航が本気で困った顔をしたので、五月は思わず吹き出してしまった。


「じゃ、私たちはここで。みんなおやすみっ。美雨はまた…3日後か」

 未練がましく美雨の腕を取ろうとする里菜子を押さえつけ、五月が手を振った。

「その前に明日の夜、みんなでゲームでしょ?倒せ、竜馬くんチーム!おやすみ。またね」

「そうだった」

 五月は明るく笑って手を振った。



 4人を見送り、五月と里菜子はマンションの横からわき道に入った。

「あの子…仕事の件は…どうしちゃったんだろうね…」

「いじめだよ、絶対!美雨が可愛すぎるから嫉妬だよ!」

「自分の問題って言ってたけど」

「そりゃ確かに美雨の可愛さは美雨自身の問題だけど!!」

「…うん」

 五月はここでもう、里菜子と問答することが無駄だと悟った。


「五月こそ良かったの?最後のチャンスかもよ」

「…何がだよ」

 急に話の矛先が自分に向けられ、五月の声が低くなった。

「私は応援するけどね」

「そんなのいらねーよ。…前から言ってるでしょ、うまくいく未来が見えないって」

「あいつは、そこから逆転したぞ?」

「…航は航、私は私。もうその話は終わり。里菜子の思い通りになんてならないよーだ」


「そっか、あーあ残念。…あと、私は一度美雨パパを捕獲して問い詰めたい」

「捕獲って…」

 ふざけながらも里菜子の言葉が急に重くなったように感じ、五月は友人の顔を見下ろして言葉を止めた。

「確認したいことが山ほどある」

 暗闇を睨むようにそう言った里菜子の横顔を見つめ、それ以上何も聞けずに五月は言葉を飲み込んだ。




 大牙たちが他愛のない昔話をしながら進んでいくと、竜馬が急にぐっと大牙の首を絞めつけてきた。

「ぐえっ…おい、捨てるぞ竜馬」

 背中の荷物を背負い直すと片腕を足から離し、大牙は竜馬の腕を軽くタップした。

 直後、大牙の背中から、ぐすぐすと鼻をすするような音が聞こえてきた。呼吸の感じでは、明らかに泣いている。


「俺は…しっかり稼げる男になって、それからって…思ってたんだよ…」

 呂律の回らない感じで、急に竜馬はしゃべり始めた。

「…うん」

「人雇って、ご飯作るのも晴香さんが少しは楽になるようにして…」

「うん」

「俺は…俺は、大牙たちと家族になりたかったんだよ…」

「うん…え?なんて?何で俺?」

 姉の晴香ではなく、自分の名前が出て来たことに驚き、大牙は背中に乗る男の方へ振り返った。


「あそこに、みんなで揃ってワイワイ馬鹿みたいに騒いで、プロレス見ながらご飯食べて。…あそこに居たかったんだよぉ…」

「…うん…そっか」

「それなのに氷牙兄出て行って、風牙兄も出てって…大牙も…」

「言っとくけど、クソ氷牙のあと2番目に出て行ったのお前だからな」

「一応戻ってきたじゃんかよぉ…」


 母は美容院経営、父は税理士で忙しく、大牙の父のような男になって欲しいという母の期待もあって、竜馬は下宿生と同等の契約で日中東雲家に預けられていた。宿題も食事もほとんど大牙の家で、寝に帰る以外はほぼ一緒にいたので、大牙と竜馬は兄弟に近い状態だった。

 竜馬本人は食も細く体格的にも向いていなかったが、東雲家の一員でいたくて柔道を続けていた。


「一人で食べるご飯はおいしくないよう…」

 ぐずぐずと子供のようなことを並べながら、竜馬は大牙の肩で顔を拭く。

「わあ、こいつ…ちょっとぉ、これ明日も着る予定だったんだけど!?」


 そんな竜馬でも、東雲家でみんなと一緒に食べていると、不思議と量が入ったそうだ。だから一人大学でこの地を離れた後の竜馬は、帰省の度に恐ろしく細くなって帰ってきていた。

「ちょっと…分かるな」

 美雨が俯いて、ぽつんと零した。




 美雨たちのマンション側から向かうと東雲家の手前にある竜馬の実家は、随分前から使われていなかった旧美容院の店舗部分がすっかり無くなり、小洒落た普通の一軒家に改装されている。

「この状態になってから来るの初めてだな」

 大牙がまだ新しいその家を見上げると、

「それは俺も一緒」

 と航も隣で頷いた。


「とりあえず…えいっ」

 航がチャイムを鳴らした。

『はーい』

 竜馬の母か姉、どちらだろう。女性の声で返事があった。

「夜分にすみません、東雲です」

 航に小突かれ、大牙が仕方なく名乗った。

『えっ?はい!少々お待ちください!』


「やだー大牙くん!?あら美雨ちゃんと…航くんも。…やだなにこのボロ雑巾」

 出て来た谷沢家の母はいきなりハイテンションだ。息子をボロ雑巾呼ばわりして、顔をしかめた。

「久々に家に泊まるって言っといて何なのこの子。もう、その辺に放っちゃって。…いやだめ、ボロ雑巾でも私には重いわ。ちぃー!ちょっと来て!客間に布団引いてー!」

「えー?」

 面倒くさそうに抗議の声を上げながら、竜馬の姉で晴香と同い年の千晶が奥から出て来た。まだ食事中だったらしく、口元がもぐもぐと動いている。

「うわ、大牙くん、久しぶりー!美雨ちゃんも。ちょっと待って、すぐ布団引くわ。上がって?…航くんも」

「千晶さん、ご飯中にすみません」

「やだ、こっちこそごめんね、だらしない子で!」

 母が竜馬の靴を脱がせ、「ごめんねー?」と言いながら息子を客間に運ばせた。


 真新しい畳の部屋に敷布団だけがばさりと敷かれると、美雨が竜馬母を手伝い二人で手早くシーツを掛けた。

「よっと」

 大牙はそこへ竜馬をころんと転がすと、母がちゃっちゃとジャケットだけを脱がして毛布を掛けた。

「これでよし!…えっ?大牙くん背中ぐっしょぐしょじゃないの!?こいつのヨダレ!?ごめん、クリーニング代払うわ!」

「家で洗えるやつだから平気っすよ。今度こいつに何かおごってもらいますから」

「ふふっ、じゃあしっかり竜馬に請求してね」


「ちょっと待っててー!」

 千晶はバタバタと客間から出ていくと、デパートのロゴの入った紙の手提げ袋を抱えて戻ってきた。

「はい、これ航くんに」

「え?俺ですか」

「そう。この馬鹿お祝い用意してたくせに、ぐずぐず言って店に寄って置いて行ったのよ。本当に二人が結婚するんだったら姉ちゃんから晴香に渡してって。ワンチャン違うかもって言い張って。…おかあさんと同じで諦め悪いんだから」

「ちぃ、お黙りなさい?」

 笑顔のまま、竜馬の母は娘に圧を掛けた。


「…こいつ…分かってたくせに、かよ…」

 眠っている竜馬を見下ろすと、嬉しそうな、寂しそうな顔で航はぎゅっと唇を引き結んだ。


「なんか変な感じだよね~。晴香が結婚するとか…。あ、私からのお祝いは晴香に渡してるから、それと一緒に使ってね。改めておめでと、晴香をよろしくね」

「ありがとうございます」

 千晶からの祝福を受け、航は笑顔で礼を言った。


「それより…この子運んでくれた大牙くんに何かないかしら?ちぃ、お客さんに貰ったゼリーあったでしょ」

「え、おかまいなく!こいつには車貸して貰ってるし十分です」

「え?車って青いやつ?ひょっとして」

「そうそう、それ」

「貸すなんて回りくどいわねぇ。あれ、大牙くんが結婚するときにあげるって言って買ったんだから、もうあげちゃえばいいのに」

 けらけらと、他意のない明るさで、竜馬の母は笑った。


「…ん?」

「…はい?」

 大牙と美雨が固まると同時に、航は二人から目を逸らすように横を向いて「無」の表情になった。


 それ以上に、目の前の千晶がさっと青ざめていた。

「お母さん、黙って!もう出てって!…ごめんね大牙くん美雨ちゃん、失礼な事ばっか言って!」

 母親の肩をぐいぐい押しながら、友人の姉は慌てふためいて叫ぶ。

「えー?だってそう言ってたじゃない。車なんて1度に何台も乗れないのに、この子ったら何台も買うから…」

「いいから出てけー!!」

 娘に邪険に扱われ、不満そうな顔で竜馬の母は立ち上がって部屋を出て行った。


「えー…じゃ、そろそろ帰ります」

 この居心地の悪さはどうしたらいいのだろう。大牙はなるべく表情を変えないように気を付けながら、平謝りする千晶の声を背に、竜馬の家を後にした。




「航くん、私も何かお祝い贈りたい!欲しいもの考えといて」

 谷沢宅から表の道路に出たところで、美雨が両手を胸の前で握りしめながらそう言った。

「ありがと、美雨ちゃん。晴香さんと相談しとくよ」

「うん、お願い」

「航、またな」

 大牙は友人に向かって軽く手を挙げた。

「二人とも、また来いよ」

 航は手をひらひら振ると、大牙の実家へと帰って行った。




「帰ろ?」

 大牙は自分の身を車道側に置き、歩道の奥側に美雨を歩かせて手をつないだ。

「うん…ふふっ」

「何?」

「ううん、覚えてるかな。英会話行くとき、いっつもこの道通ってて」

「うん」

「大牙くんが私の自転車押してくれて、歩く並びはいっつもこう」

「うん…そうだった」

「マンションで自転車置いて、それからもこうなんだけど、帰りは逆になるの。私がやっぱり歩道の奥で」

「ああーうん、そうだ。そうなるね」

 単純に車道側は危ないから自分が歩く、というだけの事だったが、美雨には何か気になることでもあったのだろうか。


「大牙くんは無意識だったかもしれないけど、そういうのが嬉しかったんだよ。気遣い?そういうのが。紳士だなっーて」

「え…」

 急な思い出話と持ち上げ発言は、別れ話の前兆のような気がして今の大牙は素直に喜べない。


 伝えるべきことを伝えておかなくては。

「美雨ちゃん、帰ったら話がある」

 大牙は意を決してそう告げた。


「…私も、話したいことがある」

 少し寂しそうな表情で微笑む美雨を見て、大牙は一気に嫌な汗が噴き出してくる感覚に襲われた。


 ―――怖ぁ!!!!!


「うん。分かった。…聞くよ」

 背中が寒いのは竜馬の涙のせいと言い聞かせ、大牙は黙ってマンションへの道を歩いた。




 マンションに帰り着くと、二人して玄関先で「ただいまー」と中に向かって声を掛けた。完全に玄関ドアが閉まって鍵がかかるのを合図に、リビングからロボ太が「おかえりー」と言って出てくるのがいつもの流れだ。

「うん。やっぱり顔の液晶暗いね」

 出迎えたロボ太の顔を見て、美雨が表情を曇らせた。


「大牙くん、一回おしゃれ着洗いかけちゃおうか。明日そのジャケット着るんだよね?私もこのブラウス洗いたいし」

 話をしよう、そう決めたのに、美雨がなかなか座ろうとしない。


 でも、肩と背中がぐしょぐしょのジャケットは確かに洗いたい。

「うん、じゃあ…」

 差し出した美雨の手にジャケットを渡すと、美雨は一旦それをダイニングの椅子の上にかけ、目の前で透け感のあるレース地のブラウスを脱いだ。


「美雨ちゃん、それは…?」

 ビスチェから覗く胸の真ん中に、薄いが痣があった。

「ごめん、心配するかと思って…家族ぐるみで良くしてもらってるご一家がいてね、そこの末っ子がちょっと暴れん坊?やんちゃが過ぎると言いますか…その子のママと私がお茶してたら、テーブルの上に飛び乗って私にダイブして来まして…避け損ねて膝が入って。いや、下がコンクリだったから避けていいのかも躊躇しちゃって。その時腕も…」


 同じぐらいの薄さの腕の痣を美雨が並べて見せると、大牙の肩から力が抜けた。

「そう…そっか。じゃあ膝と、その脛周りの細かいのは?」

 ダイニングの椅子に座りながら、大牙は質問を重ねる。


「膝は自分でやったんだけど、このふくらはぎは…私がお邪魔すると、その子がずっと細かーく私に蹴り入れてくるの。…あれ?サントス私の事嫌いなのかな」

「そのサントスとやらには教育的指導が必要だな。何歳?その子」

「6歳。…あー、そっか、そうだよね。私が行くとお母さんとお姉ちゃん独占しちゃうから、きっと面白くないよね」

「その子、美雨ちゃんの事好きなんじゃないの?」

 好きな子に意地悪したくなる年頃だ。心の中でマセガキめ、と大牙は毒づいた。


「…そういやあの時あの子、私の顔めがけて膝入れてきた気がする、やばっと思って慌てて立ち上がったからここに…」

 美雨がそう言って見下ろしながらそっと痣を押さえた。

「あぶねーな!…ガチの敵判定じゃん!」


「それと私、仕事…やめたいなって思ってて」

「いくら6歳でもちゃんと一回ガツンと言った方がいいんじゃないの…え?」


 …そう言って顔を上げた大牙くんは、今まで見たことがないくらいのびっくり顔でした。(鈴川美雨さん・後日談)


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