異次元のガールズトーク
「うう…美雨の写真…」
カウンターでドリンクを受け取り、美雨を窓際の席に押し込んで隣に座るなり、里菜子はがっくりと肩を落とした。
「まだ言ってる…。次にあんなことしたら、里菜子のスマホ叩き割るよ?それより」
少し怒ったような雰囲気だった美雨の顔から、ふっと怒りが抜けて「睨み」に変わった。
「あの写真の出どころを吐いてもらおうか。誰?誰から貰った?」
「えーっと?さあ…誰だったかなー?」
里菜子は目を泳がせて、半笑いで下手なごまかしの演技を打った。
「…ノエミか」
「もぉー!分かってんなら聞くなよー!」
叫びつつ、里菜子は嬉しそうに美雨にもたれ掛かった。
知らない名前が出てきたので、五月は訝し気に首を傾げる。
「なに?里菜子ってブラジルまで行ってきたの?」
「半年に1回程度行ってる」
「…え、意味わからん。頻度高いな」
「うう…写真復活できないかな」
里菜子は五月の話を無視し、写真復活の方法の検索を始めた。
「美雨は写真持ってないの?その、リオのカーニバルのやつ」
これ以上里菜子に質問しても無意味だと諦めて、五月は美雨に話を振った。
「そりゃ、研究所のみんなで撮ったんだから持ってるけど」
「じゃあ、美雨から大牙にあげれば良かったじゃん」
「いやいや、そんなの着たとかまず話してないし?話してたとて、あれ祭りテンションやん?ああいうのって仲間ノリやん、外に出すのは話違くない?」
「そりゃあ…まあ確かに」
「なんか見てないアニメのコスプレ写真とか見せられて、そっくりやろ?とか聞かれても、いや知らんしってなるやん?スンってなるやん?」
「おい、伝統的祭りとコスプレ一緒にすんなよ」
「いやコスプレやん?観光客用の貸し出し衣装やし、こっち誰も踊らへんもん!自分で後から見てもうわぁってなるのに、外に出すとかないわー!あの場ではみんなあんなカッコやからなんか平気やったけど、すんごいカッコやん、あれって」
「なかなかの露出だもんな」
五月自身は「裸に見えるパジャマ写真」は見たが、そちらの写真を見ていないので何とも言い難い。しかしリオのカーニバルと言われればどういう衣装か、大体の想像はつく。
「説明聞かずにあの写真だけ見せられてみい?ただの痴女集団やん」
「美雨ー、世界中のサンバダンサーすべてに謝れ」
「しかもノエミのやつ、みんなでしゅっと立ってる写真もあったのに、よりによって私爆笑してるやつやん。ちょっと前かがみになってるから、胸強調したみたいになってたやつやん!」
「違うな美雨、私は全部貰ったうえで、ほどほどエロいのを選んで大牙に送ってやったのさ!そうじゃなくてもぜーんぶ零れそうな立派なお胸でございました」
急に会話に戻ってきた里菜子は美雨の胸に向かって両手を合わせると、「霊験あらたかでございます」と言って拝んだ。
「馬鹿ー!!そのスマホか!?そこに入ってるのか?今すぐ壊す、叩き割る!」
「ふふん、最初に受け取ったのは前のスマホだからこれを破壊しても無駄さっ!なんなら家のパソコンと仕事場のパソコン、クラウド上にもある」
「そのサーバーどこよ、位置情報を!それと、破壊兵器を私に!」
「落ち着け美雨、職場のみんなが持ってんだろ?里菜子関連滅ぼしたところで無駄じゃん」
「もう、地球を滅ぼすしか…」
「ふふっ」
久々の美雨のノリが楽しくて、五月は一人笑っていた。そして今日の出来事を思い返し、目を伏せた。
「五月、どした?」
「いや、ついに航が晴香さんと…って思うと、色々感慨深いなって」
きょとんと顔を覗き込んできた美雨に少し寂しそうな笑顔を見せながら、五月は小さなため息をついた。
「告白諦めた3人組、唯一の勝ち組だね」
「あ…っ」
里菜子がにししっと歯を見せて笑うと、美雨は所在なさげに俯きながら手を膝に下ろした。
「ああもう、美雨が気にする事じゃないんだから!」
高校に入ってすぐの頃里菜子に話した航、竜馬、五月の「うまくいく未来が見えないから告白しない3人組」の話は、大人になってからアルコールが入った際に五月自らうっかり喋ってしまった。結果、昔大牙の事が好きだったことを美雨や香苗にも知られてしまったのだが、五月本人は昔の話としてとうに割り切っている…つもりだ。
だが、この話が出るたびに美雨が申し訳ないような、困った表情をするのが五月としてはいたたまれなかった。
「実際に区切りつけてたのは五月だけ、あとの二人と…あの頃からの寮にいたお兄様方は、自分じゃダメだって思いながらも、あわよくば…ってずっと狙ってた感じだったもんね」
里菜子は意地の悪い笑みを浮かべながら、晴香を密かに想っていた男たちの考えを推測する。
「まあねえ。どうこう言いつつ、みんな『こいつには勝てない』とか、『こいつになら彼女を任せられる』って思える人材がいなかったから、諦めがつかなかったんだと思うよ。晴香さんも、寮生たちとつかず離れずの距離をうまい事操作してた感じだったしね」
ホットコーヒーのカップを両手で包みながら、五月は寂しげに目を伏せた。
「10何年越しで想い続けて、言えた航はすごいと思う。尊敬するよ、まじで」
場が少ししんみりとしてしまった。五月は明るい顔を作って見せると、話題を美雨に振った。
「ま、晴香さんたちの件が片付いたら、次は美雨たちじゃないの?」
「う…ん。予定では今年…のはずだけど…」
「え、なにそれ、聞いてないんだけど」
里菜子が体当たりするくらいの勢いで美雨にのしかかった。
「予定って何よ、そういうの分かった段階で共有してよ、潰しにかかるから」
「潰すなよ…」
相変わらずの里菜子節に、五月は呆れたように嫌な顔をした。
「分かった段階…と言われましても…10年前の話でして…」
「……………はああ?」
里菜子と五月が同時に叫んだ。
「何それ、聞いてない。10年前にプロポーズされてたの?」
里菜子が一応周囲を気にして声を押さえながらも叫び、美雨の腕に巻きついた。
「え…っと待って、じゃあアメリカ行く前か?えー。あいつ、働きもしないうちにそういうの無責任に言っちゃうタイプだったの?ちょっと衝撃なんだけど」
口を握り拳で抑えつつ、五月も眉根を寄せて俯いた。
「プロポーズっちゅーか…10年後に迎えに行くって言われまして…いや、お恥ずかしい話、あの頃の私かなり不安定でして…元気づけるために言ってくれたんだと思うんですけど?それをマジでうけとってええもんか、本気で待ってる自分がアホなのか、今となっては『あれ本当?』とか聞くのもどーなの?と言う微妙な状況でして…」
その美雨の言葉を聞いて里菜子は机の上で項垂れ、五月は目を閉じて思い切り宙を見上げた。
「…あいつの事だから本気だとは思う、思うけど…確かに分からん。そして確かにそれは聞けねぇ…」
片手で額を押さえつつ、五月が唸った。
「その上、これ見られちゃいまして、今何かものすごーくおかしな誤解されてそうで…」
美雨は右腕を上げると、レース素材のブラウスの袖口をすっと肘まで下ろした。
「あーあー、治りかけだけど…これはちょっと分かるな。これだけ?」
「え、何それ?美雨の肌になんてことを!何したのよ」
「気付かれてるのはこれと、膝回り。気付かれてなかったけど、今日たぶん…だいぶ薄くなってるけど、胸にあるのも気付かれる…」
「胸え?逆によく今まで隠せたな」
「最近、真っ暗にしないと眠れないって言って、部屋暗くして見せないようにしてました…」
「…胸は何で入った?」
「ちょっと事故って、ニーキックもらっちゃった」
「…そうか、腕のそれは?」
「同時、その時。ジムの外の休憩所?テラスのとこだったから、下コンクリで…」
「さっきから二人、何の話してるの?キックって…美雨、そんなになるジムって何やってんの?」
「ん-っと…ルチャリブレ」
美雨が照れたように笑った。
「ルチャ…何?」
「ググれよ」
何が何やら、といった顔の里菜子に向かって、五月が冷たく突き放した。
「…スペイン語でプロレス、メキシカンスタイルのプロレスがルチャリブレ?…何?プロレスじゃん!美雨、何やってんの!?」
「…でも…氷牙さんがカッコよくて」
「…はぁああああ?」
思わぬ名前が出てきて、里菜子が限界まで顔を歪めて叫んだ。
「氷牙さんがアメリカでリングに上がるようになってからね、何度か試合見に行ったの、もうほんとカッコよくて!あの技やりたいって思っちゃったの。相手の肩の上乗って、くるくるーって回って大きい相手もくるんっビターンって倒してーってやつ」
「関西人!!オノマトペだらけで何言ってるか分からん!!」
「ハリケーン・ラナな。氷牙兄のはオリジナル技でグレイシャー・ラナって呼ばれてる。レイ・ミステリオの技に近い感じ?確かにあれは軽量級選手が大きい選手相手に決めたらカッコいいし盛り上がるよなー」
五月からも知らない単語が次々と出てきて、それで普通に会話が成り立っている友人二人に里菜子は頭が追い付かない。
「なんで五月は今の説明でわかるの!?ハリケーン・ラナis何!?」
「ほい」
五月から渡されたスマホのには、悪い顔で笑う大牙そっくりの小柄な男・氷牙が映っていた。再生ボタンを押すと、その男がコーナーポストの上から客を煽って盛り上げているシーンから始まった。
そのまま氷牙は向かってきた体の大きなレスラーの肩を掴み、くるくると相手の肩の上を踊るように回り、捕まらないように体をひねりながら躱すとするりと肩に乗って、足を首に絡ませ体を思い切り後ろに反らした。
「うえっ、危なっ」
そのまま大柄なレスラーは後方に倒れるかと思いきや、顔からひねり倒され、股の間をすり抜けていた氷牙がそのレスラーの両足を取ってエビ固めを決めた。
「いやだー…これ、腰やっちゃいそう…」
「はあーカッコいい!これは綺麗に決まったやつだよねー!」
横で見ていた美雨は両手を顔の前で組んで、目をキラキラさせた。
「ちょっと待って、ハリケーン・ラナが技の名前なのは分かった。だから?だから何!?」
ひとしきりツッコミを終えた後、肩で息をしていた里菜子がふと我に返った。
「…カッコいい!?氷牙さんが?」
「私が会場に見に行ってると、たいてい氷牙さん気付いてくれて、試合後にご飯とか連れてってくれてたの。歴代彼女さんとか他のレスラーの人とかも一緒にだけどね。いつも申し訳ないから帽子とか被って髪とか顔隠してても、気付かれて捕まっちゃうんだよ」
「そりゃあ美雨はオーラがすごいからね!…じゃなくて…え、もう美雨が何言ってるか分からない」
「それが、会うたびに氷牙さんみたいになりたいんです、どこに行ったら習えますかって言ってたら、今年になって、氷牙さんの今の彼女さんが稽古つけてくれることになってさ!だから今定期的に飛行機でアメリカに通ってます!!」
「何やってんのー!!」
「なー?大牙にゃ言えないだろ?」
困ったように笑う五月の顔を見ながら、里菜子も過去、氷牙が絡んだ際の大牙の別人のような口の悪さと暴れっぷりを思い出していた。
「いや…確かに。想像しただけでも恐ろしい…じゃなくて!!」
「氷牙さんもね、最初の頃は大牙くんの悪口ばっかだったの。でも最近…今の彼女さんになってから、二人でリング併設の家建てて住み始めて、全然丸くなったというか…。弟を頼むな、みたいなことも言うようになったんだよ。大人になったよねぇ…」
「え、氷牙兄が!?それはそれでびっくりなんだけど」
美雨から聞く旧知の人物の近況報告に、五月は目を丸くした。
「リング付きの家って何…ホントに何も分からない…」
机に両肘をついて里菜子はがっくりと項垂れた。しかしふと美雨の発言が引っ掛かり、勢いよく頭を上げた。
「ちょっと待って、確認させて。美雨は、氷牙さんの事が好きなの?」
「好き!っていうか推しだね。崇拝?」
「恋愛感情!?付き合いたいとか…」
「いや、それは全然?むしろ、ああなりたい。目標?」
「なりたいって…」
呟きながら、里菜子は美雨の手首からちらりと見える消えかけの痣に目をやった。
「彼女さんも今はトレーナーなんだけど元ルチャドーラだからまたカッコええんですわ。歴代彼女3人見てるけど、今のタマラが一番カッコいい!あのくるくるーびたんってやつ、彼女も出来るしすっごいカッコいいんだよ」
「うん、それで強かった。ケガでトレーナー転向&氷牙兄と交際宣言で表舞台から引退だったもんなー。あれ派手だった。派手過ぎて最初は台本かと思っちゃったもん。美雨から聞くまでは」
CSで見ていたらしい五月も、やや興奮気味にその時の光景を思い出して嬉しそうに頷いていた。
「なんで五月が知ってて私が知らないんだよー!!」
「あんたに相談してもしゃーないでしょうが。美雨の事、氷牙兄から私に連絡きて、結果私と晴香さんで相談して過去の話も氷牙兄に伝えて…晴香さんから護身術習ってたこともね。で、本人が望んでるなら、出来れば護身術より一歩先、少々攻撃的でもいいからいざというときに動ける体にしてやってくれってお願いしたんだよ。タマラと直接手合わせとか、ちょっと羨ましすぎて訳わかんないけど!」
「五月には感謝しかないよー!私が何度言っても、本気でやりたがってるって信じてもらえなくて」
五月の説明を受けて、照れたように美雨が嬉しそうな笑顔を見せた。
「そりゃ、戦えた方がいいかもだけどさぁ?この歳から始めて動けるものかぁ?…待て待て、胸のキックは誰に貰った?氷牙さんの彼女の嫉妬とかじゃなくて!?」
「休憩でタマラとお茶してたところに、ふざけて近くで真似してたサントスが…あ、タマラの長男ね。なんか机の上に飛び乗って降ってきた。で、胸に食らって床にビターンて転んじゃって。6歳でもやっぱ飛んでこられたらダメージ食うわ…」
「え?バツイチ連れ子あり?ちょっと待ってー、情報が多い、追いつかない」
「私の練習相手もタマラの長女のリタだよ。12歳、大きいよー!?私ともう身長変わんないの。あれはスーパースターになれるね、なっちゃうね!」
「ごめん、最初から話してもらっていい?そもそもなんで美雨が…氷牙さんの試合見に行ったのよ」
「え?そりゃ、知ってる人がデビューしたって聞いたら、見に行くでしょ?普通」
「う…まあ、そう言われて見れば…そう…か?え?でもそれでハマるかー?」
「大牙くんちお呼ばれした時って、なんかプロレスとか奥のテレビで流してたこととか多かったじゃん。結構古いやつとか」
「…ついてたね、確かに。ずっと氷牙さんが食いついて見てた」
「とにかくメキシコ系レスラーとか、レイ・ミステリオばっか流してたよね。氷牙兄あのスタイル目指してたから」
「あの時からすごいなーって思ってたんだよ。氷牙さんのデビューは私も高校卒業間際だったから見に行けたけど、その後はイギリス行っちゃったから、しょっちゅうって訳にはいかなかったんだけどね。でも、オトンの家の近くに興業が来るとき狙って帰省したりして。もちろん放送されないような地方巡業の小さいヤツ。大きい冠ついたような興行だと、うっかり日本で放送されるとヤバいって思って」
「ん?じゃ最近もしょっちゅうお父さんのとこに帰省してるの?」
「えー。最近は全然帰ってないよ。もう私あそこに何の荷物も置いてないし」
「なんで?…最近お父さんには会ってないの?近況とかは?聞いてないの?」
「何で里菜子がそんなうちのオトン気にすんのよ。元気なのはスマホで連絡とればわかるし、どうせもうすぐ会うんだし。最近は顔見るたび縁談話みたいなの持ってくるから実際邪魔くさいし…」
「…うーん…それは…確かに面倒だな」
五月も卒業旅行で一度美雨の家に泊まりに行った時に会っただけだが、美雨を溺愛している人に見えた。縁談を持ってくる人だというのはのは少々イメージとズレる。
「筋肉のつき方とかで大牙にバレないかって方が不安だったんだけど、そこも問題ないんだよな?…少しは腕太くなったか?」
卓上に置いた美雨の腕を取り、五月がマッサージするように触って確認している。
「タマラ曰く、私は筋肉付きにくい上かなり特殊なんだって。速筋と遅筋が何とか…霜降り肉?なんか鍛えてもガッチガチになりにくいらしくて、だからボディビルダーは諦めなさいって言われちゃった…腹筋も、すっごく力入れたらうっすら割れたかな~程度で。頑張っても見た目に出ないのはちょっと辛い…」
「いや、目指すなし!」
ムキムキの美雨なんて、大牙も嫌かもしれないが、里菜子だって考えたくなかった。
「最初はちゃんと家でトレーニングしてる?って疑われちゃったんだよ。でもちゃんとダンベルも重いの上げれるようになってるし、数値は上がってたから」
「美雨は何目指してんの?レスラーにでもなるの?」
正直、こんな痣だらけになるようなことは止めてほしくて里菜子は皮肉のつもりでそう口にした。
「…ははっ、それもいいかもね。遅咲き過ぎるけど。意外と素質はあるって褒められちゃったし」
「やめとけって、ハリケーン・ラナ体得が最終目標、それまでは普通に基礎からトレーニングだけって約束したじゃん。ガチで対戦したら生傷絶えなくなるぞ」
「そうだよー、美雨にはカエルの病気治すって大事な仕事があるじゃん!?」
里菜子のその言葉で、美雨の表情から笑みが消えた。
「…私…もう研究所にいなくてもいいかなって…最近思ってるんだよね」
「…え…?は?…はああぁぁぁ!?」
空中技にあこがれてトレーニングをしている事にも驚いたが、里菜子の中では美雨が長年望んで手にしたカエルの病気の研究という仕事を手放そうとしているという事の方がよほど衝撃だった。
「美雨、カエル嫌いになった?それとも研究所でヤな事あった?誰かヤな奴いるの?いじめ?いじめか?」
心配そうに里菜子が美雨の手をがしっと両手で握りしめた。
「違う…多分、これは私の問題で…」
「え、意味わからん。折角夢叶えたのに、何で?」
五月も途方に暮れてしまっている。
「うう…私、価値なしかなあ?カエルの研究やめたら、何も残んない人間かなぁ?」
「そ…んな事はない…と…思うけど…」
五月はしどろもどろで、助けを求めるように里菜子を見た。
「なんなら、大牙くんが早く迎えに来てくんないかな、なんて思ってる。仕事辞めたい、結婚に逃げたいって思ってるとかクソダサいやん。カッコ悪すぎる。もうこんなの嫌われても仕方なくない?」
「美雨?大牙の事だから、美雨が仕事辞めなくてもいいようにって考えて動いてるんじゃないかって私は思うんだけど」
付き合いだけは美雨よりはるかに長い五月は、大牙の考えそうなことを想像してみる。
「仕事辞めなくてもいいように…って…どうやって?」
半泣きの顔で、美雨はまっすぐに五月の顔を見た。
「分かんない…わかんないけど、安く行き来できる何か?なんか格安航空券の裏技的なのとか?定期券的な…知らんけど!!」
言っておきながらアイディアが一つも浮かばず、五月は適当な事を言って美雨を慰めた。
「下手したらブラジルの研究所に移籍とか?…あるかどうかも知らんけど!」
里菜子も考えてみたが思いつかず、さらに適当な事を言って美雨の表情を伺った。
「逆に、美雨が仕事辞めて戻って来れるなら、先にそれ大牙に言った方がいいと思うんだけど。その下準備か何かに手間取ってるのかもしれないじゃん!?」
「いやだあー!むっちゃカッコ悪い~!!実際プロポーズもされてないのに、そんなん言える?」
「そ、それは確かに」
「私、日本にいたら無価値な人間だよ。大牙くんだって、カエルの研究してる私が好きなんだと思うし」
「それはない!!」
里菜子と五月の声がぴったりと重なった。
「そのカエルの病気の研究って日本でもできないの?」
美雨の研究の事は何も分からない。分からないなりに、五月もなんとか考えて必死に提案してみる。
「…日本のカエルはツボカビ病の抗体持ってて、助ける必要はないんだよ…」
「そうじゃなくても、何かあるでしょ!?それ研究して海外のカエルに生かすとかさあ?」
「…ダメだよ、私たぶん、邪魔にしかならない…」
何を言っても俯くばかりの美雨に、五月は困り果てて里菜子に目を向けた。
「美雨が日本に帰ってくる…?」
逆に里菜子は目を輝かせはじめていた。
「いいよ、大牙になんか遠慮なく振られちゃいなYO!何ならこっちから振ってしまえ!私がずっとそばにいるから!養えるように私が頑張る!」
「ははっ…ありがと」
美雨が力なく笑った時、卓上のスマホがブンっと震えた。
「…大牙くんたち、今から帰るから一緒に帰らないかって」
「そうだね、続きはまた里菜子の家泊まるときに聞くか。今聞きすぎるとカナに一から話すの面倒だし」
五月は苦笑しつつ肩をすくめた。
「そういや、五月こそ今のダーリンとどうなの」
里菜子が思い出したように真正面の友人の目を見た。
「あー…その話も、そん時で」
五月は短く微笑むと、立ち上がって表情を隠すようにスーツのジャケットを羽織った。
若かりし頃のレイ・ミステリオの空中技、まじでみんな見て…芸術だから




