辛くても大人は仕事をやらなきゃならない
『はーい、始まりました、チーム・アンドラダイトの生配信!今日は豪華3本建てでお届けするよー!』
みかぷりんの司会で、連休初日の生配信が始まった。
『今日はチェック氏は裏方に専念、小豆さんはゴールデンウィークなので家族サービスが忙しいとの事でお休みでーす』
打ち合わせで今日の流れは理解していて、特に難しい話もなく、実際に何かプレイするのは最後の何分かだけだ。それもついに実装されたランディングファイターオンライン5人チーム制の、大人数で行うバトルロイヤルを野良で2試合やる程度のゆるいスケジュールだ。
夜の自宅からの配信時の打ち合わせも済ませ、機器の設置に関しても、自力でどうにもならなければリモートで設定してくれると、今日出番のないチェック大坪氏も請け負ってくれた。
何の心配もなく、流れに身を任せればいいはずだったのに…。
「いや、なんであいつらいるの?しかもなんか顔が若干腹立つ!!」
モニターで観客席にいる見覚えのある顔を見つけて、湊太が嘆きつつその場にしゃがみこんだ。
ステージではみかぷりんの仕切りでゲームメーカーの人が呼び込まれ、人気シリーズのもうすぐリリース予定の追加コンテンツ紹介と、デモ画面を流しながらの解説が手順良く進んでいる。
そのシリーズの昔からのプレイヤーだというゆっきぃも壇上に上がり、キャラクターについての質問などをぶつけていた。
子供に人気のゲームで、妹の朝海はつい最近もやっていたが、湊太は全然手を出していなかったシリーズなので出番がない。
それは由梨香も同じで、小学生の弟がお気に入りのゲームだと教えてくれた。
「このシリーズは一通り揃ってたと思うけど、やってるのは宇杏だけだなー。私は全然」
「…じゃなくて!客席見た!?何なのあいつら!?」
平然と隣に立ち、舞台上で語られているゲームに関しての話題を振ってくる由梨香を湊太は恨めしそうに見上げた。
「見えてるよ。三レン星と黄瀬と…相沢君か。なのはと恵麻と若菜。8人か…二枠当てたな」
以前抽選枠を外した由梨香は、悔しそうに目を細めた。
「なに、三レン星って?あいつらそういうまとめ方なの?」
セレン、チューレン、シバレンがそんな名前で呼ばれていることを湊太は初めて知った。
「…ってか、ユリカはあいつら来るって知ってたのかよ」
「知らないよ、そんなの。なのはも何にも言ってなかったし」
しゃがみこんだままの湊太を見下ろしながら、由梨香も口を尖らせた。
完全におかしなテンションでふざけた顔をしている黄瀬とシバレンがいる一方、目をキラキラさせてステージ上を食い入るように見つめている相沢が対照的だ。
「相沢は…怒れねぇ…」
あんな無邪気なオーラを出されては、責める気にはなれない。
「ああいうタイプの人とは思わなかったな。もっと俺様系って言うか、取っつきにくい人かと思ってた」
客席モニターを眺めながら、由梨香が呟いた。
「いや、そう見えるよな?でも、全然違くて。…なんか可愛いヤツなんだよ」
男子は相沢以外全員持ち上がりだ。つまりあのメンバーの中で由梨香にとって未知の生物は、相沢だけだった。
「にしても、どんな組み合わせだよ」
クラスメイトと部活の女子。恵麻と若菜は受験組で、湊太のクラスメイト達と接点がありそうにない。
「当てたのが誰だか分かんないけど、恵麻たち呼んだのは、なのは…だよね、たぶん」
由梨香の言う通り、このメンバーを結びつける人間は、どう考えてもなのはしかいない。
「なんだぁ?知り合いでも客席にいたか」
久保田がにやにやしながら、二人の方へ椅子をくるりと回転させた。
「8人もいやがります…」
苦々しく湊太は吐き捨てると、面倒くさそうにゆるりと立ち上がった。
「まあまだ友人ならマシだろ。コイケの親が来たときとか、小豆さんのヨメと子供が来たときとかは本人地獄みてーな顔してたぜ?まあ小豆さんはマスクしてたけど、それでも分かるくらい挙動不審になってたな」
その瞬間、湊太達の少し後ろからモニターを眺めていたコイケが、分かりやすく眉間に皺を寄せた。
「うわぁ…親は…キツイ」
久保田から出た話に顔をしかめつつ、湊太はコイケの方を見た。
「親が来るのそんなにイヤかな?ウチの親はそのうち来そうな気がするけど…」
由梨香は不思議そうに首を傾げた。
「ゆっきぃの親も一度来たけど、本人口ではイヤそうな事言ってたわりに顔は嬉しそうだったな。女の子ってそういうもんなのかねぇ…。いや、みかぷりんはガチで嫌がってたな…」
そう言うと、久保田はまた椅子をくるりと戻すと、客席モニターへ視線をやった。
「そっか…まあまあみんな家族来てるんですね」
誰に言うわけでもなさそうに呟いた湊太をちらりと横目で見ると、久保田はステージでゲーム会社の人と熱く語るゆっきぃに視線を移した。
「家族には優先的に席回すルールあるからな。ゆっきぃみたいに親が地方から来たってなると、そりゃ優遇もするさ。…あ」
「?どうしました?」
急に動きの止まった久保田に声を掛け、由梨香はすぐに彼の目線を追った。
湊太もつられて彼の見ているモニターに目を向けたが、特に変わったものはない。
「家族枠同様、友達枠もあってな。君らの友人がそれを知ってか知らずか一言欄にその手のキーワードを放り込んでた場合、優先的に選ばれた可能性があるなーって」
久保田が何だか申し訳なさそうな表情で湊太達を見た。
「まじすか!」
がっくりと湊太が肩を落とした時、ふっとコイケが顔を上げた。
「ぽるぽるさん、黒百合ちゃん、出番」
「あ…はい!」
呼び出しに来た女性スタッフが、すでにステージに向かって歩いている3人を見て
「えーっと。…出番です」
と苦笑しつつ告げた。
コイケは黙って頷き、そのままステージの登壇口へ向かう。
その背中を、由梨香とともに湊太は追った。
『はーい、では本日2つ目のコーナーですね。ちゃんと発表するのは初めてです、アンドラダイトが企画段階から携わったMMORPG、ツキガミの第5回目のイベントが今夜開催されるという事で、どこよりも早い最新情報をお届けしたいと思います!』
前のコーナーに引き続きステージ上に残ったゆっきぃが一歩下がると、みかぷりんがまたその場を仕切り始めた。
『ゆっきぃはもうかなり前からやってるよね?』
「やってるけど、今夜みたいにガチメンバーでイベントやるのは初めてだよー。なんか、これでランキング低かったら恥ずかしい感じになるから、かえって怖いんですけど」
『まずはやったことのない皆様にも分かりやすく、1分でわかるツキガミ講座ー!』
客席をまっすぐ見て、みかぷりんが腕を高く上げた。
「唐突だな」
ゆっきぃのツッコミは無視され、そのままツキガミのデモムービーが流れ始めた。
『今は月を遊び場にしている、古の月の神々達。彼らを慕う眷属たちは、神々の力を借りて月面を旅する』
様々な神のビジュアルが次々と現れて消えていく。
『眷属よ、推し神と共に月を遊びつくせ!
月の表面を冒険し、スキルを磨いてなりたいキミへ。
そして満月の夜。それは月と共に神の力も満ちるとき!神々からの寵愛を受け、イベントで推し神を勝たせて豪華賞品をゲット!』
主だった職の初期装備の眷属たちが街中を走る絵と、魔獣たちとのバトルシーンが流れ、美しい景色のフィールドを5人パーティが歩いている後ろ姿で映像が終わった。
『ではツキガミプロジェクトを一人で始めたという、桐島涼さんにご登場いただきましょう!』
一気に会場から歓声と拍手が沸き起こった。
入場曲が流れ、涼がステージに上がると、また歓声が一段と大きくなった。
「はーい、皆さんこんにちはー!」
両手で手を振りながら、さわやかな笑顔で涼がみかぷりんとゆっきぃの間に立った。
「え?ツキガミ考えたのってボスなの?知らなかったんですけど」
本当なのかセリフなのか不明だが、リアルな驚き顔でゆっきぃが涼を見上げた。
「うん、なんか本とか色々読んでて、急に思いついて一気に企画書書いたんだよね。で、知り合いのイラストレーターにまず何柱か神様描いてもらって、それ持っていつもお世話になってる制作会社に話しに行って」
「知り合いばっかじゃん」
「企画通ると思ってなかったから、自費制作でもいいやってくらいの気持ちだったんだよぅ。ちなみに音楽も知り合いのミュージシャンにお願いしましたっ」
「え?大丈夫?ボス、ちゃんと皆さんにお金払ってる?タダ働きさせてないよね?」
ゆっきぃの軽めの毒舌で場が回って行くが、若干脱線気味だ。
『そろそろ最新情報とイベント情報いってもらっていいですかぁ?』
すかさずみかぷりんが話の軌道を修正する。
「あーはいはい。まずは最新情報ね。今日のイベント終了1時間後、新規で月神が3柱追加されまーす!」
シルエットで3柱の神の絵がメインスクリーンに表示された。
「男神1、で、女神が2?かな」
スクリーンを見上げながら、ゆっきぃが首を傾げた。
「正解!それと今日のイベントについて。
前々からアナウンスがあったのでほとんどの皆さんがご存じとは思いますが、やることは『狩り』です。狩りの対象はウサギ型の魔獣だよ。イベントスペースに大量に湧くアルミラージとジャッカロープを狩ってもらいます。えーっとポイント制だね。アルミラージが5点、ジャッカロープが2点。それぞれレアな色違いも出ますので、それを狩った場合は3倍得点が入りまーす。
開催時間は夜の8時から10時まで。その時間の間で、各チーム好きなタイミングでチャレンジ開始してもらって、30分の間に狩れるだけ狩ってください。もし9時55分に開始した場合は5分で終了だから、そこは気を付けて。参加条件はレベル10以上ならどなたでも。レベル10以上の方全員に順次イベント参加券1枚が配られてますので、2人から5人までのチームで参加してください。今回もソロでの参加は不可です。ソロで出来るイベントもお願い!というリクエストも来てますので、今後は考えたいところですねー」
メインスクリーンには、一角獣のような角の生えたウサギ「アルミラージ」と、鹿のような角の生えた「ジャッカロープ」が並んで表示されている。
『チャレンジは1回きりですかぁ?時間内なら再戦あり?』
みかぷりんがとぼけた口調で涼に質問を投げる。
「チケットは1枚しか配られないから1アカウント1回だね。捨て垢で挑戦して、コツ掴んでから本垢で、って人がいた場合、もう運営としては頑張れとしか言いません!」
客席から笑いが漏れた。
『今まで涼さん、このゲームの事、全然こちらで紹介しなかったの何でですかぁ?』
みかぷりんが、お得意のおとぼけからの質問で進めていく。
「…アンドラダイトのメインチーム内では、ゆっきぃとコイケしかやってなかったんだよ。チーム戦出るには3人だとやっぱ弱くてさ」
「でも一応出てたじゃん!」
ゆっきぃがすかさず合の手を入れる。
「そうだけど、表に出たくないスタッフさんとか一緒だと、さすがに配信とか無理だしね」
「うーん…。でも、まあまあ強かったし普通に面白かったけどね?」
『ほうほう?では今回は5人揃ったから堂々の参加宣言って事でOKですか?』
「そうなんだよ~!」
みかぷりんからのフリに、涼は嬉しそうに笑顔を見せた。
『では、本日参加の残りの3名にもご登場いただきましょう』
後ろに向かって、みかぷりんが手を伸ばした。
『コイケ246と、始めたばっかり超初心者!ぽるぽると、黒百合の3名だ~!』
コイケを先頭に、湊太と由梨香も壇上に上がった。
「どうも、初心者です」
手筈通りに湊太が挨拶し、
「同じく初心者です」
と由梨香もそれに倣った。
「ふふふっ、二人とも始めてくれてありがとねー!」
涼が、食事前の落ち込みなど微塵も見せない笑顔で二人に手を振った。
「じゃあ、今回の豪華ご褒美の条件を説明しまーす」
涼の一声で、メインスクリーンが文字だらけになった。
「優勝の神の上位10チームに『白ウサギの装備』、準優勝神の上位5チームに『黒ウサギの装備』、3位の神の上位3チームに『茶ウサギの装備』、あとは全眷属トータルのランキングで50位以内のチームの皆様ですね。自分の推し神が3位以下のチームの方でも、50位以内に入っていれば『グレーウサギの装備』が貰えます。毎度恒例のラッキーキリ番のチームも貰えちゃうよ。それと、何柱の神様かは特別ご褒美をご用意している模様!」
おおー、という声と共に客席から拍手が沸いた。湊太達も一緒に拍手をする。
「参加者の皆様全員に、3つの中から一つ選べるアイテムのプレゼントもありますので、ぜひぜひご参加いただければと思います。…それと」
涼はぐるりと参加メンバーを見回して続けた。
「このメンバー全員、特別装備で参加するから、皆様見かけたら画面スクショでもしてください」
「…どんなのだか、わかんない説明だね」
コイケが呆れたようにため息をついた。
「多分目立つ!!」
拳を握りしめ、嬉しそうに涼はそう宣言した。
そんな装備をいきなり貰えてしまうのか、と湊太は思わず隣の由梨香に目をやると、彼女も喜んでいいのかどうしていいのか分からない表情で湊太の方を見ていた。
「特別ご褒美をくれる神様に関しては、イベント終了後の10時からの発表になっておりますので、ゲーム内でご確認くださーい。…言わなきゃいけないのってこんなもんかな?」
涼はステージ上のメンバーを順に見ると、場の主導権をみかぷりんに譲った。
『では、本日最後のコーナーです。野良で5人制ランファイバトロワにつっ込んでみようー!…出場メンバーは涼、オルテガ、コイケ、ぽるぽると、黒百合だぁ!』
みかぷりんのその号令でオルテガが登壇し、それぞれがステージ上の各ブースに座った。
そしてランディングファイターオンラインの1チーム5人制、20チーム混戦の100人バトルロイヤルマッチを2回行った。
正式リリース時に、100人バトルロイヤル方式の場合は1勝負7分と定められた。つまり7分生き残ればいいわけだ。
湊太も由梨香もそれなりに敵を倒し、7分間生き残ったので結果は上々だった。
配信が終わり、裏に全員が捌けた後。
久保田の横の椅子に座り込み、魂が抜けたように宙を見つめている涼がいた。
「なにこれ、どーしたのよ」
久保田が片方の眉を上げながら、ヘッドホンを外したばかりの早苗に尋ねた。
「さあ?私も詳細は知りません」
ちらりと久保田の奥に座る涼を見て、早苗は小さくため息をついた。
「さっきまであんなキレッキレで銃ぶっ放してたのに~!」
抜け殻を見つけたアンジェロは笑顔で駆け寄ると、傷心の先輩を楽しそうに軽く握った拳でぐりぐりとつつき回していた。




