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ジョーカー、切り札の魔法使い  作者: 笑添愛


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アステリウス

僕達が立っていた草原はトートによると魔物が跋扈(ばっこ)している事で有名な狩場らしき場所だと言う。

案の定、僕たちの目の前では怒り狂った未知の魔物が、猛烈な勢いでこちらへ猪突猛進してきている最中だった。

「うわあぁ~!トート、何有れ?!凄く怒ってるし、こっちに向かってきてるよ?!」

「あれは、チャージ・ボアールだな。あいつはここが縄張なんだろう。」

「いや、それ先に言ってよ!」

だがもう遅かった。

チャージ・ボアールはもうすぐそこだし、戦うすべは持ってないし。

『あ、御終いだこれ。』そう思った。

「そんな不安な顔するな。」とトートは言いながらないやら詠唱を唱え始めた。

「炎の神よ、汝は最熱故に無敵なり。炎鳴の権化よ汝を消せる者はこの世に何人存在せず、故に無敗である。なればこそここに我輩の祈りを聞き賜りて応えたまえ、炎神獄炎剣、召喚!」

自分の目の前の光景はさながらファンタジーそのものだった。

巨大な炎の渦が空高く舞い上がって、その中から燃え盛る炎の剣の様なモヤが現れて、トートがそれを手に取ると形を成して赤い刀にと姿を変えた。

それを一(ひと)太刀(たち)揮(ふる)うとチャージ・ボアールは一瞬で燃えてチリとなり、荒っぽい石のような何かが残った。

「トート、あれは何?」と石のようなものを指さした。

「あれは魔物を倒したら得られる「コル」と言う物だ。金になるからとっておけば得だ。」そう説明してくれた。

「ねぇ、僕たちこれからどこに行くの?」

「知り合いの家だ。お前をそいつに任せたら、俺とは一旦お別れだ。まぁ、二度と会えないってわけじゃないから、安心しろ。」そう言って、また僕達は道を進み続けた。

2~3日野宿しながら旅を続けると、遠くに巨大な樹が見えた。

「お、あれだ、あれ。あれは世界樹って言って、この世に一本しか生えない貴重な樹だ。あそこにお前の師になってくれる、かもしれない、人が住んでるんだ。」

更に歩いてその世界樹に近づくと、いきなり草が無くなって広場に出た。

「ねぇ、なんでこのあたり一帯だけ植物が生えてないの?」気になって聞いてみた。

彼は世界樹の元に着くまで丁寧に説明してくれた。

「世界樹は周囲の生命力を長年かけて吸い尽くして育つから、その辺りは段々草や木が生気を吸い取られて生息出来なくなるんだ。そうなったら世界樹もやがて死んで、他の植物から吸い取って蓄(たくわ)えていた生気が魔力に変換されて、周りの地に降り注ぎ、その魔力が死んだ土地の活力になって、また潤いを取り戻す。そうやって循環(じゅんかん)するんだ。それが自然さ。自然に奪われたものは、再び帰ってき、長い年月が経つと、魔力の強い地にまた世界樹の種が発現し、同じことを繰り返す。」

「へぇ。なんか世界樹の輪廻転生みたいでちょっと意外かな。」

「あの樹はまだ若いから、周囲の草がさほど死んでないだけで、いずれここも、誰も住めないような廃地になる。世界樹は育てば育つほど生気の吸収が早く、そして強くなる。だから場合によっては、植物だけでなく、古いのは動物からも、更に古いのは人間からも生気を吸うんだ。だから、それなりに年の取った世界樹には誰も近づけない。成長限界の近い世界樹に一度接触したら最後、死に至る危険性もあるからな。っと、着いたぞ。」

それはまるで、自分が世界樹の輪廻転生を幾度となく目撃したような口調だった。

その広場の中心部に遠くから見えてたあの巨大な樹が生えてて、その樹の下には一軒の家があった。

トートは堂々と家に近づくと拳で二回だけ扉をたたいた。

すると中から機嫌の悪そうな人が出て来てトートを睨んだ。

その人は四十に近い三十代の男性で、瞳孔(どうこう)が猫のように細くで虹彩(こうさい)は左目が青で右目が赤い睨め顔のおっかない人だった。

だが、トートは動じずにその人に目を合わせた。

その人はでかい斧を地面に突き刺さしてちょっとだけ魔王の城を守る番人みたいな雰囲気の人だった。

「トート、てめぇ!何しにきやがった!」そう怒鳴る姿はまるで迷惑な客を何回も追い出しでイラだっているオカンみたいだった。

「まぁ、そう怒るなって、アステリウス。お前、この前に会った時もそんな調子だっただろう?態度を改めないとまた弟子に逃げられるぞ。いや、それどころか、もう弟子入りしてくれる若者がいなくなるぞ?」と相手をあおる様に話した。

「よし、表に出ろ、ぶった切ってやる。」と斧(おの)を持ち上げようとした時に僕と目が合ってしまった。

「こいつはなんだ?」

「例の里から連れてきた、お前の弟子になりたいってやつだ。どうだ?育ててみるか?」とちょっと悪戯(いたずら)っぽい表情を浮かべていた。

『え?ちょっ、トートさん?何言ってるんですか?弟子入りしたら、僕死にますよ!』と頭の中で訴えたが、トートに聞こえているわけではなく。

虚しくも、僕を置き去りに会話はどんどん進んでいくのだった。

「お前が誰かを推選(すいせん)するなんて珍しい事も起きるんだなぁ。それとも、こいつってそんなに凄い奴か?」と僕を物珍しそうに見つめた。

「いいや、こいつは戦闘経験、って言うか、人生経験ゼロだ。」

『って、数日前に言ってたのと真逆!』と頭の中でどなった。

「数日前に里から逃亡してきたばかりだからな。話は本人から聞いた方が早いし、そこは二人にお任せする。俺はそろそろ行かないといけないから。じゃぁな、うまくやれよ!」そう言ってトートはどこかに転移した。

「おい、俺はまだ引き受けるとは言ってないぞ!」だが、トートは既に去った後で、僕はぎこちなく笑いながらも、足はガタガタ震えて今にも倒れそうだった。

「お前、名前は?」アステリウスさんは少し屈んで僕にそうきいた。

「僕はフレイルと言います。宜しくお願いします。」と、とりあえず挨拶は出来た。

「俺はアステリウスだ。お前、俺に弟子入りしたいんだって?なら、お前の事をアライザライ話せ、話しはその後だ。」

『なんか尋問されてる感が拭えない…なんでだろう?』

僕は全て話した。

生まれてきた時の事も、何もかも。

正直初対面の人に言うのは冷汗が止まらなかった。

相手に言って、また気味悪がられて閉じ込められたらどうしよう?また一人にされたらどうしよう?とマイナス思考になっていく。

話し終わった僕はアステリウスの顔を見たが、彼の目には偏見の光も見えなかった。

「お前、変な奴だな。」そうあきれたような口調で言った。

「変?」

「そうだ、変だ。そう言う暗い過去がある人はもっと自分の私情を隠したがる。それなのにお前は、疑う事を知らない子供みたいにぺらぺらと。そうやって自分の過去を語れる奴はそうはいない。相当変わってるぜ、お前。」

よくわからないが褒められている気だけはあまりしなかった。

「改めてよろしくな。」彼は僕にあいさつの手を指し伸ばしてくれた。

「こちらこそよろしくお願いしますアステリウスさん!」

「あ~あ!やめろ!敬語(けいご)なんて背中がかゆくなる!アステリウスで良い!」と耐えられない表情を浮かべたので、名前だけ呼び捨てにする事にした。

「にしても、あの里出身とは、お前も弱くはないんだな。」

「え?どういう意味ですか?」と彼に聞いてみた。

「あの里周辺の草原は、俺も倒すのにてこずる化け物がうじゃうじゃいるんだ。それを傷一つ追わずに出て来れるってことは、あいつらが近づくのをためらう程度には強いってことだ。なんせ、隠密(おんみつ)スキルには体制がある魔物だからな。」

「あ、いえ、全部トートが獄炎剣で灰にしてただけです。アハハハハ。それに、僕は生まれてこの方、自分の暮らしてた家から出たことがないので、魔物がいるなんて知りませんでした。食事はいつも村の誰かが持って来てくれてたので、出る必要性も感じませんでしたし。」と思い出して少っと切ない気分になった。

『あの里に魔物が溢れてるのは、たぶん俺のせいだな…』ど無事に出られたことに内心ホッとしてしまった。

「とりあえずだ。今日からここに泊まることを許す。だが、俺に弟子入りするために、いくつか試験を受けてもらう。だが、今日の所は寝ろ。二階に使ってない部屋があるから、それを使え。」そう言って二階に続く階段をのぼって案内してくれた。

「ここが今日からお前の部屋だ。」そう言って、彼は下に戻った。

部屋は机と椅子、窓、ベッド、大鏡、と水の入った鉢(はち)が置いてあった。

僕はベッドを整えて、潜った瞬間に眠気にあらがえず意識が飛んだ。

「……きろ。」と微(かす)かに声がして、僕は目を覚ました。

「おい、起きろ!」と聞き覚えのある声がいきなり怒鳴った。

びっくりして、慌てて立ち上がったが勢い余って思い切り頭を誰かのおでことぶつけてしまった。

「痛ったぁ~!」と御凸(おでこ)をこすった。

「それはこっちのセリフだ!いつまで寝てんだ!」とアステリウスが起こしに来ていた。

そして、あまり嬉しくはない表情で僕を見つめていた。

「すみません、もう朝なんですね。」と寝癖(ねぐせ)を直しながら言った。

「のんきなこと言ってないで、朝飯食ったら草原に出かけるぞ。」

だが、ベッドから起き上がろうとした僕は自分の髪を踏んでしまい地面にこけてしまった。

今の今まで旅をできたのが心底不思議だ。

アステリウスは地面に顔から突っ込む僕を見てため息をついた。

「はぁ~まずはその髪を何とかしなくちゃな。最初に見た時から思ってたけど、とんでもない長さだ。何をどうしたらそこまで伸ばせるんだ?」

「アハハ。村に僕の髪を触れる度胸のある人はいませんでしたからね。生まれてこの方、髪を切ったことがないと思うんです。あ、そうだ。確か、僕が幼なかった頃に髪を切ろうと試みた人が一人だけいました。ですが、鋏(はさみ)の刃が通らなかったみたいで。それどころか、髪きり専用の鋏だったのに、

僕の髪を切ろうとしたら鋏の方が壊れたんですよね。不思議ですよね?」

「なんだ、それ?」と信じられないのが手に取るように分かった。

「とにかく、長すぎる。ちょっと待ってろ。」そう言って玄関に置いてあった斧を取りに行った。

「あ、けど、ここでやったら床に穴開いちゃうな。」そう呟いて僕達は外に出た。

『えぇ?斧で髪切るなんてやりすぎなんじゃあ?』

彼は斧を持ち上げて渾身の一撃で振り下ろした。

するとキィーン!と音がして斧がはじかれた。

『キィーン?えぇ?今キィーンって音したよね?こっわぁ~!』

それから何度試したが駄目だった。

「ね?言ったでしょ?」

「確かに。こりゃ、鑑定士に連れて行くしかないな。」とあっさり諦めた。

アステリウスは意外と器用(きよう)で、朝ご飯はちゃんと調理したものが出て来た。

「アステリウスって、料理が上手なんですね?」

「あたりまえだ、料理に口うるさい奴らが時々迷惑しに来るんだからな。終わったなら、とっとと出かける準備をしろ。」

そして、僕達はまた草原に向かったが、トートの時と違って、近道したので早く辿り着いた。

「よし、ここならいいだろう。お前、索敵はどれくらいできる?」

「少(ちょ)っとなら、出来ます。」

「じゃあ、やってみろ。」

『超聴覚〔小〕、聴視覚〔小〕及びに気配察知〔小〕を行使。拾うのは足音及びに影像。』

すると下種類の魔物の影と足音が拾えた。魔物は草の間を走り回っていた。

僕はそっと近づいて、僕の掌ぐらいの大きさのネズミを一匹捕まえて、師匠に見せた。まだ弟子として認められたわけじゃないけど。

「まぁ、こんなもんですかね。」と言った。

「まぁ、上出来だ、が、まだまだだな。」

そうやって、そのネズミを捕まえて家に戻る頃には日が暮れていて、そのネズミは晩ご飯のおかずになった。

そして、草原での狩りは僕達の日課になった。

そうやって二週間が過ぎ、二週間が一ヵ月になった。

その間にアステリウスと隣町の鑑定士を訪ねたりもした。

その鑑定士によると、どうやら、僕の体の体内で循環しきれなかった魔力の一部が髪と一緒に溢れた結果だそうだ。その魔力が薄く膜(まく)みたいに髪を包んでいて結界みたいな役目を担ってるとか。

終ぞ疑問に思った鑑定士は、僕の魔力を測るために魔道具を持ってきた。

だが、僕が触れると同時にその魔道具は壊れて粉々になった。

「おやまぁ。これは…この魔道具が壊れたと言う事は、あなたの魔力がこの道具の許容値をはるかに超えていると言う事です。残念ながらここでは図ることができません。ですが、壊れた魔道具の事は心配なさらず。こういう時の為に替えはいくつも準備しておりますので。」それを証拠にもう一つ持って来てくれた。

鑑定士の所を出て来るとアステリウスは困った様子だった。

「僕の魔力ってそんなに凄いの?ここ以外に測れるところはない?」

「いや、もう一か所ある。」そう言うとアステリウスの所属している冒険者協会に行って再鑑定してもらった結果、僕の魔力がオレンジランクと判明した。

冒険者協会には魔力の量を測る手段として冒険者ランクと同じホワイト、イェロー、オレンジ、レッド、クリムゾン、ブラック、アビス、そしてジョーカーランクに分けた形で区別していることが分かった。

そしてどうやら、十五歳としてオレンジランクの魔力を有しているのは不自然極まりなく、鑑定してくれた人の言葉を借りると「ありえないんです!」らしい。

だが、鑑定の結果がモノを言うので仕方なく納得していた。

その後、僕達は家に帰って日常に戻った。たぶん。

何故か、僕の魔力量を知ったアステリウスの稽古は一皮むけたように厳しくなった。

僕が彼と一緒に暮らし始めてから分った事がいくつかあった。

そのうちの一つが彼の性格だった。

アステリウスは基本的に誰にでも口が悪くて、機嫌はほぼいつも悪い。

ある日、彼と訓練に出ようとしたら、双子の耳の尖った男達が家に押し掛けてきた、と思ったら、台所の椅子にばったり倒れるように座り込んだ。

「アステ、お腹すいた!なんか作ってぇ~」と。

僕は『こりゃいったい何の状況なのかな?』と半分呆(あき)れながら思いつつも、アステリウスに「じゃあ、僕は狩場に先に行ってますね。」と伝えて出て来た。

「もしかして、あの人達がアステリウスの料理上手の原因だったりするのかな?それなら少っとだけ感謝しなくちゃ。」そう、アステリウス本人の前では口が裂けても絶対に言えないお礼をこっそりしたのだった。


❖

フレイルのコゾウが狩場に先に行くのを俺は窓から見届けた。

あいつの姿が見えなくなるまでちっとばっかしまってから、エルフの双子の後ろに立ち、どなった。

「お前ら!家にノックせずに入るなって、何度言ったら解るんだ!ここはもうお前らの家じゃねぇぞ!」

椅子に寛いでた二人は耳を掴んで悲鳴を上げた。

「うるっせぇな!俺たちエルフの耳は音に敏感って事知ってるだろ?!」

「知るかぁ!だいたい、お前ら俺の訓練に耐えられずに逃げやがったのに、よく毎回飯ねだりしにこれるもんだ!」

「そりゃあ、逃げたけど、修行は地獄だったけど、飯は旨かった!帰って来る理由って、それでいいじゃん!」とよくもまぁ、恥も知らずに図々しく言えたもんだ。

「それより、さっきの子だよ。誰?」

「あ!それ俺も気になってた!誰、誰?」双子はそう言いながら口を揃えて聞いてきた。

「勝手に話を逸(そ)らすな!はぁ~。お前たちの弟弟子だ。一ヵ月前からな。」

「え?!自分で弟子を取ったの?何それ、超意外!びっくり!」と失礼な事を言う双子を殴りたくもなったが、我慢した。

アラガチ間違っちゃいなかったからだ。

正直言って俺もかなり驚いてる真っ最中だ。

他の奴らと同じくあいつもね音を上げて諦めて逃げやがると思ったからだ。

俺も、自分の訓練がきついことくらい知ってる。

そりゃ、俺も最初に弟子入りした師匠の下に入った時は何度も値を上げて逃げてたさ。

だが、師匠は毎回俺を引っ張り返してくれたし、面倒も見てくれた。

ただし、俺も同じ様な師匠になれるとはとてもじゃないが言えねぇ。

俺は自分の師匠と違って、ガキの頃から性格は底辺中の底辺だったからな。

だが、師匠はそんな俺でも「優しい」なんて俺には似ても似つかない表現をしてくれた変人だった。

まぁ、死んでも人に認めたりはしないけど。

「ほら、お前らも暇(ひま)じゃねぇだろ!俺は弟子の訓練に向かう!それ喰い終わったらとっとと帰れ!ったくちったぁ弟弟子を見習えってんだ。」だが、少っとだけ嬉しい気持ちが、ほんの僅かにあったのかもしれない。

「あら、どうしたの?嬉しそうに自慢しちゃって!俺たち見てた時と心構え違くない?ずるいよ!特別ヒイキ反対!」と、今で双子は飯を食いながら難癖を言った。

「ヒイキなんかじゃねぇ!お前らもアイツの半分くらい根性見せたんなら俺も、ちったぁ教えガイがあったさ。なぁに、やっとシゴキガイのある奴が俺の前に現れたんだ、シゴかない手はねぇ。それだけだ!」 


僕が狩場に着いたら、真っ先に荷物を降ろして地面に座ってアステリウスを待った。

その間に髪をいじってたら近くにロングヘア・スナイダーって言うカンガルー・ラビットみたいな生物が立って耳をぴんと立てて周囲の音を探知していると、いきなりハリネズミみたいに体の毛をピンと立てたら魔力を体に張り巡らせて毛の長さを縮ませた。直直後に近くにいた大型の魔物はロングヘア・スナイダーを通り過ぎて行った。

その光景を見て頭にピンときた。

『そうだ!髪切れないなら、短いよう想像すればいいんだ!』と。

僕は自分の長い髪が短くなるイメージをした。

すると、今までウェディングドレスのヴェールみたいに2メートル以上も長かった髪の毛がみるみる縮んで行って数分もかからないうちに男の子みたいに短くなっていた。

ちょうどその時にアステリウスが見えたので走って行った。

「アステ!見て下さい!僕の髪、短くなりました!魔法でやったんです!短い髪を想像したら縮んで短くなりました!」と僕は嬉しいあまり彼の周りを飛び回った。

「そうか、よかったな。」と彼は少しだけ嬉しそうに見えた。

「アステリウス、何か良い事でもあったんですか?」

「いや、何も。」

「本当ですか?少っと嬉しそうに見えますけど?僕の気の生ですかね?」

「いや、お前の成長が早くてシゴキガイがありすぎて少っと喜ばしいと思っただけだ。」

僕は一瞬鳥肌が立った。

『僕は、ひょっとしたら凄くやばい人に弟子入りしたのかもしれない。』そう思いながら。

他の人間が訪れたのはそれっきりだった。

あ、いや。人間って言えるのか?耳尖ってたし。

実を言うと、家を出る前に彼らをこっそり鑑定してた。もちろんアステリウスさんの事も。

種族は【エルフュイア】歳は九十歳。見た目は二十代前後。

ちなみに言うとアステリウスはデアルヴァ族。そして、彼もまた、実は百歳超えてるのに三十歳に見える年齢チートキャラであった。

『まぁ、そう考えたら、僕も中身は三十代前後のおじさんなんだけど。』

なにより、アステリウスと一緒に過ごすうちに僕は前よりも更に流暢に話せるようになった。

そして彼との暮らしは一見(いっけん)順調(じゅんちょう)にみえたが問題が二つばかりあった。

それは…ここの天気がちょっと異常なまでに熱い事だ!

後、話し相手がアステリウスしかいないのでコミュ障になりかけている気がしてならない。

草や木が生えてるのが不思議なくらいだった。

おかしいと思ってほかのところも同じ様に熱いのか確かめるために母の墓にもう一度(いちど)行って見たが僕の元居た森やその周辺は寒いままだった。

『天候設定でもあるのかな?』そう思ったが、おそらくあの森は僕が起こした魔力爆発で天候不変地帯になってしまったのだろう。

とにかく戻って僕はアステリウスに直談判して訴えた。

「アステリウス!この熱さはどうにかならないの?」そう不満げにきいたが帰ってきた答えは外れだった。

「俺もこの熱さにはうんざりしてるさ、けどどうしようもないんだ。おそらくだが、ここが他より熱いのは世界樹のせいだな。空気からも魔力吸ってるからな。季節変わって雪でも降らない限りがまんするしかない。言っておくが、冬も他より寒いぞ。」

「えぇ…?」僕はため息をつきながら地面に座った。

「そっか!雪降をらせればいいんだ!」と思わず大声で叫んでしまった。

「バカなことを言うな。天候操作魔法なんて万能種にしか操れない高等魔法だ。一般人には到底無理だ。」

「万能種?天候操作魔法?何それ?」

「万能種は別名、ジョーカーって種族だ。そいつらは名前通りの、なんでもありな連中だ。文字通り最強ってわけさ。だから、冒険者ギルドは彼らの所属する組織をこう名付けた。〔世界管理機関、通称:ワールドキーパー〕とな。奴らは組織の名前の通り、この世界を管理する任を授かる。考えても見ろ、あんな連中、全員が全員まともなわけがない。まともなら、そもそもジョーカーの境地に至ってない。だから、無理やりでも肩書を与えて暴走を未然に防ぐ。そんなとこだろうさ。俺も詳しくは知らねぇけど。」と説明してくれた。

『僕ってとんでもない世界に飛ばされたのかも。ア、アハハハハ。』

「けど、可笑しいんだよね。僕が元居た所は一年中冬だったのに全然寒くなかったのに。」と腑に落ちない疑問を口にした。

「あれだ、そりゃあお前の魔力と関係がある、お前の魔力量が多いからだろう。魔力は熱に近い力だから、魔力の多い人や種族は自然に温度の低い所に好んで住む。逆に魔力の少ない連中は普通にこんな天気も平気で生活できる。と言うか、俺もお前ほど熱くはないけど。水呑んだら何とかるし。」

「なんだよぉ、それぇ~!」

しかし、ありがたい事に熱い天気はそう長くは続かなかった。

秋が来て、冬が来たからだ。

だけど、彼の言う通り冬は冬で死にそうなくらい寒かった。

まぁ、僕はその寒さを感じられなかってけど、アステリウスを見てると解った。


アステリウスは変わらず良くしてくれて、そうやって半年が過ぎた。

だけど、丁度半年が過ぎてアステリウスは冬にはできなかった仕事に復帰した。

「冒険者って、具体的に何するの?」とある日気になって聞いてみた。

「冒険者は、危険な迷宮の調査をしたり、街の人の依頼を受けて手を貸したりして金を稼(かせ)ぐんだ。」と出かける前に説明してくれた。

だが、ある日を境に彼の体調が悪くなり始めた。

「アステリウス、最近はすごく疲れた顔してるけど。大丈夫?」そう彼にきいたがよくごまかされた。

「何でもない。」と。

だが、彼の容体(ようだい)はよくならなかった。

日に日に悪なっていく彼の顔はとても辛そうで、何かしてあげたいのにどこから始めればいいのかわからない自分がもどかしく思えた。

『これ以上放っておくと、アステリウスが死んじゃう!』ふとそう思ってしまった。

僕が代わりに働こうと彼に相談したが彼は反対した。

働きたい話を持ち掛けたらしずかに首を横に振った。

その後も何度か試したが、答えは変わらずじまいだった。

ふと、僕は草原の図書館で治癒技術について読んだのを思い出した。

それでももちろん、読んだことがあると言う程度で、一夜でできる保証はどこにもないし、世の中そんなに甘くもない。

いくら魔法が存在する世界でもそこは元の世界と一緒。

これは僕の集中力と想像力を試す絶好の機会、願ってもないチャンスだって事もわかってはいる。

草原(そうげん)に出て家の周りをうろうろしていたら家の後ろにある樹を半周した所に、人間が一人入れる大きさの穴倉があった。

「ここにするか。」と、そう割り切って中に入った。

入ってみると、少し奥まで続く、穴倉ではなく洞窟だと判明した。

外からみた時は分からなかったけど、実際に入ってみると中は思ったより広かった。立っても頭と天井がギリギリ当たらない程度にはだが。

初日は何もせずにただひたすら考えた。

「治すと言っても、アステリウスの病の正体が分からないんじゃぁどうしようもないな。」

その日の残りの時間を頭フル回転させながら考えたが、答えは出なかった。その頃には日が暮れてしまってて、暗かったのでそのまま眠ってしまった。

次の朝起きたら、おかしな匂いがした。

『何だ、この匂い?ちょっと鉄くさいな。』そう思って起きてみると、僕の視界に兎がいた。

「兎?」僕は身を起こして座った。

よくみると、その兎は片方の後ろ足がちぎれかけていて出血がひどかった。

『さっきの匂いはこれか。』

さらに調べると傷口に牙の痕のようなものがついていて、どうやら獣に襲われたみたいだった。

「個体名フレイルは『診察の光眼』を獲得しました。」と声がまた教えてくれた。

診察の光眼はレントゲンと似たようなもので、患者の状態を隅々まで調べることができ、その結果をウィンドウに表示してくれる特殊鑑定のスキルだった。

「今治してあげるからね。」そっと毛をなでながら呟くと、少し動いていた兎が大人しくなった。

目をつぶって頭の中で傷が癒えるのを想像しながら自分の魔力を少し与えた。

「個体名フレイルは『回復〔小』』を獲得しました。」

「お~、何事もやってみるものだね?」と喜びのあまりうっかり兎に話してしまった。

まぁ~兎が僕の話してることを理解(りかい)できるわけじゃないから、事実上独り言みたいなものだが。

その兎を治して逃がして暫くすると兎はまた帰ってきた。

その背中には子狐が弱々しく寝ていた。

さっき兎を治すときに獲得したスキル『診察の光眼』を使ってみてみると状態異常が付与されている事が分かった。

「連れてきてくれてありがとう。」と言いながらそっと撫でてあげた。

その後、狐も兎と一緒に次々にと手負いの動物(どうぶつ)を連れてきた。

魔物を連れてくることも度々あった。

最初に獲得したスキル『回復』と『状態異常無効』は統合して進化し『万能完治〔小〕』になった。

やがて『万能完治』は『万能完治』に進化した。

他の動物(どうぶつ)は治してもらうと自分達の住処へと帰っていったが、どういうことか、兎と狐は僕の隣を離れなかった。

僕は荷物をまとめて家に戻る事にしたが、兎と狐がなぜなのか家までついてきた。

「ここには何もないよ。」と僕は言った。

まぁ、人間の僕の言葉をわかるはずもないのでついてくるがままに放っておいた。

「個体名フレイルは〔テイマー〕を獲得しました。続けてレプスとウルぺスをテイムしました。」とまた声がした。

「お前、レプス言う生き物なんだな。」

『ラテン語だともろに兎じゃん。』

「君はウルぺスなんだね。」

『こっちもラテン語で狐だし。』

としゃがんで二匹に話しかけた。

僕は今一度覚悟を決めて家の中に入った。

家の中は不自然なくらい静かだった。

僕は不安になって急いでアステリウスの部屋に入った。

部屋には明かりがついていなかったせいか、ほとんど何もみえなかった。

ちょっと悪く言うと事故物件みたいな雰囲気すら感じた。

『いや、いや。バカな考えはよそう。』考えを振り切るように首を左右に強く振った。

近くにあったランターンの紐に火をつけて天井(てんじょう)のフックにぶら下げると部屋に明かりが灯したが、あまり明るくはなく、かろうじてみえると言う程度だった。

部屋に明かりがつくと彼が明白にみえたが、その姿はみるに耐えられない程に酷い姿だった。

かつて生き生きしていた彼の姿はどこにもなく、あるのはやつれて凹んだ頬に筋肉のかけらもない、肌色も土色と大差変わらない色で、彼が生きている証拠はかろうじて呼吸するために動いている胸だけだった。

「アステリウス!」

僕はすぐに彼の側に行って座った。

「診察の光眼、発動。」

アステリウスに診察の光眼を使った結果、彼は〈迷宮毒〉と言う寄生毒に侵されていた。

迷宮毒、文字通り生物に寄生して、その魔力を喰らい成長する寄生生物。寄生毒は寄生体の魔力が空っぽになると浮かし、新たな寄生先を探して迷宮を彷徨って、寄生先を見つけると卵を植え付けて死ぬ、ダンジョンに生まれてダンジョンで死ぬ事からつけられたダンジョン生命体。

アステリウスは基本的に成るように成ると言う流れを好む性格で、でも妙なところで抵抗する癖があって、難癖付けたり面倒を持ち込もうとする連中は面と向かって追っ払うのに、自分の置かれた状況(じょうきょう)を打破するために誰かを頼ることは頑なに拒むような人間だった。

いや、彼だけじゃない気がする。

僕ももしかしたらそうなのかもしれない。

アステリウスの性格を知ってるのにも関わらず、彼の病状を何とかしようとしてる。

彼の内臓は生きている方が不思議なくらいぼろぼろだった。

迷宮毒は生物の魔力を喰らう、つまりそう言う事だ。

こちらの世界の人間は骨体、臓器体、肉体、その他すべてが、木、火、土、金、水、雷の六系統に属する魔力で出来ている。つまり、寄生体の魔力が空になると、遺体も何も残らないって事だ。

「そんなことさせない!」

僕は治療を始めた。

今まで治してきた動物(どうぶつ)たちみたいに傷ついた内臓を丁寧に治していった。血管も治した。次は血が頭から指や足先まで巡るようイメージをして、彼の肌や顔色が徐々に戻ってきて凹んでいた頬やお臍も段々膨れ上がって元通りになった。

けど、迷宮毒を何とかしないと根本的な解決にはならない。

迷宮毒は、意外と分かりやすい所にとどまっていた。

心臓だ。

迷宮毒は、心臓の壁に根を張りながら魔力を吸っていた。その根を切断すると、迷宮毒は分解して自然消滅した。

彼の治療が終わたら台所に行って彼のためにおかゆを作った。

見た目はおかゆなんて到底言えた様じゃないくらい酷かったけど。

「これ食べて、僕の料理がひどいと嘆きながら自分で作るくらい元気になってくれればもんだいないんだけど。」最初は一口食べるのも、食べさせるのも仕事だった。

だけど一口目を飲み込むと体力が少し戻って、最後には自分でスプーンを口に運んでいた。

そうやって数日(すうじつ)、僕はアステリウスの世話をした、そして彼は完治した、だが彼はあまり喜びはしなかった。

様子を見に部屋に入ると彼は少し厭きれた表情(ひょうじょう)だった。

「どうしてこんな真似をしたんだ。」だがそれは問いと言うより、僕を責めているようにきこえた。

「アステリウスが死んだら僕は困る。まだ、ここに住まわせてもらっているお礼もできていない。僕は君がいないと寂しいんだ。」そう言ってからようやく僕は虚しさの正体に気づくことができた。

元の世界で日々感じてた虚しさは、その正体は寂しさだった。

孤独さだった。

『あぁ、そうか。僕はずっと寂しかったんだ。孤独だったんだ。なんでもっと早く気付かなかったんだろう?バカだな。』

そしてその覚りに涙が零れ落ちた。偽の親に捨てられた時も、苦しい鍛錬に耐えてる時すら涙の一滴も出なかったのに。

『なのになんで、今になって涙が出るんだ?』

不思議だった。涙が止まらない事がじゃなく、なんでこのタイミングでなのかが不思議だった。

今までこんなの非じゃないくらい悲しい経験をしてきたのに、自分が寂しかったと言う事実の気づきにどうして涙が溢れたのかがサッパリ分からなかった。

彼はどうすればいいかわからない顔で僕をみた。

「僕はトートが大怪我をした時も何もできなかったんだ。今は何とかできるのに君を死なせたら僕は、僕は、意図的に誰かを、死に行く誰かを放っておいたことになるんだ。ましてや、恩人をそんな目に合わせられるほど僕は冷めていないんだよ。」暫泣いたせいで話しながらシャックリが止まらなかったけど、それを意識できるほど落ち着いてはいられなかった。

アステリウスはどう声をかけるか戸惑っている様子で、何も言わなかった。

僕には彼が何かを考えてるようにみえた、もちろん何を考えているかまでは僕にも分からなかったが。

アステリウスはとても難しい顔をして暫く悩むと、やっと口を開けて僕に彼の本音を話してくれた。

「正直(しょうじき)に言うとお前の力は異質だ。悪い意味でなのか良い意味でなのかはお前がその力をどう使うかによって変わってくる。そしてそれはお前がその力を何の為に、または誰の為に使うかにもよる。そこを決めるのは俺じゃない、お前自身だ。」

『覚悟を決めるんだ。』僕にはアステリウスがそう言っているように思えたし、そうきこえた。

気のせいと言う可能性もなくはないが。

「それでも慎重にならなければいけない。その力をよく思わない連中も少なくはないからだ。むろん、それだけじゃない。確かにこの世界は広い。そして、その広さだけいろんな人間や種族が存在すると言う事だ。よく言えば学ぶことの多い、巨大な学校だが、悪く言えば格好の獲物になりやすい捕食者の縄張りだ。」

詰りは、弱肉強食。

「だから今までお前を働かせなかった。お前は確かに凄いが、世界を知らなさ過ぎて全然お前の足しにも為にもなっちゃいない。しかし、どうしても働きたいと言うなら、手助けくらいしてやる。けど、絶対に油断するな。生き残りたきゃ多少冷めてないとお前自身が持たない。」

アステリウスは冒険者(ぼうけんしゃ)について説明(せつめい)してくれた。

「冒険者(ぼうけんしゃ)には種類が三つある。魔法使いと武術使い、そして感術使いだ。」

僕は彼の説明(せつめい)をいったん止めた。腑に落ちない部分があったからだ。

「魔法と武術は何となく分かるけど、感術はさっぱりだよ。」

「感術は生き物の感情(かんじょう)や感覚を自分の武器にできる術だ。ここには思考術師や召喚術師も含まれる。人の感情(かんじょう)から発生する思考を操る、それが思考術師だ。」その後何の問題もなく話を戻し、説明(せつめい)を続けた。

「魔術は八つの属性が存在するる。二つを除いては表裏一体だ。火と水、水には氷属性も含まれる。まずはこの二つをしる。」

アステリウスの説明をまとめるとつまり、水は熱を奪うと氷と化す。その氷は時にとても熱く、それは物体の温度が極限まで下がった時にしか感じない。故に水と火は表裏一体だいと言う。

「次に雷と風だ。大気に電流を流すと空気に留まる酸素が揺れ、風をなす。逆に雷に風を送ると、纏(まと)まっていた電流が霧散し打ち消される。」

アステリウスは八つ存在する魔法属性の事をくまなく説明してくれた。

彼が言うには、八つの属性は、二つで一つだと言う。要するに、一つ獲得したらもう一つも獲得しやすくなるとか。初めに火と水、次に雷と風、光と闇、最後の二つは無魔法と有魔法だがこの二つは獲得手段も誰にも知られていないから憶える事自体まず不可能だと。


間もなくして、彼は化けの皮を剥いで本性をむき出しにした。

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