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デッド・オア・キス  作者: 夕凪渚
5章 フュール奪還編
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39話『絶望のその先』

「オラオラオラァ!! その程度か!」


鬼怒哀楽の1人、エルガーがアゼウロスの目の前を横に行ったり縦に行ったりと駆け回り、挑発する。


『その程度の安い挑発には乗りません』


「ハッ! どうだかな!」


エルガーはそう言うと、腕に炎を纏いアゼウロスを殴り飛ばした。アゼウロスは数秒の間飛ばされるが、すぐさま体制を立て直し、再び飛行する。


「⋯⋯はぁエルガー。キミではこの竜は倒せないよ。だるいけどボクに任せて」


「んだとコラァ!! テメェ殺されてェのか!」


ディスフォードがエルガーの前へと出てきてそう言うと、(かん)に障ったのかエルガーがキレる。


「エルガー。ここは少し下がっていてほしいな」


ラエティティアが言うと、エルガー「んだよっ!」と言って下がった。


「⋯⋯助かるよラエティティア。――それじゃあやるとしよう。《ダークネススペース》」


ディスフォードがそう言うと、突然ディスフォードの身体から闇の煙のようなものが噴き出し、アゼウロスを包んだ。


「⋯⋯これは一種の精神攻撃のようなものだ。この空間に入った者は過去の嫌な思い出ばかりが永遠と再生される。ボクの得意な魔法さ」


ディスフォードはそう言うと、力なく笑った。


「さすがだねディスフォード。性格が魔法に出ているよ」


「⋯⋯余計なお世話だよ。――そろそろいいかな」


そう言ってディスフォードは闇の煙を勢いよく切り裂く。すると、中からは憔悴(しょうすい)した様子のアゼウロスが出てきた。

どうやらディスフォードの精神攻撃が相当効いたようだ。


「⋯⋯効き目が良かったようだ。あとは任せたよ」


そう言って後方に下がるディスフォード。任されたのは3人――ラエティティア、ラスティマス、ヴィーヴェルだった。この3人は鬼怒哀楽の中でも特に強い3人だ。


『くっ⋯⋯。小癪(こしゃく)な真似を⋯⋯』


アゼウロスが鋭い双眸(そうぼう)を更に鋭くしながら呟く。

内心、アゼウロスは体力の限界が来ていた。このスピードで飛行するのは実際かなりの体力を必要とする。さすがのアゼウロスとて長時間飛行するのはかなりのキツさだった。


「さて、どうするかな。もう力も尽きてきたようだし、適当に終わらせようか」


ラエティティアが興奮が冷めた様子で言う。どうやらこの程度でやられるアゼウロスに内心ガッカリした様子だった。


『まだです⋯⋯。まだ⋯⋯!』


と、アゼウロスがそう言うと、どこからか突風が吹き荒れる。


「⋯⋯悪いけどここで堕ちてもらう」


突然、アゼウロスの背後から声がした。アゼウロスはその方向を振り返る。いつの間に移動したのか、そこにはヴィーヴェルの姿があった。


「――《ニードルヴィント》」


ヴィーヴェルがそう言うと、突然アゼウロスの周りに強烈な風が吹き荒れた。それもただの風ではない。触れると切れるしくみの風だった。なんとも厄介である。


『くっ――』


アゼウロスが痛みに耐えるように歯を食いしばる。硬いはずの鱗が切れ、血が噴き出る。


――このままではまずい⋯⋯!――


そう思い加速してヴィーヴェルが起こした風から逃れようとした刹那(せつな)、今度は前方から眩い光に照らされた。


『何事⋯⋯。はっ! まさか!」


アゼウロスは気づいたように減速させる。しかし、時すでに遅し。目の前にラスティマスが現れ、加速した力とラスティマスの力が合わさり、アゼウロスの身体は地面へと激しく衝突した。





『ぐはっ⋯⋯!』


アゼウロスが口から血を吐く。もうアゼウロスに力は残っていなかった。


「アゼウロス!!」


エーベルトが叫ぶ。


「あーあ。また興奮が冷めちゃったよ。一度は期待したんだけどね。残念だ」


ラエティティアがアゼウロスの目の前に静かに降り立つ。他のメンバーも周りに降り立った。


「さて、どうするエーベルト。キミの最後の希望も潰されたわけだけど⋯⋯絶望したかな?」


そう言って口の端を歪めるラエティティア。エーベルトはラエティティアを睨みつけることしかできなかった。

ラエティティアの言う通り、エーベルトの最後の希望は潰されてしまった。このままではフュールをを助け出すことは不可能である。


「ふふっ。絶望もしているけど、まだ少しの希望を探しているといった感じだね」


「⋯⋯俺たちをどうするつもりだ」


エーベルトが訊ねる。すると、ラエティティアはおかしなものでも見るような様子で笑った。


「どうする、か。どうしようかな。もっと絶望を味わってほしいんだけど⋯⋯あ、そうだ」


そう言って先程までは比べ物にならないくらい口の端を歪める。

エーベルトは嫌な予感しかしなかった。


「キミが一番絶望する方法、それはキミたちがここへ来た理由でもある」


「⋯⋯どういうことだ?」


遠回しに言うラエティティアの意図を()み取れず、エーベルトは訊ねる。


「分からないのかい? じゃあ教えてあげるよ」


言ってラエティティアは指さした。


「――()()()()()()


フュールに向かって。


「なっ⋯⋯!!」


エーベルトは眩暈(めまい)がし、膝からくずおれそうになるが、なんとか堪えた。

フュールを殺す。それはエーベルトが一番恐れていたこと。それが今目の前で起ころうとしている。


「やめろ!! そんなこと、絶対にさせない!!」


「ふ――ははははははっ! いいねぇその顔! 必死に抗うその様子! たまらないよ!」


ラエティティアが興奮した様子で言う。

ラエティティアが言っていること――フュール殺すということはおそらく本気で言っているのだろう。


「さぁ! 早速だけど、顔が絶望の色に染まる所を皆に見せてくれ! エーベルト!」


そう言うとラエティティアはエーベルトからフュールにつま先を向ける。そしてずんずんと歩いていく。


「やめてくれ!! お願いだ! なんでもする!!」



――まずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずい!!――



エーベルトの頭の中はもうぐちゃぐちゃで、何が正しいのか正しくないのか、何をすれば良いか分からなくなっていた。心臓の鼓動音が耳元でしているような錯覚に囚われる。


そんなことを考えているうちにラエティティアはどんどんフュールへと近づいていく。


「やめろぉぉぉぉぉぉ!!」



――止めないと!――



その思いがエーベルトを動かし、ラエティティアの方へと突進していく。


「おっと、テメェが通る道なんざねェよ」


しかし、道はエルガーによって閉ざされてしまう。だがエーベルトは諦めなかった。必死にエルガーを力のない拳で殴り続ける。


「大切な人を失うなんて、そんなの嫌だ!! お願いだどいてくれ!」


「いい加減抵抗は止めたらどうだ? うるせェから、よっ!」


「うがっ――!」


エルガーに蹴り飛ばされ、後方へと転がっていく。

と、そのとき、エーベルトは同時に酷い吐き気に襲われた。



――な、んだ、これ⋯⋯――




蹴られたからかと思ったが、違う。心臓の鼓動もさっきより早くなっていき、身体が熱い。まるで何者かに身体を乗っ取られるような感覚がエーベルトを襲った。


「さぁエーベルト! 最後にフュールに伝えることはないかい!?」


エーベルトがそんな症状に襲われている間にラエティティアはフュールの元へとたどり着いていた。

(かす)む視界でラエティティアの方を見やる。興奮した様子で笑うラエティティアが憎くて仕方なかった。


「⋯⋯やめ、ろ。フュールから離れ、ろ⋯⋯」


「残念! キミのその顔、最高だよ!――フュール、キミもあの絶望に彩られた顔を見てごらんよ!」


話を振られたフュールは俯いていた。エーベルトの姿を見てしまうと涙が溢れてきてしまうからだ。それはラエティティアを喜ばせてしまう。


「さぁ皆、注目のとき! フュールが死に、みなが絶望するところを!」


そう言ってラエティティアは手に濃い魔力を纏った。そして、フュールに向ける。おそらく光線を放つのだろう。


「さよなら、フュール」


フュールは歯を食いしばった。

短い間だったが、とても楽しかった。エーベルトにちょっかいを出したり、変態的な言動をしたり。そんな何気ない日常も、昔からフュールには無かったから。


「やぁぁぁぁぁめぇぇぇぇぇろぉぉぉぉぉ!!!」


エーベルトは最後の力を振り絞り叫びを上げた。その瞬間、エーベルトは時が止まったかのような錯覚に囚われ、次の瞬間目の前が真っ赤に染まり、そこで意識が途絶えた。

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