36話『最上階で待ち受ける者』
「《トレース&カウンター》」
ライムントがそう唱え、手から濃い魔力を纏った光線が出、ガーディアンの中心部分を貫いた。
ガーディアンはその場に落ち、そのまま動かなくなった。
「やった! やったよ兄貴! ついに最上階へ行ける!」
「ついに来たわね!」
「なにも出来ないまま来ちゃいました⋯⋯。でもやっとこれました⋯⋯」
「ま、余裕っすね〜」
エーベルトとマギアビーストたちが喜びに声をあげる。
それぞれの階層にいる敵を一掃し、ついに最上階へついた。あとはフュールを救出し――鬼怒哀楽を倒すだけである。
「ああ。これで最後の一体だ。つまりこの階を上に上がれば、フュールの元へと行けるということだ」
「よし! そうと決まれば早速行こう!」
「ああ、そうしよう」
エーベルトは先々に走っていき、その後をライムントたちがついて行く。
最後の階のガーディアンを倒し、エーベルトたちは最上階へと向かった。
「⋯⋯ここが最上階。広いな」
エーベルトが辺りを見回しながら呟く。最上階は天井がなく、辺りを囲うものもなかった。
そして。最奥の段に彼女はいた。手を鎖で繋がれ、ぐったりとした状態で下を向いている。そのためエーベルトたちには気づいていないようだった。
「! フュール!」
「エーベルト⋯⋯! やっぱり助けに来てくれた⋯⋯!」
エーベルトが勢いよく地面を蹴り、フュールの元へと駆け寄る。だが。
「予想通りだね、エーベルト。そしてその兄、ライムント」
「くっ⋯⋯!お前は⋯⋯!」
エーベルトの前に突如現れた5人が立ちはだかる。
「はっ、雑魚が来やがったか。オレ1人で十分だな」
「⋯⋯はぁ、エルガー。キミはどれだけ傲慢なんだい?」
「そうだよエルガー! ねぇ! ヴィーヴェルもそう思わない!?」
「⋯⋯私は知らない」
そう。エーベルトに立ちはだかったその5人とはこの天空城の支配人たち、鬼怒哀楽だったのだ。
エルガー、ディスフォード、ラスティマス、ヴィーヴェル。そして、フュールをさらった張本人、ラエティティアの計5人がそこに立ちはだかる。
エーベルトはその鬼怒哀楽の迫力に思わず後ずさってしまった。
「ふふっ。やはりフュールを助けに来たね。さすがは仲間、情が熱いね」
「くっ⋯⋯! 当たり前だろ! 仲間がさらわれたって言うのに、助けに行かない奴なんているわけないだろ!」
ラエティティアの挑発的な態度にエーベルトは怒鳴る。
「ふふっ、それはどうかな。――さて、キミたちはフュールを助けに行く来たわけだけど、どうするんだい?」
「どうする? どういう意味だ?」
意味が分からず、エーベルトは聞き返す。
「ボクたちを倒すかってことだよ」
「ああ、倒すさ」
エーベルトよりも先にライムントが答える。そのライムントの余裕な態度にラエティティアは口の端を歪めた。
「ライムント。キミが来るということは予想していたけど、やっぱり厄介だよ」
「⋯⋯厄介、か。俺もそんなことを言われるほどにまでなったか。逆に聞くが、お前たちは俺らを止められると思ってるのか?」
ライムントがラエティティアにそう言う。すると、ラエティティアは一瞬驚いたような顔になり、次の瞬間、くすくすと笑い出した。
「⋯⋯ふふふっ。ああ、いいねぇ! その傲慢な態度! 興奮してきちゃうよ! ああ、止めるよ! キミたちに負けたら何でも言うことを聞くと約束してもいいくらいさ!」
「あなたって自分で余計なことを言うのね⋯⋯」
エーベルトの後ろにいたフェミリーが半目を作りながらそう言う。
確かに余計なことではあるが、それは逆に考えれば、絶対に負けないと言う自信なのだろう。
「ああ! 早く戦いたくてうずうずしてくるよ!」
「⋯⋯ラエティティア落ち着いて」
ラエティティアが興奮した様子で言うと、それを見たヴィーヴェルが静かにラエティティアに言った。
「おっと、わるかったね。いつも助かるよヴィーヴェル。ボクは一度興奮すると、抑えられなくなっちゃうんだ」
「⋯⋯知っている。昔からそう」
ラエティティアとヴィーヴェルがそんな話をしていると、ライムントの背中が不意に叩かれる。
「どうした、エーベルト」
ライムントの肩を叩いたのはエーベルトだった。エーベルトはまるで鬼怒哀楽に聞こえないようにするかのように小声でライムントに言った。
「⋯⋯兄貴、今ならフュールを助けだせるかも。兄貴なら行けると思う」
「⋯⋯なるほど、奴らが話をしている間に行くと。分かった。行ってみよう」
そう言ってライムントはエーベルトに親指を立てた。
そして、計画通り、ライムントはそっと鬼怒哀楽の間をすり抜けようとする。しかし。
「テメェ、オレが見てねェとでも思ったのか?」
突然、ライムントの目の前にポケットに手を突っ込んだ背の高い赤髪の男が現れる。エルガーだ。エルガーはラエティティアが周りがそんな話をしているときに、目を光らせていたのだ。
そしてエルガーはポケットに手を突っ込んだまま、ライムントを脇腹めがけて脚を振った。しかし。
「――邪魔だ。退け」
次の瞬間、エルガーはライムントの前から鬼怒哀楽の方へと吹っ飛んでいた。そのエルガーの巨体をラエティティアが片手で受け止める。
そう。ライムントは一瞬のうちに、逆にエルガーの脇腹に蹴りを食らわせていたのだ。
「兄貴⋯⋯。またさっきと同じで様子が変だ⋯⋯」
そう。ライムントは先程エムメルスを倒したときと同じ様子だったのだ。悪魔が微笑むように口の端を歪め、目をギラギラと光らせている。まるで何かに操られているようだった。
「おや? ボクたちが楽しい話をしている最中にもう目的の人物の所へと歩みを進めていたのかい? ⋯⋯それに様子が変だね」
と、ラエティティアが顔を真顔にし、ライムントの方へとつま先を向ける。ラエティティアにとっては楽しい話の最中に邪魔をされ、随分腹を立てているだろう。
「兄貴、後ろ!」
と、エーベルトが叫びを上げる。理由は単純。ライムントの後ろには、鬼怒哀楽の1人、ラスティマスが迫っていたのだ。
ラスティマスはまるで瞬間移動でもするように一瞬でライムントの背後へと肉薄し、拳を振り上げた。そして、ライムントがエーベルトの声に反応し、後ろを向いた瞬間、ラスティマスの攻撃はライムントの顔にクリティカルヒットした。
「やったー! 私が倒したー! ねぇみんな見てた!?」
「ああ、見てたよ。お見事だねラスティマス」
と、ラスティマスが喜びのあまり飛び跳ねる。しかし、ラスティマスは何かに気づいたように後ろを振り返る。そして、その顔を恐怖に染めた。
「嘘⋯⋯。なんで⋯⋯。なんで平気な顔して立っていられるの!?」
そう。ライムントは顔に笑みさえ浮かべ、その場に立ち、ラスティマスを見下ろしていた。殴られた顔には傷ひとつついていなかった。
「お前も俺の邪魔をするのか。消えろ」
そして、ライムントは思い切りラスティマスの頬をを殴り飛ばした。殴られたラスティマスはまたも鬼怒哀楽の方へと飛んでいき、ラエティティアに片手で止められた。
ライムントは引き続きフュールの方へと歩みを進める。あと少しでフュールに届く。
「また同じパターンか。興奮しないね。本当に厄介な人だ。どうする、ヴィーヴェル」
「⋯⋯ラエティティアが決めて」
ヴィーヴェルが淡々と返す。そう言われたラエティティアは顎に手を当て、考える素振りを見せ、口を開いた。
「今のを見て学んだよ。正面から行っては勝てない。ボクは正面からは行くのは止めるよ」
そう言った瞬間、ラエティティアはライムントの背後へと肉薄し、ライムントの背中に手を当て、唱えた。
「わるいねライムント。――《リバース》」
そう言った途端、ライムントの身体がビクンと震え、次の瞬間、ライムントは苦しみに声を上げた。
「うがあああああっ――!!」
「ライムントさん!」
フュールがライムントに叫ぶ。
「兄貴!! お前! 兄貴に一体何をした!」
「ふふっ。少し魔力を逆流させただけだよ。この魔法は強大な魔力を有すれば有するほど、その効果は大きくなっていくんだ。つまり、ライムント程の力を有していれば、効果は絶大ということだね」
「なっ⋯⋯!」
「よくやったぜ。ラエティティア」
「あとは雑魚だけだね! さっさと片付けよう」
と、ラエティティアがそう言うと、先程ライムントにやられたはずのエルガーとラスティマスが何事も無かったかのように立ち上がっていた。
「なんで⋯⋯。どうすればいいんだ⋯⋯」
エーベルトが絶望に音を上げる。すると、後ろから2人の少女が歩み出てきた。
「なに、絶望してるのよエーベルト君。私たちがいるじゃない」
「そうっすよー。まだ終わってないっす」
そう。歩み出てきたのはフェミリーとエルフィだった。いつの間にか、局部魔装(エルフィは封印していないためまだ普通の魔装だが)を身に纏い、神器も顕現させていた。
「フェミリー、エルフィ⋯⋯!」
「行くっすよフェミリーさん!」
「分かってるわよ!」
そう言って2人のマギアビーストは鬼怒哀楽に突進していく。
「ふふっ。いいねぇ。興奮してきたよ!みんな行くよ!」
そう言って、鬼怒哀楽も5人同時にマギアビーストへと突進していった。




