35話『進行を止める者』
「さて、これで7体目だな」
埃を落とすように手をパンパンとはたきながらライムントが言う。
現在エーベルトたちは、7階にいる。どうやらガーディアンは1階につき1体配置されているようである。しかし、全てのガーディアンをライムントが容易くが倒しているため、さほど困難な場面はなかった。
「ねぇ兄貴、天空城は何階あるの?」
「恐らく10階だな。あと3階だ」
「そっか。でもこの調子で倒していけば!」
「ああ。すぐにフュールの元へたどり着ける。さぁ進もう」
そしてエーベルトたちは次の階へと進んでいった。
しばらく歩き、8階へとたどり着く。
「ここが8階か。しかし、妙に静かだな。ガーディアンの姿も見えない」
「何か嫌な予感がするっすね」
「確かにな。まぁ何もない階層ってのも悪くない。先へ進もう」
そう言ってライムントが歩みを再開させようとしたときだった。
「貴様ら、この私を差し置いてどこへ行こうというのだ?」
突然、上方から女性の声がした。そこを見ると、長い夜闇色の髪を後ろで括られ、黒とピンクの鎧を纏った女性が降りてきた。手には大剣が握られている。
「お前は一体何者だ?」
ライムントがそう言うと、女性は顔色ひとつ変えずに返事をした。
「名を訊ねるとときは、まず自分から名乗るものではないのか?」
「失礼。俺はライムント・カールマーだ。そしてあなたは?」
「エムメルス・ハーマリアだ。貴様ら、ここに何しに来たのだ?」
エムメルスが、ライムントを睨みつけながら問う。しかし、ライムントは調子を変えずに返した。
「俺たちは仲間を助けに来た。そして、お前たちを倒すために来た」
「私たちを、倒す?」
エムメルスはそう復唱したのち、堪えきれずといったように笑い出した。
「おかしな奴だ。この私を倒そうなんてな。――できるものならやってみるがいい」
そう言ってライムントに顔を近づけてくる。まるで威嚇をするように。しかし、ライムントはその威嚇に怯まずに返した。
「ああ、倒させてもらうさ。早速始めよう」
「兄貴、いいの? 相手は強そうだけど」
「そうだな。念の為戦闘値だけ測ってくれ」
「分かった」
頼まれた通りにエムメルスを黙視し、戦闘値を測る。そして驚いたように声をあげる。
「兄貴⋯⋯あの人の戦闘値18000もあるよ」
「敵じゃないな。――さてやろうか」
ライムントはエムメルスに向き直る。エーベルトたちは危険回避のため後ろへ下がった。
「いいだろう。一撃で終わらせてくれる」
そう言ってエムメルスはいきなり剣を上に掲げだ。
「――無様に、死ね」
そして剣を勢いよく振り下ろす、すると遅れて巨大な斬撃がライムントたちの方へと向かってくる。
「兄貴!!」
そしてついにライムントの目前まで迫り――ぶつかる。しかし、ライムントには当たっているが、エーベルトたちには当たっていなかった。――シールドを張っていたからだ。
「まさか、あの魔法をまた?」
「残念ながら死ななかったな。《トレース&カウンター》」
そう言うと、ライムントの手から先ほどの倍以上の強さの斬撃がエムメルスを襲う。
「くっ――!」
エムメルスがすんでのところでよけるが、少し身体にかすってしまった。
その傷を見たエーベルトは驚いた。理由は単純。エムメルスの傷にあった。
「兄貴、あれって⋯⋯」
「ああ、奴は人間ではなく、機械だ」
そう。エムメルスの傷からは編まれた機械のようなものが見えており、火花を散らしていた。
「バレてしまったか。まぁいいだろう。バレたからといって戦闘に被害が及ぶとは思えん。次は殺す」
そう言って地面を強く蹴り、ライムントに肉薄する。ライムントは余裕を持ってそれを交わす。
「はっ!」
しかし、交わした先に剣を振り下ろされる。さすがのスピードにライムントも遅れをとるが、身体能力でカバーし、すんでのところで避ける。
「少しはやるようだな人間。だが容赦はしない。死ぬまで攻撃は続くと思え」
「ああ、そうさせてもらう。ちなみに言っておくが、俺はまだ本気を出したつもりはない。勘違いはしないでくれ」
「これで本気と言われても困る。いつでも本気を出してくれ」
エムメルスが挑発するように口の端を歪めて言う。しかし、次の瞬間エムメルスの表情が一変した。
「なんだ、この覇気は⋯⋯。貴様、一体何をした」
「お前が本気を出していいというから少し本気を出そうと思ってな。――本当にいいんだな?」
ライムントはエムメルスを見据えながら目を細める。そこでエムメルスは少し怯む。
「ああ。だがその代わりに私も本気でいかせてもらう。早く決着をつけよう」
「その意見には賛成だ」
その言葉を最後に、ライムントの様子は一変した。まるで悪魔が取り付いたような表情になり、不敵な笑みを浮かべている。目の色も赤色に変わっていた。
後ろで見ていたエーベルトたちもその様子の変化は一目瞭然だった。
「ヴェローザ先生、兄貴に一体何が?」
「私にもよく分からん⋯⋯奴は何をする気だ?」
「ヴェローザ先生にも分からないなんて⋯⋯」
エーベルトの狼狽が口から漏れる。
「貴様⋯⋯。本当に人間なのか⋯⋯?」
「ああ、人間さ」
「くっ⋯⋯。笑みを浮かべていられるのも今のうちだ! 死ね!《ダークマター》!」
エムメルスが高くジャンプし、黒の魔力塊を顕現させる。そしてその魔力塊をライムントに放つ。次第に威力を増していき、辺りに突風が吹き荒れる。
しかし、ライムントは一切怯まず、口を開いた。
「死ぬのはお前だ、エムメルス。――《デビルショック》」
ライムントがそう唱えた瞬間、ときが止まったように魔力塊の進行が止まる。
「うっ――」
それに加え、エムメルスが苦渋の表情を作る間もなく、胸を抑えて倒れてしまった。
エーベルトは驚きを隠せないでいた。一体何が起こったのか。意味が分からなかった。
「あ、兄貴?」
そっと近づいて声をかける。すると、ライムントは少し遅れて振り向いた。
「すまんな時間をかけてしまって。さぁあと1階だ。急ごう」
いつの間にか、エムメルスと対峙していたときの表情ではなくなっており、目の色も元に戻っていた。
しかし、エーベルトたちは深く探るわけでもなく、頷き、ライムントについて行った。




