34話『いざ天空城へ』
「兄貴、おはよう」
『ライムントさん、おはようございます』
翌日の朝。
エーベルトとマギアビーストたちは地下室の扉を潜りながらライムントへと挨拶をした。
「ああ、おはよう。昨日はよく眠れたか?」
「俺は、まぁ眠れたかな」
「私もよく眠れました」
「私は緊張であまり眠れませんでした⋯⋯」
「私はよく眠れたっすよ〜」
エーベルトとマギアビーストたちが口々に答える。それを聞いたライムントは満足そうに頷いた。
「今日はとうとうフュールを助け出しに行く日だ。みんな、覚悟は出来てるか?」
ライムントがそういうとみんな力強く頷いた。その顔には緊張の色はあるものの、本当に覚悟を決めた様子が伺えた。
「兄貴、ヴェローザ先生は?」
「先生は今会議中だ。もうすぐ来るだろう」
ライムントがそう言ったとき、地下室の自動ドアが開かれ1人の女性が入ってきた。
「遅れてすまんな。みんな揃ってるじゃないか」
「ヴェローザ先生、おはようございます」
地下室に入ってきたのは会議を終えたヴェローザだった。ヴェローザはみなの顔色を窺うと、満足そうに頷いた。
「全員いい顔してるじゃないか。覚悟は決まっているようだな」
「ヴェローザ先生、どうしますか。もう転移の準備は出来ています」
ライムントがヴェローザに向き直り言う。ヴェローザは少し考えたのち頷いて言った。
「全員覚悟は出来ているようだ、とっとと行ってフュールを奪還し、みんな無事で帰ってこよう」
みなが力強く頷く。――フュールを助け出すために。
それを見たライムントは唱えた。
「では――転移魔法!目標天空城!」
ライムントが唱えると、光の輪が足元に浮かび、次の瞬間、エーベルトたちは目的地へと一瞬で転移させられていた。
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「ん⋯⋯」
エーベルトが目覚めると、周りにはエーベルトを覗き込む顔がいくつかあった。どうやら気絶していたらしい。まぁいつものことだが。
「ごめん兄貴、俺転移魔法に耐性が無くて気絶しちゃうんだ」
「心配するなエーベルト、その事は聞いている」
「え? 誰に?」
至極当たり前のように言うライムントに、エーベルトは訊ねた。
「フュールだ。前に少し話したんだ、お前のことをな。あの時のフュールは楽しそうだった。少しだけ笑っていた気がした」
「フュールが⋯⋯俺のことを」
エーベルトは力強く握り拳を作る。
エーベルトの知らないところでそんなことをしていたなんて。エーベルトはそう考えただけで、自分を責めたい気持ちでいっぱいになった。
しかし、今はそんなことを言ってはいられない。フュールの命に関わる時間は刻一刻と迫っている。今こうしている間にもフュールは殺されてしまうかもしれないのだ。
「兄貴、早く助けに行こう」
「ああ、そうだな。だが、まず説明をしなきゃならない」
そう言ってライムントは説明を始めた。
「まずここが天空城だ。文字通り空の上にそびえ立つ城のようなものだ。――あれがそうだな」
言ってライムントは前方を指さす。エーベルトたちはそちらを振り返る。そこは一本道となっており、その数百メートル先に、巨大な角のようなものが生えた城のようなものがあった。エーベルトたちは驚きの表情を隠せなかった。
「そしてあの天空城の中には強敵、ガーディアンがいる。簡単に言えば番人のようなものだな」
「番人、か⋯⋯」
エーベルトにはそれがどのくらいの強さであるか分からない以上、恐怖でしかなかった。
「そして恐らく、天空城の最上階には天敵、鬼怒哀楽が待ち構えている」
「そこにフュールもいるってわけね⋯⋯」
フェミリーが天空城を見据えたまま呟く。
「説明はこのくらいだ。早速だが歩みを進めよう」
『はい!』
一同が頷き、エーベルトたちは天空城へと歩みを進めた。
エーベルトたちはしばらく歩き、ついに天空城の麓までたどり着いた。エーベルトは上を見上げる。近くまで来ると、その天空城の迫力がさらに伝わってきた。
「やっとこついたっすね〜。もう疲れたっすよ〜」
「⋯⋯マギアビーストのくせして体力ないのかよ」
ため息を吐きながら言うエルフィに対し、エーベルトが半目を作りながら言う。ちなみにフェミリー以外のマギアビーストはかなり疲れている。
「ここが入り口だ、さぁ入ろう」
ライムントが指さすその入り口は巨大だった。龍が口を大きく開けたようなデザインになっており、入るのになかなかの恐怖感が味わえた。
中に入ると、なぜかレッドカーペットが敷いてあり、天井にはシャンデリアが吊り下げられてあり、ラグジュアリーな空間になっていた。
「なんでレッドカーペットなんか⋯⋯?まぁいいか」
エーベルトがそう言ったときだった。
「みんな伏せろ⋯⋯!」
ライムントが小声でそう指示する。言われた通りにその場に伏せる。何があったというのか、エーベルトにはさっぱりだが、その理由はすぐ明確となった。
「あれが⋯⋯ガーディアン」
そう。そこには、白と金の鎧を纏ったような機械が宙に浮いて徘徊していたのだ。赤い光を出しているため、恐らくその赤い光に当たると、反応し攻撃してくるという仕組みだろう。
「エーベルト、戦闘値を測ってくれ」
「うん、分かった」
言われた通り戦闘値を測る。
「9000だ。⋯⋯なかなか高い」
「大丈夫だ。こっちには戦闘値10000超えのマギアビーストがいる」
そうライムントが言う。マギアビーストたちは少し照れたような表情をしていた。
「そうだね。兄貴は50000超えだしね」
エーベルトがそう言ったときだった。
『50000超え!?』
突然、フェミリーとエルフィが大声を出して立ち上がった。すると、ガーディアンがこちらに反応し近寄ってくる。恐らくバレたのだろう。
「すまんな、驚かせてしまったか。まぁそういうこともあるものだ」
「兄貴、ガーディアンに居場所バレちゃってんのにどこまで寛容なの!?」
エーベルトが悲鳴ともつかない声を上げる。
「ははっ、まぁバレてしまったものはしょうがない。――マギアビースト、頼むぞ」
「分かりました!」
「分かったっす!」
「⋯⋯え、ええ! 私どうすれば⋯⋯?」
カミラだけ戸惑っていたが、その他のフェミリーとエルフィはガーディアンに向かって走っていった。そして高くジャンプし、唱える。
「魔槍!」
「魔槌!」
すると、虚空からそれぞれの神器が出てきて手に収まる。そしてそのままガーディアンの頭上に降下し――振り下ろす」
『はぁっ!!』
2人とも裂帛の気合いとともに武器を振り下ろした。しかし。
「なっ―――。ガードされた!?」
「こんなん聞いてないっすよ!?」
2人の攻撃はガードされ、弾かれる。2人は息を切らし、悲鳴じみた声を上げる。
「すまんな説明不足で、奴はシールドを張っている。そう簡単には破れないだろう。何回も攻撃すれば破れるはずだ」
「そうとなればやるしかないわね! エルフィ!行くわよ!」
「おうっす!」
そう言って再びガーディアンに向かって走る。と、そのときだった。
謎の機会音声が流れたと思うと、ガーディアンが鎧を変形させ、濃い魔力を纏った光線のようなものを放ってきた。
『なっ――!?』
2人はそれをすんでのところで避ける。
「あ、危なかったわね⋯⋯」
「んにゃろー、想像以上にやばい奴っすよ⋯⋯」
「2人の戦闘値を持ってしても倒せない。――手ごわい奴だ」
そう言ってライムントは歩み出ていく。
「すまんな2人とも。下がってていいぞ、ここは俺に任せろ」
「ら、ライムントさん?」
「どうする気っすか?」
ライムントは2人の間を通り一番前へ躍り出た。それに反応したガーディアンはまたも鎧を変形させ、光線を放とうとしてくる。
「また同じ攻撃か。いいだろう。来い」
「兄貴!」
ライムントは完璧に攻撃を受ける姿勢になっている。エーベルトが叫ぶがそれに返事はない。
そしてついに光線が放たれる。光線は濃い魔力を纏い、ライムントを襲った。
「兄貴!!」
「まぁ安心しろエーベルト」
と、後ろから声をかけられる。振り返ると、そこにはヴェローザがタバコを咥えながらライムントの方を見ていた。
「ヴェローザ先生! いくら何でもあんなのくらったら――」
「いいから、あれを見ろ」
エーベルトの言葉を途中で遮り、ヴェローザが指をさす。その方向をエーベルトが見やる。そしてエーベルトは驚きに目を向いた。そこには、ライムントが何ともない様子で立っていたのだ。
「ふっ、その程度かガーディアン。次は俺の番だな」
そう言ってライムントは手をガーディアンにかざす。
「くらえ。《トレース&カウンター》」
ライムントがそう言うと、かざした手からガーディアンが放った光線よりも濃い魔力を纏った光線が放たれる。そして、ガーディアンのシールドを突き破り、ガーディアンと天井諸々貫通し、空へと消えていった。
「⋯⋯な、なにが起こったんだ」
驚きを隠せないといった感じに、エーベルトが頬に汗を垂らしながら呟く。
「だから言っただろ? 安心しろと」
ライムントがエーベルトの方へと歩み寄ってくる。それを追うようにマギアビーストも戻ってきた。
「兄貴! 怪我はない!?」
「大丈夫だ。心配かけて悪かったな」
「よかった⋯⋯。それに、今のは⋯⋯」
「簡単な魔法さ。相手を技をシールドを張って吸収し、それを倍にして返すんだ」
「そんなことができるのか⋯⋯ってそれなら最初から倒してくれればよかったのに!」
エーベルトが言うと、ライムントは笑った。
「それもそうだな。だが、マギアビーストがどれほどの力なのかというのも見たかったのも事実。さて、先を急ごう」
エーベルトたちはガーディアンを無事倒し、先を急いだ。