33話『接種』
マギアビーストへの鬼神の血の接種は専門の人が行うようだった。
一同が同意したのち、ライムントが部屋から出ていき、しばらくすると白衣を着た女性が入ってきたため、恐らくその女性たちが行うのだろう。同意したが、マギアビーストたちはみな緊張の面持ちでいた。
「この接種は一斉に行う。皆ここに座ってくれ」
言ってライムントが指さしたのは、白い長机だった。その上に赤い液体の入った試験管と注射器が置いたある。エーベルトは接種されるわけではないが、思わず唾を飲み込んでしまった。
「案外緊張するのね⋯⋯」
「注射嫌いです⋯⋯」
「注射なんて初めて打つっすよ⋯⋯」
みな緊張がMAXのようで、頬に汗を垂らしていた。
「それじゃあお願いします」
とうとうライムントが指示を下し、マギアビーストの腕に針が近づいていく。ヴェローザやエーベルト、ライムントはそれを黙って見ていた。そして針が皮膚を貫通し、血管へと刺さり、鬼神の血が流し込まれていく。そして同時に接種が終わる。
「⋯⋯なんともないわね」
「⋯⋯い、痛いです」
「⋯⋯どうなっちゃうんすか」
マギアビーストがそう口々に言ったそのときだった。
『く――あああああ!!」
「大丈夫か!」
突然、マギアビーストたちが身を捩り苦渋の表情をしながら声を上げた。突然の事態にライムントさえも動揺を隠せない。
まるで発火したように胸が熱くなり、身体中を駆け巡る。そんな感覚が数分に渡って続く。そして。
『はぁっ⋯⋯はぁっ⋯⋯』
一同が息を荒らげながら正気を取り戻していく。
そんな様子を見てヴェローザやエーベルト、そして実行した本人のライムントはホットしていた。
「大丈夫か、3人とも」
「⋯⋯は、はい。大丈夫です」
「⋯⋯わ、私も大丈夫です」
「⋯⋯きつかったすけど、もうなんともないっす」
3人がそれぞれ返事を返す。しばらくすると、息も段々と元に戻ってきて、普通に話せるようになった。
「これで、成功したのか。よく頑張ってくれた」
「これで私たち強くなれたのかしら?」
「ああ、なっているはずだ――エーベルト、頼む」
「わかった!」
そう言い再度戦闘値を測る。そしてエーベルトは驚いたように目を見開いた。
「こ、これは⋯⋯」
「どうだ?」
「す、すげぇ⋯⋯!格段に上がってる!フェミリーが13000、カミラが10000、エルフィが12000になってる!」
「ふっ、10倍に跳ね上がっているな」
ヴェローザが微笑を浮かべながら言う。そう。鬼神の血を取り込んだことにより、戦闘値は10倍に跳ね上がったのだ。
マギアビーストたちは己の身を削りながらも上げた戦闘値に喜びを隠せない様子だった。
「これで鬼怒哀楽に立ち向かう準備はできた。あとはフュールを助け出し、鬼怒哀楽を倒すだけだ」
「でも、本当に倒せるんすかね? 相手は四天王っすよ?」
「きっと大丈夫さ。俺が保障する」
ライムントの言葉に勇気づけられたのかエルフィの表情が少し晴れた気がした。
「ライムント、鬼怒哀楽が身を置く場所については説明しなくてもいいのか?」
「おっと、そうでしたね」
ヴェローザに言われ、ライムントは忘れていたという風に肩を揺らした。
「四天王、鬼怒哀楽は天空城という所に身を置いている。その天空城には道中"ガーディアン"という機械のようなものがいる。そいつらを倒さない限り先には進めない」
「しかし、命をかけた勇敢なお前たちならきっと倒せる」
「フュールはそこにいるの?」
エーベルトが訊ねると、ライムントは頷いた。
「とにかく早く助け出す。その為にも天空城へは明日向かう。それでもいいな?」
ライムントがそう言うと、みな頷いた。
「それじゃあ今日のところは終わりだ。無事成功してよかった。お前たちは寮に戻ってけれ。体調管理をしっかりな」
ライムントに言われたように、エーベルトとマギアビーストたちは寮に戻ったのだった。




