32話『鬼神の血』
翌日、エーベルトとマギアビースト一同はとある場所に来ていた。壁、天井、全てが白く、無機質な場所である。一体道が奥まで続いており、その一体道の両端でいろいろな液体などを扱っていた。そんな場所になぜ彼らは連れてこられたのか。
「兄貴、ここは一体?」
エーベルトは辺りを見回しながらライムントに訊ねた。
今ライムントはメガネを掛けた、いかにも研究大好きそうなおじいちゃんとなにやら話をしていた。
しばらく話をしてライムントはおじいちゃんからエーベルトに顔を向け、先ほどエーベルトが訊ねたことについて話した。
「ああ、エーベルトわるいな。ここはマギアビーストについて研究する研究所、「へブリック研究所」だ」
「へブリック研究所?」
「ああそうだ。今日お前たちにここに来てもらったのは他でもない。ついてきてくれ」
そう言ってライムントは一本道の奥の方へ歩いていく。エーベルトたちは顔を見合わせてライムントについて行った。
そして一本道を奥まで歩いていくと、重圧な鉄の扉の前へとたどり着く。ここになにか大事なものでもあるというのだろうか。
「今開けるから少し待っていてくれ」
そう言ってライムントは扉の隣に設置してある番号を素早く打ち込んだ。すると、「認証完了しました」というコンピューターの音声が流れ、扉が重い音を出し開かれていく。
エーベルトは思わず唾を飲み込んでしまった。
「さぁ入ってくれ」
ライムントに促され、エーベルトたちは扉の中に入っていく。中は薄暗くひんやりとしていて、周りには棚にいろいろな物体や液体が置いてあった。その中をエーベルトたちは歩いていき、しばらくして最奥につく。すると、見知った顔がそこにあった。
「ヴェローザ先生? なぜこんなところにに?」
そう。そこには腕組みをして真剣な面持ちで栓のついた試験管を眺めていたヴェローザがいた。声をかけられたヴェローザは試験管から目を離し、エーベルトたちに目を向けてくる。
「おお来たかエーベルト。私も今回の計画には参加するのでな」
「前から気になってたんですけど、その計画ってなんなんですか?」
と、フェミリーが怪訝な顔をして問う。
「ふっ、知りたいか。まぁその気持ちも分かる。何より今回の計画はお前たちマギアビーストが主役だからな」
「⋯⋯私たちが主役、ですか?」
カミラが少し怯えた様子で言う。すると、ヴェローザは「ああ」と言ってライムントに目配せした。すると、ライムントは奥に置いてあった机の上にある試験管と注射器を手に取った。
「今回お前たちマギアビーストにやってもらうことは、鬼神の血を体内に取り込むことだ」
『鬼神の血⋯⋯!?」
ライムントが言うと、マギアビーストの一同の狼狽が口から漏れた。みな顔面蒼白にしている。しかし、エーベルトには今の状況が理解出来なかった。
「鬼神の、血? なんだそれ?」
「エーベルト、アンタ知らないんすか!?」
エルフィがエーベルトの肩を掴み言ってくる。
「あ、ああ。知らない。なにかやばいのか?」
「やばいも何も大やばよ! だって鬼神ってのは――」
「――マギアゲール時代最強と言われいたマギアビーストを全滅させそうにした奴らだ」
フェミリーが言いかけたとき、ヴェローザが先に口を開いた。
「⋯⋯マギアビーストを、全滅? そんな⋯⋯」
さすがのエーベルトも状況が分かったらしく、顔を青くしていた。
鬼神。それは幾人かの精鋭の総称。マギアゲール時代、マギアビーストに対し誰もかれもが手も足も出ない状況だったが、突然現れた鬼神の精鋭により、マギアビーストは一度全滅しかけたのだ。しかし、マギアビーストは何とか踏ん張り、鬼神を全滅させた。
今しようとしていることは、その鬼神の血を自ら取り込むという――いわば自殺行為。
それが失敗しようものなら、マギアビーストはそれこそ全滅してしまう。仮に成功しても、おかしくなってしまう可能性は高かった。それでも――
「俺は絶対に成功させてみせる。鬼怒哀楽を倒すためにも、フュールを助け出すためにも」
――ライムントは1人、成功に賭けていた。
「頼む。俺に任せてくれないか。必ず成功させてみせる。成功しなかった場合は――俺が命をもって償う」
そう言って頭を下げるライムント。マギアビースト一同は顔を見合わせどうしたらよいか分からないといった様子だった。だが。
「私はライムントさんに賭けるわ。かけがえのない仲間を、この身を犠牲にしても助け出すわ!」
フェミリーは1人、名乗り出た。そんなフェミリーに続くようにカミラ、エルフィも次々と口を開く。
「⋯⋯私も賭けます。フュールさんを助けたいです」
「しょうがないっすね〜。自分、命かけるっすよ」
「ありがとう、みんな。感謝する。エーベルト、早速だが、マギアビーストたちの戦闘値を測ってくれ」
「わ、わかった」
そう言ってエーベルトはライムントに指示された通りにマギアビーストの戦闘値を測る。すると、間もなくしてエーベルトの目にはマギアビーストたちの戦闘値が浮かび上がった。
「どうだエーベルト」
「測れた。フェミリーが3100、カミラが1000、エルフィが3000」
「そうか。わかった」
「あのー、戦闘値ってなんすか?」
と、エーベルトとライムントがやり取りをしていくと、エルフィが半目を作りながら聞いてくる。マギアビーストには説明をしていなかったようだ。
「ああ、わるいな。戦闘値ってのはその人物の戦闘能力を数値化したものだ。大体一般人で500程度、魔法の扱いが上手い人は1000前後。これが500違うだけで、戦闘能力は全く違ってくる」
「⋯⋯それって、私、低すぎないですか?」
カミラが弱々しく言う。
「ああ、カミラはマギノステインが奪われているから低いんだ。鬼神の血を取り込むことに成功すれば破格の戦闘値を手に入れることができるはずだ」
「⋯⋯よ、よかったです」
「とにかく、鬼神の血を接種してみない限り、どうなるか分からない。頼むぞ」
『分かりました』
ライムントの発言に、マギアビースト一同が同意した。




