20話 『絶滅したはずの竜』
地下室を出てから数分して保健室にたどり着いた2人はすぐにある人物の元へ駆け寄った。
「フェミリー! 起きてたのか!」
エーベルトが言うと、フェミリーは不機嫌そうな声音で言った。
「⋯⋯ええ。さっき起きたわ」
「どうしたんだ?」
「⋯⋯なにがよ」
「ほら、今テンション低いじゃないか。なんかあったのか?」
そう問うてくるエーベルトに、フェミリーは内心ムッとした。それもそのはず、フェミリーがまだ起きていないのに他の女の子とどこかへ行ってしまったのだから。
「別にー? 何も無いから心配しなくても大丈夫よ」
「そっか。それなら良かった」
エーベルトはフェミリーに満面の笑顔を見せる。それを見たフェミリーはドキッとしてしまった。
「フェミリーさん、大丈夫ですか?」
次にカミラがフェミリーに尋ねた。
「ええ。大丈夫よ。何がどうなってるのかは分からないけどね」
「お前はオズウェルに眠らされたんだ」
カミラとフェミリーの会話に割り込み、エーベルトは話し出した。
「オズウェルに?」
「ああ。あいつはマギノステインを自分自身に取り込んだあと、カミラの神器を扱えるようになったんだ。それで、お前は睡眠魔法を使われ、眠らされちまったって感じだ」
エーベルトに説明されたフェミリーは納得した顔をしていた。
「なるほどねぇ。あのオズウェルってやつ、相当警戒しないといけないわね」
「ああ。恐らく、次のマギアビーストを封印するときにやつはまた現れる」
エーベルトの言うことに対し、フェミリーは深く首肯した。――と、そのときだった
『きゃーーーー!!!!』
『校庭になんかでかいのがいるぞー!!」
と、言った悲鳴が一斉に学院内に響き渡った。
「いったいなにがあったっていうんだ?」
「分からないわ。でも校庭でって言ってたわよね?」
「⋯⋯校庭か。よし、とりあえず行ってみよう」
そう言ってエーベルト、フェミリー、カミラの3人は保健室をあとにした。
▲
保健室をあとにしてから、エーベルトたちは校庭に出ていた。ちなみにフュールがちょうどいたため、合流した。校庭は学院の生徒達で埋め尽くされていた。
しかし、ありえないものがその校庭に存在していた。四足歩行で背には翼が生えている。体長にしておよそ4メートル程度だろう。
「なんだ⋯⋯あれ」
エーベルトが驚愕に目をむいた。それと同じようにフュールやフェミリーやカミラも目をむいた。
それも無理はない。そこにいたのは絶滅したはずの生物がいたのだから。肌はゴツゴツしており、顔はその生物特有の威圧感を孕んでいる。
「⋯⋯あの竜。死んだはずじゃ」
「⋯⋯なぜまだ生きている」
フェミリーが驚きに目をむきながらいい、フュールが淡々と言う。
その2人の口調はまるで、その竜のことを知っているようだった。
「お前たち、あの竜の事知ってるのか?」
「知っている。あれは私が倒したはずの竜、「アゼウロス」だから」
「アゼウロス?」
「おう、お前たちもやはりいたか」
エーベルトが聞き返したと同時、後ろから肩を叩かれ、振り向くとヴェローザがいた。ずいぶんと険しい顔をしている。
「先生! あの竜って!」
「ああ落ち着けエーベルト。あれは絶滅したと思われていた竜、アゼウロスだ。――なぜ今現れる⋯⋯」
「そんなにやばい竜なんですか?」
エーベルトが問うと、タバコをふかしながらヴェローザは口を開いた。
「ああ。マギアゲール時代に活躍していた軍の竜だ。だが、マギアビーストにやられたと聞いていた」
「それが、今現れてどういうこっちゃと」
「そういうわけだ」
そしてまたタバコをふかすヴェローザ。
(100年以上も前の竜がなぜ今姿を現すんだ?)
と、エーベルトが思ったそのときだった。
今まで横向きに立っていた竜――アゼウロスが生徒がいる方に顔を向けた。――そしてエーベルトと目が合う。
「目が⋯⋯合ってる?」
エーベルトにとってはとても恐ろしかった。殺される、食われるといった想像が頭の中をぐるぐると回る。
エーベルトは危うく尻餅をつきそうになった。
『そう。目が合っているのです』
「!?」
突然、耳元で女性の声が聞こえたと思い、耳を押さえながら辺りを見回す。しかし、周りにはフュールやヴェローザ以外にはいない。その2人の可能性もあるが、明らかに違う。声のトーン、威圧感、話し方。全てが違かった。
『そんなに驚くことではありません。エーベルト』
「!? まただ、⋯⋯いったい誰だ?」
『まだ分かりませんか。困りましたね。ではこれではどうでしょう。あなたの目の前にいる竜がテレパシーを使って話しかけている、というのは』
「なん⋯⋯だと?」
驚きで今度は本当に尻餅をついてしまった。竜がテレパシーで話している? おかしな話だ。そんなことあるわけがない。
『これは本当です。エーベルト、あなたにお願いがあります』
「⋯⋯お願い?」
竜のお願いだから、生徒全員集めてひと口で食べさせろ、とかそういうのだと思っていた。しかし。
「はい。私の方へ歩み出て来てください。あなたと一緒に行きたい場所があります」
「なんだって? 歩み出ろ!? お前絶対食う気だろ!」
エーベルトが悲鳴をあげると、アゼウロスは呆れた声音で言ってきた。
『ひどい偏見です。食べたりはしません。ただここでは話が出来ないので場所を移動するだけです』
「本当か?」
『本当です』
「⋯⋯分かった。行ってやる。絶対食うなよ?」
エーベルトがそう言ったとき、後から肩を叩かれた。振り返ると、そこには哀れなものを見る目でヴェローザとフェミリーが見ていた。フュールは平常運転である。
「⋯⋯エーベルト君、聞いちゃダメかもだけど⋯⋯誰と話してるの?」
「お前もそういうのが好きなお年頃だもんな。お前には見えているんだよな」
「ち、違いますって! なにかわいそうなやつみたいな感じになってるんですか!」
エーベルトが怒鳴ると、2人は面白そうに笑っていた。
「とにかく、ちょっと用事があるんで。急ぎます」
そう言ってエーベルトは歩き出していった――アゼウロスの元へ。
「おい、どこへ行く気だ? そっちはアゼウロスの方だぞ?」
ヴェローザが止めに入るが無視し歩き続ける。生徒をかき分け校庭の中心に出る。生徒たちからは、「おい、あいつ何する気だ?」「まさか、自殺するつもりじゃ」「待て! 早まるな!」などという声が上がっていた。
しかし、そんな声も無視し、エーベルトはついにアゼウロスの目の前まで来た。
『やっと来ましたね。ほら、食べないでしょう?』
「⋯⋯ああ。本当に食べなかったな。それで、どこへ行くんだ?」
エーベルトが問うと、アゼウロスは身体を伏せて言った。
『乗ってください。飛んで行きます』
「ちょ、お前本気か!? 落ちたらどうすんだ!」
『その辺は心配ご無用です。私、運転に自信がありますから』
そう言って羽を動かし催促してくる。エーベルトはため息を吐いたあと、仕方なくアゼウロスの背中を跨いだ。すると、生徒たちの方から悲鳴が上がった。
『じゃあ行きますよ』
そう言った瞬間、一気に地面から離陸し、空高く飛び立ったあと、真っ直ぐ飛んでいってしまった。




