19話『2人の眠り姫』
エーベルトとフュールは、フュールのギリギリの魔力で、対策本部の地下室へと転移することができた。ちょうどそこにはヴェローザがいて、こっちに歩み寄ってきた。
「おい。その2人はどうしたんだ?」
「その、えーと⋯⋯」
「ABCにやられた。マギノステインも奪われた」
フュールが悔しそうに拳を握りながら言う。それに対してヴェローザは仕方ないといった風に言った。
「取られてしまったものはしょうがない。いつか取り返せばいいんだ」
「それが先生! あいつ、マギノステインを奪って胸の中へと入れたんです! そしたら神器までも扱えるようになったんですよ!?」
「落ち着けエーベルト。事情は分かった。あとで話そう。それよりも――」
興奮した様子で言うエーベルトをなだめたあと、ヴェローザは床に仰向けに倒れている女の子に目を向けた。
「あいつは誰だ?」
「あの子はカミラ・シドニエルです。マギアビーストで、既に封印済みです」
エーベルトが言うとヴェローザはホッとしたように息を吐いた。
「今回もよくやってくれた。マギノステインは奪われてしまったが、とにかく多少の被害で済んで良かった」
ヴェローザの言い方はエーベルトたちを心配しているような言い方だった。エーベルトは少し嬉しかった。
「とりあえずそのカミラという女をベッドで寝かせておこう」
そう言ってヴェローザがパチンと指を鳴らす。すると、地下室の扉を帽子を目深に被った男が入ってきて、フェミリーとカミラをお姫様抱っこして出ていった。
「い、今のは?」
「私が雇った部下たちだ。これからいろいろサポートをしてくれるだろう」
「いつの間にそんなことを⋯⋯」
しかし、サポートがつくのはエーベルトたちにとってもありがたいことだった。
「さてと、ヤツらを運んでいったことだし、今日のところはお開きにするか」
「そうしますか。俺、行きたいところあるんで」
エーベルトが言うと、ヴェローザは意外という顔をした。
「いったいどこに行くつもりだ?」
「秘密です」
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「まだ起きないのか⋯⋯」
窓からオレンジ色の光が照らす。辺りは夕暮れ時になっていた。そんな中、エーベルトはひとり、学院の保健室で貧乏ゆすりをしていた。
理由は単純。オズウェルの手で眠らされてしまった2人の少女――フェミリーとカミラがまだ起きないため、心配もあり、イライラしているのだ。ちなみにフュールはエーベルトについて来ようとしたが、エーベルトに強制的に寮に戻らされている。
「にしてもオズウェル⋯⋯。やつはまた俺がマギアビーストを封印するときに来るのか⋯⋯?」
エーベルトの中でオズウェルという存在はかなり大きかった。マギノステインを自ら取り入れ、マギアビーストの力を得たオズウェルにとって怖いものはないだろう。しかし逆に考えれば、エーベルトはとても怖いのである。できれば遭遇したくない人物なのだ。
「⋯⋯ん」
と、そんなことをエーベルトが腕組みしながら考えていると、先に黒髪の少女が目を覚ました。少女が目を覚ました途端、エーベルトはバネのようにその場へ駆けた。
「カミラ! 大丈夫か!?」
「⋯⋯は、はい。大丈夫です。いったいここは?」
エーベルトはカミラの反応を聞き、ホッと胸を撫で下ろした。
「ここはヴァルエスト大陸にある学院の保健室だ。あのあとお前はオズウェルに眠らされてたんだ」
「そ、そうなのですか。あの、フェミリーさんも?」
言って隣のベッド――フェミリーが寝ている場所を指さす。
「ああそうだ。2人同時に眠らされたんだ」
「そうだったのですね⋯⋯」
そう言って暗い顔をするカミラ。それを見たエーベルトは励ますように肩を叩き言った。
「大丈夫だって。カミラが起きたんだから、フェミリーだってきっと起きるさ」
「そうだといいのですが⋯⋯」
未だにフェミリーは静かに寝息を立てながら眠っている。オズウェルにどの程度の魔法をかけられたかは定かではないが、一生眠りにつくということはないだろう。
「さてと、カミラ。お前も起きたことだし、ヴェローザ先生に挨拶しにでも行くか?」
「挨拶、ですか?」
カミラが首を傾げながら言うと、エーベルトは首肯した。
「お前から直接挨拶した方がいい。なんてったって、先生兼MB保護隊の長だからな」
「その、ヴェローザ先生という人はそんなにすごいひとなのですか?」
「いや、実は俺もよく分かってない」
そう言ってエーベルトは苦笑した。それに返すようにカミラも苦笑した。
「ま、とりあえず行こう。案内するからさ」
「はい。よろしくお願いします」
そう言ってエーベルトとカミラは保健室を出ていった。
2人が保健室をあとにして数分。緑色の髪をした色気ある少女はなにやらブツブツと言っていた。
「⋯⋯なによなによ。エーベルト君たら私を置いて勝手に行っちゃって。ふんだ」
フェミリーはエーベルトが自分を置いて勝手に出ていってしまったことに怒っているのだった。
「⋯⋯エーベルト君が来たら私、抱きついて、胸を押し付けてやるんだから」
そう言ってふんと鼻を鳴らすフェミリー。胸を当てるという行為ならエーベルトはかなり動揺するだろう。
▲
保健室をあとにしたエーベルトとカミラは今対策本部の地下室へとやって来ていた。そこにはヴェローザがちょうど資料をまとめていた。
「あ、先生」
地下室の扉をくぐりながらエーベルトが呼ぶと、こっちに気づいたようにヴェローザは手を軽く振ってきた。
「おう、エーベルト。そして――カミラ」
「ど、どうして私の名前を?」
カミラが驚いたように言うと、ヴェローザは鼻を鳴らして言った。
「エーベルトが教えてくれた、それだけだ。別に個人情報を調べたりなんかしてないからな」
「そ、そうだったのですね。⋯⋯よかった」
「あ、個人情報調べられたのかもって思ってたんだね⋯⋯」
エーベルトはカミラの隣で苦笑した。
「カミラ、エーベルトからはこれからのことは聞いているか?」
ヴェローザが聞くと、カミラは首を横に振った。
「いいえ、聞いていません」
「そうか。なら伝えておく。お前にはこれから学院に生徒として入ってもらい、普通の女の子として生活してもらう。いいな?」
「は、はい、分かりました」
「よし、それならいい。私はこらから会議があるんでな、先に失礼する」
そう言ってヴェローザは地下室を出ていってしまった。
「あの、エーベルトさん」
カミラがエーベルトの袖を引っ張る。
「ん? なんだ?」
「⋯⋯あの先生ってやんきーなのですか?」
「⋯⋯あー」
言われてみればそうである。タバコをふかし、口調は女とは思えないくらい悪く、なんといっても目つきが悪い。ヤンキーと思われる要素満載なヴェローザ先生である。しかし、エーベルトはそれをカミラが言ってくるとは思っていなかったため、苦笑した。
「ま、まぁヤンキーではないだろう。⋯⋯そう願いたいよ」
「もしかして私、余計なこと言っちゃいましたか?」
少し涙目になりながら言うカミラに、エーベルトは慌ててフォローした。
「いや全然だよぜんっぜん! 俺も思ってたから! うん! あの人ヤンキー! 怖いよね!?」
「⋯⋯誰がヤンキーだって?」
「ヒェッ」
エーベルトが慌ててフォローをしていると、突然、棘を刺すような視線と声が後ろからした。エーベルトは、首をまるでロボットのように動かして後ろを振り返った。すると、そこには今話題の最中にいたヤンキー――ヴェローザがタバコを咥え、鋭い目付きでエーベルトを睨んでいた。
「いやっ、あの、これはですね⋯⋯」
「あん? なんだ?」
『すみませんでしたぁー!』
エーベルトが土下座したと同時、カミラも頭を深く下げた。それを見たヴェローザは、吹き出して笑った。
「冗談だ。ちなみに行っておくが私はヤンキーではないぞ」
「は、はい。すみませんでした」
「いいさ。じゃ、またな」
そう言ってヴェローザは再び地下室を出ていった。
ヴェローザが去ったあと2人はホッと胸を撫で下ろした。
「これで先生がヤンキーじゃないことは分かったか?」
「は、はい。――でも怖かったです⋯⋯」
カミラの目には涙が浮かんでいた。ヴェローザの威嚇がよほど効いたのだろう。
「なぁカミラ。そろそろ保健室戻らないか?」
「そ、そうですね。フェミリーさん、もう起きたでしょうか?」
「さぁな。ま、行ってみないと分からない」
そんなことを話しながらエーベルトとカミラは地下室をあとにした。




