18話 『君のものは私のもの』
「どうしてあなたがここに」
フュールが警戒した様子でオズウェルに聞いた。すると、オズウェルは肩をすくめて言った。
「どうしてだって? フッ、逆に聞くがどうしてだと思う?」
「マギアビーストが目的なんじゃないのー?」
フェミリーが挑発するように語尾を伸ばして言う。すると、オズウェルはおかしそうに笑いながら言った。
「その通りさ。私は私の目的のために動く。だからマギアビーストを求めるのさ」
そしてオズウェルは指をパチンと鳴らす。すると、間もなくして上空からオズウェルと同じ人形ロボットに乗った者たちが現れ、エーベルト達を取り囲んだ。
「な、なんのつもりだ!」
「ふふ、安心してくれエーベルト。乱暴はしないさ。キミたちが抵抗しない限りね」
そう言ってエーベルトの方に歩みを進めるオズウェル。その顔には悪巧みをしているであろう笑みが浮かんでいた。エーベルトは何かあると察し構えた。
「そんなに構えないでくれたまえ。別に私たちも乱暴がしたいわけじゃないんだ。少しその手に持っているものを私に渡してくれればいいんだ」
「手に持ってるもの⋯⋯っ! マギノステインが目的か!」
ライムントによるとマギノステインは全て集めると、最強の力が手に入る、そして何でも願いが叶えられるというものだった。そんなものを謎の組織の者に渡すわけにはいかなかった。
「ふふふ、そうさ。さぁ。こっちによこしたまえ」
エーベルトとオズウェルの距離は手が触れられる距離まで来ていた。
「くっ⋯⋯! こうなったら! フュール」
エーベルトはそう叫び、フュールに向かってマギノステインを投げた。
「任せて」
「残念だが、無駄だよ」
言ってオズウェルがフュールに手を向け、何かをブツブツと言った。その瞬間、フュールは自分の身体が動かなくなるのを感じた。
マギノステインはフュールの手ではなく、身体に当たり、コロンと音を立てて地面に落ちた。
「身体が⋯⋯動かない⋯⋯!」
身体をただ縛られているのとは少し感覚が違う。まるで、自分の身体が、脳からの指示を無視して動かないことを決めているかのようだった。
「だから無駄だと言っただろう。乱暴はしたくない。だが、邪魔をする者は容赦なく潰す。それが私のやり方なのでね」
そう言ってオズウェルはエーベルトの場所からフュールの場所――マギノステインの元へ歩いて行く。
「そうはさせないわ! 局部魔装! <魔槍・オベリスク>――」
「だから邪魔しないでくれと言っているだろう?」
そしてオズウェルは今度はフェミリーに向かって手を向け、ブツブツと言った。すると、今度はフェミリーが身体が動かないことに気づいた。
「な⋯⋯!?」
フェミリーが戦慄に目を見開く。オズウェルはそれをおかしそうに静かに笑った。
「この技は《ロック》という技でね。私の得意な魔法なんだ。強力な力をもってしても破れない魔法さ」
そしてオズウェルはマギノステインの前に立つ。すると、マギノステインは何かに反応したようにオズウェルの目の前に浮遊した。
「これがマギノステインか。なかなかきれいな色をしている――君たちには礼を言っておこう。君たちのおかげで、私はようやく悲願への一歩を踏み出すことができる」
高らかに宣言するように言いながら、オズウェルがゆっくりとそれに手を伸ばす。
「あんた⋯⋯何を!」
「――何を? はは、君がそれを問うのかね? 今まで、既に3人のマギアビーストの力を得てきた君が」
「な、何だと⋯⋯?」
エーベルトが眉根を寄せながら言うと、オズウェルはマギノステインを掴み――そのまま、自分の胸へと無造作に押し当てた。
「な⋯⋯!?」
「く――おおおおおおおおおお――ッ」
マギノステインを起点として、漆黒の閃光が、雷のようにバチバチと音を立てながら辺りには撒き散らされる。まるでその一帯のみが漆黒に染められたかのように、辺りの景色が塗り替えられる。
そして――数秒のあと。
その『漆黒』が、オズウェルに吸い込まれるように収束していった。
そこにはもう、マギノステインは存在していない。
「ふ――」
ただパイロット用の服の胸元を派手に焼け焦がせ、全身に魔力を帯びたオズウェル・ドルフレッドが立っているのみだった。
そう。まるで――マギアビーストのように。
「はは、はははははははははッ! ははははははははははははははは――ッ!」
オズウェルが、身体を反らしながら哄笑を上げる。その様に、フュールさえも顔を戦慄の色に染めた。
「嘘⋯⋯マギノステインを取り込んだというの⋯⋯!」
「馬鹿な、そんなこと⋯⋯」
言いかけて、エーベルトは息を詰まらせた。――先ほどオズウェルが発した言葉が、頭の中を掠めたのである。
「マギアビーストの、力を⋯⋯?」
エーベルトが呆然と声を発すると、オズウェルが上機嫌そうに視線を寄越してきた。
「そういうことさ」
そして片手を虚空に掲げ、唱える。
「――<魔弓・フェイルノート>」
その強大なる神器の名を。
「な――」
エーベルトの狼狽に合わせ、1つの弓が、オズウェルの手元に現れる。
瞬間、オズウェルが驚いたように目を見開いた。
「ほう⋯⋯? 不思議なものだね。神器に触れるのは初めてだというのに、その力が手に取るようにわかる。――こうかな?」
オズウェルは軽い力で弓を引いた。すると、眩い光がフェミリーとカミラの頭を貫通した。瞬間、光が当たった2人はふらふらとバランスを崩し、仰向けに倒れ、眠ってしまった。
「何⋯⋯!?」
エーベルトは驚愕の声を上げた。仮にオズウェルがエーベルトと同じようにマギアビーストの力を吸収したのだとしても、こんな短時間で神器を操れるようになるとは思わなかったのである。
「なるほど⋯⋯今のは光が当たった相手を眠りにつかせる技というわけか。ははは、素晴らしいとは思わないかね?」
「く⋯⋯」
エーベルトは奥歯を噛みしめながらオズウェルを睨み付けた。
と、そこでオズウェルの仲間の1人がオズウェルの耳元でコソコソと話した。
「そうか。わるいね、エーベルト。また次に会おう。――そう、マギアビーストを封印したときにね」
「⋯⋯っ!?」
オズウェルの言葉に眉根を寄せ、エーベルトとフュールは構えた。狡猾な彼のことである。その一言で油断を誘い、攻撃してくるという可能性もあると踏んだのだ。しかし。
「では、君たち。行こうか」
オズウェルが言うと、エーベルトの周りを取り囲んでいた人形ロボットたちが地面を一斉にトンと蹴った。人形のロボットが火力を上げ、同時に宙に浮く。
「近いうちにまた会おう。エーベルトとマギアビースト諸君。残り少ない安寧のときをどうか楽しんでくれたまえ」
「な⋯⋯待て! どこへ――」
「エーベルト」
それを追おうとしたエーベルトの服の裾が、フュールによって掴まれる。エーベルトがそれに気を取られている隙に、オズウェルたちは空へと消えていってしまった。
「気持ちは分かるけど抑えて。今追ってもどうにもならない。それに――」
フュールが、視線を仰向けに倒れたフェミリーとカミラの方に向ける。エーベルトはハッと息を詰まらせた。
「フェミリー! カミラ!」
地面を蹴り、未だ眠りについている2人の元へと走る。眠りについている以外、特に目立った外傷は無かったが、それよりも眠りから覚めるのかが問題であった。
「フュール。今すぐ学院に戻ろう。転移するほどの魔力は残ってるか?」
「分からない。でも、試してみる。転移魔法」
言ってフュールが叫ぶと、数瞬の間を起き、4人の足元に光の輪が現れ、次の瞬間4人の身体はきれいさっぱり無くなっていた。




