21話 『アゼウロスの復讐』
「うわああああああああああ!!」
エーベルトは竜の背中を抱き、風圧で捕まっているのがやっとだった。
『もう少しの辛抱です。頑張ってください』
「そんなこと言ったってええええええ!」
――そして5分後
『つきました』
「⋯⋯運転激しすぎるよ」
エーベルトはアゼウロスの背中から飛び降り、地面にへたりこんだ。
『そうでしたか? それはすみません。人間がどのくらい耐えられるのかも興味があったのも事実ですが』
「俺を実験台に使うな!?」
エーベルトは死んでもおかしくない状態だったのだから、怒鳴っても仕方ない。
「⋯⋯それで、一体何のようでこんな所に連れてきたんだ?」
そう言ってエーベルトは辺りを見回しながら言った。
エーベルトが今いるところは、本当の崖である。足を滑らせれば即落下の崖だ。それ以外には何も無い殺風景な場所だった。そんな所に呼び出して何のようだろうか。
『単刀直入に言います』
「はい」
脳内にアゼウロスの声が響く。エーベルトは頬に汗を垂らしながら唾を飲み下した。
『マギアビーストを殺してください』
「⋯⋯へ?」
エーベルトは意味が分からず首を傾げた。それも無理からぬことではある。いきなりこんな場所へ連れてかれ、何を言うかと思いきやマギアビーストを殺せなんて言われたらその反応が出るのもおかしくないだろう。
「ちょ、ちょっと待てよ。マギアビーストを殺す? どういうことだ?」
『話は簡単です。大昔、竜――アゼウロスはマギアビーストによって滅ぼされたのです。単なるそれの復讐ですよ』
「ふ、復讐って。それで俺を呼ぶ必要があるのか? 自分たちでやった方がいいだろ」
エーベルトが言うと、アゼウロスはため息を吐いてから言った。
『あなたに殺してほしいんですよ』
「⋯⋯は?」
エーベルトには意味が分からなかった。復讐なら自分の手でやるべきだと思う。しかし、アゼウロスはエーベルトに殺させようとしている。その理由がエーベルトには分からなかった。
『あなたが殺すのです』
「いやそれは分かったけどさ、なんで俺なんだ?」
『あなたが1番接触率が高いと考えたのです』
「⋯⋯なるほどな、それで俺にあいつらを殺せと」
エーベルトにそんなことが出来るはずは無かった。元々心の優しいエーベルトは人を殺めるという行為自体好きではないのだ。当然、この件も丁寧にお断りするつもりだ。
「わるいなアゼウロス。そりゃ無理だわ。心の優しい俺に人を殺めるなんてな」
エーベルトが視線を逸らしながら軽い調子で言うと、アゼウロスは少し動揺を見せた後、こう言った。
「分かりました。あなたができないというのなら私がやります」
「なんだよ。だったら最初からそう――」
『先程あそこにいた人間も纏めて殺します』
「なっ⋯⋯!」
エーベルトはアゼウロスの目を見て息を詰まらせた。アゼウロスの目は遠くを見据えており、そこには殺気を纏わせていた。
――こいつ、本気だ⋯⋯!――
「何を言ってるんだアゼウロス! それはダメだ! 狙うのはマギアビーストだけだ! そうだろ?」
エーベルトの説得でアゼウロスの心が少しでも動くと思った。しかし、甘かった。
『いいえ。人間ごと排除します。マギアビーストも魔力封印をしていれば人ひとり殺せる力は残りますが、それでも普通の女の子です。ならば同じように殺さなければならない」
「くっ⋯⋯!」
エーベルトは奥歯をギリッと噛んだ。アゼウロスの様子からは嘘だとは思えない。つまり本当に学院の生徒たちを殺すということになる。それだけは避けなければいけなかった。
しかし、エーベルトの考えは違った。
「分かった。お前がその気ならこっちだって策はある」
『ほう。その策が策になるといいですね』
「ああ、やってやるよ」
そう言って互いに睨み合う。さすがに竜と人間の睨み合いは竜が強い。エーベルトはすぐさま視線を逸らした――怖かったからだ。
『では戻りましょう。乗ってください』
「またあれを味わうのか⋯⋯」
『早くしないと置いていきますよ?』
「乗ります、乗らせていただきます」
『よろしい。では行きますよ』
そう言って崖から一気に急降下して上昇し、そのまま学院方面へとものすごいスピードで進んでいった。




