四天王と童貞の力
俺はアキラを宿の裏手に呼び出した。
「アキラ、俺さ……まだ童貞なんだ」
思い切ってカミングアウトした。アキラがきょとんとする。
「うん、そ、そうなんだ」
微妙にビックリされている。いや、そういう反応じゃなくてだな。
「モテるお前にはわからないと思うけど、この先もしかしたら死ぬかもしれないだろ。最後に俺はやりたいんだ。悔いは残したくない」
俺が真剣に訴えると、アキラがふうむと頷いた。
「うん、わかったよ。ボクも初めてだけど、ボクでよければいいよ」
(……え?)
俺の思考が止まった。
(そうか、一緒に行ってくれるんだな。アキラもああいうお店は初めてなんだな)
俺が感動していると。
「ちょっと待ったぁ!」
ドガッと音がして、サキが宿の角から飛び出してきた。後ろにはミサキもいる。
(聞かれてた!)
「アキラだけ呼び出してどこに行く気よ!」
サキが凄い剣幕で迫ってくる。ツインテールが怒りでピン立っている。
「えっ、あの……」
口籠もってアキラに助けを求める視線を向ける。
アキラがにっこり笑って言った。
「ケンヤから、ボクと一緒に童貞を捨てたいって頼まれてたんだ。ボクもいいよって返事した所だよ」
(ちょっと待てアキラ!女子に娼館に行くって正直に話す奴があるか!)
「そんなのダメです!」
ミサキが叫んだ。
「お互い好きじゃないと、そんな事しちゃダメです!」
ミサキが珍しく強い口調で言った。瞳が潤んでいる。
サキが頷く。
「そうよ。まだ決心するまで待っててよ」
(決心って何のだよ)
訳の分からないことを言っている。
アキラが引かない。
「ボクはケンヤの事好きだから大丈夫だよ。ケンヤもボクを選んでくれたし」
(いや、そういう好きじゃなくてだな)
アキラもそんなに娼館に行きたいのか。いや、行きたいのかアキラ。
「今日は諦めよう。魔王を倒して日本に帰る前にまた行こうぜ」
俺が言うと、アキラが笑顔で答えた。
「そうなの? ボクはいつでもいいからね」
(アキラ、さすがイケメンだな。いい奴だ)
「絶対に一緒に行こうな」
俺はアキラと固い握手を交わした。
(童貞卒業、魔王討伐の後に持ち越し)
* * *
童貞のまま朝を迎えた俺たちは、魔族領に足を踏み入れた。
「さっさと魔王を倒して戻ろう」
俺が言うと3人が頷いた。
しばらく歩くと、大きな4本腕の男が立っていた。
「来たな勇者よ! 我は魔王軍四天王の1人、風のヒューゴ! ここで人間どもの希望の光を断ち切ってくれる!」
大きな声で叫んできた。
(カッコいい。四天王だって。凄いファンタジーみたいだ)
「来い!」
ヒューゴが後ろのミサキに向かって風魔法のウインドカッターを放った。
「カバーガード!」
俺のスキルが発動する。仲間への攻撃に瞬時に対応できる盾術のスキルだ。
ガギン! ミサキの前に出て盾でウインドカッターを防ぎきる。
「そんな大きな体で、こんな小さな攻撃しか出来ないのかよ!」
俺が挑発すると、ヒューゴの顔が歪んだ。
「調子に乗るな小僧!」
剣を4本出してきて、俺に襲い掛かってくる。
「くっ!」
全てを盾で受け止めていく。ガギガギと金属音が響く。何度か切り付けられ血飛沫が舞う。腕が熱い。
「ケンヤさん! ヒール!」
ミサキの温かい光が俺を包む。痛みが引いていく。
その間にサキが詠唱を始めた。
「太古の大地を統べし岩の王よ。幾千年の眠りより目覚め、天上より裁きを下せ。その巨躯は山、その重みは世界。抗うことすら許さぬ大地の審判! タイタンズフォール!!」
ヒューゴの頭上に巨大な岩の塊が現れた。
1トンはあろうかという岩だ。
ヒューゴが4本の腕で岩を受け止める。ギリギリと筋肉が軋む。
「ガラ空きだよ!」
アキラがヒューゴの胴体に斬りかかる。
ズバッ!
力が抜けたヒューゴは岩に潰された。顔だけ出ている。
俺はアキラにコソッと耳打ちした。
「多分こいつは、俺は四天王最弱。この先もっと強いのが待ってるぞって言うよ」
ヒューゴが顔だけ出して叫ぶ。
「これで勝ったと思うなよ! 我は四天王最弱、この先楽に進めると思うなよ!」
(言った。お約束を言ったぞ)
そして煙になった。魔法が解除され、後には大きな魔石が残っていた。
「凄いケンヤ、なんでわかったの?」
アキラが目をキラキラさせて聞いてきた。
「うん、お約束だからね」
(ダメなやつのセリフだろ。漫画で何度も読んだ)
サキが魔石を拾い上げた。
「ねえ、これ持って帰っても日本に帰してもらえないのかな?」
「流石にこれじゃダメでしょ。魔王の魔石じゃないと」
俺が言うと、サキが「やっぱり」と肩を落とした。
「よし、四天王も倒せた。魔王待っていろよ」
俺が拳を握った。
(童貞の力を見せてやる)




