童貞勇者!最後の町で絶望する
数度の魔物との戦いを経て、俺たちの連携は目に見えて上がっていた。
最初はバラバラだった呼吸が、だんだんと揃ってくる。俺が盾で敵の攻撃を受け止め、アキラが剣で斬り伏せ、サキが魔法で援護し、ミサキがヒールで俺たちを繋ぎ止める。まるで歯車が噛み合っていくような感覚だ。
(悪くない。いや、かなりいい感じだ)
地味な盾役の俺でも、パーティーの一部として機能している実感がある。それが少しだけ嬉しかった。
休憩中のことだった。
「ああーっ! 背脂タップリのコッテリラーメンが食べたい!」
サキが突然叫んだ。森の中でで携帯食をかじりながら、彼女は空を見上げて叫んだのだ。ツインテールがぴくりと跳ねる。
「確かに、携帯食は味気ないもんな」
俺が頷くと、サキがバッと顔を向けてきた。
「ケンヤ、あんたラーメン好きなの?」
「俺の住んでるところはうどんが有名なんだけど、うどん用のイリコ出汁を使ったラーメンが美味いんだ。日本に帰れたら一緒に食べに行こうぜ」
俺が言うと、サキの顔がパッと明るくなった。
「ホント? 行く行く! 私うどんも好きよ! 帰る楽しみが増えたわ!」
サキがにっこり笑った。こういう顔をする時、サキは可愛い。ツンじゃなくてデレの方だ。
「イリコ出汁のうどんってことは、ケンヤは香川……」
サキが言いかけた時。
「ボクも行くよ。ラーメン楽しみだな」
アキラが笑顔で割り込んできた。
「私も行きます。ケンヤさんの実家、楽しみです」
ミサキも控えめに手を挙げた。
「いや、俺の実家に行くわけじゃないけど……」
「ムスッ」
サキが急に不機嫌になった。
「なによ、みんな行くの?」
小さな声で呟く。何が不満なんだ。
「さあ、日が暮れる前に次の町まで行こうぜ」
俺は立ち上がった。
(帰ったら皆でラーメンか。悪くないな)
* * *
夕方まで歩いて、町に着いた。
今日の宿は少し大きかった。部屋数も多い。だが、部屋割りは変わらない。
「今日はパンと肉だ。やっぱり肉を食べないと力が出ないぜ」
俺がそう言って肉にかぶりつく。美味い。歩き通しの体には染み渡る。
だが食事が終わると、また俺は1人で部屋に向かうことになった。
「なんでだよー」
ベッドに突っ伏す。
(結構サキともミサキとも仲良くなってきたと思ってたのに。やっぱりイケメンしか勝てないのか)
今日も1人で自分を慰めるしかない。虚しい。何が虚しいって、俺の青春そのものが虚しいのだ。
(……はぁ)
布団をかぶる。
その日、俺は夢を見た。
アキラがサキとミサキを抱きながら、1人でシコっている俺を笑っている。
「ケンヤってそういうこと好きなんだね」
アキラがキラキラの笑顔で言う。
「キモーい」
サキとミサキが俺を見ながら言う。
俺は泣きながら1人でシコり続けていた。
夢の中の俺は、止まらなかった。
* * *
朝起きると、無性にムカついていた。
夢のせいだ。あのイケメンの焼けるような笑顔のせいだ。
全員が揃ったところで、俺は爆発した。
「俺はもう1人で寝るのはイヤだ! なんで俺だけ1人なんだよ!」
不満をぶつけてみた。
サキが呆れた顔で言った。
「何言ってるのよ。まだ一緒に寝るのは早いわ」
(早いって何がだ)
ミサキがもじもじと言う。
「あの、身体拭くときに部屋から出てくれるなら、同じ部屋でも……」
「さすがにね」
アキラが口を挟んだ。
「隣で君が寝てると思うと、ボクたちも寝れなくなっちゃうしね」
(寝れなくなる? なんでだ)
ああ、そうか。
俺が同じ部屋だと、あれが出来ないからか。
「そうか! 俺が同じ部屋だと出来ないからってことか! わかったよ、1人でいいよ!」
俺は叫んだ。
サキの顔が真っ赤になった。
「ち、違うわよ! そういうことじゃないわよ!」
(いや、そういうことだろ)
「さあ出発しようぜ」
俺はさっさと歩き出した。
(くそっ。童貞の悲哀を知れ)
* * *
地図を確認する。次の町が人間領地の最前線らしい。
「その先は魔族領になる。魔物との戦闘も激しくなるぞ」
アキラが地図を指差した。
「野宿になるのかな」
ミサキが不安そうに言った。
「なるべく町に泊まるようにしよう。でも野宿も覚悟しとけよ」
俺が言うと、3人が頷いた。
森を進んでいくと、木がウニョウニョと動き始めた。
「魔物か?」
俺は盾を構えた。
枝を鞭のようにしならせて襲ってくる。ヒュンヒュンと風を切る音が耳を掠めた。
「アキラッ!」
叫ぶと、アキラが俺の後ろから飛び出して枝を斬っていく。ズバズバと剣が走る。
木の魔物が口のようなところから樹液を吐いてきた。
ドロドロと粘着質の液体が俺とアキラに降りかかる。
「うわっ!」
接着剤みたいに硬くなっていく。腕が動かない。足も動かない。
「やばい、動けなくなる!」
俺が叫んだ。
「ファイアボール! ファイアボール!」
サキが連続で火球を放つ。ズドン、ズドンと木の魔物に直撃。火だるまになった。
しばらくして煙になって魔石が転がった。
「ネバネバして動きにくいな」
俺が呟く。
「近くに川があるわ。洗いましょう」
サキが指差した。
* * *
川のほとりに着いた。
「アキラ、川で流し合いしようぜ」
俺が言うと、アキラの顔が真っ赤になった。
「あ、う……」
言葉になってない。
(なんでだ。男同士だぞ)
「アキラは私たちが洗うから。ケンヤはあっちで流してきなさい」
サキが岩の向こうを指差した。
「私たちもついでに身体流しましょうか」
ミサキが言った。
「そうね、タオルで拭くだけじゃ物足りないもんね」
サキが同意した。
「ケンヤ! 覗いたら火だるまにするからね!」
サキが釘を刺してくる。
「俺は覗かねーよ」
(覗かねーよ。たぶん)
岩の向こうに行く。服を脱ぐ。ネバネバを洗い流す。
(この向こうで女子が裸になってるのか……)
行く? 行っちゃう?
アキラがいいなら、俺もいいよね。
自分に言い聞かせる。岩の影からそーっと顔を出そうとする。
ドヒュン!
火球が飛んできた。
「覗くなって言ったでしょうが!」
サキの怒声が響いた。
(ヒィッ)
髪の毛焦げた。
結局、1人で虚しく体を洗い終えて、服を着て待っていると、3人が装備を身につけて現れた。
「見てないでしょうね」
サキがジロリと睨む。
「見たくねーし」
強がりを言っておく。
(見たかったけど)
* * *
最後の町に着いた。
兵士たちが大勢いる。城門に立つ衛兵の数が半端ない。
「すごい人数ね」
サキが呟く。
「すごいな、ここが最前線だ」
(あれっ。ここが最後の町ってことは……)
冷や汗が背中を伝った。
(ここで童貞を捨てないと、下手したら童貞のまま死ぬかも)
やばい。何か行動しないと。
宿に入って、いつも通り1人になる。
(この町には兵士相手の娼館があるって聞いた)
1人で行くのは怖い。いや、怖いというか敷居が高い。
「アキラも誘うか……」
俺はアキラの部屋をノックした。




