リーダーは地味な俺?
王様から支度金を受け取った俺たちは、装備を整えて城門を出た。
と言っても、俺たちが貰ったのはそれぞれの武器と防備一式、それに旅費の金貨数枚だ。魔王の城は大陸の北の端にあるらしい。遥か遠い。徒歩で数週間はかかる距離だ。
「北に向かって進むんだな。了解した」
アキラが地図を広げて頷く。頼もしい。さすが剣士だ。方向感覚が鋭い。
(いや、地図見てるだけだから誰でも分かるか)
「ねえ、出発する前にリーダーを決めましょう」
サキがツインテールを揺らして言った。
「……リーダー?」
俺が首を傾げると、サキがジロリと俺を睨んだ。
「パーティーにはリーダーが必要でしょ」
「えっと、やっぱり男の子がリーダーになって欲しいです……」
ミサキがもじもじと小声で言った。その上目遣いが破壊力を保っている。俺の心臓がドクリと跳ねた。顔には出さない。
「ボクもそう思う。男がリーダーがいいね」
アキラも同意した。
(うんうん、やっりイケメンがリーダーか。納得だ)
俺は心の中で納得してうんうん頷いていた。
3人の視線が俺に向いた。
「……は?」
「ケンヤ、リーダーお願いね」
サキが当然のように言った。
「えっ、俺が? だって、」
俺が動揺していると、サキが眉を吊り上げた。
「話聞いてたの? 男の子になって欲しいって言ってるじゃない」
「ケンヤでいいじゃない。地味だけど」
「地味って……アキラがいいなら俺がやるけど」
(俺のどこが地味なんだ。いや、フツメンだけど)
「もちろん、ケンヤでいいよ。ボクはさっきからそう言ってるじゃないか」
アキラがニカッと笑った。
「ケンヤって、天然なの?」
(天然じゃねーよ。お前がリーダーになるもんだと思ってたんだよ)
「くそっ、笑顔もイケメンか!」
ついボソッと呟くと、サキがフンと鼻を鳴らした。
「文句あるの?」
「……ないです」
俺は観念して宣言した。
「よし。目標は魔王討伐だけど、みんな、命大事にだ。絶対に無理はしないでくれ。俺がこの盾でみんなを守るから」
貰った大楯を掲げる。ずっしりと重い。だが、その重みが妙に頼もしく感じられた。
「よし、出発だ!」
「おおー!」
3人の声が重なった。なんというか、こういうの悪くないかもしれない。
* * *
森に入ってすぐ、スライムが現れた。
「ヒッ」
思わずビクッと竦むが、俺は盾を構えて前に出た。スライムの体当たりをガギッと受け止める。ぶよんとした感触が盾越しに伝わってきて、なんとも言えない不気味さだ。
「今だ、アキラ!」
「任せて!」
アキラが剣を一閃する。ズバッと真っ二つになったスライムが煙となり、ポンと小さな魔石に変わった。
「おお、魔石になるのね。魔物の死体が残らないのはいいわね」
サキが感心したように頷いた。
(確かに死体が残らないのは衛生的でいいな。俺たちの世界の怪談とかもこれなら……”
ふと、俺は気になった。
「サキ、魔法ってどんなふうに使うんだ?」
サキがツインテールを揺らした。
「使いたい魔法を思ったら、頭の中に詠唱が出てくるの。その言葉を口にすれば魔法が発動するみたい。大きな魔法は詠唱も長いけど、簡単な奴ならファイアボールって言うだけでいけるわね」
「詠唱か……。俺たちの世界なら厨二病って言われるやつだな」
ボソッと言うと、サキがバッと振り向いた。
「うるさいわね! しょうがないでしょ、ここではそれが普通なのよ!」
顔を赤らめて拗ねている。
(……サキも可愛いな)
(俺たち4人、男女2対2でカップルになれたらどっちがいいかな。ま、どうせ選ぶ権利はアキラにあるだろうけど)
俺はそんなことを考えながら歩いていた。ムッツリだからな、俺は。
「ブオオオオ!」
突然、イノシシみたいな魔物が茂みから飛び出してきた。
「うおっと!」
俺はとっさに盾を構えて突進を受け止めた。ドガッという衝撃が全身を突き抜ける。
(重っ! 猪ってレベルじゃないだろ、これ)
「サキ、魔法使ってくれ!」
「分かった!ファイアボール!」
サキが叫ぶと、掌から火球が飛んでいった。ズドンとイノシシに直撃し、煙になって魔石に変わる。
「……すごい威力だな。これで簡単な奴なんだろ?サキ凄いじゃないか」
俺が言うと、サキがフンと顔を赤らめた。
「べ、別に普通だし! あんなの序の口よ!」
(照れてる。可愛い)
「ケンヤさん、回復しますね」
ミサキが静かに近づいてきた。
「ヒール」
その声とともに、彼女の掌から柔らかな光が溢れ出した。ふにふにと暖かい光が俺を包み込み、筋肉の疲れがスーッと消えていく。擦り傷も消えた。
「……すごいな、ミサキ。頼りになるよ」
俺が素直に言うと、ミサキがほころぶように笑った。
「ケガをしたら、いつでも言ってくださいね」
その笑顔が眩しい。
(ああ、俺の心臓が持たない)
「ボクの剣も見てよ、ケンヤ!」
アキラがすっと剣を突き出してきた。
「ああ、……凄いな、切れ味よさそうだ」
「ボクだけ扱いが雑じゃないかい?」
アキラがふくれっ面になった。
(いや、男が拗ねるなよ)
「さあ、先に進むぞ」
俺は盾を背負い直して、また歩き出した。
3人が後に続く。俺たちの旅は、まだ始まったばかりなのであった。
(……しかし、北に向かうにつれて魔物が強くなるらしい。今のうちに連携を詰めておかないとな)
俺は前を見据えた。この盾で、3人を守り抜く。それが俺の役目だ。地味だが、誰かがやらなきゃいけない仕事だからな。




