異世界召喚ってマジ?
気づけば、俺は硬い石の床の上に寝転がっていた。
「……いてぇ」
背中に走った鈍痛に、思わず呻く。まるで体育の授業で柔道の受け身に失敗した時のような、あの不愉快な痛みだ。いや、それにしてもここはどこだ。さっきまで確かに教室で昼飯を食っていたはずだが。
ガバッと上体を起こして周囲を見渡す。
そこには、見事な天井画が描かれた広大なホールがあった。圧巻の高さのある天井には金箔が施され、壁には巨大なタペストリーが飾られている。窓から差し込む光がステンドグラスを通して床に七色の模様を落としている様は、まるで映画のワンシーンだ。
(……ここ、どこだよ)
しかも俺の周囲には、同じくらいの歳の男女が3人ほど倒れていた。
「……う、うーん……」
金髪のイケメンが目を覚ます。身長は170センチほどか。整った顔立ちに、軽そうな雰囲気が漂う。なんとなく、クラスの女子からキャーキャー言われるタイプだと当たりをつけた。
「きゃっ! ここ、なんなの!?」
茶髪のツインテールが元気よく起き上がる。その勢いに俺は思わずビクッとなった。小柄だが目元がきりっとした美人だ。ただ、今のけたたましい悲鳴で俺の耳膜が破れそうになったことは免れない。
最後に、大人しそうな黒髪のロングストレートが静かに目を覚ました。可愛い系だ。控えめな表情に、どこか儚げな雰囲気がある。俺の好みである。内心でドキュンと心臓が跳ねたが、顔には出さない。ムッツリだからな、俺は。
4人が互いに顔を見合わせていると、大広間の正面扉がギギギと重々しく開いた。
「おお! 勇者たちよ、目覚められたか!」
赤いマントを羽織った小太りの男が登場した。頭には黄金の冠。さては王様か。
「……勇者?」
俺が首を傾げると、王様は開いた両手を広げんばかりの勢いで語り始めた。
「そなたらが我が国に召喚された勇者たちだ! 世界を脅かす魔王を討伐せんとする希望の光よ!」
(いや、希望も光もないだろ。高校生の俺らに何ができるってんだ)
金髪イケメンが立ち上がり、王様に向かって堂々と声を上げた。
「ボクはアキラ。剣術のスキルがあるみたいだ、戦えと言うのなら討伐が成功したら元の世界に帰すと約束して欲しい」
おいおい、状況飲み込み早すぎないか。俺なんかまだ自分の置かれた状況が消化しきれてないぞ。
ツインテールも続く。
「あたしはサキ。あんたが王様なんでしょ? ちゃんと説明しなさいよ、四人も呼んどいて。あ、あたしは魔法が使えるみたいね。四属性」
高飛車だ。王様相手に堂々としている。
「……ミサキ、です。聖魔法が、使えるみたいです」
最後の一人は小声で自己紹介した。大人しい。声のトーンが控えめで、逆に聞き取るのに必死になる。
「それで、俺は?」
俺が恐る恐る尋ねると、王様が太い指を俺に向けた。
「そなた、高畑健也であろう。盾術レベル五のスキルを持つ勇者よ」
「盾術……? レベル五?」
(盾って。剣じゃなくて?)
ステータスと口にする、そこには確かに「盾術レベル五」と表示されていた。他の三人のスキルも確認する。アキラは剣術レベル四。サキは4属性魔法レベル四。ミサキは聖魔法レベル四。
(俺だけレベル高いけど、盾かよ。地味すぎるだろ)
「王様、魔王というのは?」
アキラがすっと問いかける。王様は悲しげに目を伏せた。
「大陸の北の端にある城に魔王はいる。魔王の魔石を持ち帰るがよい。それがあれば、そなたらを元の世界へ帰すことができる」
「元の世界に帰せるって、マジですか」
俺は食い気になった。元の世界に帰れる。その言葉の甘美な響きに、俺の心臓が跳ねた。
「約定の魔法にかけて誓おう。魔石を持ち帰れば、必ず帰すと」
王様が真顔で誓言する。嘘ではなさそうだ。
こうして、俺たち4人はパーティーを組むことになった。
「タンク、剣士、魔法使い、回復役か。バランスはいいな」
アキラが貰った剣を肩に担いでニカッと笑う。その笑顔は眩しい。
(タンクって俺のことかよ。地味の筆頭じゃねーか)
「じゃ、よろしくね」
サキが俺に向かってツンと顎をしゃくった。
「……よろしくお願いします、ケンヤさん」
ミサキがぺこりと頭を下げた。可愛い。俺の心臓がもう一回跳ねたが、顔には出さない。
「……よろしく」
俺も小さく頭を下げた。こうして、地味な盾使いの勇者は、旅立ちの第一歩を踏み出したのである。
(帰れるかな。うまくいけばいいけど。まあ、とりあえず、やってみるか)
魔王討伐の旅。その前途は、俺の予想を遥かに超えて過酷なものとなった。だが、まだその時の俺は知らなかった。何も知らなかったのである。




