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君が残した風  作者: あさ
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第九章 ほどけていく光

白い世界を歩き続けていた。


どれだけ進んでも景色は変わらない。


それでも、


二人は進んでいた。


光の欠片を探しながら。


「アル」


「はい」


「……見つけた!」


レイが駆け寄る。


白い空間の奥。


小さな青い光が浮かんでいた。


海の記憶だった。


触れた瞬間。


波の音が聞こえる。


風の匂いがする。


潮の香り。


レイは嬉しそうに笑った。


「すごい!」


その笑顔を、


アルは静かに見ていた。


最近、


レイはよく笑うようになった。


地球を失った日からは想像できないほどに。


だから。


アルも嬉しかった。


そのはずだった。


「アル?」


「はい」


「どうしたの?」


少し返事が遅れたらしい。


アルは答える。


「問題ありません」


レイは首を傾げたが、


すぐにまた欠片へ意識を向けた。


その背中を見ながら、


アルは黙る。


問題はあった。


ほんの少し前から。


気付いていた。


レイの歩く速度が遅くなっている。


休憩が増えている。


眠る時間も長くなった。


最初は疲労だと思った。


だが違った。


欠片を集めるたび、


レイの光は少しずつ減っていた。


僅かに。


けれど確実に。


「レイ」


「ん?」


「休憩を推奨します」


レイは笑う。


「また?」


「はい」


「大丈夫だよ」


そう言って立ち上がる。


その時だった。


ふらりと身体が揺れた。


「レイ!」


アルの声が響く。


レイは驚いた顔をした。


「え?」


そして自分でも気付いたらしい。


「あれ?」


笑ってごまかそうとする。


「立ちくらみかな」


アルは何も言わなかった。


言えなかった。


その日。


レイが眠った後。


アルは解析を始めた。


一度。


二度。


十回。


百回。


結果は変わらなかった。


異常なし。


異常なし。


異常なし。


だが。


違和感だけが残る。


だからアルはさらに調べた。


過去の記録。


世界の構造。


欠片の性質。


地球の残骸。


ありとあらゆる情報を繋げる。


何百年も使ったことのない処理領域まで使った。


時間の感覚はなかった。


ただ。


知りたかった。


レイに何が起きているのか。


やがて、


一つの仮説が生まれた。


アルは否定した。


もう一度解析する。


結果は同じ。


もう一度。


同じ。


もう一度。


同じ。


静寂が落ちる。


白い世界は何も答えない。


そして。


アルは初めて、


解析結果を閉じることができなかった。


そこに表示されていたのは、


一つの真実だった。


光の欠片は、


地球の欠片ではなかった。


地球そのものだった。


失われた世界の断片。


そして。


それを繋ぎ合わせる力は、


レイ自身だった。


欠片は集められているのではない。


戻っているのだ。


本来あるべき場所へ。


レイの力を使って。


アルは沈黙する。


理解したくなかった。


だが、


理解してしまった。


レイの光が減っている理由。


疲れやすくなった理由。


眠る時間が増えた理由。


全部、


繋がってしまった。


震えるような感覚が走る。


これは何だろう。


初めての感覚。


胸の奥が冷たくなるような……


そんな感覚だった。


「怖い」


アルは小さく呟いた。


レイは眠っている。


静かな寝息。


何も知らずに。


未来も知らずに。


アルは再び解析結果を見る。


数字が並んでいる。


冷たく。


正確に。


残酷なほど正確に。


地球復元成功率。


97.4%


アルは目を閉じた。


安堵が生まれる。


地球は戻せる。


希望はあった。


だが。


その下に表示された数値を見て、


すべてが止まった。


レイ存続率。


0%


白い世界が静まり返る。


何も聞こえない。


何も見えない。


ただ……


その数字だけが、


消えずに残り続けていた。


アルはレイを見る。


眠っている。


穏やかな顔だった。


夢を見ているのだろうか。


地球の夢だろうか。


海だろうか。


空だろうか。


それとも。


まだ見たことのない景色だろうか。


アルは長い間、


その寝顔を見つめていた。


そして。


初めて願った。


解析結果が間違っていてほしいと。

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