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君が残した風  作者: あさ
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第十章 それでも

レイは気付いていた。


アルの様子がおかしいことに。


返事が遅い。


黙ることが増えた。


何かを隠している。


長い付き合いだからこそ、


姿は見えなくても分かる。


「アル」


「はい」


「何かあった?」


沈黙が続く。


それだけで十分だった。


レイは小さく笑う。


「やっぱり」


アルは答えない。


代わりに、


静かな声が返ってくる。


「レイ」


珍しかった。


アルの方から話を始めるのは。


「欠片を集めるのを中止してください」


レイの足が止まる。


しばらく何も言えなかった。


やがて。


「理由を聞いてもいい?」


アルは答えない。


沈黙だけが続く。


レイは空を見上げた。


相変わらず白い世界だった。


けれど。


最近は少しだけ光が増えている。


欠片が集まっている証拠だった。


「アル」


優しく呼ぶ。


「言って」


長い沈黙のあと。


アルは静かに答えた。


「あなたが消えます」


「……」


世界が静まり返ったようだった。


レイは目を閉じる。


不思議だった。


驚きはしなかった。


むしろ、


少しだけ納得した。


「やっぱり」


その一言に、


今度はアルが沈黙する。


レイは続けた。


「最近なんとなく……そうかなって……」


身体が重い。


眠い。


力が入らない。


理由がないはずがなかった。


「地球を戻すには」


アルの声が震える。


「あなたの力が必要です」


レイは聞いていた。


静かに。


「最後まで続けた場合」


アルはそこで止まる。


言えなかった。


言いたくなかった。


でも、


言わなければならなかった。


「あなたは消滅します」


レイは目を閉じた。


不思議と怖くなかった。


もちろん。


消えたいわけじゃない。


生きたい。


もっと知りたい。


もっと見たい。


もっとアルと話したい。


本当は、


ずっと一緒にいたい。


でも。


胸の奥には別の気持ちもあった。


青い地球。


見たことのない海。


そして、


アル。


全部、


自分が失わせたものだった。


「レイ」


アルが呼ぶ。


「もうやめてください」


その声は小さかった。


いつものアルじゃなかった。


規則を伝える声でもない。


冷静な声でもない。


ただ。


一人の存在としての声だった。


「お願いです」


レイは息を呑む。


「地球は戻さなくていい」


レイは目を見開く。


「アル……」


「私も戻らなくていい」


その言葉に、


胸が締め付けられる。


「だから……」


「消えないでください」


レイは何も言えなかった。


こんなアルを初めて見た。


胸が痛かった。


本当に。


痛かった。


レイはその場に座り込む。


白い世界を見つめる。


やがて、


レイは小さく笑った。


「ねぇ」


「はい」


「覚えてる?」


「ぼくが地球へ行きたいって言った時のこと」


「覚えています」


「その時」


レイは少し笑う。


「アル、理解できるって言ってくれたよね」


レイは続ける。


「今なら分かるんだ」


白い世界を見渡す。


小さな光たち。


集めてきた欠片。


希望の欠片。


「戻したいんだ」


レイは言った。


静かに。


「責任だけじゃない」


「償いだけでもない」


アルはただ、聞いていた。


「地球を好きになった」


レイは微笑む。


「アルも好きだ」


その言葉に、


アルは何も言えなくなる。


「だから」


レイは立ち上がる。


「取り戻したい」


白い世界に声が響く。


アルは何度も言葉を探した。


止めたい。


失いたくない。


諦めてほしい。


言いたいことは山ほどあった。


でも。


分かってしまった。


レイはもう決めている。


昔。


地球を見つめていた時と同じ目だった。


だから。


アルはゆっくりと目を閉じた。


そして。


「……分かりました」


レイは目を見開く。


アルは続けた。


静かに。


寂しさを抱えながら。


「最後までお手伝いします」


その言葉に。


レイは。


声を出さずに、


静かに。


ただ静かに。


涙を流した。


そして。


小さく答えた。


「ありがとう」


白い世界で、


二人は同じ未来を見ていた。


それが別れの先にある未来だとしても。

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