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君が残した風  作者: あさ
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第十一章 最後の欠片

光はたくさん集まっていた。


白かった世界のあちこちに、


様々な色が浮かんでいる。


まるで、


失われた世界の記憶が戻ってきているようだった。


「あと一つです」


アルが言う。


レイは立ち止まる。


そして少し笑った。


「長かったね」


「……」


「……本当に長かった」


アルは少し考える。


そして答えた。


「比較的短期間です」


レイは吹き出した。


「そういうところだよ」


「どういうところでしょう」


「アルらしいところ」


静かな時間が流れる。


それだけで幸せだった。


最近、


レイはよく思う。


幸せとは何だろう。


昔は知らなかった。


地球へ行きたかった頃も。


崩壊した後も。


ずっと探していた。


でも今なら少しだけ分かる。


誰かと同じ景色を見ること。


誰かと同じ未来を願うこと。


それも幸せなのだと。


「アル」


「はい」


「ありがとう」


突然だった。


アルは少し黙る。


「理由を教えてください」


レイは笑った。


「いっぱいある」


そして、


少しだけ考える。


「名前をくれたこと」


「一緒にいてくれたこと」


「止めてくれたこと」


そこで声が小さくなる。


「守ってくれたこと」


アルは何も言わない。


言葉を探しているようだった。


やがて、


静かな声が返ってくる。


「それは私の役割です」


レイは首を振る。


「違うよ」


「最初はそうだったかもしれない」


レイは空を見上げる。


白い世界。


今は少しだけ色づいている。


「でも途中からは」


「アルだった」


長い沈黙が続いた。


アルは答えなかった。


答えられなかった。


胸の奥が苦しかった。


嬉しいのに。


苦しい。


そんな感覚を、


まだ上手く理解できなかった。


その時だった。


遠くで、


小さな光が瞬いた。


青白い光。


今までで一番大きい。


二人は同時に気付く。


「見つけました」


アルが言う。


レイは頷く。


そして、


ゆっくり歩き始めた。


身体は重かった。


力もほとんど残っていない。


歩くだけで息が切れる。


それでも、


足は止まらなかった。


光へ近付く。


一歩ずつ。


少しずつ。


やがて、


最後の欠片が見えた。


美しかった。


それは小さな星のようだった。


静かに輝いている。


優しく。


温かく。


どこか懐かしく。


レイはそっと手を伸ばす。


触れる寸前、


アルが呼んだ。


「レイ」


レイは振り返る。


「どうしたの?」


長い沈黙のあと、


アルは静かに言った。


「一つだけ」


「聞いてもよろしいでしょうか」


「うん」


アルは少し迷った。


言葉を選んでいた。


「……後悔していますか?」


レイは目を見開く。


そして、


欠片を見る。


地球を思う。


崩壊の日を思う。


アルを思う。


長い時間を思う。


しばらくして。


「してるよ」


レイは続ける。


「たくさん」


笑う。


少しだけ困ったように。


「今でも苦しい」


本当だった。


消えたわけじゃない。


許されたわけでもない。


忘れたわけでもない。


「でもね」


レイは最後の欠片を見る。


優しい光。


温かい光。


「後悔だけじゃなくなった」


アルは静かに聞いていた。


「地球を好きになれた」


「君を好きになれた」


レイは微笑む。


少しだけ声が震え、


涙が滲んでいた。


「だから」


「生まれてきてよかったと思う」


世界が静まり返るようだった。


アルは何も言えなかった。


返す言葉が見つからなかった。


でも、


微かに胸の奥が温かく感じた。


そして。


どうしようもなく痛かった。


レイは最後の欠片へ手を伸ばす。


光が指先へ触れる。


その瞬間。


白い世界が輝き始める。


無数の欠片が空へ昇る。


まるで、


帰るべき場所を知っていたように。


そして。


アルは理解した。


本当に最後なのだと。


レイの輪郭が、


静かに透け始めていた。

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