表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
君が残した風  作者: あさ
PR
12/13

第十二章 ありがとう

光が溢れていた。


白い世界も、


失われた地球も。


すべてが光の中にあった。


無数の欠片が空へ昇る。


それらはゆっくりと混ざり合い、


新しい世界を形作っていく。


レイはその中心に立っていた。


身体は透け始めている。


指先から、


少しずつ。


静かに。


けれど不思議と怖くはなかった。


「アル」


「はい」


レイは微笑む。


「見て」


世界が生まれていた。


白かった空間の向こうに。


青い空が広がる。


雲が流れる。


風が吹く。


海が輝く。


森が揺れる。


鳥たちが飛び立つ。


ずっと憧れていた地球だった。


美しかった。


言葉が出ないほどに。


その時、


光の中から一つの影が現れた。


人の形だった。


ゆっくりと。


確かに。


光が身体を作っていく。


やがて、


一人の青年がそこに立っていた。


アルだった。


アル自身も信じられないように、


自分の手を見て、


指を動かす。


胸に触れると、


鼓動がある。


温もりがある。


風を感じる。


そして、


次の瞬間。


アルは顔を上げた。


レイを見る。


透けていく身体。


アルは走った。


ただ、


レイの元へ。


一歩でも早く。


届くように。


「レイ!」


レイは振り返る。


そして笑った。


「アル!」


アルはレイを抱きしめる。


強く。


震えるほど強く。


レイは少し驚いた顔をした。


それから、


ふわりと笑う。


「温かいね」


それが、


初めてアルに触れた感想だった。


アルは何も言えなかった。


声にならない。


胸が苦しい。


けれど、


離したくなかった。


レイはアルの肩越しに空を見る。


青かった。


どこまでも。


どこまでも。


青かった。


風が頬を撫でる。


草の匂いがする。


遠くで鳥の声が聞こえる。


地球が生きていた。


「……きれいだね」


レイは呟く。


涙が頬を伝う。


でも、


笑っていた。


幸せそうに。


心から。


「見れたよ」


長い間夢見ていた景色。


憧れ続けた地球。


それが今、


目の前にあった。


レイは静かに目を閉じる。


風を感じる。


温もりを感じる。


そして。


もう一度目を開いた。


今度は地球ではなく、


自分たちの世界を見る。


白かった世界。


何もなかった世界。


けれど、


もう違った。


そこには草原が広がっていた。


淡い緑。


揺れる野花。


透き通る湖。


柔らかな空。


そして、


初めて吹く風。


レイは目を輝かせた。


子どもの頃のように。


「わぁ……」


その声に、


アルの胸が締め付けられる。


レイは笑う。


嬉しそうに。


本当に嬉しそうに。


「アル」


「はい」


「お願いがあるんだ」


アルは頷く。


レイは風に揺れる草原を見る。


生まれ変わった世界を。


「この世界も」


少しだけ照れくさそうに笑う。


「好きになってあげて」


アルは息がとまるようだった。


レイは続ける。


「ぼく」


「ここもちゃんと好きだったよ」


アルは答えられない。


涙が溢れていた。


初めて知る涙だった。


止め方も分からない。


レイはそんなアルを見て、


少し困ったように笑う。


「泣いてるの?」


アルは頷く。


言葉にならなかった。


レイは優しく微笑んだ。


そして。


「ありがとう」


その言葉に、


アルは首を振る。


違う。


ありがとうを言うのは自分だ。


そう伝えたかった。


でも、


声にならない。


レイの身体が光になり始める。


肩が。


腕が。


風に溶けるように、


光へ変わっていく。


それでもレイは穏やかだった。


満たされた顔をしていた。


「アル!」


レイは微笑んでいた。


「ありがとう」


風が吹く。


優しく。


どこまでも優しく。


そして、


レイの身体は光になった。


花びらのように。


空へ舞う。


静かに。


穏やかに。


消えていく。


最後に残った光が、


風に乗る。


そして、


草原の中央へ降り立った。


そこには一輪の花が咲いていた。


白と青が溶け合うような花。


この世界には存在しなかった花。


アルはその前に立つ。


長い間、


何も言わずに。


やがて、


小さく呟いた。


「こちらこそ」


風が吹く。


花が揺れる。


まるで返事をするように。


アルは空を見上げる。


青かった。


どこまでも。


どこまでも。


青かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ