エピローグ ようこそ
風が吹いていた。
草原を渡り、
湖の水面を揺らし、
花々をそっと撫でていく。
アルは空を見上げる。
青い空。
白い雲。
あの日、
レイが見た空と同じだった。
あれから長い時間が流れた。
地球は回り続けている。
この世界にも季節が生まれた。
草は芽吹き、
花が咲く。
すべて、
あの日レイが残したものだった。
アルは草原の奥へ歩く。
一輪の花が咲いている。
白と青の花。
今ではこの世界のあちこちに咲いている。
最初の一輪から増えた花たち。
その前で足を止める。
アルは小さく微笑んだ。
「今日も風が吹いています」
静かな声だった。
返事はない。
けれど、
少しだけ懐かしかった。
その時だった。
光が灯った。
柔らかな光。
温かな光。
アルは振り返る。
そして歩き出した。
光の前へ、
ゆっくりと。
光は少しずつ形を持ち始める。
小さな手。
小さな足。
小さな命。
やがて、
赤ん坊が現れる。
眠るように目を閉じていた。
アルはそっと両腕を伸ばす。
落とさないように、
大切に。
光の中から現れた命を抱き上げる。
赤ん坊は小さく息をしていた。
そして、
ゆっくり目を開けた。
透き通るような瞳だった。
アルを見る。
不思議そうに。
アルは静かに見つめ返したていた。
その瞳はレイとは違う。
髪も。
表情も。
何もかも違う。
でも、
守らなければならない未来だった。
赤ん坊はアルへ向かって小さく手を伸ばす。
アルの指を握る。
その温もりに、
アルは少しだけ目を細めた。
今のアルは、
別れを知っている。
大切な存在を知っている。
だから、
今度は伝えたい。
知りたいと思う気持ちも。
止めるべき時も。
誰かを大切に思うことも。
全部。
アルは赤ん坊を抱きしめる。
そして静かに言った。
「ようこそ」
風が吹いた。
草原が揺れる。
花が揺れる。
青い空の下で。
世界は続いていく。
レイが守った未来を。
一歩ずつ。
確かに。




