第八章 光
白い世界は変わらなかった。
何もない、
果てしなく続く静寂。
けれど。
レイはもう一人ではなかった。
「アル」
「はい」
声が返ってくる。
それだけで少し安心した。
姿は見えない。
触れることもできない。
それでも。
確かにそこにいる。
レイは歩いていた。
どこへ向かうでもなく。
ただ、
ひたすらに。
「アル」
「はい」
「昔さ」
「地球の匂いがどんな匂いかって聞いたことあったよね」
「ありました」
「結局分からなかったな」
沈黙。
そして。
「申し訳ありません」
「なんで謝るの」
「答えられませんでした」
レイは笑う。
本当に久しぶりに。
少しだけ。
「アルらしいな」
沈黙。
そして。
「そうでしょうか」
「うん」
レイは歩き続ける。
何もない世界を。
でも。
不思議だった。
アルと話していると、
少しだけ不安が薄れる。
その時だった。
足元で何かが光った。
レイは立ち止まる。
白い床の上。
小さな光の粒。
まるで星屑みたいだった。
「アル……!」
「確認しています」
レイはしゃがみ込む。
光は温かかった。
触れた瞬間、
景色が流れ込んでくる。
揺れる……木……森……?
レイは息を呑む。
「これ……」
「地球の記憶です」
アルが答える。
「世界は完全には消滅していません」
レイは光を見る。
小さな欠片。
ほんの僅かな残骸。
けれど、
確かに残っていた。
「残ってたんだ……」
胸が熱くなる。
涙が滲む。
失ったと思っていた。
全部消えたと思っていた。
でも違った。
ほんの少しだけ、
まだ残っていた。
「アル」
「はい」
「探そう」
アルは少し黙った。
「何をでしょう」
レイは光の欠片を見つめる。
そして。
「まだ他にも残っているかもしれない」
レイは立ち上がる。
「地球も」
「アルの身体も」
そして、
少しだけ笑う。
「諦めるわけにはいかない」
長い沈黙。
アルはしばらく何も言わなかった。
レイは首を傾げる。
「アル?」
すると、
返事が遅れて返ってきた。
「理解できません」
「何が?」
「なぜ諦めないのですか」
レイは少し考える。
そして。
小さく笑った。
「アルのおかげだよ」
「……私……ですか?」
「うん!」
レイは光を握る。
温かい。
少しだけ、アルに似ていた。
「だって」
レイは空を見上げる。
何もない白い世界を。
「最後まで諦めないでいてくれたから」
また沈黙。
長い沈黙だった。
けれど、
その静けさはどこか柔らかかった。
やがて、アルは静かに言った。
「それは……良い影響でしょうか」
レイは笑った。
今までで一番自然に。
「うん!」
白い世界の中で、
小さな光がまた一つ瞬いた。
まるで、
二人の進む道を照らすように。




