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君が残した風  作者: あさ
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第七章 残された温度

白かった。


どこまでも。


果てしなく、


白かった。


地球はない。


境界線もない。


世界もない。


残っているのは、


静かな白だけだった。


レイはそこに座り込んでいた。


どれくらい時間が経ったのだろう。


分からない。


考えたくもなかった。


考えれば。


思い出してしまうから。


青い星。


崩れていく光。


アルの声。


「あなたを守ります」


最後の言葉の。


「生きてください」


胸が痛かった。


息が苦しかった。


それなのに。


死ぬこともできなかった。


レイは膝を抱える。


白い床へ額をつける。


そして小さく呟いた。


「ごめん……」


返事はない。


「ごめん……」


静寂だけが続く。


アルはもういない。


そう思っていた。


だから。


最初は気のせいだと思った。


「レイ」


声がした。


レイは顔を上げる。


聞き間違いだ。


そう思った。


でも。


もう一度。


「レイ」


アルだった。


レイは立ち上がる。


勢いよく。


転びそうになるほど。


「アル!?」


周囲を見回す。


誰もいない。


白い世界だけ。


「アル!!」


声が震える。


涙が溢れる。


「どこ!?」


沈黙。


そして。


「ここです」


声だけが響いた。


レイは息を止める。


「ここって……」


返事は少し遅れた。


まるで、


アル自身も状況を理解しようとしているようだった。


「説明します」


いつもの声。


それなのに。


なぜか少しだけ頼りなく聞こえた。


「私の身体は消失しました」


レイの胸が痛む。


言葉にされると苦しかった。


「ですが」


少し間が空く。


「機能の一部が残存しています」


レイはその場に座り込んだ。


力が抜けた。


涙が止まらない。


「よかった……」


気付けばそう言っていた。


「よかった……」


アルはしばらく黙っていた。


そして。


「そうでしょうか」


と呟いた。


レイは顔を上げる。


初めてだった。


アルが迷うような声を出したのは。


「どういう意味?」


長い沈黙。


やがてアルは言った。


「分かりません」


レイは息を止める。


まただ。


その言葉。


でも今までとは違った。


「私は現在の状態を理解できていません」


レイは静かに聞いていた。


「身体がありません」


「触れることもできません」


「過去の記録にも存在しません」


沈黙。


そして。


小さく。


本当に小さく。


アルは続けた。


「少し……」


「少し、怖いです」


レイの目から涙が溢れた。


アルが……


怖いと言った。


何百年も一緒にいて、


初めてだった。


レイは拳を握る。


胸が苦しい。


でも。


違う苦しさだった。


後悔だけじゃない。


守りたい。


そう思った。


初めて。


「アル」


「はい」


レイはゆっくり立ち上がる。


「今度はぼくの番だ」


レイは続ける。


「ぼくが何とかする」


白い世界を見渡す。


何もない。


本当に何もない。


けれど。


アルがいる。


姿はなくても。


声だけでも。


そこにいる。


それだけで…


「アル」


「はい」


「地球を戻そう」


沈黙。


「アルの身体も」


そして。


アルは静かに言った。


「成功確率は極めて低いです」


レイは少し笑った。


涙でぐしゃぐしゃの顔のまま。


「知ってる」


「推奨できません」


「知ってる」


「困難です」


「知ってる」


そして。


アルが言った。


「……無茶です。」


レイは思わず吹き出した。


何百年も一緒にいて、


初めて聞いた言葉だった。


レイは目を閉じる。


そして。


静かに答えた。


「それでも」


白い世界に声が響く。


小さく。


でも確かに。


「何十年……何百年かかっても」


「それでもやり遂げてみせる」


後悔の先に、


ほんの少しの希望をもって。

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