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君が残した風  作者: あさ
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第六章 崩壊

世界が揺れた。


今まで経験したことのない振動だった。


光が乱れる。


足元が震える。


境界線に走った亀裂が、


眩しい光を放ちながら広がっていく。


「レイ!」


アルの声だった。


レイは振り返る。


その瞬間。


亀裂の向こうが見えた。


青い空。


白い雲。


そして。


風。


レイは初めて見た。


本物の地球を。


記録でも映像でもない。


生きた世界を。


胸が震えた。


あまりにも美しくて。


あまりにも眩しくて。


ずっと知りたかったものが、


そこにあった。


「レイ!」


アルがもう一度呼ぶ。


だが。


レイは一歩前へ進んだ。


ほんの一歩。


それだけだった。


その瞬間。


世界が悲鳴を上げた。


亀裂が大きく裂ける。


光が溢れる。


境界線そのものが崩れ始めた。


「レイ!」


アルが駆け出す。


レイは立ち尽くした。


何が起きたのか理解できない。


地球が揺れている。


世界が崩れている。


光が割れていく。


空が砕けていく。


青い星の表面に無数の亀裂が走った。


海が消える。


森が消える。


雲が消える。


光になって崩れていく。


レイの頭が真っ白になった。


「そんな……」


声が震える。


「そんな……」


理解したくなかった。


けれど。


分かってしまった。


ぼくがやってしまったんだ。


ぼくが。


地球を、


壊した。


足から力が抜ける。


呼吸が苦しい。


視界が滲む。


「アル……」


声が出ない。


「アル……」


ごめん。


その言葉さえ出てこない。


世界は崩壊を続けていた。


地球だけではない。


この世界も。


境界線も。


すべて。


光となって消えていく。


レイは動けなかった。


その時。


肩を掴まれた。


アルだった。


「レイ!」


レイは顔を上げる。


アルは地球を見ていた。


崩れていく世界を。


静かに。


ずっと。


見つめていた。


「アル……」


アルは答えない。


代わりに。


レイを引き寄せた。


「離れないでください!」


その言葉に。


レイの涙が溢れた。


「ごめん……」


ようやく出た言葉。


「ごめん……」


アルは何も言わない。


ただ。


レイを守るように抱き寄せる。


世界が崩れる。


光が砕ける。


地球が消える。


何もかも失われていく。


そして。


最後の崩壊が始まった。


巨大な光の渦が二人へ迫る。


逃げられない。


レイは目を閉じた。


もうだめだ。


そう思った。


その時だった。


アルの身体が光った。


白い光。


今まで見たことがないほど強い光。


「アル?」


返事はなかった。


光がさらに強くなる。


「アル!」


レイは叫ぶ。


初めてだった。


こんなに大きな声を出したのは。


アルは静かに言った。


「レイ」


その声は優しかった。


いつものように。


何百年も聞いてきた声で。


「大丈夫です」


「なにが!?」


レイは叫ぶ。


怖かった。


何かが起きる。


嫌な予感がした。


アルは静かに微笑んだように見えた。


本当に微笑んだのかは分からない。


でも。


そう見えた。


「あなたを守ります」


次の瞬間。


世界が白く染まった。


何も見えない。


何も聞こえない。


ただ。


アルの声だけが聞こえた。


遠く。


遠く。


消えていくように。


「生きてください」


その言葉を最後に。


光はすべてを飲み込んだ。


どれくらい時間が経ったのだろう。


レイは目を開ける。


静かだった。


あまりにも静かだった。


地球はない。


境界線もない。


世界もない。


残っているのは。


果てしない白だけ。


「アル」


返事はない。


レイは立ち上がる。


「アル」


叫ぶ。


「アル!」


返事はない。


胸が苦しい。


呼吸ができない。


涙が止まらない。


そして。


気付く。


失ったのだと。


地球も。


世界も。


そして。


アルも。


レイはその場に崩れ落ちた。


知りたかった。


行きたかった。


見てみたかった。


その気持ちは本物だった。


でも。


その先にあったのは。


想像もしなかった後悔だった。


レイは震える声で呟く。


「ぼくは……」


涙が落ちる。


白い世界に。


小さく。


静かに。


「踏み越えてはいけなかったんだ……」

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