24 覚醒
ジャスティスの身体が、ほとんど光で包まれる。
その瞬間──
ヴァイレンが走っていた。
蛇矛を担ぎ、一直線に砦へ突っ込む。
だが。
目の前で光が立ち上がる。
壁。
半透明の光の幕が戦場を断ち切る。
光の壁が、外からの侵入だけを弾く。
ヴァイレンが踏み込む。
弾かれる。白い壁に触れた瞬間、空気が歪んだ。だが割れない。
「……チッ」
ヴァイレンが踏み込み、そのまま拳を叩き込む。
轟。
だが──動かない。
「……っ」
蛇矛を構える。
踏み込み。
突き立てる。
轟。
衝撃が走る。
だが、光の壁は揺れもしない。
ヴァイレンの眉が歪む。
「くそ!」
蛇矛を引き抜く。
「何が起きてやがる!」
周囲の黒兵も壁に槍を叩き込む。
だが同じ。
硬いわけではない。
ただ──通らない。
ハルドが壁に手を当てた。
眉をひそめる。
「……違う」
低く言う。
「硬いとかじゃない」
拳で叩く。
音がほとんど返らない。
「手ごたえがない」
ヴァイレンが睨む。
その時。
胸が鳴る。
どくん。
心臓が強く拍動する。
視線が自然と上がる。
光の壁の向こう。
勇者の領域。
その奥。
セレンの気配。
ヴァイレンの歯が軋む。
「何やってやがる」
ヴァイレンは舌打ちした。
あの金髪が気に食わない。
勇者面も、気取りも、取り巻きも、全部だ。
だが今、いちばん腹が立つのはそこじゃない。
この中に、セレンがいる。
自分の手の届かない場所に。
───
──絆領域
光が満ちる。
祈りの声。
熱光の矢が空から降る。
ジャスティスが踏み込む。
剣。
横薙ぎ。
セレンが受け流す。
火花。
その次の瞬間。
光の追撃弾が生まれる。
熱光の塊。
三つ。
一直線に迫る。
セレンが体を沈める。
一つ目を回避。
二つ目を剣で払う。
衝撃。
腕が痺れる。
三つ目。
爆ぜる。
爆風。
セレンが地面を転がる。
息が詰まる。
ジャスティスが歩く。
光翼が静かに揺れる。
剣を構える。
「無駄だ」
低い声。
「信念なき剣は届かない」
セレンの瞳が揺れる。
「……!」
ジャスティスが踏み込む。
剣が落ちる。
セレンが受ける。
鋼が鳴る。
押される。
足が滑る。
ジャスティスの瞳が冷たい。
「君は迷っている」
剣を押し込む。
「だから届かない」
セレンの腕が震える。
一瞬。
瞳が閉じる。
このままではだめだ。
戦いが加速する。
もっと強い力が、もっと前へ出る。
止めなければ。
殺すためじゃない。
止めるために。
深く息を吸う。
胸の奥。
何かが弾けた。
胸の奥の勇者の紋が熱を帯びる。
そして。
目を開く。
「……私は」
声が震える。
それでも言う。
「止めたい!」
剣を押し返す。
「戦を!」
もう一歩。
「殺し合いを!」
ジャスティスが眉をひそめる。
「無理だ!」
剣を振る。
セレンが流す。
鋼が擦れる。
火花が散る。
「もう流れは止まらない!」
セレンが踏み込む。
剣がぶつかる。
ガンッ。
距離ゼロ。
互いの顔が近い。
ジャスティスが低く言う。
「魔族に感化されたか……」
紫の瞳が細くなる。
「悪意がないのが厄介だ」
その瞬間。
セレンの足元。
金の光が漏れる。
最初は小さく。
次の瞬間。
溢れ出す。
金。
純金の輝き。
地面から噴き上がる。
ジャスティスが目を見開く。
「……何だ」
金の柱。
真っ直ぐ空へ伸びる。
その中を稲妻が走る。
天を貫いた。
セレンの身体に金の雷がまとわりつく。
胸元が光る。
髪が浮く。
空気が震える。
セレンが叫ぶ。
「私は勇者です!」
雷光が弾ける。
「だから守りたいんです!」
剣を構える。
金の光が刃を走る。
「人も──魔族も!」
「戦を止めたい!」
ジャスティスが踏み込む。
「諦めろ!」
剣が振り下ろされる。
しかし。
空を斬る。
「……!」
セレンがいない。
ジャスティスが目を見開く。
「どこに──!」
その瞬間。
影が落ちる。
上。
雷光と共にセレンが降る。
剣。
速い。
ジャスティスが反射で剣を上げる。
鋼がぶつかる。
衝撃。
だがセレンは止まらない。
着地。
手を前に突き出す。
金の雷が膨れ上がる。
ジャスティスが叫ぶ。
「どこに撃って……!?」
次の瞬間。
雷が落ちる。
轟。
だが、落ちた場所は──
ジャスティスではない。
地面。
稲妻が大地を走る。
裂けるように広がる。
砦の門前。
稲妻が大地を走る。
砦の門前。祈りを続けていた少女たちの足元へ走る。
電光。身体が跳ねる。少女たちが倒れる。
祈りが止まる。全員息はある、だが強い麻痺。
指先が痺れ、喉が詰まり、声が続かない。
致命ではない。だが、祈れない。
セレンの雷は、止めるための雷だった。
光が揺らぐ。
セレンが剣を構える。
ジャスティスの前に立つ。
「立ち塞がるなら」
静かに言う。
「あなたの後ろを守って」
雷が身体を走る。
ジャスティスの瞳が細くなる。
(……勇者の力に目覚めたのか)
光の領域が揺れていた。
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