17 聖戦宣言
西方大陸 聖王国・大聖堂前広場
教皇演説
西方大聖堂。
石の広場を埋め尽くす信徒。
旗。
祈り。
鐘が鳴る。
重く。
長く。
静寂が落ちる。
広場の周囲には、白と青の旗。
その下に整列する兵。
白銀の鎧。
青の外套。
長槍。
盾。
西方教会の兵士たち。
動かない。
だが数千の鉄が、沈黙のまま並んでいた。
⸻
教皇登場
高壇。
白金の法衣。
教皇が歩み出る。
手を上げる。
ざわめきが止む。
高壇の上。
白金の法衣をまとった教皇が、ゆっくりと手を下ろした。
広場を埋める信徒たち。
白と青の旗。
石畳に並ぶ兵の列。
そのすべてを見渡し、教皇は口を開く。
声は低い。
だが、不思議なほどよく通った。
石の広場を滑り、遠くの列まで届いていく。
「聞け、西方の民よ」
一拍。
静寂が、さらに深くなる。
「地底の闇は再び地上へ手を伸ばした」
「魔王は力を増し」
「封じは破られつつある」
広場の空気が張りつめる。
信徒たちの顔から色が消える。
誰も声を上げない。
ただ、教皇の言葉だけが落ちていく。
「このまま座して祈るだけなら」
「やがて西方は闇に沈む」
その宣告に、信徒の波が小さく揺れた。
怯え。
恐怖。
ざわめきになりかけた気配を、教皇の次の言葉が押さえつける。
「だが、光は失われていない」
「女神の加護は、なお我らと共にある」
沈みかけた空気に、わずかな熱が戻る。
顔を伏せていた者が顔を上げる。
胸の前で組んだ手に、力がこもる。
教皇は杖を握り直した。
その先端が、鈍く光を返す。
「剣を取れ」
「祈りを捧げよ」
「信仰をもって立て」
声が、広場の奥まで響き渡る。
兵たちの背筋が伸びる。
長槍を握る手に力が入り、盾の列がわずかに鳴った。
「これは争いではない」
「浄めである」
一拍。
「これは征伐ではない」
「救済である」
その言葉は、もはや説得ではなかった。
断定。
正義の名を与える宣告だった。
広場を埋める信徒たちは、誰も口を挟まない。
ただ、その言葉を浴びるように立ち尽くしていた。
⸻
女神降臨
その時。
空に光が走る。
白い柱。
雲を裂き、光が降りる。
広場の上空。
光が形を取る。
翼。
長い衣。
巨大な光の像。
女神アルスレイン。
信徒が一斉に膝をつく。
祈り。
嗚咽。
涙。
光が広場を満たす。
⸻
教皇が跪く。
頭を垂れる。
女神の声。
静か。
だが広場すべてに届く。
「地は試されています」
「闇は地上へ這いあがろうとしています」
「我が子らよ」
「我が光を地に満たしなさい」
⸻
教皇が立ち上がる。
杖を掲げる。
「聞いたであろう」
一拍。
「これは神の意志である」
声が強くなる。
「西方教会はここに宣言する」
広場が息を止める。
「魔界に対する」
「聖戦を」
一瞬の沈黙。
群衆
次の瞬間。
祈り。
歓声。
泣き声。
「女神よ!」
「光を!」
旗が揺れる。
鐘が鳴る。
聖戦は始まった。
⸻
白塔の屋根
西方大聖堂。
その最上部。
白い高塔の屋根。
二人の翼人が、広場を見下ろしていた。
人の波。
下では信徒が膝をついている。
空には光の女神。
十メートルの像。
祈りの声。
歓声。
翼人の一人が、白い棒を軽く回す。
光が揺れる。
女神像がわずかに姿勢を変えた。
「女神はよく効く」
もう一人が広場を眺める。
「しかし」
「地底の魔王が厄介だな」
一拍。
「地底は遠い」
「千里離れ、支配も届かぬ」
「ゆえに、これまでは勇者だけで十分だった」
最初の翼人が、白い棒を軽く叩く。
空の女神像が、さらに強く輝く。
下の歓声も一段大きくなった。
「地底の魔王は勇者が討ち」
「悪魔どもはまた地底へ落とされる」
「それで長く回っていた」
短い沈黙。
「だが今回は違う」
「勇者がこれほど失敗するとは」
もう一人が言う。
「地上の王が誰でも構わん」
「だが」
「貢ぎ物を止められては困る」
視線が北へ向く。
「地底の魔王」
「報告を聞くに、従順には見えんな」
短い沈黙。
「戦に紛れて粛正は出来ないのか?」
最初の翼人が、小さく首を振る。
「あれらは区別できぬ」
「地上を焼けば、資源も奴隷も焼く」
「さりとて、地底には届かん」
一拍。
翼人は、白い棒を指先で遊ばせたまま、短く息を吐いた。
「厄介だな」
下では歓声が広がる。
「女神よ!」
「光を!」
翼人たちは、その様子をただ静かに見下ろしていた。
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